◆ことばの話225「あなたらしいがあたらしい」
デパートやスーパーなどが、さっそく年始のバーゲンに入っています。そのうちの一つのショッピングモールのCMのコピーが
「アナタらしいがアタラしい」
これは「あなたらしい」と「あたらしい」の語呂が似ているので作ったコピーだと思います。語呂とロゴも似てるね。武庫川女子大学言語文化研究所の佐竹秀雄教授によると、そもそも「あたらしい」という言葉は、もともと「あらたし」といっていたそうです。それが、言いにくいこともあって、「あたらし」と「ら」と「た」が入れ替わってしまった、そして、入れ替わった方が定着してしまったという訳。これを「音位転倒」あるいは「音韻転倒」と言うそうです。いまだに「あらたに」などの形で、古い形も共存しているのですが。
このほか「つごもり(晦日)」が「つもごり」になったり、花の「さざんか(山茶花)」も、もとは「さんさか」といっていたそうですが、それが「音位転倒」してしまったんですね。
話は元に戻ってこのCMですが、よく見ると「あなたらしい」は「あたらしい」に「な」が一つ入った形。一字多いのと、語の入れ替わりと、どちらが言いにくいですかね。
まあ、コマーシャルは言いにくくても印象に残れば勝ち!ですから、そういう意味では、少なくとも私に対しては、このCM、十分に効果を発揮しているようです。
・・・で、どこのCMだっけ?
2001/1/5
◆ことばの話224「あけおめ」
業界用語第2弾!これはまだ一般ではまだ使われてないような言葉を見つけました。
まずは、新年にふさわしいこの言葉。
「あけおめ」
・・・ふさわしいのかしら?
これは実は「あけましておめでとう(ございます)」の省略形なんですが。当然この後には、こう続きます。
「ことよろ」
もちろん、「ことし(今年)もよろしく(お願いします)」の省略形です。
「ことよろ」はともかく、「あけおめ」は、なーんか響きがよくないなー。この「あけおめ」、先輩のMアナウンサーがもう10年以上も前から言ってます。といっても1年のうちでも、新年のこの時期だけですが。このほか、芸能界では、タレントの結婚が決まった時などに周囲の人たちから「おめでとう」というコメントを取る事がありますが、これを
「おめコメ」
というそうです・・・。関西ではあまり使われていないかもしれません。
続いてはこれです。
「とり」
今年は巳年で干支は「ヘビ」なのに、なんで「とり」やねん?と思われるかもしれませんが、これは「番組の録画撮り」の意味です。割とよく知られている方ですかね。
次は、
「噛む」
主にセリフを言う時にとちってしまう事。「とちる」とともに、若い人を中心に、一般でもよく使われるようになりました。
そして、関西ぽい言葉ですが、
「顔をさす」
これは街中などで、顔が目立ってあまり自由に行動できないような事。これはあまり一般的ではないかな。
一方こちらも関西風のニュアンスがある言葉です。
「オイシイ」
「イタイ」
共に標準語でもあるわけですが、ここでの「オイシイ」は、「ラクなのに実入りの良い」仕事などを指して「オイシイ仕事」などと使います。
また「イタイ」は、本来なら「痛々しい」の意味です。「イタイタシイ」の「イタシ」を省略した形とも言えます。あんまりこのニュアンスでは使いたくない言葉なんですが。
最後は、これです。
「ギリ」
使い方としては、
「55分30秒、ギリで出していきます。」
「ギリまで並んでもらえますか。」
ともに今朝の「あさイチ!」(月〜金;あさ5:30〜7:00)の中で、フロアディレクターが出演者に対していった言葉です。とれとれです。
意味は、もうお分かりかと思いますが、「ぎりぎり」ということ。
つまり最初の方は「6時55分30秒がぎりぎりいっぱいのデッドラインで、そこを基準に残時間表示をフロアディレクターが教えてくれる」という意味で。もう一方は「出演者がスタジオでズラッと並ぶ際に、カメラに映る"ぎりぎり"のところまで並んで下さい」という意味。「ぎりぎり」と2回繰り返すところを1回省略して「ギリ」です。
どうでしょうか、流行るかな。
えっ?オチはないのかって?たまには良いじゃないですか、オチない話も。
2001/11/5
◆ことばの話223「来てる」
某NHKのニュースを見ていると、年の頃なら30ちょいすぎの男性アナが出ていました。
その人が、額に髪をバラバラと垂らしていたので、NHKのニュースアナウンサーらしくないなぁと思い、隣の席のNアナウンサーに、
「ねえ、このアナウンサーの髪型、ちょっとヘンやなあ。」
と言うと、彼女は、
「うーん、この人ちょっと"来てる"と思うんですよね。」
と、のたまいました。
この「来てる」というのはどういう意味なのか?おそらく・・・と思うことはありましたが、一応確認のために、
「"来てる"ってどういう意味?」
「えー、道浦さん、そんなのずっと前から使ってますよぉ!」
「そーお?で、どういう意味?」
「つまり髪の生え際が後退してるっとことですよぉ。」
・・・やっぱりね。
これとよく似た「来てる」の使い方としては、
「あの人、来てるから・・・。」
というのもあります。この場合は、「頭の状態がおかしくなって来てる」という意味です。
だから「頭の状態がおかしく」という部分が"省略"されている訳です。ということは、中元・・・いやNアナウンサーが言った「来てる」も「髪の毛の生え際が後退して」という部分が"省略"されていると考えられます。しかし、「来てる」と進行形で語られていますが、意味としては「もう来てしまっている」という完了形を表わしていますので、二重に婉曲表現と言うことも出来るでしょう。
そう言えば、
「かなり、来てます」
とかいうドリンク剤のCMもありました。これは「かなり、力が満ちて、みなぎって来てる」ということでしょう。
新世紀、どんなものが「来る」んでしょうね。
2001/1/4
◆ことばの話222「テトラポット」
20世紀最後の紅白歌合戦、紅組にaikoという歌手が出て「ボーイフレンド」という曲を歌っていました。その歌詞の中で、
「テトラポットに登って」
という部分がありました。正しくは「テトラポッド」と「ド」は濁ごるんですが、それはさておき、この「テトラポッド」というのは「特定商品名」です。以前、山口百恵さんが「プレイバック・パート2」という曲を紅白で歌った時に、歌詞の中に、
「緑の中を走り抜けてく、真っ赤なポルシェ」
という部分があり、その「ポルシェ」が特定商品名だから、「車」に変えて歌わさせられた、という伝説があります。(今、NHKの方に真偽のほどを確認してもらっているところですが。これは、「ことばの話45・緑の中を走り抜けてく、真っ赤なクルマ」をお読み下さい。)
それから比べると「ああ、大分基準はゆるくなったんだなあ。」と感じます。少し前の週刊誌では、「この"テトラポット"の部分がだめだから、aikoはNHKに出られない」なんて記事もあったようですが。最近NHKは、ニュース以外ではほとんど気にしてないんでしょうね、特定商品名は。ミッキーマウスは出るは、劇団四季の「ライオンキング」は出るは、なんでもありですもんね。
何より、司会の久保純子アナウンサーも、そのaikoさんを紹介する時に
「着メロでも人気のこの曲・・・」
と紹介していましたが、「着メロ」も「特定商品名」なんですけど・・・。ちなみに普通の商品名は「着信メロディー」です。
21世紀になって世の中全てが「特定商品名」になって、使えないことばが増えると、窮屈な感じになりますよね。まあ、そうなったら逆に「全部、特定商品名だから、使ってもよい」という"発想の転換"に繋がるかもしれませんが。どうなるんでしょうね。
2001/1/1
◆ことばの話221「エージアーン」
新世紀を迎えました。皆さん、あけましておめでとうございます。
本年2001年もよろしくお付き合いください。
さて。
2000年最後の「ことばの発見」をおしらせしましょう。
某局の歌番組を見ていたら、ジュディ・オングさんが1979年に歌って大ヒットした、「魅せられて」を歌っていました。そのサビの部分で、
「ウインドィズ・ブローイン・フロム・ディ・エージアーン」
と、高音を響かせているのを聞きながら歌詞の字幕を見て、えっ!と驚きました。
「wind is blowing from theAegean」
の最後の部分が、「Aegean」と書かれていたのです。
私は21年間ずーっと、この部分「エージアーン」
は「Asian」、つまり「アジアン」だと思っていたのです。ところが、この綴りだと、あきらかに「アジアン」ではありません。念のため英和辞典を引いてみると・・・やはりこれは「エーゲ海」でした。
発音は「イーズィーアン」で「ズィー」のところにアクセントがあります。ちなみに、
「アジアン」の発音は「エイジャン」で、「エイ」の部分にアクセントがあります。これだけ違うのに、やはりその頃(高校生)知っていた英語の単語は「アジアン」が限界だったんでしょう。
そう言えば、この曲のイメージは「エーゲ海」ですよね。池田満寿夫さんの「エーゲ海に捧ぐ」なんかもこの頃でしたっけ?
いやー、20世紀のうちに気付いておいてよかった!思い込みって恐いですねえ。この分だと、まだまだ思い込んでいる間違いはありそうだぞ。
21世紀もよろしくお願いします。
2001/1/1
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