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『アニメ村のステキな住民たち』アニ民90人目
- 2011.05.12
今週はスタジオさきまくら代表取締役社長 松元理人(ただひと)さんです。
僕のアニメプロデューサーとしての師匠と言えば、まずアニ民2人目に書かせてもらった加藤俊三プロデューサーですが、今回紹介する松元さんも歴史は加藤さんと一緒であります。アニメ「ロボタン」を担当していた時期のどこかでご挨拶をしていますよね、東京ムービーがまだ東中野にあったころだと思います。その後僕が加藤さんたちといくつかの企画を経て名探偵コナンに至る間もずっと、アンパンマンやルパンをはじめほとんどのTMSブランド作品の、現場代表的な立場を務めてこられたのが松元さんです。
なのでいつも良くお見かけするのにほとんど仕事らしい会話をしてこなかった、その松元さんと急にたくさんお話をすることになったのは「ルパン3世VS名探偵コナン」企画の時でした。2009年3月に放送されたこの作品、完成するまでに足掛け3年の月日を必要としています。業界初とも言われた驚異のコラボレーションを成立させるために2007年夏あたりからいろんな場所でお話を始めていました。何かにつけてハイレベルな両作品、それだけに必然的に各社が背負う諸事情があり、それがこの両方の作品に携わるトムスエンタテインメントがもっとも大きいことは容易に想像がつきます。そんな中、社内調整も含めて企画成立にまい進してくれたのが松元さんでした。
あれは2008年1月初め、ちょっと懐かしくなってしまった西新宿のTMSオフィスで、かなり厳しい会議をした後の食事会でしたか。近くのホテルWのお店Kで何人かでお話したシーンをよく覚えています。お互いの各社事情をさらけ出した後は、もうなんと言ったらいいか、ハダカの会話の応酬であります。事情はわかった、じゃあホンネはどうなんだ?自ら夢をぶつけてとにかくこの“世紀のコラボ”をやりたいんだ!という思い込みのみが共通事項でした。
そしてようやくスタートしたシナリオ会議でも松元さんは「やるんだったらもう突き抜けちゃいましょう」と切り出してくれて、われわれの陣頭指揮をとってくれました。そうしてから一年、完成した作品を社内試写出来た時は、久しぶりに胸にこみ上げるものがあったことをよく覚えています。
色黒で白いシャツが似合い、存在感がありいつも微笑んでいるイメージがある松元さんは、とにかく現場にこだわる人であります。どんな時にもアニメーションにとって一番なのは現場であり、現場を大切にすることだ、と公言してはばかりません。専務取締役まで40年以上いろいろ職歴をまっとうされたトムスエンタテインメントを離脱、その企画制作に特化した子会社「株式会社スタジオさきまくら」をこの4月に設立されたのはもう必然のことかもしれません。ちなみに“さきまくら”とは前回のアニ民で紹介した故出崎統監督が命名されたものだそうです。
今やあまり表現としても聞かなくなった、セル画のそして昭和の香りを残す好きな言葉“アニメ工場”。松元さんは「さきまくら」で、アニメーションを制作する聖なる場所を示すこのコトバに、アオくても“理想の”という冠をつけてさらにまい進されることでしょう。このまこと現場な新会社を心から応援させていただきます。で、今まで通り、ふと気がつくと近くで見守ってくださっている、これからもそんな感じでご指導いただきますようよろしくお願いいたします。