◆ことばの話2488「立飛」
少し旧聞に属しますが、去年の10月31日、国立国語研究所の座談会に招かれて行ってきました。以前、国語研究所は東京都北区西が丘にあったのですが、立川市内に移転しています。JR立川駅からタクシーで7分ほどのところにあります。
その立川市内の看板に、矢印とともに、
「立飛」
という文字が記されていました。一瞬考えて、これは、
「『立川飛行場』の略ではないか?」
と思ったので、タクシーの運転手さんに、
「この辺に、立川飛行場はありますか?」
と聞くと、
「ある」
とのこと。自衛隊の飛行場のようです。
会社に帰ってから、インターネットで調べてみました。それによると、1922年(大正11年)に陸軍の飛行場として設置されて、街の発展の中核になったみたいですね。戦後は米軍に接収され、米軍立川基地として1969年(昭和44年)11月まで使われました。1977年(昭和52年)11月30日、立川基地は全面返還され、1980年(昭和55年)から国営・昭和記念公園の建設が始まり、1997年(平成9年)4月には、公園の一角に、首都圏で戦後作られたものとしては最大規模となる日本庭園が誕生というような記述がありました。
「Google Earth」で見てみると、国立国語研究所の西側に、広大な敷地の滑走路が見えました。これか!現在は使われているのかな。自衛隊かな。
と、ここまで書いて2〜3か月放っておいたら、今度は小学2年の息子がこんな質問をしてきました。
「なあ、お父さん、空港と飛行場はどう違うの?」
「うーん、そうやな。大雑把に言って、外国に行く飛行機が発着するような大きな国際空港は『空港』、もっと小さなものは『飛行場』や。でも関西の人は、『空港』のことを、ぜーんぶ『飛行場』と言う傾向があるかも知れんな。昔の人は、『空港』やなくて『飛行場』と呼んでたんだと思うよ。」
そうそう、隠れた関西弁としての「飛行場」がありました。それと自衛隊などの飛行機の発着場は「空港」ではなく「飛行場」ですね。この間、問題になったのも、
「岩国飛行場」
でした。「岩国空港」ではなく。とすると、
「一般人が出入りできる大規模な飛行機の発着場を『空港』と呼ぶ」
のじゃな。あれ?「K」のキーを押したつもりが、隣の「J」のキーを押してしまったようじゃな。ま、いいか。『新明解国語辞典』で「飛行場」を引くと、
「ひこうじょう(飛行場)」=飛行機が発着するための平らな広い場所。空港。エアポート。
「空港」を引くと、
「くうこう(空港)」=公共用飛行場。エアポート
あ、やっぱり!「空港」には「公共」、つまり「一般の人が使う」という意味合いが含まれるんですね。「飛行場」にはその概念がない。だから米軍や自衛隊(だけ)が使うのは「飛行場」であり「空港」ではないということですね。
『日本国語大辞典』で「飛行場」を引くと、
「ひこうじょう(飛行場)」=航空機の発着する設備を有する陸上・水上の区域。
一番古い用例は1924年の『陣中要務令』九四で、
「宿営地及飛行場其他軍事施設の偵察を行ひ」
です。一方、「空港」は、
「くうこう(空港)」=航空輸送のため公共用に供する場所。エアーポート。
一番古い用例は、1932年の『現代語大辞典』(藤村 作・千葉 勉)で、
「くうこう 空港 飛行機や飛行船などが停まる所。エアポート(airport)。」
となっています。「現代語」の辞典に取り上げられているのが1932年なので、やはり「飛行場」の方が古く、空港は新しい言葉だと思われます。
ここまで調べてみて感じたことは、昔は飛行機に乗る人は、特別の地位か職務の人だけだったので、「飛行場」と呼んでいたのが、「空の便」が一般の人たちにも開放されるに至って、海での「港」にあたる「空の港」=「空港」という概念が生まれてきたのではないか、ということです。だから「空港」の方が新しい言葉ではないかと。Airport(エアーポート)の訳語としては、早くからあったのでしょうか?いや、外国でも状況は同じだったのでは?うーん、でも外国ではAirport以前に違う呼び方があったかどうかに関しては、よくわかりません・・・。
ちなみに、ライト兄弟が飛行機の動力飛行に世界で初めて成功したのは、1903年12月17日です。
てなところで、一旦、締めます。
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