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『私の岩波物語』
(山本夏彦、文藝春秋、1994,5,15)
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図書館で借りた本。この頃(1994年)の山本夏彦は、その後の山本夏彦と同じ事を繰り返し書いているが、この頃の方が少し文章がわかりにくい。「岩波物語」というので岩波書店の話ばかりかと思ったらそうではなく、山本の「木工界」「室内」という雑誌の話や講談社・文藝春秋・中央公論・筑摩書房などいろんな出版社から、製本会社や印刷会社までの、山本が体験した歴史を記した本である。
表題作「私の岩波物語」の項では、
「西田哲学のキーワードは名高い『絶対矛盾的自己同一』である。いくら考えても分らないが、自己同一は英語のアイデンティティのことだと知れば『なあんだ』である。アイデンティティは英語国民なら子どもでも使うことばである。アイデンティティ・カードなら身分証明書である。これを自己同一と訳したのは名訳のようでそうではない、西田当人と学生に分って読者には分らぬ言葉である。」
とあるのだが、これには少しばかり驚いた。というのは、山本夏彦は「自己同一」よりは「アイデンティティ」というカタカナの方が良く分かると言っているからである。漢字の方がわからないのでは、国立国語研究所の「外来語の言い換え委員会」の立場はどうなる。ちなみに私は、どちらもわからない。
「室内」という雑誌のタイトルは、シンプルなだけに何か特別なものを感じるが、なに、「インテリア」を漢字で訳したに過ぎない。「内部」ともできたが、これを逆に英訳すると「インサイド」となって別の業界紙になってしまう。
このほか、目に留まった寸言は以下の如し。
「言論というものは常に迎合をこととすること、戦前も戦後も同じなのである。書かせるものと書くものの仲は主従に似ている。」
「広告はCFの時代である。これがヤングの言葉のモデルになる。中年以上はヤングを食いものにする者どもだからコピーの口まねする。家庭も学校も言語を伝える場所ではなくなっている。そもそも家庭に老人がいない。いても若者に迎合する老人ばかりである。」 このほか犬のポチの名前の由来も記されているがこれは「平成ことば事情」に書くからここでは記さない。

ちょっと「夏彦風」に書いてみました。

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