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『アニメ村のステキな住民たち』アニ民188人目
- 2013.05.30
今週のアニ民は漫画家の浦沢直樹さんです。
もう何の説明も必要ない超一線級の漫画家の浦沢さんと初めてお会いしたのはもちろん1989年10月にスタートしたTVアニメ「YAWARA!」の時であります。企画としてはその前年から進行していまして、アニ民登場いただいている丸山さん(アニ民7)、奥山さん(アニ民81)、鈴木さん(アニ民179)のみなさまに深くお世話になることになります。
その年の4月に公開された実写版映画「YAWARA!」が不満の残る形になっていた原作者浦沢さんと編集者奥山さんと会話したのが、映画完成直後の3月でした。なのでアニメ映像化にあたって厳しい意見をいただいたのですが、TVアニメとしては主人公・猪熊柔の女子高生から女子大生への成長ストーリーを軸に、可能な限り原作を基盤として進めていくことを時間をかけて説明させていただき、最終的にご了解を得られた記憶があります。
それよりも議論したのがOP主題歌の永井真理子「ミラクル・ガール」についてでした。おじいちゃんの滋五郎の指導により柔道の実力は超一級ですが、それ以外はごくフツーな女子高生・猪熊柔。TVアニメーションとして主人公をひときわ魅力的に見せるためにも、主題歌タイトルをもフラッグシップのように利用していこうというのがアニメ制作側の戦略でした。
でも原作編集側は、柔はあくまでフツーの女の子だし、いわゆる“柔道マンガ”とは一線を画すファッショナブルな感覚を重要視した作品が「YAWARA!」なんだという主張。楽曲も別な選択をするべきだ、という意見でこれは真っ向からぶつかります。あの時は渋谷のホテルラウンジで何時間お話したでしょうか。でもこーゆー議論はすごく大切で、真摯に会話すればするほどお互いの信頼・結束は増していくという経験につながったのがすごく大きいものでした。
結局は浦沢さんや奥山さんに「そんなに言うのなら」といくつか条件を付けた上でアニメ側プロデュース戦略に賛同をいただけました。永井さんのアルバムタイトルに「ミラクル・ガール」を残し、シングルとして別に「ミラクル・ガール」をリリースする、など当時のレコード会社・ファンハウスさん側の番組に基づいたパブリシティ協力もあって、番組もそして主題歌も大ヒット、「YAWARA!」は好調なスタートを切ることが出来ました。
僕は「パイナップル アーミー」から「ビリー・バット」まで、浦沢さんのすべての作品を熟読しています。どの作品も共通するのが味わうにしたがって滋味あふれてあきることなく、完結に向かうのがもどかしくなるイメージでしょうか。どれか一本というのなら「YAWARA!」に加えて「MASTERキートン」でしょうか。画風(世界観)とみせたいテーマがあれだけうまく重なっている作品を僕は他にあまり知りません。
あまりの多才ゆえ漫画にとどまらず音楽活動もほぼプロとして活動を続けている浦沢さん。ほとんど大ヒットしてしまう作品群には、それぞれにディテールにも非常に気を配っているような繊細さを感じるのに、実感として大きな重機で舗装したような大きな足跡を残したように見えるのが不思議です。そして実は僕は浦沢さんと同学年。たまーに僕のプロデュース番組の感想を聞くために電話すると、作り手というより受け手の代表な感じの的確な意見をもらえるんですよね。それが“MONSTER”浦沢さんの驚くべき強みでもあるのでしょう。
最近はちょっとしたご縁で食事もちょこちょこできるのが嬉しいです。昨年久しぶりに開催出来たのが「YAWARA!」のスタッフが集まる「YAWARA!会」。また今年もどこかで集まってあのパワーを今後に向けてぶつけていきたいと思っています。同世代なりのご自愛はお互いお忘れなく、ですよね。そして、これからはどこに向かって行きますか?