• 『アニ民301人目』俳優の井原啓介さん
  • 『アニ民301人目』俳優の井原啓介さん

  • 2017.05.18

今週のアニ民は俳優で新宿ゴールデン街「べるじゅらっく(=べるじゅ)」店主だった井原啓介さんです。ボクにとっていくつかの作品に声優として出演してくれることになる井原さんとの初めての出会いはもう30年近くになりますか。アニメ「シティーハンター」が始まっていろいろ対応策取りながらも落ち着いてきた1987年も秋の頃だった気がします。当時、一緒にプロデュースしてた日本サンライズ(現サンライズ)植田益朗さんが、ゴールデン街に連れて行ってくれたのです。

驚くほどの急な階段を上って左手、L字カウンターに国籍不明な室内インテリア。そのカウンター内にまだヒゲがあまり白くなっていなかった井原さんがいらっしゃいました。その日はお店がはねてから近くのお寿司やへ。お店に馴染めるかどうか、なんとわさび寿司の洗礼を受け(笑)それなりに涙目しながら井原さんと心地良い相性を感じました。それからお店はボクの日常の一部になります。窓側のソファーは居心地が良く、カウンターの端席は2時間ドラマの監督の席、とかその店のローカルなルールに浸り、自分もまたローカルなルールを作らせてもらったりしました。ボクのローカルルールは簡単、自分のプロデュース作品のステッカーとかグッズをお店の壁に張るのです。おかげさまでお店に入ると数々の作品のステッカー達が、時間の流れを物語ってくれてます。

2時間ドラマにも良く出演してた井原さんに、初めて声で出演してもらったのは「シティーハンターSP グッド バイ マイ スィート ハート」だと記憶してます。その芸歴ゆえにお店の中のように堂々としてれば良いものを、アニメの声優陣の中では初心者だからと、スタジオの中ですごく小さくなってましたよね。そしてそれは「金田一少年の事件簿」「名探偵コナン」でも変わりませんでした。最近放送もされた劇場版「名探偵コナン 迷宮の十字路(クロスロード)」では山能寺の住職・円海役でした。飄々とした演技の中に、このストーリーの芯を支える事件を洞察している僧侶としての深さがよく出ていました。この時も前日は眠れなかったとか、アフレコ後の打ち上げでもご挨拶がとても小さなでも響く低音の声だったのを覚えています。

役者でありながら、周りに対する配慮に長けてた人でした。思い返せばお店でも一度たりとも不快な思いをしたことが無く、確実にメンタルヒーリング出来る場として提供してくれてたのは、井原さんの人柄あってのことだったのでしょう。でもお酒やギャンブルなど、なるほどやっぱり役者なんだよな、というアウトな一面も素で見せてた井原さん。このボクが説教じみたコトを言うと、「いやあ、すわさんみたいにえらくないし」って冗談じゃない、そんなのもひっくるめての井原さんがボクの理想だったし。

ここ数年、お店はボクも知る役者仲間に譲り、役者仕事は体調次第でという療養生活に入っていました。プライベートで語ってくれる件も聞くだに辛く、厳しい出来事を経てきて、井原さんの語る一言ひとことが今聞くべきコトと思い、何度かお見舞いを兼ねて会えてたコトが、今になっては少し救いです。…訪問する場所が自宅から病院に変わり、その病院も転院して3月下旬、永遠に旅立ってしまいました。

結局お互い最後まで「井原さん」「すわさん」と呼び合う仲でしたね。周りの有志が井原さんを囲んで立ち上げてた「井原塾」、その塾長とか啓さんとかいくらでも距離近い言い方あったのに。でもそれが良かったのかもしれません。すわさんと呼ばれた約30年の間、主にカウンターで、向かって会いながら、人生の先輩としてその背中を追いかけていた自分を強く感じていましたから。長い間本当にありがとうございました。

5月7日東京・田町・徳純院で49日法要が執り行われました。ドラマ監督や井原塾のメンバーら30名近くが参加、僧侶さんによるとこの手の法要でこの人数は珍しいそうです。ここでわれわれみんな揃って「追善供養(ついぜんくよう=善を追加し供に養う)」」という言葉をいただいたんですよ、井原さん。

ここで井原さんの出演してる映像を紹介させて下さい。べるじゅでも何度も見せられて、でもその度にうるっとしてしまう、JUJUさん歌う「Hello,Again」(Ballad Version)。そのVPは歌の世界でありながら、井原さんそのものがそこに居る作品です。