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『アニメ村のステキな住民たち』アニ民86人目
- 2011.04.07
今週は「名探偵コナン」美術監督 渋谷(シブタニ)幸弘さんです。
名探偵コナン15周年の立役者の一人、石垣プロダクション所属の渋谷さんと初めて会ったのは映画第1弾「時計じかけの摩天楼」の時だったでしょうか。あのシンメトリーの建築や庭園が大変ですよ、って言ってたのを思い出します。
「名探偵コナン」当初からコナンの世界観に基づく、リアルな美術設定を担当してもらってた渋谷さん。絵心の無い僕は、当時のセル画に重ねる背景一枚一枚を手に取りながら、盛んに感心してたものでした。そういえばその当時こだま兼嗣監督のもとでまっしぐらに制作していた時期、コナンスタッフ四天王と呼ばれていたサムライチーフたちがいました。キャラデザ・須藤さん、演出・山本さん、佐藤さん、そして美術・渋谷さんです。長い間彼らが多くのスタッフの先頭に立って今に続く「名探偵コナン」を作ってくれたのです。
さて、映像に美しさやリアリティ・説得力を持たせるために、コナン映画では実際に舞台になる場所へ必ずロケハンに出かけます。美術としてこれは欠かせないですね。渋谷さんと一番最近覚えているのは、あの飛行船に一緒に乗ったことかなあ。僕とは景色や機材に対して、渋谷さんの見ている視点が違ってたのが印象的でした。やっぱり絵を描くために押さえるポイントは、ただ風景を楽しむのとは違うんですね。なので今まで相当いろいろ出かけていますが、渋谷さんは何処へ行ってもあまり観光にはなっていないと思われます。
今年の厳寒シーンや雪のシーンのために実際に雪国に行きましたよね。残念ながら僕は一緒についていけませんでしたが、今回は厳寒の地にわざわざ出かけた訳で、もう異常にハードなロケハンだったと聞いています。雪の白さ寒さなど、なかなかアニメ映像にしにくいものですがさすがです。「沈黙の15分」ではしっかりその見聞きした経験が映像に反映されてますね。本当にお疲れ様でした!
とにかくロケハンの良いところはまず自分の五感でその場所そのものを体感し、さらには一般のお客としては入れないような場所も、コナン番組スタッフとして許可を得て実際の舞台ウラの面なども知ることができることでしょうか。それが実際に映像に描くことがなくても、アニメとしてのそれなりのリアリティを観客のみなさまにお伝えできることになるのです。
映画の制作工程としては最後の最後ギリギリまで、クオリティ追求が課せられるため、ゆっくりお話が出来るのはいつも初号試写後ですよね。毎年のコトながらその席での、ツキものがトレて解放されたような渋谷さんの笑顔に会えるのが楽しみになっています。で、今回の映画で渋谷さんがおススメな場面は「高速道路(特に後半部分)」、さらに大変だった場面は「雪のシーン全般」だって。前半の答えはともかく後半のはちょっと…、みなさま観てくれたら僕の…の意味がわかります。
それにしても渋谷さんら美術さんが丹精込めて描いた背景は、それだけを額装しても全然成り立つレベルです。CG作画もドンドン取り入れられてはいますが、やはりドラマが交錯する大切なシーンの舞台は、人が感情込めて描いた絵にかなうものはありません。どうかこれからも「名探偵コナン」という、アニメとしては珍しい人間ドラマ込みのミステリーをステキな背景美術で支えていって下さいね。