キャディとしての時間がスタートすれば、自分の為に使える時間はありません。
風を読み、距離を測り、クラブ選択のサポートをし、ショットを放てばクラブに付いた汚れを落とし、先に歩き始めているプロに追い付く為に走り、グリーン上ではボールを拭き、ラインを読む。
次のティーグランドに行けば「ボール交換するかな?」「ドリンクを飲むかな?」「風の方向を聞いてくるな・・・。」あれこれと先読みし準備をしておかないと、プロが要求してきてから動き出していたのでは間に合いません。
タイミングが少しでも遅れればプロのプレーのリズムを崩し、ストレスを与えてしまいます。ラインを読むより空気を読むことの方が重要かもしれません。
コースの中で私はジレンマに陥りました。
ヒョンソンは、全てのショットにおいて「最後は自分で決めるから、小澤さんはどう思うかを言って下さい。」と私に意見を求めてきましたが、ヒョンソンは韓国人。会話は日本語と英語のミックスに私が覚えた少しの韓国語。
「もっと丁寧に、微妙なニュアンスで伝えてあげたいのに伝わらない・・・。中途半端に伝えてもプロの邪魔になる・・・。」
私は悩みました。
そして途中から「ヒョンソンはどう打ちたいの?」と先にヒョンソンの考え方を聞くようにしました。このやり方に気付いてから、私の仕事は明確になりました。
プロですから基本的な考え方に誤りはありません。ヒョンソンの考えを「ネー!(そうです)OK!!」と後押しし、迷いを捨てさせて彼に強い気持ちを持たせることです。
パットが決まれば「グッド パット!!」と大きな声で盛り立て、パットが外れた時は「ケンチャナ ケンチャナ(大丈夫、大丈夫)!!」と気持ちを切り替えさせる。
あまりにも目まぐるしく慌ただしい一日に、土曜日も日曜日もあっという間に一日が終わってしまった感じでした。ヒョンソンは私がキャディを引き受けた時点より順位を上げ、最終日を27位タイで終えました。
アナウンサーがそこまでやる必要があるのかと思う方もいらっしゃるでしょうが、「ゴルフ界の事ならば一つ残らず知りたい!!」という気持ち一つです。
実際にキャディをやってみなければ分からない事は沢山あり、細やかな事を挙げればまだまだキリがありません。
自宅に戻り、録画しておいた中継を確認しましたが、何故あのホールでプロが皆同じようなミスをするのか、何故あのホールはもっと大胆な攻め方が出来ないのかなど、実際にそのコースを選手と共に戦ったからこそ分かることが沢山ありました。
勿論、プロキャディの方達と比べればほんの一部でしょうが。
今回のこの好機は実況アナウンサーとしても大きな財産になりました。
他の誰にも経験することの出来ない機会を与えてくれたヒョンソンには感謝しています。
翌日、心地よい疲れと筋肉痛が残ったのは言うまでもありません。
おまけ
大会期間中に誕生日を迎えたヒョンソンの、31回目の誕生パーティーをやりました。
優しくて面白くてカッコいい、ナイスガイです!!