◆ことばの話3445「さめやらずか?さめやまぬか?」

2008年5月、
「秋葉原の事件の恐怖がさめやまぬ中」
という原稿が出てきたので、
「これは『さめやらぬ』だろう」
と原稿を直してから放送した、と『ニューススクランブル』のSキャスターが言います。しかしそこで彼は、
「『興奮』だったら『さめやまぬ』でもいいのかな?」
と思ったそうなのですが、
「『さめやらぬ』と『さめやまぬ』の違いは何なんでしょうか?」
と聞いてきました。

とここまで書いて、半年以上寝かせておきましたハッハー!(時間がないのと、忘れていたので)
でも、急に思いつきました!
「さめやらぬ」=ことは終わったがその熱気がまだ消えていない、という感じで、しかもこのあとに「さらに別の出来事が続く」場合。
「さめやまぬ」=ことはまだ終わっていないか、終わって間もない状態で、その余韻が引き続いていてそれを味わっている状態。次に何かことは起こっていないケース。
いかがでしょう?
さすが半年寝かせただけあって、明快でしょ?え?わかりにくい?あ、そう。
そうだ、辞書を引いてみよう。「否定形」では載っていなかったものは、肯定型の終止形で。(用例は省略)
「さめやる」=(「やる」は動作が進行する意)すっかりさめる。多く打消の「ず」を伴って「さめないで残る」の意で用いる。<精選版日本国語大辞典>
「さめやらぬ」=完全に覚めきっていない。覚めきらず名残の気配がある。<広辞苑>
「さめやらず」=[連体詞的に]まだすっかり覚めないでいる。
「さめやらぬ」=《動詞「さ(覚)む」の連用形+動詞「や(遣未然形+打消しの助動詞「ず」の連体形)完全には覚めきっていない。<デジタル大辞泉>
「さめやらぬ」=まだ完全にはさめない。<三省堂国語辞典>
「さめやらぬ」=まだ完全には冷めないでいる<新明解国語辞典>
「さめやらぬ」=覚めきらない。完全にはさめない。<新潮現代国語辞典>
その一方で、「さめやむ」「さめやまず」=『精選版日本国語大辞典』『広辞苑』『デジタル大辞泉』『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』『慎重ゲンダイ国語辞典』には載ってい、ませんでした。

あら?ということは、「さめやらぬ」がもともとの形で、「さめやまず」は間違った形か?
Google検索(12月12日)してみると、
「さめやらぬ」=269000
「さめやまず」=   684
「さめやまず」はあまり件数がありません。
そうか、「やる(やらぬ)」は「(時間が)過ぎる、通り過ぎる」という意味で、「やむ(やまず)」については文字通り「止まる」ということでしょう。そうすると「やむ」は「動作」に付くので、「さめる」という「状態」には付かないのか。そんな気がしてきました。
それと「さめる」についても「覚める」と「冷める」の表記があるようですが、「熱」に関しては「冷める」ですが、ある状態から離れるときには「覚める」を使うんでしょうね。「覚める」の中に「冷める」が含まれる気がします。漢字を変えて、もう一度検索。
「覚めやらぬ」= 8万2900件
「冷めやらぬ」=19万7000件

「覚めやまず」= 207件
「冷めやまず」= 1600件
「覚め止まず」= 454件
「冷め止まず」= 597件
ついでに、
「さめやまぬ」= 599件
「冷めやまぬ」= 8100件
「冷め止まぬ」= 5410件
「覚めやまぬ」= 777件
「覚め止まぬ」= 721件
ということでした。
2008/12/12


◆ことばの話3444「煮え詰まる」

「煮詰まる」は、本来の意味では、
「煮物を作っている時に完成に近づくこと」
を言い、そこから、
「議論が結論に近づく」
ことを指すようにもなりました。ところが、煮物をあまり作らなくなったことや、鍋物でだし汁が「煮詰まって」しまった「マイナス・イメージ」の印象しか「煮詰まる」という言葉になくなったこと、そして「行き詰まる」との混同から、
「会議が煮詰まる」=「会議が行き詰まってしまう」
の意味にも使われるようになりました。
そういった話が、先日の関西地区新聞用語懇談会の席ででたのですが、その後の懇親会で、毎日放送のM委員から、
「『煮え詰まる』という言葉が使われなくなったから、悪い意味での『煮詰まる』が出てきたのではないか」
という意見を、初めて耳にしました。
「煮え詰まる」
という言葉を私は知りませんでした。辞書(『精選版日本国語大辞典』の電子辞書)を引いてみると、
「煮え詰まる」
(1) 煮えて水分がなくなる。につまる。
(2) 極限状態になる。きわまる。
(3) 梅毒などの瘡(かさ)蓋が固まる。
(4) →「につまる」(2)=議論や考えなどが出つくして、結論を出せる状態になる。
とありました。なるほど。
しかし、「煮詰まる」も引いてみると、
「煮詰まる」
(1) 煮えすぎて水分が蒸発してしまう。
(2) 議論や考えなどが出つくして、結論を出せる状態になる。
とあって、「煮詰まる」の(1)の用例は1906年の島崎藤村『破戒』、(2)の用例は1964年高木彬光『検事霧島三郎』で、(1)の意味の方が古いのですね。
で、「煮え詰まる」はさらに言葉としては古くて、(1)こそ1909年の森鴎外『金毘羅』と1900年代ですが、(2)は1691年『俳諧・千代見草』と江戸時代。(3)はちょっと意味が違うけど1851年『雑俳・指使編』、(4)は1899年幸田露伴『椀久物語』です。
毎日放送のMさんがおっしゃるように、「煮え詰まる」の方が言葉としては古そうです。
「煮詰める」については、2007年3月17日の日経新聞夕刊のコラム「食語のひととき」で、食品総合研究所の主任研究員・早川文代さんがコラムを書いてらっしゃいます。それによると、
『しょうゆや砂糖などは煮詰めすぎると焦げてしまうため、作り手は慎重に様子を見ていなければいけない。加熱による変化に「人間の判断力」が加わり、おいしさをつくり出すのだろう。』
と記されています。
2008/12/1


◆ことばの話3443「扉を閉めます」

11月21日、伊丹空港から大阪モノレールに乗っていたら、こんなポスターが目に入りました。
『2008年11月1日から扉を閉める際のアナウンスを
扉を閉めます
に、統一します。皆様のご理解とご協力をお願いします。』
数日後、京阪電車に乗っていたら、車掌さんのアナウンスが、
「扉を閉めます」
でした。京阪では以前から、この言い方を導入しているみたいですね。他の電車はどうなのかな。また気をつけて聞いておきます。
2008/12/4


◆ことばの話3442「INBOUND」

先日、東京に行った時に山手線に乗りました。その山手線の社内の電光表示で「内回り」「外回り」の英語表示を目にしました。そこには、
INBOUND」「OUTBOUND
と記されていたのです。そうなのかあ、「内回り」が「INBOUND」で、「外回り」が「OUTBOUND」かあ。「BOUND」は「〜の方へ」という意味ですよね、たしか。わりと直訳っぽいなあ。でも「回り」は「ROUND」ではないんだなあ。
2008/11/25


◆ことばの話3441「煮からめる」

11月25日の「おもいっきりイイテレビ」で、おいしそうな「こんにゃくのピリ辛煮」を作っていました。わりと簡単に作れそうで、こんにゃくを炒めて、「鷹の爪」を入れて、
「煮からめる」
とレシピに書かれていました。この言葉は初めて知りました。
Google検索(11月25日)では、
「煮からめる」=264000
もありました。結構使われているのですね!
2008/11/30
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スープのさめない距離