◆ことばの話3646「凛か?凜か?」
ついに厚生労働省の現職局長、それも「女性キャリアの星」とまで言われた人までが逮捕される事態となった、障害者団体向けの郵便の割引制度を悪用した今回の郵便法違反事件。
係長が逮捕された時点で気になっていたことがあります。
5月27日の夕刊各紙(大阪版)を見ると自称・障害者団体の、「凛の会」の「凛」の字が、右側下の部分が、
毎日と日経は「のぎ(ノ+木)」の「凜」
読売・朝日・産経は「示」の「凛」
なのです。本当はどちらなのでしょうか?また、それぞれの判断基準は何なのでしょうか?
ちなみに読売テレビは、「示」の「凛」で放送しています。Yデスクに、確認とその理由を尋ねると、
「『示』の『凛』です。理由は大阪地検の発表の文字が『示』の『凛』だったからです」
という答えが返ってきました。ちなみにYデスクの息子さん(小学校高学年)の名前は、
「凜太郎」
と言い、「凜」の字は「示」ではなく「ノ+木」だそうです。
この件に関して、先日新潟で開かれた新聞用語懇談会の春季合同総会で各社に尋ねたところ、以下のような返事が返ってきました。
(朝日)1990年に人名用漢字に「ノ+木」が入った時からそれを使用しているが、今回は大阪地検の発表原稿が「示」だったために、それに倣った。
(毎日)「ノ+木」が原則なので、それに従った。
(読売)表外字は原則「正字」を使うが、固有名詞は例外。女優の「菊池凛子」は「示」。今回も「示」の「凛」。
(産経)本文は「示」、グラフィックは「ノ+木」になっていた。原則は「ノ+木」。社会部にゲタを預けたら「示」になった。
(共同通信)うちのハンドブックは「ノ+木」になっているので「ノ+木」。
(時事通信)大阪地検の発表に従って「示」。
(NHK)画面スーパーは「白山会」だったので、わからない。
そうなんです、実は人名に使える漢字「人名用漢字」には、「ノ+木」の「凜」が、1990年に加わりましたが、この時点では「示」の「凛」は、まだ人名用漢字に入っていなかったのです。「示」が入ったのはものすごく最近、5年前の2004年なのです。このときは、それまで290字だった人名用漢字が、9月27日に許容字体の205字と488字追加され、一気に983字にまで増えたのでした。
この際の人名用漢字の大幅増には、同じ漢字の「異体字」が数多く含まれたことで、混乱が生じ、それがいまも続いているというのが現状で、「凜」と「凛」の問題もその一つなのです。
「凛(凜)の会」についてはその後も、毎日新聞と日経新聞は「ノ+木」の「凜」、そのほかの新聞は「示」の「凛」で表記しています。
先日(6月13日)、大阪・ミナミを徘徊していたら、写真のような看板を見つけました。これははっきりと「示」ですね。これだけ大きいと分かりやすい。
これからは「示」の「凛」の方が増えるのかもしれませんね。皆さんも、今度「凛」(凜)の感じを見つけたら、どちらの「リン」か、よーく見てみてくださいね。
2009/6/24
(追記)
大阪・北新地で見つけたお店の看板。ちょっとにじんで分かりにくいですが、これは「ノ+木」の「凜」でした、わかりにくいけど。下が「木」ですよね。こちらの店の方が、ミナミの店より歴史があるのかな?
2009/6/26
(追記2)
これらより前の、6月4日に大阪・梅田の阪神百貨店のワイン売り場で見つけたチラシの文字は、
「凛」
と「示」でした。
2009/9/29
(追記3)
2009年12月15日放送の日本テレビ系列『ベストアーティスト2009』という歌番組を見て(聴いて)いたら、ポルノグラフィティの『サウダージ』(2000)という曲の歌詞の字幕で、
「凜とした痛み 胸に」
と、「示」じゃなくて「ノ+木」の「凜」が出てきました。
しばらくすると、GLAYの『Winter again』(1999)という曲の歌詞の字幕で、
「凜と鳴る 雪路を急ぐ」
というふうに、またもや「ノ+木の凜」が出てきました。
1999年、2000年あたりは、まだ「示」の「凛」が人名用漢字に入っていなかったので、やはり「ノ+木の凜」が使われていたのでしょうかね?
そういえば、ベネッセコーポレーションによる2009年の『赤ちゃんの名づけランキング』(2008年12月から2009年11月に生まれた赤ちゃんの名前)が12月9日に発表され、男の子部門では「大翔(ひろと)」が4年連続で1位でしたが、女の子部門では、なんと「示」の方の、
「凛」
が1位に輝いたという調査結果が出ていました。凄いなあ。「示」か「ノ+木」かで、生まれた年がわかってしまいますね。
2009/12/16 |