◆ことばの話530「この1年の手帳から」
2002年、新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
本当は、2001年中に書くはずだったこのタイトルで、年明けに去年の「まとめ」をしておきましょう。(いつもは、いくつか原稿を書き溜めをしておくのですが、年末に全部掃き出したので、現在、書き溜め原稿は一つもありません。)
去年(2001年)一年間に、手帳に走り書きしたまま、この「平成ことば事情」には書かずにおいたものを箇条書きで残しておきますね。
* 1月27日(土)阪急・曽根駅 梅田方面行きホームのエスカレーターの表記
「のぼり専用エスカレーター」「下り専用エスカレーター」
〜なぜ、「下り」だけ漢字なのか?
* 1月30日(火)NHKラジオ第一
「ぼけ老人をかかえる家族の会」(本部・京都)
〜「ぼけ」は必ずしも差別用語ではないようである。
* 2月2日(金)JR東京駅のエスカレーター
「昇り」と「下り」
〜「上り」の表記もあったが。
* 2月9日(金)京阪・牧野駅前の広告看板
「車で資金 乗ったままマルク072−×××―××××」
〜その資金は、「円」なのか「マルク」なのか?いや、2002年からは「ユーロ」?「車に乗ったまま」というのは、ドライブ・スルーのようなもの?(・・・いえ、わかってぼけてますので、お構いなく・・・。)
* 2月22日(木)大丸・梅田店 シュー・フィッターの20代と思しき男性
「おサイズのほうは・・・」
「よかったら"お足入れ"してみて下さい」
「サイズが切らしているもんで・・・。」
〜「サイズ」に「お」がつくのか。「お足入れ」は靴業界の「集団語」か?「足切り」「足抜け」は聞いたことがあるが。「サイズを切らしている」のではないか?
* 2月23日(金)iモード読売新聞
「脅迫メール」
〜手紙やファックスだと「脅迫状」だが、メールは手に触れるような「実態」がないので、「状」とはならずに、そのまま「脅迫メール」なんだろうね。
* 3月4日(日)
後輩の「中島(なかしま)」君が結婚。お相手の名字は「中嶋(なかじま)」さん。
〜これは面倒くさいのか、面倒くさくないのか。どう呼ばれるのであろうか?その後の調査なし。聞いておかなくては。
* 3月20日(火)伊勢志摩の旅館で見た、中京テレビでVISAカードのコマーシャル(藤井隆が出演)
「東名高速では・・・」「東京・葛飾のスーパーでは・・」というナレーション。ともにそこでVISAカードが使えるというもの。しかし、大阪では「名神高速では・・・」「大阪・阿倍野のスーパーでは・・・」というナレーションで放送されている。映像は大阪で放送しているものと同じ。
〜ナレーションだけ差し替えたのは経費節減か?
* 3月20日(火)同じく伊勢志摩の旅館で
「政府登録観光旅館」
〜この「政府」とはどこか?「内閣」か?→その賞状(?)には「運輸大臣・奥田敬和」の名前が。(平成3年)つまり、この場合の「政府」は「運輸大臣」。今なら「国土交通大臣」、つまり扇千景さんということですかね。
* 4月15日(日)宝塚劇場・「ベルサイユのばら」公演で。
「ベルサイユのばら」
〜「ばら」はひらがなでした。漢字だったら、ヒットしなかったかも?
「女王」
〜出演者は全員「じょーおー」と発音していた。「じょおう」というタカラジェンヌはいなかった。
「いたいけない」
〜まだ14歳のマリー・アントワネットをさしてのマリアテレジア女王のセリフで2回。「いたいけな」と「いたいけない」は同義。「いたいけない」は間違いかと思ったら、辞書に載っていた。「せわしい」と「せわしない」にも似ているな。
「モンゼットの奥様方」
〜役回りは「狂言回し」。
「星が知らぬげにまたたいている」
〜「知らぬげに」というのは初めて聞いた。「よさげに」に似ている。
「お休みのお時刻でございます。」
〜「お」が丁寧すぎ。「お時間」は聞いたことがあるが、「お時刻」は初めて。
「スウェーデン国の繁栄と共に・・・」
〜スウェーデンは「王国」ではなかったか?
「宝塚大劇場のどん帳に描かれた虹は5色」(赤・橙・黄・黄緑・水色)
〜提供は東洋紡。藍色と紫がない。紫=バイオレット=すみれ。「すみれのはーなー、咲くーころー」なのに「すみれ色」のないどん帳というのは、いかがなものか。
「間に合う事が出来るのでしょうか」
〜ヘンなセリフ。二重ですよ。
* 5月28日(月)ふと耳にした20代男性
「一人で持って帰れないので、よかったら取りに来て欲しいんですけど。」
〜こんな時に「よかったら」を使うのか?
* 5月30日(水)北海道・釧路市で目にしたり耳にしたこと。
「八O八ファーム」(やおはち・ふぁーむ)
〜「やおはち」の「お」は「百」ではなくて「O」でした。普通は「八百八」ですが。
「しんくみ駐車場」
〜「信用組合」の駐車場の表記。もしも用もないのに勝手に止めたときの罰金に関しては、釧路では書いてないことが多かった。どこにでも止められるということか、広いから。
「新橋肛門科」
〜釧路空港から市街地へ向かう道路の脇の看板広告。あたりは牧草地。何もない。そこになぜか「肛門科」の看板が。寒い、車によく乗る、あるいは馬に乗る→肛門科と何かつながりがあるのかも。診察に来るのはおそらく「ヂモト」の人でしょう。また、バスから見た市街地には、やたらと「パチンコ屋」「ガソリンスタンド」「質屋」が目立った。
* 6月6日(水)京都・上賀茂の有料駐車場
「罰金2万円申し付けます。」
「二カ月分(\12000/月×2)申し受けます」
「1万円申し受けます。」 〜「申し付けます」
は、2000年11月に、熊本でも見つけました。
* 7月2日(月)北海道・札幌市で目にしたもの
「落雪注意」(ビデオ屋の壁の看板)
〜大阪では絶対目にしない看板。
「無断駐車禁止。罰金3万円の上レッカーします」
〜無断駐車に寛容だった釧路と違い、札幌では厳しい。
「取り消し・更新忘れ専門自動車学校」(南区・澄川)
〜少なくとも関西では目にしたことがない自動車学校。お客さんは、免許取り消しや更新忘れの人「専門」なんです。そんなに間口が狭くて、経営は成り立つのか心配。それとも意外と「巨大なマーケット」があったりして・・・。札幌の人の自動車免許に対する感覚と、取り消し。更新忘れの実態や如何に!?
「熱帯魚・北水」
〜というお店。何も札幌で熱帯魚店をやらなくても・・・と思うのは私だけ?しかも店の名前が「北水」。寒そうな熱帯魚屋さん。しかし、寒いからこそ、熱帯魚に対する需要は多かったりして。大きなお世話か。
* 9月21日(金)東海道新幹線の車内アナウンスの女性の声
「この電車は・・・」
〜「この」のアクセントだけが関西風なのが気になる。「こ」の「入り」が高い。もっと低くから始まって欲しい。
「cashew nut」
〜ご存知「カシュー・ナッツ」。「全部英語」でした。ずっと「カ州ナッツ」だと思っていました。え?「カ州ってどこか」って?そりゃ、カリフォルニア州でしょう。「九州」じゃないよ。
* 9月22日(土)タイ・バンコクのオリエンタルホテル内の骨董品屋さんで。
「NIPHON」
イギリス人のためにフランス人が調べたものらしい、1750年の日本地図。そのアルファベットでの地名表記。これをそのまま読むと「ニフォン」かな?
このほか「YEDSO(蝦夷・えぞ)」「VOWARI(尾張・ぅおわり)」などの文字もありました。「ニホン」か「ニッポン」かの論争の、参考になるかも?
* 11月28日(水)武庫川女子大学での野村雅昭・早大教授の講演会「落語の表現とユーモア」にて。古今亭志ん朝の「火焔太鼓」をビデオで聴く。
☆万年筆=ポタポタ漏るので客が苦情を言いに行く。
客「これ、インク漏るんだよ。」
店主「入れたのかい。」
☆ 「春夏冬」=「あきない」
☆ 「二升五合」=「ますます(升升)はんじょう(一升の半分で半升)」
☆ 「しくじったら、ただすまないんだから」→「ただじゃすまない」の「じゃ」が抜けた形。「ただおかない」も聞いたことがある。「ある意味、・・・・」と似ている気がする。
とりあえず、こんなところです。
重ねて、今年もよろしくお願いします。
2002/1/9
◆ことばの話529「はやっ!」
先日、東京での用語懇談会の際に、テレビ東京のKさんから、こんな話を聞きました。
「最近、深夜のバラエティ番組などで、"はやい""おそい""うまい""まずい"とかの3文字の形容詞を、"はやっ""おそっ""うまっ""まずっ"とかって、語幹だけで表現することをよく耳にしますし、また、その言葉を字幕スーパーででしてるのを目にするんですけど、これって、若者ことばなんでしょうかね?気になるんですけど。」
全然そんなことに気づいていなかった私は、
「お湯が熱い時に、手を入れて"あつっ!"とか言うのは前からありますし、美味しい時に"うまっ!"などと感嘆詞のように使うことはこれまでもありますよね。関西弁では、よく使うような気がしますよ。」
と答えておきました。
そして、大阪に帰ってきてからなにげなく目にしたCMで、あの天海祐希が、なんと
「はやっ!」
と言ってるではありませんか。内容は、ADSLの回線のコマーシャルなんですが、最初に犬を連れて動物病院のような所を訪ねた天海が、獣医師に対して
「最近この子、"お手"が出来るようになったんですよ。」
というと、獣医師が、
「初めが肝心なんですよ」
「はじめがねえ。」
「そう、ハジメガ」
「ハジメガ」
「ハチメガ・・・8メガ」
というダジャレで、8メガの高速通信回線をアピールしています。その最後に、犬に
「おかわり!」
と言うと、目にも止まらぬスピードで「おかわり」をビュンビュンするんです。それを見た天海が、冒頭の
「はやっ!」
を言うのです。
「はやい」を強調して「はやっ」と言うのは、今までもあったことだと思いますが、それを「言文一致」で表記して行くことによって、言葉が固定されると、「はやい」とは別の「はやっ」という言葉が生まれていくかもしれませんね。その動きは、意外と
「はやっ!」
かも知れません。
2001/12/28
(追記)
天海祐希のコマーシャルは、NNT西日本のものでした。従って、関西以外の地方の方は、ご覧になっていないと思います。念の為。
2002/1/11
(追記2)
台所洗剤「ジョイ」のコマーシャルに出てくる「ジョイ」君、なぜか大阪弁をしゃべる子どもという設定です。その中で、ジョイを使って台所仕事(洗い物)をすばやく終えてリビングに向かう奥さんを見て、ジョイ君が発する言葉が、
「わー、はや!」
でした。大阪弁だからいいのか、これは。でもそれをコマーシャルで使っちゃうというのは・・・・あ、コマーシャルだからこそ、こういった"今の言葉の動き"をすばやく映しているんでしょうね。
2004/2/13
(追記3)
ネスレのスナックチョコ「クリスピー物語」のコマーシャルに出ている岸田今日子さん。コマーシャルの最後に、素早くそのスナックチョコを口にして言う言葉が、
「うまっ!」
結構インパクトのあるCMです。岸田さんぐらいのお年の方も「うまっ」という言い方を(たとえコマーシャルの台詞としても)するのが少し驚きでしたが、これについてコラムニストの天野祐吉さんが、2006年2月9日の朝日新聞のコラム「CM天気図」に書いてらっしゃいました。やはり、人の目を引くコマーシャルなのだなと改めて確認しました。
2006/2/9
◆ことばの話528「3世紀にわたる人生」
日本初の女性の国会議員だった加藤シズエさんがお亡くなりになりました。104歳でした。
その葬儀の様子を、12月27日の「ザ・ワイド」(日本テレビ)で紹介していました。
その中で、リポーターの人が加藤さんを紹介するコメントとして、
「3世紀にわたるその人生で・・・」
と言っていたので、それまで背中越しに音だけ聞いていたテレビの方に、おもわず向き直りました。
「3世紀にわたる人生」
確かに104歳でお亡くなりになったのなら、「足掛け3世紀」ですね、19、20、21世紀と。
こういった表現でよく耳にするのは、
「明治、大正、昭和、平成と4つの時代を生き抜いた・・・」
というようなものです。これならそれほど違和感はない、つまり聞きなれたフレーズですが、「(足掛け)3世紀にわたる人生」というのは、びっくりしたなあ、もう。
パッと聞いた感じでは、
「300歳で亡くなったのか?それとも297歳?」
と思ってしまいますよね。人間業ではありません。
でもインパクトの強い表現であることは確かです。 あー、驚いた。
2001/12/27
◆ことばの話527「鼻をつく」
夕方のニュースで、9月に起きた新宿・歌舞伎町で44人が亡くなった火災と同じビル(3階と4階部分)の再現をやっていました。
その中で、リポーターが、
「鼻をつく臭いです。」
と言っていましたが、この「つく」のアクセントが、「HL」(高低)だったのです。
この場合の「つく」は漢字で書けば「突く」あるいは「衝く」ですから、アクセントは「LH(低高)」のはずです。しかし、最近は「つく」ということばのアクセントはすべて、「HL」に統一されつつあるのです。これは地方局のアナウンサーがアクセントを間違えてというのではなく、東京の局の若いアナウンサーが率先して、そういったアクセントを使うようになって来ているのです。
この件に関しては、「ことばの話63」にも書きましたが、それから、約2年、さらにその傾向は強くなってきています。「HL」というアクセントでは「付く」「着く」、つまり付着するという意味で、鼻にくっついてしまいます。アクセントでの意味の使い分けが出来なくなってしまいます。
しかし、若者のアクセントが平板になってきているのも、エネルギーを省略しようと言う省力化の方向ですから、「つく」に2種類あるアクセントを1種類にしようという方向も、ことばの大きな流れからは、ごく自然なことかもしれません。
本来、平板アクセント(LHHH)のはずの「再現」のアクセントが、「LHHL」となってきているのも「証言」「明言」「提言」などの「○げん」という4拍の言葉がいずれも「LHHH」という中高アクセントであることにつられて、1つのアクセントに収斂しようという流れで、それによく似ています。
しかしそれにしても、「鼻を突く(HL)」は、本当に「鼻につく」アクセントなんです。
・・・・「鼻につく」の「つく」は、「高低(HL)」で良かったんだよね?
2001/12/27
(追記)
「ことばの話63」を見直してみると、ほとんど同じ話が書いてありました。2年経って、よりその傾向が強まっていると言うことで、再び、疑問を提起すると言う意味で載せますね。と書いた途端、夕方のニュースで、うちの若手アナウンサーが、
「鐘を撞けるお寺をご紹介します」
2001/12/28
◆ことばの話526「香ばしい」
料理番組・グルメ番組で、試食をしたリポーターが、よく
「うーん、香ばしい!」
というのを耳にして、なんか違和感を感じていた私。どういう違和感かと言うと、
「"香ばしい"という表現は、"香り"に使うものであって、"味"に使うのはおかしいのではないか?」
ということです。
食べる前に
「うーん、香ばしい!」
これはOKです。しかし、口に入ってから「香ばしい」というのは、何か違うように感じるんですよね。
辞書で「香ばしい」を引いてみましょう。
「香ばしい」=「煎ったり焼いたりしたにおいがいい。」(新明解国語辞典)
やはり「香ばしい」は「におい・香り」につくもので、味に使うものではないのですね。
しかも、煎ったり焼いたりするわけですから、その食べ物自体は、水分が飛んでしまっているケースが多いでしょう。あまり汁気たっぷりの食べ物で「香ばしい」というケースは、また、違和感があります。
この表現をよく使う女性アナウンサーに聞いてみた所、彼女は
「私は"風味"の表現として"香ばしい"を使っているんですけど。」
とのこと。「風味」=口に含んだ時に感じられる、その物独特のよい味。(新明解)
やはり、味か。
「でも口の中に、香りも広がりますよね。」
うーん、確かに口と鼻は中で繋がっているから、まったく香りが口の中から広がらないかと言えばそんなことはなく、広がるのだろうけど、口の中=舌の上は「味覚」を感じるのが第一で、香りを感じるのはやはり「鼻」ではないでしょうか。だから、そんなに"香ばしい"のなら、口に入れる前にその"香り"に気づくんじゃないかな。何度も繰り返すようだけど、"香ばしい"は口に入れる前に使って欲しい。万万が一、口に入れてから使うのであれば、
「香ばしい香り」
と、(二重表現のようだけど)「香り」を付けて使って欲しい。これは僕からのお願いです。
ご存知のように人間には五感というのがありますよね。
視覚(見る)・聴覚(聞く)・嗅覚(におう)・触覚(さわる)・錯覚(まちがう)・・・ではなく、味覚(あじわう)の五つですよね。最近この五感それぞれ固有の表現を、わざと間違って使うことによって、表現のインパクトを高めようとするものが目立ちます。たとえば「目においしい」とか。コマーシャル的な文章では、それも許されますが、この「香ばしい」もその一種なんでしょうかね?
2001/12/27
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