◆ことばの話3590「さびさせる」
2009年1月23日放送の『ミヤネ屋』で、寺の住職が、騒音を立てる向かいの家のシャッターに10年間塩を撒き続けたというニュースをお伝えしました。その際、原稿に、
「シャッターをさびさせた疑い」
という言葉が出てきました。この、
「さびさせる」
という言い方が気になると、『ニューススクランブル』のSキャスターが言ってきました。たしかに・・・前日のお昼のニュースでこれと同じニュースを聞いた時に、私も引っかかりました。なんかヘンな感じ。なぜ「さびさせる」に違和感を覚えるのでしょうか?考えてみました。
まず考え付いたのは、「させる」という言葉は、自分が「他人(人間)」に対して何かを「させる」ので、動作を「させる」のはあくまで「人間」です。たとえば、
「食べさせる」「走らせる」「書かせる」「立たせる」「座らせる」
など。「食べる」「走る」「書く」「立つ」「座る」といった動作を「させる」のは「人間」ですよね。
ところが今回、「さびさせる」の動作の対象として「さびる」のは、
「人間」ではなく「物(=シャッター)」
だから、違和感を覚えるのではないか?
この動作の対象としての目的語が「物」である言葉は、たとえば、
「腐らせる」「かびさせる」「沸騰させる」
などを思いつきますが、「さび(る)」は珍しい気がします。「さび」に「させる」を付けていいのでしょうか?また、「かび」「さび」など、語幹部分が名詞のイメージが強いので、違和感があるのでしょうか?
ここで、「動詞の活用の形」について考えて見ます。たとえば、
「腐る」(五段活用)→「腐らせる」(下一段活用)
「凍る」(五段活用)→「凍らせる」(下一段活用)
それに対して、
「さびる」(上一段活用)→「さびさせる」(下一段活用)
「かびる」(上一段活用)→「かびさせる」(下一段活用)
あ、もしかしたら、「語幹がそのまま名詞としても使われる2文字」で「上一段活用」の動詞にに「させる」を付けるのが、違和感の原因でしょうか?
うーん、これは次回までの宿題だな。
2009/4/8
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◆ことばの話3589「吸い逃げ」
4月11日、ケータイで読売新聞のニュースサイトを見ていたら、
「吸い逃げ」
という言葉が出てきました。
「路上喫煙の違反金、『後で払う』と“吸い逃げ”続出」
という見出しです。「食い逃げ」や「飲み逃げ」、「やり逃げ」「勝ち逃げ」などは聞いたことがありますが、「吸い逃げ」は初めて目にしました。
どういう状態をさすかと言うと、最近増えている自治体が条例で指定するタバコの喫煙禁止区域でタバコを吸ってしまい違反金(科料)を請求されて、
「いま、持ち合わせがないから、あとで振り込みます」
と言っておきながら、違反金を払わない人たちのことです。記事から「大阪市のケース」を抜き書きすると、
『2007年10月から、御堂筋で違反金を徴収している大阪市の場合、先月までの違反者は、1万3561人。このうち5,4%にあたる735人が「今、現金の持ち合わせがない」などとして後日、銀行振り込みなどで納付することを選んだ。しかし、6割強の459人は、2週間の期限が過ぎても支払わないまま。デタラメの住所や電話番号を書いているために、督促状が届かず、電話もつながらない人が4割もいる。』
んだそうです。困ったものですね。全体から言うと3%ぐらいの不心得者のために、タバコを吸う人全体が悪い人に見えてしまいます。でも、「3%」を「少ない」と見るか「多い」と見るかは、立場によって見方は変わります。タバコを吸わない人たちから見れば「3%」でも「多い」と見られると思います。このあたりはどこまで話し合っても「平行線」でしょう。「感覚」の問題ですから。
問題は「大阪市」だけではなくて、京都市でも後日納付を約束した57人の中33人が未納。東京都千代田区や、去年10月から徴収を始めた兵庫県姫路市では未納者率が8割に達し、千代田区では未収金が約1970万円もあるそうです。しかも、事前に書かせた名前や住所が「ウソ」のことも多く、追跡できないというから、違反者は悪質です。
それにしてもこの「吸い逃げ」、初めて聞く(見る)にしては、割となじみやすいのは、「くい」と「すい」が一字違いで、わりあいとリズムが似ているからでしょうかね。Google検索(4月13日)では、
「吸い逃げ」= 1万4400件
「食い逃げ」=17万3000件
「飲み逃げ」= 5470件
「やり逃げ」= 5万7600件
「勝ち逃げ」=12万9000件
でした。
2009/4/13
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◆ことばの話3588「『大』をオオと読むかダイと読むか」
よく、アナウンサーの間で問題になるのは、
「大舞台」
の読み方です。「オオブタイ」か「ダイブタイ」か。日本テレビ系列では「オオブタイ」と読みますが局によって違ったりします。また、一般では「大地震」を「オオジシン」と読むか「ダイジシン」と読むかも迷うところでしょう。アナウンサーは大体「オオジシン」と読みますが。
原則は、「大」のあとに来る言葉が「漢語」ならば「ダイ」、「和語」ならば「オオ」なんですが、例外も多い。『NHK言葉のハンドブック第2版』31ページに「『大』の付く語の読み方」というコラムがありますが、まあ、そういうふうに書かれています。
先日、昔読んだ本をガサゴソ見ていたら、『国語辞典はこうして作る〜理想の辞書をめざして』(松井栄一、港の人:2005、12、1)の「用例は辞書の命」の項に、こんな記述を見つけました。
『数年前になるが、樋口一葉の小説を見ていて「大賛成(おほさんせい)」という表現にぶつかり、オヤと思ったことがある。今なら「大(だい)賛成」が普通だからである。そこで、以後少し注意してみると、「大安心」「大失策」「大失敗」「大身代」「大心配」「大得意」「大評判」「大普請」「大舞台」「大閉口」「大勉強」「大迷惑」「大愉快」「大陽気」「大立腹」など、みな「おほ〜」とルビがついている。これらは、三遊亭円朝、仮名垣魯文、坪内逍遥、末広鉄腸、幸田露伴、樋口一葉、内田魯庵、木下尚江、国木田独歩、夏目漱石など明治の作家の作品から拾ったものであるから、明治時代には、漢語に「大」をつけた場合、「おお」と読むことが相当広く行われていたらしいのである。このように用例カードの裏づけによって、「おお(大)」という項目に一つの情報を提供することができることもあるのである。』
なるほど、明治時代は「大○○」(○○には漢語が入る)の場合の「大」を、「おお」と読むことが普通だったのですね。これは大変勉強になりました!
でもこの本、3年前に読んでいるはずなんですがねえ・・・。
早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さんに聞いたところ、
「『大+漢語』を『オオ』と読んだ例は、ほかにもこんなのがありますよ」
と教えてくれました。
「本当に怪しからん、おれはそんな奴は◆大嫌{おほきらひ}だから、今後絶対にお前の親や親戚とは交際しないことにすると申しますから、えゝ構ひませんよと私が答へます。」(夏目鏡子述・松岡譲筆録『漱石の思ひ出』改造社
1928.11.23発行 p.162 l.3=文春文庫 p.145-146)
「今なら『だいきらい』と言うところですね」
とは飯間さんの弁。たしかに。「おおきらい」なんて言うのは3歳までの子供ぐらいではないでしょうかね。
2009/4/15
(追記)
日本時間の4月16日、シアトル・マリナーズのイチロー選手が、張本選手に並ぶ日米通算3085安打に到達しました!翌17日には3086安打も記録!胃潰瘍あけの今シーズン“開幕戦!での快挙です。その抜かれた(並ばれたときの)張本さんのコメント、朝日新聞に載っていました。その言葉は、
「大(だい)あっぱれ」
でした。「おお」ではなく「だい」でした。
2009/4/17
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◆ことばの話3587「スパゲティかスパゲティーか」
「情報ライブミヤネ屋」の名物コーナー・林 繁和先生の「愛のスパルタ料理塾」で、4月14日の放送で出てきたのは、
「スパゲティ・ナポリタン」
その「スパゲティ」は、語尾に「−」が付くのではないかと思って、「ミヤネ屋・メルマガ」の原稿チェックでは、わざわざ「−」を付けて、
「スパゲティー」
にしてしまいましたが、あとで『新聞用語集2007年版』で確認したら、「−」は付かずに、
「スパゲティ」
で良いのでした。新聞のラジオ・テレビ欄と、きょう(4月14日)の放送では、ちゃんと「スパゲティ」で放送しました。
でも、語尾の「ティー」とか「フィー」とかいう外来語は、たいてい「−」を付けるものだと思っていたので、『新聞用語集2007年版』に載っている、語尾の「小さいイ」のあとに長音符号「−」が付く外来語を、ピック・アップしてみました。
「アイデンティティー」「コミュニティー」「アポストロフィー」「アメニティー」「オーソリティー」「オールマイティー」「オリジナリティー」「ガスクロマトグラフィー」「キャパシティー」「ギャランティー」「キャンディー」「クオリティー」「ケーススタディー」「コメディー」「シティー」「スポーティー」「セーフティー(ネット、バント)」「セキュリティー」「ソサエティー」「ダンディー」「ティー」(茶・ゴルフ)「トレンディー」「トロフィー」「パーソナリティー」「バーチャルリアリティー」「パーティー」「パブリシティー」「バラエティー」「パリティー」(=量子力学の用語で、同等・等価)「パロディー」「ハンディー(タイプ)」「ビューティー」「ヒューマニティー」「ヒンディー語」「ペナルティー」「マイノリティー」「マジョリティー」「メロディー」「ユーティリティー(プレーヤー)」「ラプソディー」「リアリティー」「ロイヤルティー」 <計42語>
このように「英語系」は大体「ティー」と語尾に長音符号「−」を付けるのですが、おそらく「スパゲッティ」は「イタリア語」なので、伸ばさないのでは?
「スパゲティ」のほかに、語尾の表記を伸ばさないものは、
「アムネスティ(・インターナショナル)」「ハンディ(キャップ)」
の2語しかありませんでした。
ちなみにGoogle検索(4月14日)では、
「スパゲティ」 =192万0000件
「スパゲティー」 = 48万3000件
「スパゲッティ」= 174万0000件
「スパゲッティー」=32万3000件
でした。やはり語尾を伸ばさないほうが主流ですね。また「小さいッ」を入れるかどうか(「ゲ」か「ゲッ」か)に関しては、けっこう拮抗していますね。
2009/4/14 |
◆ことばの話3586「ケガニが運ばれています」
4月14日、東京千代田区麹町のマンションの建設現場で大型の掘削機が倒れて、下敷きになった人など6人が重軽傷を負った事故がありました。その様子をリポートとしている女性記者の声を聞いていたら、
「いま、ケガニが運ばれています!」
と聞こえて、一瞬「え!」と思いましたが、もちろんこれは、
「けが人」
です。「ケガニン」と「ケガニ」の違いは、語尾の「ン」だけです。緊迫した状況でのリポートだったので、つい早口になってしまい、その際に「ン」がしっかり発音されなかったのでしょう。それはそれで仕方がない(その方が緊迫感があり、リアルなリポートになる)と思いますが、「ン」が、ついつい脱落してしまうことの一つの証左ではないかなと思いました。
「平成ことば事情3582少年たちのアクセント」もお読み下さい。
2009/4/14
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