新・ことば事情
4047「きれさ、違うくて」
先週、読売寄附講座の講義で関西学院大学に行ってきました。「メディア論」の講座の中で、「テレビと言葉」ということで、話をしてきたのです。90分、話しっぱなしで、あっという間に終わりましたが、300人ほどの学生さんは熱心に聴いてくれたようです。講義の後、みんなが感想を書いてくれたものを送ってくれました。その中で、気になる表現がありました。
「声のきれさに感動しました」
これは、「きれいさ」ではなくて、「きれさ」。もちろん「い」を書き忘れた脱落に過ぎないのかもしれませんが、それ以外には脱字がなかったところから考えると、「さ」をつけて名詞形にする前はもともと、
「きれいで」
という「形容動詞」のはずでしたが、そうではなくて、
「きれくて」
のように、活用が「形容詞化」しているものだったのでしょう。そしてもうひとつは、
「少し地区が離れているだけで違うくて」
の中の、
「違うくて」
これは「違って」ではなくて「違うくて」と、語尾の活用が「形容詞化」しています。「違う」はもちろん「動詞」なのですが。関東の若者言葉では「う」も脱落して、
「ちがくて」
になっているようです。さらに「ちがうよ」は、
「ちげーよ」
と活用しています。関西の人はあまり「ちげー」は使わないかと思いますが。
そういえば、甲南大学の都都染先生が先日、
「リポート(文字)で、『違い文章が』という表現を見つけました!『違う文章』ではなく『違い文章』。これは連体形が『い』になっているのです。」
と、言葉の変化の発見をうれしそうにお話になっていたのを思い出しました。
また、きのう(7月6日)の『ミヤネ屋』のゲストで、元幕下・東桜山の田代良徳さんは、スタジオの発言の中で、
「一枚、番付が違うければ」
と言っていました。普通は、
「違えば」
ですが、これも「ちがくて」という活用と似た感じの傾向があると思いました。
なお、田代さんは現役時代、仲間のお相撲さんと一緒にハンバーガー店に行って、3人でハンバーガー5000~6000円分食べたことがあるそうです。普通のハンバーガー(=1個100円)に換算すると・・・3人で50~60個、一人約20個!!ゲップ・・・・。胸焼けが・・・。
ハンバーガー50~60個買った時に、店員さんに聞かれなかったですかね?
「こちらでお召し上がりになりますか?それともお持ち帰りになりますか?」
って。
「ここで食べます」
と答えたら、お店の人もびっくりしたかな。あ、でも見た目がお相撲さんだから(というか、お相撲さんそのもの)、特に不思議には感じないか。
(追記)
『辞典<新しい日本語>』(井上史雄+鑓水兼貴、東洋書林:2002,6,10)に、
「チガウカッタ」
が載っていました。しかも兵庫県氷上郡で1996年の採集。沖縄でも使われるらしい。
このほか、
「チガウクナイ」「チガウクナル」「チガカッタ」「チガクテ」「チガクナッタ」「チガクナイ」「チガクナル」
などが1980年代から観察されているそうです。「違って」の意味の、
「チガク」
は、東京外語大のレポートの文章で、
「チガクはないのか」
と書いた学生(1994年)があり、茨城県の出身だそうで、形容詞としての用法が拡大しつつある、と記されていました。