◆ことばの話2040「伸びる一方で」
先日、近畿の失業率が、5年ぶりに5%を下回ったというニュースの中で、
「設備投資が伸びる一方で、雇用情勢は不安定で」
という表現がありました。それを聞いておや?と思いました。
というのも「伸びる一方で」は、
「伸びていくばかり」
という意味にも取れるし、実際、そう聞こえたからです。そういった聞き間違い・勘違いを防ぐためには、ここは、
「伸びを見せる反面」
とすべきところではないでしょうか。もしくは、
「伸びる一方」
として、「で」をつけなければ、意味を間違うことはないと思うのですが。
放送で使う言葉は「耳で聞いてわかる」ということを考えなければなりません。原稿を書くときは「書き言葉」の意識になってしまい勝ち。そこでそれを防ぐためには、一度書いて原稿を自分で声に出して読んでみることが必要ではないでしょうか。客観的に原稿を見直すためには、自分で音声化することは有効だと思います。
2005/1/8
◆ことばの話2039「具材」
12月6日のニューススクランブルのお天気コーナーで紹介した、「石焼どんぶり」。おいしそうでした。その中のナレーションで、
「具材」
という言葉が出てきました。いまやフツウに感じるこの言葉ですが、意味は、
「鍋の中に入れる具の食材」
ということですね。この「食材」という言葉も、少し前までは専門用語として捉えられていたのですが、いつの間にか一般的な言葉になってしまいました。「具材」もそうなのでしょうね。国語辞典には載っているのかな?調べて見ましょう!
『岩波国語辞典』は「ぐさい(愚妻)」は載っているが「ぐざい(具材)」は載っていません。『新潮現代国語辞典』にも「愚妻」と「くさい(臭い)」は載っているが「具材」は載っていません。『明鏡国語辞典』も載っていない。『三省堂国語辞典』は、惜しいなあ、「句材」(=俳句を作るときの<によみこむ>材料)は載っているのに、「具材」は載っていない。こないだ出たばかりの『新明解国語辞典・第六版』にも「具材」は載っていませんでした。『広辞苑』にも載っていない。『日本語新辞典』にも「具材」は載っていない。『日本国語大辞典』にも「ぐざい(倶在)=二個以上の対等のものがともに同時に存在すること。共在。」という哲学用語のような感じのものはありましたが、「具材」は載っていませんでした。
ということは、手元にある国語辞典には「具材」はまだ載っていないということです。それだけ新しい言葉だと言えるのではないでしょうか。
「新語」なのかな。『現代用語の基礎知識』『イミダス』『知恵蔵』にも載っていませんでした。ついでに「食材」についても調べてみると、
『日本国語大辞典』=×
『新潮現代国語辞典』=×
『明鏡国語辞典』=×
『岩波国語辞典』=○
『広辞苑』=○
『三省堂国語辞典』=○
『新明解国語辞典(第六版)』=○
『日本語新辞典』=○
ということで、8冊のうち5冊が「食材」を載せていました。『現代用語の基礎知識』『イミダス』『知恵蔵』には載っていませんでした。
日本語のページでのGOOGLE検索では(1月8日)、なんと
「具材」=14万8000件
もありました!「レトルト具材」「海鮮具材」「具材どっさり」「おいしい具材」「おでんの具材」「沖縄そばの具材」「具材付き冷凍讃岐うどん」「不良具材」「おにぎり具材」「そうめんの具材」などなど・・・もう具材だらけだ!
とすると、「具材」が国語辞典に載る日も、近いかもしれませんね。ついでに「食材」は、
「食材」=345万件
でした。うー、スゴイ。桁違い。
2005/1/8
◆ことばの話2038「異体字と異字体」
新聞用語懇談会で、字体についての論議が続いていますが、その議論を聞いていて混同されていたり、自分の中でもなんとなくモヤモヤしているのが「異字体」と「異体字」の区別です。
そもそも(日本で使われている)漢字には「新字」と「旧字」があります。その字の形=字体が、
「新字体」と「旧字体」
です。今、主に使われているのは「新字」なので字体は「新字体」で、それがノーマル。「旧字」とその字体である「旧字体」は「異体字」で、その字体は「異字体」ですね。
そして「異字体」である「異体字」には、「旧字体の旧字」のほかにいわゆる「俗字」がある。
字をさすのか、字体をさすのかで区別すればいいのですがなんとなくややこしい。俗字の俗字体もありますからね。
そんなことを考えていたら、母が、
「あんた、知ってるか?」
と言ってきたのは、
「『サマ』という漢字には3種類あるの、知ってる?」
知っています。実は数年前に知りました。「永サマ」「水サマ」「次サマ」の3種類。
たしか、「サマ」の敬意が高い方から低い方へ、この順番で並んでいると。このワープロで出るかな。
「様」・・・は「水サマ」、フツウの「様」。単漢字で変換すると・・・あ!出た出た、「永サマ」だ!ホラ、
「樣」
もうひとつはどうかな・・・これは出ません「次サマ」は出ませんでした。それはいいとして、これが異体字ですね。「異体字」の「異字体」。この場合は「新字体」とか「旧字体」ではない「異体字」ですね。
なんだかややこしいなあ。学校では習わないし。
2005/1/8
(追記)
新潮社の小駒さんからメールで、
『ことばの話2038「異体字と異字体」の「樣」は、「様」の旧字体。常用漢字表にもカッコ内に(樣)が載っている。戦前の印刷物ではほとんどすべて「樣」が使われている。「様」の字は手書き文字には「水サマ」として使われていたが、活字としてはほとんどすべて「樣」だった。』
と、ご教示いただきました。どうもありがとうございました! 2005/1/26
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