|
◆ことばの話2237「レイコー」
5月9日の産経新聞夕刊のわかぎゑふさんのコラムのテーマは、
「レイコー」
でした。「アイスコーヒー」のことを大阪では、こう呼びまんにゃわ。最近、あんまり聞かなくなってきたけど。
Google検索(5月10日)では、
「レイコー」=4540件
ただ、アイスコーヒーの意味ではないものもあったようなので、キーワードを追加すると、
「レイコー、アイスコーヒー」=1790件
一方、漢字も交ぜて、こう書くと
「冷コー」=8610件
でした。これが標準的な書き方なのかな。件数が多い。
なお、以前読んだ、わきぎゑふさんの大阪弁を集めた本には「レイコー」の項目はありませんでした・・・。
・・・と、ここまで書いて3か月近くほったらかしにしていたら、「冷コー」の季節になりました。もう一度Google検索(7月25日)して見ましょう。ついでに、ひらがなも入れて。
「レイコー」 |
=921件 |
「レイコー、アイスコーヒー」 |
=1件 |
「冷コー」 |
=609件 |
「冷こー」 |
=7件 |
「レーコー」 |
=620件 |
あれ?なぜだろ、どれも激減している!季節だから増えるかなと思ったのに。
「死語どっとコム」というサイトには、「レーコー」は「死語」として載っていました。
『(意味)=アイスコーヒー。恐らく「冷」「コーヒー」の略』
「恐らく」ではなく、間違いなくそうでしょう。
『(使用例)=「マスター、レーコー1杯宜しく。」(投稿者)=Hidenori Hori(登録日)=2003-02-16』
ついでに大阪的な表記(?)である「コーヒ」をフィーチャーした、
「アイスコーヒ」=523件
と、「よしよし」というような件数。「冷コー」や「レイコー」「レーコー」と同じ3ケタのヒット数ですね。標準語的に語尾を伸ばすと、
「アイスコーヒー」=29万7000件
となって、件数はすごく増えます。さらに、関西の夏の「あの」飲み物も検索。
「ひやしコーヒー」 |
=15件 |
「冷やしコーヒー」 |
=168件 |
「ひやしコーヒ」 |
=0件 |
「冷やしコーヒ」 |
=1件 |
この「冷やしコーヒー」に関するこんな記事をネット(エキサイト)で見つけました。「のなかなおみ」さんという方が「冷やしあめ」について書いているのですが、そこで「冷やしコーヒー」についても書いています。それによると、
『関西の夏向けドリンクは「冷やしあめ」だけではない。「冷えたもんあります」の看板がかかった駄菓子屋で、人気の冷たい飲み物を聞いてみると、「冷やしコーヒーに冷たいミルクセーキに冷やしあめ」という答えが返ってきた。ちなみにこの「冷やしコーヒー」とは、コーヒー味のコッテリ甘い飲み物の事で、関西人が「レイコー」と呼ぶアイスコーヒーとは少し違う。コーヒーの元は冷蔵庫に半分凍った状態で保存してあり、注文すると柄杓でコップに注いで出してくれるのだ。』
たしかに、子どもの頃に飲んだ「冷やしコーヒー」は、喫茶店の「冷コー」とは違ったような気がするなあ・・・。
駄菓子屋さんでの「夏の定番」であるこういった飲み物ですが、最近は後継ぎがいなくて、店を畳んでしまう事も多いとのこと。「冷やしコーヒー」や「冷やしあめ」は、消えてしまうのでしょうか・・・・。
と思ってネットをもうちょっと見ると・・あれ?「関西の」夏の定番であるはずの「冷やしコーヒー」、香川県高松市や沖縄県にもあるみたい。
そして、やはり日経のこの名物サイト「食べ物 新日本奇行」で日経新聞編集局文化部・編集委員の野瀬泰申さんが取り上げていました。
第9回「いわゆる冷やし中華」(その2)より
<ご意見>「冷麺」で思ったことですが少なくとも私が学生だった20数年前、大阪ではアイスコーヒーのことを「レーコー」(冷コー?)と言いました。「冷麺」という名称は外来にしても「冷……」という表現自体が関西と親和性が高いのでは?(上海の田中さん)
<ご意見>やっぱり関西では「冷コー」(アイスコーヒー)があるように、冷たいラーメンは「冷めん」でしょう(しかし「冷やしうどん」は「冷どん」とは言わへんな)私の中では「冷やし中華」はよそ行きの言葉、標準語というイメージです(大阪生まれ滋賀県育ちのうずら40代♀さん)
<野瀬註>コンビニやスーパーに並ぶ全国一律商品の「冷やし中華」、「冷やし中華」のテレビコマーシャル、冷やし中華文化圏からの訪問者の増加。各地の以前の呼び方が「冷やし中華」に駆逐されている可能性は十分にあります。盛岡の冷風麺や関西・四国の冷麺という呼び方が劣勢になっているとしたら、ちょっと寂しいような気がします。同じように関西の「レイコ」「レーコ」も絶滅危惧(きぐ)種です。私が大阪で初めて勤務した27年前は喫茶店という喫茶店にレイコがありました。多分、ウエイトレスの中にもレイコさんがいたでしょうが、そのレイコさんは客が「レイコくれ」とか「レイコでええか?」「うん、レイコ好きやねん」などと言うたびに複雑な思いをしていたことでしょう。それが今やアイスコーヒーばかりになってしまいました。はやりのコーヒーショップチェーンやカフェで「レイコ」って絶対言ってくれそうにありません。レイコが懐かしい。レイコー、オレが悪かった。帰ってきてくれー。
<ここでレイコ乱入>探さないで…。もう終わったのよ。
<デスクも乱入>アイスコーヒーを略したのに「アイコ」にならないところが、大阪の懐の深いところですね。もしかして初めは「冷やしコーヒー」と呼んでいたのでしょうか。
<野瀬註>どこかにアイコがいたら、コンビ組む?上方レイコ・アイコとか。
<レイコ>ウチ、そんなんいやや。
せっかく「デスク」が乱入して、いいこと言ってくれてるのに、野瀬さん、おちゃらけてしまって・・・。残念!
牧村史陽『大阪ことば事典』にも載っていました。語尾が延びずに「レイコ」の形で。野瀬さんじゃないけど、ホントに女の名前みたい。
「レイコ」=「アイスコーヒー・コールコーヒーのこと。冷コ(ーヒー)と略したもの。これに対して普通のコーヒーはホット。そこで大阪人は『ほっとしたらホット』としゃれる。」
ええ!ほんまに???「ほっとしたらホット」って、しゃれるのお?大阪人は・・・俺、大阪人とちゃうわ。いくらなんでもそんなベタなダジャレ、言いません!
しかしここには重要なことが書かれていましたね。「冷コー」以上に死語に近いと思われる
「コールコ−ヒー」
です。「コールド・コーヒー」の「ド」が取れたものと思われますが。またGoogle検索(7月25日)です。
「コールコーヒー」 |
=328件 |
「コール・コーヒー」 |
=47件 |
「コールコーヒ」 |
=18件 |
「コール・コーヒ」 |
=0件 |
でした。「コールコーヒー」、なんとか生きてますね!
米川明彦先生の『日本俗語大辞典』も引いてみました。
「れいコー(冷コー)」=(「冷やしコーヒー」を縮めて、読み換えたもの)冷たいコーヒー。アイスコーヒー。「冷コ」とも言う。主に大阪の中高年のことば。※『新語の考察』新語の成立(1944)<加茂正一>「赤バイ ハムサンド 丸ビル 板チョコ 冷コー(冷やしコーヒー)といふやうな、合の子略語も少くない」
ふーむ、戦前からあったのですね。
またコーヒー会社のUCCのサイト『月刊・珈琲人2001年7月号』には、
「日本の暑い夏に欠かすことのできないアイスコーヒーは、既に明治時代のコーヒーシーンに登場し、当時は“冷やしコーヒー”と呼ばれていました。今日大阪の街で“レーコー(冷コーヒー)”という愛称で親しまれるアイスコーヒーの語源はここにあるように思えます。」
とありました。やっぱり、日経の「デスク」の方が考えたように、「冷コー」以上に「冷やしコーヒー」の歴史は古いようですね。戦前どころか明治時代ですか。
うーん、このへんで「冷コー」でも飲んで、一服するか。でも最近流行りの「カフェ」には、「冷コー」はありません。「アイス・カフェラテ」とかなんちゃら、長いカタカナの名前のものしか、あらしません。 |
|
2005/7/25 |
(追記)
2006年3月20日に、あの『バカの壁』や『国家の品格』といったベストセラーを出した新潮選書から『大阪弁「ほんまもん」講座』(札埜和男)という本が出ました。札埜さんは京都の八幡高校の国語の先生だそうです。その本の中に「レイコ」が出てきました。「フレッシュ」とコンビで。(「フレッシュ」については、「平成ことば事情173フレッシュ」をお読みください。)
札埜さんは2005年の夏に、大阪天満宮の近くに引っ越したそうですが、その周辺の商店街ではいまだに「コールコーヒー」とメニューに載っていて、「レイコ」と注文する50歳以上の人が常連の中にはたくさんいるそうです・・・って、天満宮の近くと言えば、読売テレビがもともとあった場所、私も入社以来4年余りを過ごした場所、いわば「地元」ではないですか!(と言っても、もう20年ほど前ですが)天神橋筋商店街の1丁目、2丁目あたりですよね!確かにあの辺なら、まだ「レイコ」は残っているかもしれませんね。今度、確認しに行こう!
|
|
2006/4/4 |
(追記2)
『ビッグコミック・スピリッツ』(小学館)の2006年4月17日号(NO.18)に連載されている「逆風客室乗務員 CA(シーエー)とお呼びっ!」(花津ハナヨ)という、昔で言うところのいわゆるスチュワーデス、今はキャビンアテンダントとかCA(シーエー)と呼ばれているのですが、そのマンガの中で主人公のCA・山田紗依(ヤマダサエ)が、飛行機の客室内で乗客から、
「お姉ちゃん、冷コー ちょーだい!」
「こっちは新聞〜〜〜!」
と言われているシーンがありました。これに対して山田紗依は笑顔で、
「は〜〜〜い!少々お待ちください!」
と答えています。特に「冷コー」を理解できないふうでもありませんでした。 |
|
2006/4/6 |