Top

立田恭三(ytvアナウンサー)『立田恭三の起こせ!New Wave!!』

選挙戦・泣き笑い

今回、選挙戦にあたり、
民主党の岡部まりさんを取材させていただきました。
その選挙戦の模様を記していきたいと思います。

今回の大阪選挙区は、全国有数の激戦区でした。
その当落線上にいた岡部さん。
選挙戦は、楽なものではありませんでした。
人気番組の司会を21年間担当し、
関西では絶大な知名度を誇る候補者を、
民主党は「2人目の候補者」として、擁立しました。
この大阪選挙区は、「お笑い100万票」といわれるほど、過去たくさんのタレント議員を輩出しています。
当初、この岡部さんも有利と見られていました。

投開票日前日。
岡部さんは、白のポロシャツ・赤いパンツ・赤いバイザー姿。
あの石川遼選手を思わせるようなさわやかな格好で、
心斎橋商店街を練り歩き、一人一人、握手をしながら有権者に声をかけていました。
「本人」と書かれた幟(のぼり)を背に、
土曜日の夕方に買い物をしている若い人たちにむけて、声をかけていました。

その後ろ、離れること20メートル、たくさんのスーツ姿の警官に囲まれて、
鳩山前総理大臣の姿がありました。

知名度を武器に、無党派層の票読みをしてきた岡部陣営。
しかし、無党派層の支持がなかなかあがらない状況に、
民主党の中心幹部が続々と応援に駆けつけ、
選挙戦の作戦をやや修正し、民主党派層からも支持を訴えていました。

そして、現れたのが、鳩山前総理大臣ということです。
しかし、土曜日の心斎橋筋商店街…
その幅、10メートルという商店街に鳩山さんを見ようと、人、人、人…。

商店街は、一歩も進めない状態になりました。
その様子を見て、「誰?誰きてるの?」と、
関西人の野次馬魂に火をつけていきます。
店の前に品物をせり出して営業しているカジュアルショップの店長さんが、
「店壊さなんといてや~!!」と嘆くほど人が集まり、
話を聞いて見ると、「店やって、5年近くなるが、この人の量は、初めてだ」と言っていました。

その野次馬の中に埋もれていると、
「鳩山さん、意外に人気あるやん」という声がボソッと聞こえたり、
多くの若い世代の方が、携帯電話の写メールで鳩山さんを撮り、
「待ち受けにしよう!めっちゃレアや!!」と声を荒げたのを聞いて、
大阪の人と国政のとの距離を感じてしまいました。

岡部さんは、どんどん前へ。
しかし、鳩山さんは、人の多さで立ち往生。
普段なら10分もあれば歩ける距離を、1時間近くかけて練り歩きました。
その分、すっかり2人の距離は離れていく一方。

結局、2人で一緒にいたのは、最初と最後の1分くらいだったんじゃないかなと思います。
練り歩きを見た人は、「岡部さん=民主党」というイメージを植えつけられているのか疑問に思いました。

ボクがみた岡部さんの選挙戦でのイメージは、
とにかく周りを良く見ているなという印象。

「カメラや人に見られると笑顔で話してしまう職業病だ」という岡部さんですが、
ほんとに自然な笑顔で、好感が持てました。

その日、大阪は35度を越える蒸し暑い一日でした。
立っているだけで、ジトーッと汗が出るような気候で、
岡部さんの支援するスタッフも汗だくでがんばっていました。
そんな中でも、スタッフさんを思いやり、
自らのハンドタオルで汗を拭いて、「ありがとう、がんばろうね」と声をかけていました。
びっくりしたのは、私たちマスコミの人に対しても、
汗をハンドタオルで拭いてあげるなど、そんな身近な優しさが、新鮮に感じました。

選挙戦について聞いてみると、「予想以上に大変。ほんとに大変」と話していました。
それもしっかり笑顔でしたが。

そして、きのうの投開票当日。
午前中、大阪は雨。
無党派層・さらには20代・30代をターゲットにするという岡部さんには、
非常に苦しい立ち上がりでした。

その雨も午後にはあがり、あとは開票結果を待つのみ。

夕方から事務所に伺いましたが、
事務所に入りきらないほどの報道陣の数。
大激戦区であること、
当落線上の候補者であること、
小沢さんが擁立要請をしたとされるタレント候補であること、
いろんな要因が重なり、注目度はかなり高かったのです。


午後八時、開票が始まります。
始まってすぐに開票速報で、
同じ民主党の尾立源幸さんの当選確実が報じられます。
そして、続いて公明党石川博崇さんが当確。

あっという間に、残り議席は1つに。
事務所に集まった支援者の方々。
同じ赤いポロシャツを着て、固唾を呑んで戦況を見守っていました。

選挙事務所にあるテレビでは、
当選を決めた候補者の万歳三唱の映像が流れます。
その瞬間、重い空気が流れます。
なんともいえない居心地の悪さは、梅雨の季節のせいだけではなかったはずです。

陣営が狙っていた無党派層が、
対立候補の自民党・北川イッセイさんとほぼ同じ割合。

自民党の票が見込める北川さんに対し、
民主党の票が見込めない岡部さん。
10時過ぎ、すこしづつ、敗色が濃厚になっていきます。


そして、10時半。
自民党・北川イッセイさんが、当選確実。敗戦。

その報道がテレビで報じられると、
事務所からは「う~ん…」というため息と
ハンカチで目を押さえる人、選挙戦での「負け」を初めて目の当たりにしました。

敗戦後、しばらくして事務所に岡部さん本人があらわれ、取材に応じてくれました。
岡部さんは、きのうの笑顔と変わらず、
「少しの後悔も無い」「改めて、ありがとう」ということを繰り返していました。

しかし、職業病と話していたその笑顔の中には、
「大阪の人にしっかり自分の思いを伝え切れなかった寂しさ」や、
「自身の迷い」があるように感じました。
きっと、ご自身の中でも、
負けてしまった要因を頭の中で整理している途中だったように思います。

それでも、選挙番組での中継に、
10分区切りで各局に同じようなことを聞かれていましたが、
それも笑顔でこなし、しっかりとタレントさんであるということを感じました。

ただ、あくまで今回求められていたのは、
タレントさんの明るさや笑顔ではなく、
しっかりとした「日本をこうしたい、ああしたい」という政策や心意気だったと痛感させられました。

もちろん、岡部さんにもしっかりとした政策ややる気もありましたが、
他候補には及ばなかったというのが今回の結果なのだと思います。

本人も言っていた「タレントとはいえ、その思いが伝われば、受かる。伝わらなければ落ちる」。
まさにその通りで、有権者はタレントだから選んでいるわけではないということがしっかりとわかり、少し安心したという一面もありました。


投稿者: 立田恭三 日時: 2010年07月12日(月) | コメント (1)

アナウンサー