◆ことばの話2205「クローズアップ現代です」
NHKの看板番組の一つ
「クローズアップ現代」
。司会の
国谷裕子(くにや・ひろこ)キャスター
は、番組冒頭で、
「こんばんは。クローズアップ現代です」
と番組タイトルをコールします。この一言が
途轍もなく早口
なのです。黒柳徹子さんも真っ青なぐらいです。ただ、今は、以前よりは「こんばんは」の挨拶の部分は少しゆっくりになった気がしますが。それでも、
「クローズアップ現代です」
は、やっぱり
早い
。
なんでこの人はこんなに早口なのだろうか、と以前から気になっていたのですが、先日、その謎が解けました。
「国谷さんは、『クローズアップ現代』を英語のリズムで言っている」
のです。普通、日本語としてこのタイトルを言うと、
「く・ろ・ー・ず・あ・っ・ぷ・げ・ん・だ・い・で・す」
と13拍の音が必要です。ところが国谷さんは、
「Close・.Up・Gendaidesu」
と
たったの3拍あるいは4拍
でこのフレーズを言うのです。「クローズ・アップ」は、もともと英語の
「Close・.Up」
なので、その部分が2拍になってもまだいいのですが、そのあとの
「現代」という4拍の日本語まで(あるいは「現代です」という6拍の日本語まで)、前の英語のリズムにつられて、たったの1拍になっているために、余計に早口に聞こえる
のです。
以前は、日本語である
「こんばんは」
も、
「こ・ん・ば・ん・は」の5拍
ではなく、
1音節で「こんばんは」
と言っていたので、もっと違和感があったのです。
国谷さんは帰国子女(あるいは外国の大学を卒業なさった)というふうに聞いた覚えがありますが、英語のリズム・感覚が身についた人が日本語、特に外来語をしゃべる時には、そのあたりの区別をつけないと、「しゃべりが早い」と思われるのではないでしょうか。
そして最近のように、小学校から英語教育を行う際には、教える側は、そういった
言語の持つリズム、拍や音節の感覚
についても留意する必要があるのではないかと思いました。そうでないと日本語は壊れていくのではないでしょうか・・・。もちろん国谷さんのキャスターとしての素晴らしい実績とはまた別の問題として、考えなきゃならんのじゃないかなあと思うのですが、いかがでしょう?
2005/6/17
(追記)
2006年1月17日の日本テレビ
『ズームイン!!SUPER』
で紹介していた、映画
『レジェンド・オブ・ゾロ』
の記者会見で、この映画に出演している、
「キャサリン・ゼタ=ジョーンズ」
という女優さん、日本語で
「はじめ、まして」
と、ゆっくり、たどたどしく言ったあとに、ものすごく早く自分の名前を、
「キャサ・ゼタ・ジョンズです。」
と言いました。(そう聞こえた。)それを聞いた司会の羽鳥アナウンサーが、
「名前言うの、早かったな!」
と感想を言いました。
これは「クローズアップ現代です」が早口に聞こえるのと同じことだと思います。彼女は
「キャサリン・ゼタ・ジョーンズです」
と言うのを、
日本語であれば12拍
かかるところを、なんと
3拍か4拍で言ってしまった
のです。自分の名前のところは英語で(英語のリズムで)言ってしまったのですが、その前の「はじめまして」は、一語一語区切って日本語のリズムだっただけに、違和感が際立ったということでしょうね。
なお、映画に詳しいHアナウンサーによると、彼女はマイケル・ダグラスの奥さんだそうです。(2000年9月に結婚だそうです。)
2006/1/17
◆ことばの話2204「セルビア・モンテネグロ人の名前」
今日(6月16日)の各紙朝刊に載った記事。去年(2004)3月に東京・銀座の宝石店で35億円相当の貴金属が奪われた事件で、警視庁が強盗傷害容疑で逮捕状を取っていた外国人4人のうち、
セルビア・モンテネグロ国籍
の男女2人の身柄が、セルビア・モンテネグロ国内で拘束されたということです。
その容疑者の氏名ですが、新聞によってちょっと違いました。
<男>
「ラソビッチ・ジョルジェ」=読売・朝日・毎日
「ジョルジェ・ラソビッチ」=産経・日経
<女>
「パナヨトビッチ・スネザナ」=読売・朝日・毎日
「スネザナ・パナヨトビッチ」=産経・日経
つまり
「苗字と名前」
、あるいは
「名前と苗字」
の順が違うのです。
一般的な常識(?)で考えると、
男の方は「ラソビッチ」、女の方は「パナヨトビット」が「苗字」
と思われます。
「ジョルジェ」「スネザナ」がおそらく名前
でしょう。とすると、読売、・朝日・毎日は、「苗字+名前」という日本人がふだん使っているのと同じ順番、産経と日経は「名前+苗字」という、欧米人の氏名の順番で表記していることになります。
6月16日、
日本テレビの「ズームイン!!SUPER」
の中のニュースでは、
「ラソビッチ・ジョルジェ容疑者」「ラソビッチ容疑者」
と言っていましたから、「ラソビッチ」が苗字で、
「苗字+名前」
の順番であるという判断がなされたのでしょう。
果たして、セルビア・モンテネグロ人は、どちらの順番なのでしょうか。
あれ?これと同じようなことを、たしか前にも・・・そう、
「平成ことば事情2189・ナイジェリア人の苗字」
で書きました。
なんだか世界の人の苗字と名前って、難しいなあ。
そんな中、今日の朝刊にはもうひとつ、外国人に関する記事が載っていました。それは、難民申請が認められずに強制退去処分を受けた
ミャンマー人の男性
が、難民不認定処分の取り消しを求めた裁判の控訴審で、大阪高裁は15日、この男性が難民に当たると認定し、不認定処分の取り消しを命じる判決を言い渡したというものです。この男性の氏名は、
「マウン・マウンさん」
これだとカタカナで書く限り、どちらが苗字でどちらが名前かで迷うことはありませんね。どっちも同じ「マウン」ですから。ただ、
「ミャンマー人は苗字と名前と、どちらが先か?」
と聞かれたら、やはり迷うことに変りはないのですが・・・。
2005/6/16
(追記)
『週刊文春』
の6月30日号では、
「ジョルジェ・ラソビッチ」
「スネザナ・ナヨトビッチ」
と出ていました。
2005/7/7
◆ことばの話2203「ノリを越えず」
卯月、私の両親が今年
「古希」
を迎えたという話を、隣の席のHアナウンサーとしていた時に、論語の一節が思い浮かびました。
「七十にして
心の欲するところに従いて
ノリをこえず」
この言葉の「ノリ」ですが、漢字で書くとどうなるのか?というのが問題になったのです。
私は
「矩」
だと思ったのですが、インターネットの検索エンジンGooglで検索(4月19日)してみたところ、
「則を越えず」=390件
「矩を超えず」=264件
「法を越えず」= 69件
「典を超えず」= 0件
でした。そうか
「則」が一番多いの
か。
Yahooでも調べたところ(4月19日)、
「則を越えず」=43件
「矩を超えず」=49件
「法を越えず」=28件
「典を超えず」= 0件
でした。「則」と「矩」が競っていますね。「矩」が少し、多い。
あ、でも
「こえず」
の漢字は、正しくは
「踰えず」
のようだから、それでもう一度検索してみよう。Googleで6月15日に検索したところ(2か月もほったらかしだったんだ、このテーマ!)以下のような結果が。
「則を踰えず」= 2件
「矩を踰えず」=361件
「法を踰えず」= 0件
「典を踰えず」= 0件
おお!これで明らかになりましたね。ポイントは
「踰えず」
にあったようです。
「七十」、「従心」の「ノリをこえず」の正しい漢字表記は、
「矩を踰えず」
ということで、よろしいですね?
2005/6/15
◆ことばの話2202「ゼンクリ」
家の近くに新しく大きなショッピングセンターができました。飲食店も20近くあります。
以前は、週に一度は、「ハンバーガーショップに行こうよお!」とダダをこねていた小学2年生の息子が、最近は行こうとは言わないので、なぜか聞いたところ、こう答えました。
「モールのお店、ゼンクリしてからや。」
「???ゼンクリって何?」
と聞くと、
「全部クリアーすること」
という答えが返ってきました。つまり、
「全部の店に、1回は行く」
ということのようです。そうか、ポケモンを、
「ゲットする」
という言葉がなじみになっているのと同じように、ゲームを、
「クリアーする」
というのも、もう、この子たちにとっては「日本語」として普通に使われているのだなと感じました。全部のお店に行くというのも、彼にとっては「ゲーム」なんですねえ。
ところで、
「クリアー」
という言葉を私が覚えたのは、小学校1年の時、つまり
1969年の1月
以降です。なぜそんなに細かく覚えているかというと、その年のその月から、少年サッカースクールに通いだしたからです。私のサッカー歴は38年目ということになります(けっこう長いでしょ)。その
サッカーの用語
として、
自陣前に攻め込まれた時にボールを安全な場所へ蹴りだすこと
を
「クリアー」
と言うのだと教わったのです。
それから38年、随分いろんなものをクリアーしてきましたよ。今クリアーできていないのは・・・自分の部屋のゴミ掃除、かな。
2005/6/15
◆ことばの話2201「胸がふさがれる思い」
NHKのHさんからメールで、
「最近『胸がふさがれる思い』という表現を目にしたが、正しくは『胸がふさがる思い』ではないか」
というものでした。あ、なるほど。言われてみれば。そうですね。
Google検索(6月15日)では、
「胸がふさがれる思い」=105件
「胸がふさがる思い」 =136件
と正しい方が、わずかに多い。これも正しい形に「れ」を足した、いわゆる「れ足す言葉」((c)真田信治先生)ですかね。それか
「胸が潰れる思い」
の「潰れる」に引かれて「ふさがれる」と
「れる」形
になってしまっているのかもしれません。
それにしても、なぜか、つい受身形にしてしまうことってありますよね。しかもこの「胸がふさがる」ことは、「何かほかの外的要因」によって「ふさがる」のですから、ふさがってしまう自分から見れば「ふさがれる」ということにつながってしまうのでしょう。
『新明解国語辞典』
では「胸―」という形の成句は、
「胸が騒ぐ」「胸が潰れる」「胸が弾む」「胸に収める」「胸を焦がす」「胸を突く」「胸を割る」
と、7つ載っていました。
『明鏡国語辞典』
には、
「胸が一杯になる」「胸がすく」「胸が塞がる」「胸に一物」「胸に手を当てる」「胸に秘める」「胸を打つ」「胸を借りる」「胸を焦がす」「胸を撫で下ろす」「胸を弾ませる」「胸を膨らませる」
と12載っていました。
『新潮現代国語辞典』
には、
「胸が痛む」「胸が一杯になる」「胸が騒ぐ」「胸がすく」「胸がつかえる」「胸が潰れる」「胸が詰まる」「胸が張り裂ける」「胸に一物」「胸に応える」「胸に畳む」「胸を打つ」「胸を躍らせる」「胸を借りる」「胸を焦がす」「胸を叩く」「胸をときめかす」「胸を轟かす」「胸を撫で下ろす」「胸を弾ませる」「胸を膨らませる」
と21も載っていました。
「胸」って、いろんな使われ方をするんですねえ・・・。漢字で「塞」を使ったものは、
「胸が塞がれる思い」= 93件
「胸が塞がる思い」 =111件
でした。
2005/6/15
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