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◆ことばの話2334「レッドクリスタル」
9月21日の読売新聞のサイト版を読んでいたら、
「レッドクリスタル(=赤い菱形)のマークを国際赤十字に加える動き」
という記事が出ていました。レッドクリスタル?初めて聞く名前です。
「赤十字」をめぐっては、イスラム教の国からは、
「キリスト教の象徴である十字架は受け入れられない」
として、イスラム国では、
「赤新月」
という「赤い月」のマークが用いられ、救急車のボディにもペイントされていたりしますが、どうもそれでもうまく行っていない現状が、現地ではあるようです。そこで宗教をイメージさせない、新しい第3のマークとして「赤いひし形」を承認しようという動きが出てきて、スイス政府は年内にも、それについて話し合う会議を招集するとのことなんです。
以下、屋山明乃(ややまあけの)さんという方が、詳しくサイトに書かれていますが、それによると、実は赤十字運動の標章問題は、これまでに何度も議論が繰り広げられてきており、1990年代には「含意のないマークを」と新しい標章の使用が提案されていたそうです。そもそも白地に赤い十字は、赤十字国際委員会の創設者・アンリ・デュナンが、スイス国旗の赤と白を入れ換えて1863年に作成。その13年後、イスラム圏では「キリスト教を想起させる」として、十字の代わりに「赤い月(赤新月)のマーク」が加えられました。1949年にはジュネーブ条約で、さらにペルシアの「赤いライオンマーク」も加えられたのですが、イラン革命以後、イラン政府は「ライオンマークを使用しない」と宣言したため、今は赤十字と赤新月しか使用されていません。
一方、イスラエルの赤十字社にあたる「赤盾ダビド公社」(またはマーゲン・ダビド公社)は「赤いダビデの星」を標章に使用しています。しかし、ジュネーブ条約では上記に挙げた赤十字・赤新月・赤ライオンの3つの標章しか認めていないため、赤十字国際委員会も認めるわけにはいかないという状態にあり、国際赤十字・赤新月運動に加盟できていません。米国の赤十字社などは、イスラエル赤十字社が排除されていることへの抗議として2000年から、国際赤十字社・赤新月社連盟へ分担金を払うのを拒否しています。こういった状況を打開しようと、赤十字国際委員会が提案したのが「赤いひし形」(英語ではRed Cristal。公式名称ではない)です。各国で行なわれた長年の調査を踏まえて、
「全く、宗教や文化上の意味を含まないシンプルな形」
から選んだとのこと。「赤いライオン」が使われていないのなら、それにかわるマークとして「赤いひし形」が採用されるのも構わないのでは?と、素人考えでは思うのですが。
それにしても、一見、世界共通のマークと思えた「赤十字」は、そのような宗教的な意味を持ち、それに対して「赤新月」があり、さらに第3の道を模索しなければならないということの背景は、大変複雑です。人の命の重みは、宗教を超えると思っているのは、宗教を信じていない者だけなのでしょうか?神と人間では、神の方が偉いということでしょうか?しかし、それでは本末転倒のようにも思います。「よりよく生きる」ための一つの手段として、宗教はあるのではないのでしょうか。「よりよく生きる」ことの足かせになるのであれば、宗教の存在意義が問われるのではないでしょうか。
救命をめぐる「争い」に終止符(エンドマーク)を打つ「マーク」の登場を望みます。
会議の結果次第では、近い将来に、赤十字を表す標章として、「赤いひし形」が加わるかも知れませんが、この「赤いひし形」、なんだか、フランスの自動車会社「ルノー」のマークに似てなくもない感じですねえ・・・。 |
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2005/10/27 |
(追記)
11月13日午前2時台に見たケーターサイトの読売新聞ニュースで、12月5、6日に「レッドクリスタル」の採用を巡ってジュネーブで会議が開かれる予定で、イスラム諸国の反対も予想されるという記事が載っていました。 |
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2005/11/17 |
(追記2)
12月9日の各紙朝刊に、国際赤十字締約国会議は12月8日未明、従来の赤十字と、イスラム圏で使用されている赤い三日月(赤新月)に加えて、
「赤い水晶(レッド・クリスタル<ひし形>)」
を、第3のマークとして承認したと伝えています。これにより、十字と三日月は宗教色があるとして使用を拒否してきたイスラエルなども、赤十字の国際的な活動に参加できるようになるとのことです。
ただ、会議では、イスラエルに占領されているゴラン高原での救助活動を求めていたシリアが、この「赤い水晶」に反対、対立が続いたために全会一致の承認を断念、投票の結果、
「賛成98、反対27、棄権10」
で、新しいマークは承認されたと、日経新聞は新しいマークの旗のカラー写真(AP)とともに伝えています。
なお、「平成ことば事情887赤十字」もお読みください。 |
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2005/12/16 |