◆ことばの話1095「りそな銀」
四十を過ぎて老眼になったのでしょうか、どうも「見間違い」が続いています。
まず、3月10日のお昼のニュースの項目表。その日のトップニュースは、
「東証8000円割れ目前」
でした。この文字を見つけた私はなぜか、平仮名の「れ」を中心とした3文字に目が行ってしまい、
「割れ目」
と見えてしまい、ドキッとしたのです。「東証8000円、割れ目前」と。
「そう見えるよねっ、ねっ!」
と周囲の人に聞けば聞くほど、白い目で見られてしまいました・・・。「割れ」と「目前」の間に「、」を打ってくれよな!
そして昨日は、
「りそな銀、二重引き落とし」
という読売新聞の小さな記事(ベタ記事、11行)を見て、なぜか「りそな銀」が、
「りそな娘」
に見えて、
「『モー娘(むす)』が、また新しいユニットを作ったのかな?」
と思ってしまいました・・・。そして今日(3月12日)の読売朝刊の解説面の見出しを見ると、
「脱オウム」
の文字。オウム信者の脱会問題かと思ってよく見ると
「高齢者の尊厳を奪う安易な使用、『3割が外せた』調査結果も」
というサブ見出しがあって、おかしいなと思ってよく見直すと、「脱オウム」ではなく、
「脱オムツ」
でした・・・アブアブ・・・。
「離陸着後」(平成ことば事情1094「訂正」参照のこと)のことを笑えませんです、ハイ・・・。
(追伸)
隣の席に座っているアルバイトのDさんは「脱オムツ」を見て、
「『脱オムレツ』かと思いました!」
とのことです。ちょうどお昼にオムレツを食べたそうで・・・。
2003/3/12
◆ことばの話1094「訂正」
3月7日の読売新聞夕刊を見ていたら、ふと、小さな記事に目が止まりました。
「訂正」
と囲まれた、たった4行の記事。そこには、こう記されていました。
「7日付朝刊国際面の見出しで『離陸着後』とあるのは、『離陸直後』の誤まりでした。」
ぷぷぷぷぷ。いや、笑ってはいけませんね。こうやって「訂正」を出すのは、大変勇気がいるし、読者を大切にしていることの表われであります。人間、誰しも間違いはあるものです。そのあとが大切!こうやって「ごめんなさい」をできるかどうかが問題なのですね。読売新聞、えらい!!
それにしても「離陸直後」と書いたつもりが、「離陸着後」とは。
これって、見出しのように大きいと、かえって気づかないんですよね。それと「離着陸」という言葉もあるので「着」という字が出ていても気にならなかったのでしょう。
また「直後」をローマ字で打つと
「TYOKUGO」
で、「着後」だと、
「TYAKUGO」
で、母音の「O」と「A」の違いだけですもんね。(ずいぶん「O」と「A」のキーの一は離れていますが。)
いずれにせよ、私たちもこういったミスを出さないように、気を引き締めなくてはなりますまい。
2003/3/11
◆ことばの話1093「准と準」
先月(2月)起きた、大阪府堺市の病院に拳銃を持った男が押し入った事件で、看護婦長さんが犠牲となりました。このニュースの関連で看護師と准看護師の話が出て、その時にSアナウンサーから、
「『准』と『準』は、どう違うんでしょうね?」
という疑問が呈されました。
これはやはり漢和辞典でしょう。「平成ことば事情」ではあまり出番のない『漢語林』の登場です。
「准」
を引いてみました。答えはあっさり載っていました。
「準の俗字」
なーんだ。
「参考」というところを読んでみると、
「(1)准は俗事ではあるが、法律用語の『批准』、また『准尉』(旧陸軍の階級の一つ)などの語には習慣として准が用いられる。(2)淮(ワイ)は別字」
とありました。「習慣」として、というのはつまり「慣習」というわけね。では「准看護婦」も「習慣」なんですね。この「准」の下に「十」を欠いた「準の俗字」というのも載っていました。「点」が一つ少ないだけじゃないか、手を抜きやがって・・・・という感じですねえ。
意外と簡単に終わってしまいました。
2003/3/11
◆ことばの話1092「大好物」
スポーツニュースを聞いていると、こんなフレーズが・・・。
「ビールが大好物の、ヒルマン投手。」
あれ?と思いました。
「『大好物』とう言葉は、飲み物にも使うことができるのか?私の感覚では、食べ物に使うものではないか?」
といことでした。向かいの席のHアナウンサーにどう思うか聞いたところ、
「うーん、確かにそうですねえ。飲み物に『好物』を使うのは抵抗がありますねえ。」
よしよし、君もそう思うか。
ではどんなものなら「好物」を使ってもいいのか。その「境目」について話し合いました。
「『スープ』は、『好物』と言ってもいいと思うのですよ。でも『牛乳』はダメです。」
「じゃあ、牛乳がたっぷり入った『ホワイトシチュー』は?」
「もちろん大丈夫です。」
確かに「スープ」や「シチュー」は、「ズズズッ」と飲むように啜(すす)るけれども、「食べる」という表現するもんなあ。やはり「食べる」と言うか「飲む」と言うかで、「好物と呼べるかどうか」は決まりそうです。
でもなぜ「好物」は「食べる物」にしか使えないのだろうか?
そうか、まさにその「物」にポイントはあるのか!
つまり、「好物」の「物」は、「もの」という平仮名が示す概念では表現できない「もの」なんです。漢字で書く「物」なのです。「食べるもの」ではなく「食べる物」としての「食べ物」。うーん、自分ではわかったつもりなのに、この感覚を人に説明するのは、難しいですねえ。抽象概念の「もの」ではなく、存在する物体としての「物」。その「食べ物」なんですが。
2003/2/19
(追記)
「ことば会議室」にこのテーマを書き込んだところ、Yeemarさんから書き込みをいただきました。それによると、『日本国語大辞典』や『広辞苑』には「すきな食べ物」とあり、新潮文庫CD−ROMで「好物」を調べてくださったところ、
「酒が大の好物」(二葉亭四迷)
「コーヒーと煙草は好物で」(阿川弘之)
「好物の酒ではどうじゃ」(芥川龍之介)
「好物の、蕎麦湯で割った焼酎」(三浦哲郎)
「スープのたぐいはすべて好物だから」(阿刀田高)
「好物の葉巻」(加賀乙彦)
「おれも風呂は大好物だ」(子母沢寛)
「好物であるコーヒー」(野坂昭如)
「ことの外それ(葡萄酒)が好物で」(野村胡堂)
など、いろいろあったそうですが、飲み物は少数派であると。というのも、「食べ物」より「飲み物」の方が品目が少ないからとYeemarさんは分析されています。
あらためてここに挙げてくださったものを見ると、確かに「飲み物」の例はありますが、「酒、葡萄酒、焼酎、煙草」といったものは「嗜好品」であることもポイントではないでしょうか。
つまり、飲み物・食べ物を問わず、「嗜好品」には「好物」が使えるのではないでしょうか。あれ?そう考えるとヒルマン投手の「ビールが好物」は、許容範囲に入ってきてしまうのですが・・・。ビールは嗜好品ですからね。この考えは、駄目かあ。
また、もう少しこの問題、考えてみたいと思います。こうやって考えるのが、私の「好物」なんです・・・。あ、ここで使っちゃあ駄目なんだけどなあ・・・。
2003/3/11
◆ことばの話1091「汗をしとどにかいています」
3月9日に行われた名古屋国際女子マラソン。強風の中、大南敬美選手が2時間26分を切るタイムで優勝し、8月にパリで行われる世界陸上出場代表の切符を手に入れました。
この大南選手の力走を表した実況アナウンサーの表現に、
「汗をしとどにかいています」
というのがあり、「おやっ?」と思いました。私のボキャブラリーの中では、「しとどに」のあとには「濡れる」という言葉が続くものだとばかり思っていたので。
もちろん「しとど」は、はなはだしく濡れるさまを表わす語ですよね。
後日、『日本国語大辞典』で「しとど」を引いてみると、やはり出てくる用例は、
「しとどに濡れる」
ばかりです。ほーら見たことかと思っていると、なんと、「しとどに濡れる」以外の表現も載っていました。
「涙よりも汗にしととになり、男君もそのけしきをふと見給ひて、いとほしうあはれにおもほす」(「落窪物語」10c後半)
古くは濁らずに「しとと」だったようです。
「あせもしとととなりて、われかのけしきなり」(「源氏物語・夕顔」)
なるほどー。「しとど」は「しとどに濡れる」だけじゃあなかったのですね。
ちなみに、よく似た言葉の「しとしと」は静的なさまを表わし、「しとど」とは意味の違いが認められ、用例上も「しとど」の方が古いことから、「しとしと」「から「しとど」が成立したとは考えにくいと「補注」に記してありました。勉強になりました。
よかった、声高に「間違いです!」なんて言わなくて。しとどに、冷や汗をかくところでした。
2003/3/11
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