◆ことばの話1260「14ヶ月」
7月7日スタートの月曜夜の新ドラマ「14ヶ月〜妻が子供に還っていく〜」。
高岡早紀さんと中村俊介さんが主演で、流産した高岡さんが子どもに戻っていく、というストーリーだそうです。
この番組タイトルの「14ヶ月」に使われている「ヶ」。小さいカタカナの「ケ」ですが、こう書いてなぜ「KA」と読むのか?
実はこの「ケ」、「箇」という漢字を省略して、竹かんむり一つだけを書いた略字なのです。放送や新聞のニュースでは、この「ケ」は使わないことになっています。かわりに放送各社と読売新聞では平仮名の「か」を使って「14か月」、残りの、朝日・毎日・産経・日経の各新聞は、カタカナの「カ」を使って「14カ月」となります。
読売テレビも「か」ですが、数字や漢字の大きさとのバランスを考えて、「14か月」の場合、「14」「月」よりも少しポイントの小さな「か」にしています。このあたりについては、「平成ことば事情1153『1か月か?1カ月か?』」をお読み下さい。
では、この「14ヶ月」、新聞のラ・テ欄に載るときにはどうなるのか?
広報部のHさんに聞いたところ、
「朝日新聞のラ・テ欄を扱っている日刊編集センターは、小さい『ヶ』が使えないので、大きな『ケ』を使うことになりました。その他の新聞のラ・テ欄を扱っている東京ニュース通信は、小さい『ヶ』を受け入れてくれました。」
とのことでした。いろいろ事情が有るようですね。
7月7日以降、月曜日の各紙のラ・テ欄、見比べてみて下さい。あ、番組の方もお見逃しなく!!
2003/7/2
(追記)
いよいよ「14ケ月」スタートです!7月7日各紙夕刊のラ・テ欄を見てみました。その結果、
『朝日新聞のみ、「ケ」が「14」「月」と同じ大きさで、その他の新聞は、「14」「月」より「ケ」が小さい』
ことが分りました。日刊編集センターが「小さいケ」は使えなかったというわけです。
2003/7/7
◆ことばの話1259「マルチ安打」
松井選手、好調ですね。イチロー選手もいつのまにか、3割5分近い打率で、首位打者をうかがっているし。よしよし。そんな中でよく耳にする言葉に
「マルチヒット」「マルチ安打」
があります。1試合で2本以上のヒットを放つことですね。去年まではあまり目にも耳にもしなかったように思いますが。
野球担当のOアナウンサーに聞くと、
「耳にし出したのは、今シーズンに入ってからですね。私は、この言葉はわかりにくい、まだ耳慣れないので、あまり使わないようにしていますが。」
とのこと。もう一人のOアナウンサーに聞くと、
「マルチヒット?いや、聞いたことないですねえ。メジャーの用語ですか?聞いたことないものは使えませんねえ。1試合3本打つのは『固め打ち』って言いますし、3本打つと球場から賞品がもらえるから、『猛打賞』はいいますけど。」
そうそう、「固め打ち」。昔、私は「片目打ち」だと思っていました。ウインクして打つなんて、よくバットにボールが当たるものだ、スゴイなあと思っていました。子どもの頃の話ですが。
Googleで検索してみました。(6月30日しらべ。)
マルチヒット=711件
マルチ安打= 978件
ほほう。結構使われていますね。ついでにキーワードをふやして、それぞれの言葉に「松井」「イチロー」をくっつけて調べてみました。
マルチヒット・松井=404件
マルチ安打・松井= 672件
マルチヒット・イチロー=493件
マルチ安打・イチロー= 836件
やはり、イチローの方が件数がともに多いですね。そりゃあ、マルチヒットの回数が多ければそうなりますよね。
新聞検索ではどうでしょうか?(A=朝日、M=毎日、Y=読売、S=産経、N=日経)
「マルチヒット」=18件(A−4、M−5、Y−7、S−2、N−0)
「マルチ安打」=10件(A−4、M−2、Y―1、S−3、N−0)
で、「マルチヒット」の初出は、2001年5月20日の朝日新聞、イチローに関する記事です。年別に件数を言うと、
2001年=8件(A−4、M−1、Y−1、S−1、N−0)
2002年=2件(M−2)
2003年=8件(Y−6、M−2)
なるほど、2001年は「イチロー」で朝日が力を入れ、今年は「松井」の記事で読売が力を入れているのですね、「マルチヒット」に関しては。
「マルチ安打」は、10件(A−4、M−2、Y−1、S−3、N−0)
で、すべて今年に入ってから。初出は2003年5月2日の朝日新聞夕刊です。
ただ「マルチ」と聞くと、「マルチ商法」のようなちょっとマイナスのイメージを持つ人もいるのではないでしょうか。それに「複数の」という意味がすぐに分るとも思えません。
今後、この言葉は使わなくても、1試合に2本以上のヒット、松井にもイチローにも打って欲しいですね。
2003/6/30
(追記)
7月6日(日)の24時28分頃のTBSのスポーツニュースで、字幕スーパーで
「マルチ安打」
を使っていました。そして、7月7日(月)の19時24〜25分、NHKの夜7時のニュースでは、ナレーションで、
「松井、4試合連続の複数安打」
「イチローの複数安打は・・・」
と、2度にわたって、「複数安打」と、他のメディアでは使っていない表現を使っていました。たしかに「マルチ」が、なじんでいるかといえば、なじんでいない。「マルチ」を「複数」と訳したのは「見識」でしょう。
2003/7/7
(追記2)
1年ぶりの追記です。2004年7月6日、NHK衛星放送での「ヤンキース対メッツ」の「サブウエイ(地下鉄)シリーズ」の中継の中で、アナウンサーが、
「複数ヒット」
という言い方をしていました。たしかにこちらの方がわかりやすいかも。「ヒット」はもう日本語だしね、「マルチ」よりも。GOOGLE検索では、
「複数ヒット」=558件
でした。ちなみに、あれから1年経って、
「マルチ安打= 3060件
「マルチヒット」=2810件
でした。やはり「マルチ安打」が一番よく使われているようです。
両方、日本語にすると、「複数安打」ですが、これは、上の「追記」で既に1年前にNHKが使っていた表現です。
2004/7/8
(追記3)
2005年4月7日の読売新聞の見出しが、
「イチロー連続マルチ」
なんだか「マルチ商法」のようですが、本文を読むと、
「2試合連続の複数安打をマークしたマリナーズのイチロー外野手」
とありました。
またGOOGLE検索してみましょう。(4月7日)
「マルチヒット」=1万1700件
「マルチ安打」= 7890件
「複数ヒット」= 3930件
「複数安打」= 3万0600件
「マルチヒット」が9か月で4倍に増えています。「マルチ安打」は2倍くらい。一番多いのは、やはり字数が一番少ない(4文字)「複数安打」が3万件以上とよく使われているようです。書き言葉ですね、これは。
2005/4/7
◆ことばの話1258「チューハイとチュウハイ」
ビールのおいしい季節になりました。
でも、ビールはすぐにおなかいっぱいになるから、2杯目からはチューハイで、という方も多いでしょう。そこで、気になる「チューハイ」の表記について調べることにしました。「チューハイ」か「チュウハイ」か?まあ、直接のきっかけは、『ダカーポ517』(2003年7月2日号)118〜119ページに載っていた「TaKaRaに教えてもらう酒文化<その七>」の「チューハイとチュウハイ。歴史を知って飲み分けを楽しもう」を読んだことです。それによると、「チューハイ」は缶入りのドリンクとしておなじみの物。そしてもう一つの「チュウハイ」は"焼酎ハイボール"で、「限定した地域でしか飲めないディープな飲み物」と、宝酒造の辻宏さんは、『ダカーポ』誌上で話しています。もともと「チュウハイ」は「焼酎ハイボール」の略だと思うのですが、確かに最近の市販されているものは既にはじめから「チューハイ」の形を取っていますが、本来は「焼酎をソーダで割る」という作業なくしては「チュウハイ」はありえないと。そう言われると、「確かに」そうですね。
『ダカーポ』では、「グループで楽しむチューハイ」「一人で味わうチュウハイ」ともあります。
Google検索(6月24日しらべ)では、
チューハイ・・・3万8700件
チュウハイ・・・・・4770件
圧倒的に「チューハイ」リードですね。カタカナだから、長音符号の「−」を使いたい、というところでしょうか。
実際にスーパーに行って確認したところ、タカラ、サントリー、アサヒ、合同酒精は「チューハイ」を使っていました。メルシャンは「グビッ酎」という商品名です。これは「焼酎」の「酎」の字を採用しています。
またまた、食べ物言葉に強いNHK放送文化研究所の塩田さんに聞いてみました。いつもすみません。その返事は以下の通り。
チューハイ/チュウハイ問題は、まさにこの単語を例にして『日本語あれこれ
事典』(日本語学2002.11臨時増刊号)に伊藤雅光さんが書いています。
ここでの結論は、表記はチュウハイ、発音はチューハイ、ということになっています。
私も同じように考えています。で、NHKの場合、単語として「焼酎」を書けることになっているので(『新用字用語辞典』p.7)これを援用すれば「酎ハイ」という表記も可能なのでは(焼酎ハイボールの略語ということで)、と個人的には思ってます(異論があるかもしれませんが)。
商標関連では、宝酒造の「タカラ缶チューハイ」「CAN CHUーHI サワー」、
またサントリーの「スーパーチューハイ」みたいになってるようです。
だから、ふつうに「チュウハイ/チューハイ」って言う分には、かまわないんじゃな
いでしょうか。
サワーっていう言い方も、最近はあんまり耳にしなくなったような気がします。
飲みに行くのが少なくなったこともあるかもしれませんが。。。
確か関西だと「ウーロンハイ」ってあんまりメジャーじゃないんですよね。
こっち(東京)じゃ、ふつうに売ってます。
ということでした。そうか、去年出た『日本語あれこれ事典』(明治書院)に載ってましたか。こないだ見たばっかりだったのに、見落としていました。160ページですね。これを書いた伊藤雅光さんという方は、国立国語研究所の領域長だそうです。本来の表記法は「チュウハイ」で発音は「チューハイ」だけれども、見た目の「ずらし」がかっこいいということで、発音にあわせた「チューハイ」というのが出てきたのではないか。これは「携帯電話」のことを略した呼び方も本来の表記法ならば「ケイタイ」だが、発音にあわせた「ケータイ」が圧倒的に使われているのと似たような用法ではないかと、伊藤さんは記しています。
ちょっと日が経って6月30日、もう一度Google検索しました。今度は「酎ハイ」と、関東での名称と思われる「サワー」も追加して調べました。
「チューハイ」=3万9100件
「チュウハイ」= 4820件
「酎ハイ」= 1万6500件
「サワー」= 5万9600件
けっこう「酎ハイ」も「サワー」も使われているのですね。
まあ、どれを飲んでも、モノは同じですが。
新聞では「チューハイ」と「チュウハイ」、どちらの表記がたくさん使われているかと思って、新聞検索をしてみたのですが、1975年から今日(2003年6月30日)までで、ともに2025件。という事は、おそらくこの新聞検索(日経データバンク)では、どちらも同じ物として認識されているものと思われます。じゃあ、調べられません。残念。でも、「チューハイ」の初出は、分りました。1980年6月19日の日経流通新聞です。「ぼるがー『チューハイ』に人気」という見出し。おそらく「ぼるが」という店で「チューハイ」というメニューを出したところ人気を呼んでいる、という記事でしょう。まだ「チューハイ」がカギカカッコ付きです。
また「酎ハイ」は491件。「サワー」は1175件。やはり「チューハイ」が一番人気のようです。
その後、各年の「チューハイ」の登場回数は以下の通りです。(A=朝日、M=毎日、Y=読売、S=産経、N=日経四紙)(1975年〜79件は、なし)
1980年=1件(N−1)
81= 0件
82= 4件(N−4)
83= 12件(N−12)
84= 69件(N−69)
85= 67件(A−13、N−54)
86= 50件(A-8、Y−2、N−40)
87= 34件(A−10、M−1、Y−9、N−14)
88= 26件(A−9、Y−6、N−11)
89= 28件(A-15、Y−4、N−9)
90= 25件(A−9、M−2、Y−5、N−9)
91= 42件(A−8、M−4、Y−6、N−24)
92= 19件(A−4、M−3、Y−5、N−7)
93= 52件(A−11、M−5、Y−9、S−7、N−20)
94= 71件(A−10、M−13、Y−13、S−6、N−29)
95= 73件(A−11、M−5、Y−15、S−11、N−31)
96= 67件(A−13、M−13、Y−13、S−9、N−19)
97=117件(A−35、M−27、Y−20、S−4、N−31)
98=125件(A−35、M−34、Y−23、S−3、N−30)
99=143件(A−15、M−23、Y−23、S−18、N−64)
2000=192件(A−23、M−44、Y−32、S−13、N−80)
01=255件(A−37、M−44、Y−39、S−26、N−109)
02=386件(A−37、M−112、Y−68、S−28、N−141)
03=167件(A−23、M−35、Y−22、S−11、N−76)
日経新聞関連以外で、一般紙で「チューハイ」を初めて使用したのは、85年の朝日新聞。阪神が優勝した年ですね。
97年から「チューハイ」の使用頻度が3ケタになっていて、右肩上がり。今年はまだ半分(6月30日なので)なので、去年並みは行くでしょう。不況と関連があるのでしょうか。外の店で飲むよりも、家で缶チューハイを飲む方が安上がりだし。
新聞別では、去年の毎日新聞の112件がずば抜けて多い。毎日新聞の記者の方、去年はなにかチューハイ飲んで憂さ晴らししたいことが多かったのでしょうか?あ、日経も141件と多いですが、これは日経四紙合計ですし、日経流通新聞や日経産業新聞という業界紙も含んでいますからね。朝日新聞は、30件前後で安定しています。読売も去年はちょっと多いですね。
ケータイで配信している読売新聞の6月29日のニュースでは、見出しは「缶チューハイ」だったのですが、本文では「缶酎ハイ」という表記。ケータイ配信の記事は、本紙に比べると、表記は統一されていないようです。
こんな数字を肴に、チューハイでも飲むか。
2003/6/30
(追記)
その後メルシャンの商品で、
「本搾りチューハイ」
というのを見つけました。「チューハイ」を使っておりました。
また、7月5日の朝日新聞東京版では、見出しで、
「缶酎ハイ、容姿でアピール」
と「缶酎ハイ」を使用。本文中でも、「缶酎ハイ各社」「缶酎ハイを発売」「酎ハイ市場」と3度「酎ハイ」が出てきました。「チューハイ」は1度も出てきません。朝日新聞の東京は「チューハイ」はキライなのかな?ちなみに、
「20年前に缶酎ハイを発売した元祖、宝酒造」
という一文も出てきます。やっぱり元祖はタカラだったんですね。
2003/7/7
◆ことばの話1257「左右に『開く』?」
先日、合唱団の先輩からだったと思いますが、こんな質問を受けました。
「電車に乗っていると、『ドアが開(ひら)きますのでご注意ください』と車内アナウンスが流れるけど、あれっておかしくない?」
??どういうことでしょうか?
「いや、『開(ひら)く』というのは、『観音開き』のように『開く』ことを指すじゃない。電車のドアは左右にあく『引き戸』だから、『開(ひら)く』ではなく『開(あ)く』だと思うんだけど。」
いやあ、そんなこと考えたこともなかったなあ。一緒だと言えば一緒ですけど。違うと言えば違うかな。
インターネットの掲示板「ことば会議室」に投稿してみたところ、UEJさんからは、
「個人的には『観音開き』の方が『ひらく』の語感に近いように感じる。『日本国語大辞典』の『ひらく』には、『ひろ(広)あく(明)』とある。」
という意見を、また岡島昭浩さんからは、
「たしかにドアの方が『ひらく』を使いやすいとは思うが、引き戸のようなものも『ひらく』と使うと思う。抽象的な言い方で『お店が開く』も可能だ。「幕がひらく」とも言いそうだ。『観音開き』だけというのは、限定しすぎでは。」
というご意見です。大変、常識的で、私もそう思いました。
今回はちょっと勇み足的な質問でしたね。従来通り、「ひらく」を使おうと思います。
2003/6/27
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