イントロダクション
都内の大手広告代理店、丸々通信。
不況下も業績トップなのは、徹底した業績主義、効率主義を掲げているせいと言われているが、
なんとこのほど、それとは真逆をゆく人物が部長に就任した。
その人物とは、木下幸之助。
遅刻、早退の常習犯。
“その日、その時の気分”で生きている男。
とにかく何を考えているのか分からない男。
仕事上で関わると、真面目に仕事をしている社員がトンデモない
目にあわされる、との噂が。
木下が何故部長になり、部を持つようになったのか、社員たちには謎だった。
木下部に配属になってしまった部員達は、社内中から気の毒がられていた。
会社人生が終わることは決定的だったからだ。うなだれている木下部の面々。
意気揚々と自分の未来に期待を膨らませていた新入社員・僕元公司も例外ではなかった。
「もし、もしほんとうにやばかったら、辞めよう!」
と思いながら、恐る恐る木下部長に挨拶するボクモト。
「新入社員のボクモトコウジと申します」
すると、
「あそ。えー‥」
なにか思い出せないでいる様子。どうしていいか分からず、ボクモトは木下部長の言葉を待った。
「…」
「えーと、名前、なんやったっけ」
「え?」
いま、言ったのに。
木下は悪びれる様子もなく笑顔で
「また聞くと思うから、また教えて」
と言った…。
自分の部下の名前すら覚えないド天然でミステリアスな”平成の無責任男”が何かと重苦しいこの時代に
明るい未来と幸せな気分をあなたに!お見せします!
キャスト
ストーリー
憧れの広告代理店、丸々通信に入社した僕元公司(ぼくもとこうじ)。
希望に胸を膨らませ出社する僕元が河原の土手にさしかかると、突如ダンボールを持った中年の男が現れる。僕元が硬直して立っているとその男はためらいなくダンボールを尻に敷き、土手を滑っていった。途中で転んでいる。妙なものから逃げるようにその場を後にする僕元だった。
出社した僕元は新入社員とともに研修室に集められ、人事部の配属発表の時を迎える。コピーライターを希望する僕元が運命の発表を待っていると、場違いな中年が研修室に入ってくる。河原で滑っていた男だった。人事部長に間違いを指摘されたその男は木下部長と呼ばれていた。後頭部には土手で転んだときについた草が…微妙な空気の中堂々とその場を去っていく木下部長。あっけに取られる僕元がその直後聞いた配属先は、「木下部」だった。失笑が漏れる。
不安な気持ちのまま研修室を出た僕元の前には、研修時から何かとちょっかいを出してくる同期の天敵・日泉(ひいずみ)がいた。「木下部」は今回初めて発足した部で、お荷物社員たちが集まる“行っちゃいけない部ナンバーワン”だと僕元に教える日泉は、超エリート集団「君島部」に配属されていた。ライバルに差をつけられた悔しさを抱え、木下部のフロアに向かうと、君島部と同じフロアだった。しかもそこは凄く狭いフロアで、デスクも人数分入らない同居状態。呆然とする僕元にイケメンな男が声をかけてきた。明日からニューヨークへ転勤するというエリートのそのイケメンは、木下部長のことを頼むと僕元に言う。当の木下はデスクでつっぷして寝ていた。その姿を見て最高だと喜ぶそのイケメンは、木下部長は少しアウトローだがすごく真っ当な人だと絶賛している。すると、そのイケメンを「イケメン」と呼ぶ男が現れる。木下部の中堅社員・神奈川だった。会社のことはなんでも聞いて、という神奈川は、早速僕元に食堂のおばちゃん情報を押し売り。
イケメンは僕元の歓迎会を兼ねた初めての木下部・夜の部会をやろうと神奈川に提案する。そして僕元に、今デスクで爪を切っている木下部長のところへ挨拶に行くよう勧めた。 ゆっくり木下部長へと近づく僕元。
木下部長は爪を切り終わり宙を見上げていて、少し不気味だった。
思い切って挨拶し、自分の名前を告げる僕元。ゆっくりと僕元を見る木下部長。「ああ、そう」とだけ、言った木下部長は、僕元を見たまま黙っている。
と、突然何かを思い出したように口を開いたかと思えば、それは「名前、何やったっけ?」という質問だった。今言ったのに、と心の中でつっこむ僕元。木下部長は部下の名前を覚えない、自分のつけたあだ名でしか呼べない男のようだった。
木下部長は突然元気よく立ち上がり、「そこの気の弱そうな子!」と神奈川を読んだ。それでも喜んで飛んでくる神奈川。
すると木下部長は「もう、帰ってええかなぁ」と言った。驚く部員たち。
神奈川が夜の部会をやって欲しいと頼むと、木下部長は1万円を財布から取り出して渡そうとする。全員分の費用のつもりだった。だが部員は10人おり、神奈川は全然足りないと訴える。木下部長に最初だけ顔を出してと必死に説得する神奈川。 全く部員をまとめる意思を見せない木下部長とは対照的に早くも部を1つにまとめる君島部長。君島と部下たちが手際良く部会の相談をする姿を見た僕元は木下部とのあまりの違いにショックを受ける。エリート集団、君島部は一次会を銀座の超高級料亭、二次会を麻布の会員制クラブで行うという。
一方の木下部は 大衆居酒屋だった。最悪な雰囲気のまま時が流れる歓迎会。落ち込む僕元に先輩社員の石川が声をかけてくる。石川は秘かに木下部の乗っ取りを企てている事を僕元に明かす。もはや木下部は崩壊寸前。
その時、木下部長がとった行動は…知らぬ間に帰る、ということだった。もぬけの殻の座席のグラスの下には1万円が。そして、その下には大量のクーポン券が置かれていた。それで予算は十分足りそうだった。木下部長が帰った後、部員たちは最悪部長の話で大盛り上がり。僕元は木下部長に呆れながらも、結果的に結束した部員たちを見て不思議な気持ちになる。
そして翌日、出社した僕元は信じられない光景を目の当たりにする。フロアに木下部のデスクは無く…なんと屋上に並べられていた。
お日様が燦燦と降り注ぐ屋上へと追いやられた木下部。
部員一同このありえない状況に呆然とするも、木下部長はすんなりとデスクへ。「あー気持ちええわあ」と日差しを浴びてまどろみ始める。
部下の石川と後藤は屈辱に耐えきれず総務課へ。雨が降ったらどうなるのかと心配する僕元は、信じられない言葉を聞いた。
「雨降ったら、会社こなくてええってことやと思う。うれしいな」…木下部長だった。
石川は木下部が屋上に追いやられた理由を総務課の春日に問い詰める。春日は、狭いフロアに2つの部が入らないのは薄々わかっていたでしょうと逆ギレし、人事部の指示だったとお茶を濁した。 神奈川は雨対策として自分用とパソコン用、2本の傘を木下部の社員たちに支給。木下は青空学級みたいだと懐かしみ、のんきにシャボン玉をふきながら歌い始める。シャボン玉に自らの行く末を重ね合わせ不安を募らせる部員たち。
その頃、石川と後藤は人事部へ。人事部の本広は売り上げに比例して環境も変えるべきとの君島部長の意見も参考に、事前に木下に相談した事を明かす。木下は決まった事なら仕方ないと受け入れたという。起死回生をはかろうと石川は、後藤と2人だけでも部屋が欲しいと直談判し、本広は部屋を用意する事を約束する。 一方本部長からの電話を居留守で無視しようとした木下は、しぶしぶ本部長室へ。
本部長は君島と木下を前に大事な取引先の越前商事が一大プロジェクトのコンペを行うと伝え、そのコンペに参加できるように各部で接待攻勢を仕掛けろと命令。最終的な決断を下す越前商事の何茂専務は接待嫌いのため、本部長は何茂の部下たちを接待しろと指示を出す。
接待費は部の予算から捻出しなければならない。
屋上に戻った木下は屋上ライフを充実させるために部の予算で用意したデッキチェアで完全に寝ていた。部員たちが予算を確認すると200円しか残っていないことが判明。コンペに参加できなければ木下はリストラされる可能性もあり、君島は同期の木下を心配するが、木下は無関心で気にも留めない。
君島部は金に糸目を付けずに超豪華な接待作戦を展開する事に。君島の部下たちはお店や女性の手配に奔走する。
小さな部屋を与えてもらった第2木下部の石川と後藤は自分たちだけで手柄をとろうと目論む。残された木下部では部員たちが右往左往する中、木下はのんきに1万円札をお清に渡しタバコを買ってきてと頼む。お清はタバコを買ってくるが、お釣りが全て500円玉だった。お店が札を切らしていたのだという。
手のひらにたんまりある500円玉を見ていた木下は「ちょっとお願いがあるんやけど」と言いながら、ひとりひとりに500円玉を1枚づつ配り言った。
「これで、ラーメンでも食べてきて」…
午後10時頃に残業している越前商事の社員たちに連絡して、越前商事の近くにあるピンポンラーメンを食べてきて、というのだ。
基本流されるがままの部員たちは、越前商事に電話しラーメンに誘った。
銭湯に立ち寄った後、腹が減り自分もラーメンが食べたくなった木下は地元の先輩に電話をかけ、ラーメンに誘った。
電話の相手は何茂専務だった。何茂にその気はないらしく、木下は断られる。
僕元は越前商事の社員とマンションの一室にあるピンポンラーメンに来店。
だが店内を見て愕然となる。カウンターに仕切りがあり、全く会話ができない状況なのだ。結局、僕元は何も仕事の話をできず、ラーメンだけ食べて越前商事の社員と別れてしまう。 数日経っても、木下は部下たちに500円玉を配っていた。これで最後の500円玉だという。
僕元は、仕切りがあって接待にならないと言うと、木下は誰も喋りたくないからそれでイイと答える。
午後7時、帰宅した木下が寝ていると何茂専務から連絡が入る。
何茂にラーメンに付き合えと言われ、木下が連れて行かれた先はピンポンラーメンだった。しかし何茂は店内ではなく裏口から狭い厨房に入っていく。なんとピンポンラーメンは何茂が趣味でこっそり営むお店だった。何も知らずに接待場所として利用した木下はこの事実に驚きが隠せない。
何茂はたくさんの越前商社社員を連れてくる木下に文句を言う。果たしてエリート集団の君島部とお気楽部長率いる木下部の接待の結果は…?
翌朝、屋上の木下部へコンペに向けての打ち合わせがあるとの報告が入る。
なんと、超豪華接待を敢行した君島部を抑え、コンペで勝ってしまったのだった。
君島部と共に越前商事のコンペに参加する事になった木下部は、屋上で越前商事プレゼン対策の作戦会議を始める。
しかし、若い女性と濃厚なディープキスをしていた木下部長の姿が頭から離れない僕元は「木下部長の恋?」と、悶々とする。
部員たちは打合せを続けるも電車の音、車の騒音、ビル風で全然声が聞こえない。大声で叫びながら話すのも限界だった。ワトソンが木下に意見を求めると「どうって言われてもなあ。とりあえず、飯どうする?」…木下部長はずっと昼飯を何にするかに頭を悩ませていたのだった。
このままでは喉がだめになるし会議にならん、と石川は会議室をとるよう後藤に命令する。しかし木下部のために空いている会議室はなく、隙間隙間をつないで社内を転々とするはめに。その姿は遊牧民そのものだった…。
会議室が空かず廊下で待ちぼうけを食らっていたその時、僕元は木下部長がいない事に気付く。木下部長は…屋上にいた。ひとり門番のように。皆のカバンや貴重品を守るのだという。
後藤は君島部の情報を入手。君島部はキャッチコピーやイベントなど、かなりの数のアイデアを出し、社外ブレーンまで雇っているという。木下部でひとり気を吐く石川も焦りの色が隠せない。石川が部員たちに檄を飛ばしていると、総務課から会議室に連絡が入る。コンペに向けての重要な伝達事項があるらしく、本部長が木下部長を呼んでいるという。 僕元は神奈川に押しつけられ、屋上に木下部長を呼びに行くがその姿はなかった。ホワイトボードの部長木下の行き先には歌舞伎町NR(ノーリターン)の文字…。 僕元は木下の自分勝手な行動に呆れ果てる。石川は木下部長の代わりに本部長室を訪れるが、プレゼンに関するクライアントからの情報は本部長から部長に直接伝えるのが規則。貴重な情報は君島のみに教えられ、木下部は後れを取ってしまう。焦る石川は部員たちに当たり散らした後、今日中に木下部長を捜して連れて来るように僕元とミコシバに命じる。
当てもなく歌舞伎町を歩き回る僕元達。「まさか、あの女の人と!?」僕元の脳裏に木下部長のディープキス姿が過ぎる。最終手段で木下部長の自宅へと向かったその時、銭湯に入ろうとする木下部長を発見。脱衣場まで上がりこんで僕元は本部長へ大至急連絡するよう説得するが、木下部長は構わずどんどん服を脱いでいく。「とりあえず、風呂入ろうや」…緊迫感まるでゼロの木下部長の言葉に驚きつつも断れずに湯船に浸かる僕元。ディープキス相手の事を聞きたい僕元だったが、最後まで話を切り出せずに終わる。
プレゼン前日。準備万端の君島部とは対照的に、木下部には余裕などなかった。石川が部員たちに慌ただしく指示を出していると、その時木下部長が一言…。「帰ってええかな?」さすがに僕元もこの発言には怒りを露わに。木下部長は一旦席を外し、話がまとまったら戻ってくると皆に伝える。そんな木下部長に石川は、戻ってくる必要はなくプレゼンには出席するだけで良いと言い放つ。ところが木下部長は反省するどころか、嬉しそうに会議室を出て行ってしまう。 残った部員たちは石川を中心に明日のプレゼンに向けてラストスパートをかける。
そしてプレゼン当日。木下部の面々は越前商事のビルの1階に集合する。だが待ち合わせの時間になっても木下部長が来る気配はなく、携帯も一向に繋がらない。時間ギリギリになってやっと現れた木下部長は、何故か「スナック愛」と書かれた大量のおしぼりを持っていた。そのおしぼりは業者のミスで店名の「愛子」が「愛」となっており、いらないと言うので勿体ないからもらってきたという。怒った石川は邪魔なおしぼりを捨てろと叫ぶ。部員たちは手分けしておしぼりをすてるべく右往左往する。木下部の面々はいよいよ越前商事のプレゼンルームへ。クライアントの鷲尾本部長が強面で座っていた。プレゼンの資料をクライアントに配る僕元を見ていた木下部長は、自分もクライアントへと歩み出し、何やら配り始めた。
おしぼりだった。「朝から何社ものプレゼン聞いて疲れてはるかなーと思って」…鷲尾たちは勧められるがまま首の裏にあてたり顔を拭いたりしてリラックスする。 一段落したところで5つのプレゼン案を説明し始める石川。
A案のプレゼンを終え次の案に移ろうとした時、木下部長が突然言った。「以上で終わります」…この発言に大慌てになる部員たち。
大事なプレゼンが台無しになってしまう!
とっとと帰っていく木下。 その頃、完璧なプレゼンを終えた君島はデスクで部員たちに話していた。
「あいつ、ダメなんだけどさ。昔から読めないんだよ」と笑いながら…。
そして翌朝。木下部に越前商事から連絡が入る。またもや君島部を抑え、越前商事の本部長ハートをつかみプレゼンに勝利してしまったのだ。
この伝説は「木下の黄色いおしぼり」として、今も語り継がれている…。
木下部長が配ったあったかいおしぼりとプレゼンを途中で切り上げ退室したことで、奇跡的に越前商事の一大プロジェクトの広告を請け負う事になった木下部。
「あの潔さが良かったんですよね」と言う僕元に、「実はあの日、下痢やってん」と恥ずかしげもなく告白する木下部長。プレゼンを切り上げたのは漏らしそうになったから…。
木下部長を少し見直し始めていた僕元は真相を聞いてがっかりする。
木下部長は本部長に呼ばれ、越前商事が博打気分で木下部を選んだ事を伝えられる。本部長は堅実に取り組むように釘を刺すが、木下部長はぼけーっと話を聞いていた。 「なんかもう一つ話があったような…」
木下部に戻った木下部長は、本部長の話をすっかり忘れていた。神奈川たちが木下部長に話を思い出させようとしていると、石川が「俺に次の仕事、やらせてくれ」と部屋に飛び込んできた。木下部長は「おお」と即答。本部長のもう1つの話とは次の仕事に関する事だった。
石川にすべてを任せて気楽になった木下部長は「俺、もう帰ってもええんやな?」と一言。出社して30分、木下部長は午前11時に帰ってしまう。
すると石川はすぐにミーティングを始め、外資系大手電機メーカー新商品のマスコミ発表が、木下部指名で来た事を報告。しかも日本上陸第1弾となる新しい機能が搭載された画期的なポットだという。その頃、木下部長はつぶやいていた。
「やっぱ温泉かなぁ」
やって来た温泉で足湯に浸かって爆睡していると、女性の魅惑的な足が木下部長の足に近づいてくる。足が触れ合って目が覚めた木下部長。
その女性は、木下部長の名前を何故か知っていた。 その頃、君島部が進めるお菓子業界№1メーカーの新製品マスコミ発表が、木下部の発表と同じ日になった事が発覚する。石川はお菓子にポットのマスコミ発表が負ける訳にはいかないとライバル心を剥き出しに。
しかし本心では、木下部のマスコミ発表に記者が誰1人来ないのではないかと心配していた。
意を決して石川は君島部長に会いに行き、マスコミ発表を違う日にしてほしいと土下座する。しかし君島は冷静に、石川の頼みを断る。
屈辱に震える石川。その頃、木下部長は…「やっぱり思い出されへん」
湯上がりに会話をする木下部長と女性。女性は朝までゆっくり一緒にいたいと誘うが、木下部長の脳裏を、かれんのママがよぎる。
ぐずぐずしながらも謎の女の誘いを断った木下部長に、今度は本部長からの誘いが。すぐに会社に戻って来いという。
会社では外資系メーカーの女性幹部が待っていた。本部長は、マスコミ発表が成功するかどうか心配してやってきた彼女に、安心材料を示して欲しいと木下部長に指示。「安心して頂ける材料・・・そうですねぇ…、僕の目を見ていただければ」無言で見つめる女性幹部。
「それから、僕の汗を見ていただければ」 温泉帰りでほっかほかだった。
指名したことが勘違いだったと絶句し、発表当日取材カメラがたくさん集まる様にしてくれ、と言い捨て女性幹部は部屋を出て行く。
木下部はマスコミ発表に向け、夜遅くまで準備を進める。皆が一丸となる中、会議室にひょっこり顔を出す木下部長。差し入れの「温泉まんじゅう」と共に。木下部長はイベントの模型に興味津々で、触って壊して、当日に来ればいいと言われて完全に邪魔者扱い。
マスコミ発表当日。時間になってもマスコミのカメラは一台も会場に来ない。外資系メーカー女性幹部は、賠償金問題だと激怒して帰ってしまう。僕元がふと外を見ると隣りの豪華なホテルにたくさんの報道陣が駆け付けていた。そこが君島部のマスコミ発表の会場だったのだ。その時、堂々と時間に遅れてやった来た木下部長。 「え?終わったの?マスコミ発表」 と、のんきな発言。
木下部員たちは、マスコミ発表の失敗を前に呆然とするだけだった。すると突然、木下部長は瓶ビールを開けてごくごく飲み始める。驚く部員たち。
「いやぁ、もう飲んじゃおうかなと思て。いまやったら冷えてるし」という木下部長に続き、ひとり、また1人と部員たちがヤケ酒を飲み始める。
かなり酔っぱらった木下部長はコンパニオンに…ディープキスしていた。僕元は、酔うとこうなるのかと、半ば納得半ば驚き木下部長を眺めていた。
しばらくして… 「人が、死んでいる!」 と叫び声が。ホテルの従業員が、木下部の発表会場を覗いて驚いていたのだ。
部屋の中には死体となった木下部長たちが…いや死体のように酔いつぶれた木下部の部員たちだった。
ところが君島部のマスコミ発表に来ていた記者たちはその騒ぎを聞きつけ、続々と木下部のプレゼン会場に駆け付けて…。 なんと、たくさんの取材人に囲まれ、熱くジェイソン社のポットについて語る石川が多くのメディアで取り上げられ、木下部のマスコミ発表は大成功という結果となった。
この伝説は「木下の集団ふて寝作戦」と呼ばれ、今も語り継がれている・・・。
朝、突然面談をすると木下部長が言い出した。石川は何の為の面談か、と訊ねるが、木下部長は「何の面談かちょっと考えとくわ。
みんながそれぞれ考えてくれてもええけど」と曖昧な事を言って面談を始める。
木下部長が僕元との面談に選んだ場所はファミレス。木下部長が「俺からは何もないよ」と言えば、僕元も「僕からも何もないです」と返し、面談はすぐに終わる。呆れた僕元は将来のビジョンを訊ねるが、木下部長は「ないなあ」と答える。今度は夢について訊ねる僕元。木下部長は「幸せになりたい。幸せやったら、それ以外、どうでもええなあ」と答える。
僕元は部下の事を考えない木下部長の無責任な発言に転職を考えた方がいいのかも、と思ってしまう。
石川とは釣り堀で面談する木下部長。石川は木下部長がたらす釣り糸がピクリともしないのを指差して、エサをもう一回付けるよう勧める。すると木下部長は「最初からつけてないから」と答える。魚が食いついたら、引き上げて針から魚をとるのがイヤだという。
そんな木下部長に呆れる石川は、この面談がリストラ候補を決めるためのものと知っている事を明かすと、木下部長は「誰がええかな」と質問。
石川は「お前かな」と木下部長に厳しく言い放つ。「おう」と答える木下部長。
木下部長はミコシバの希望に応じてボートレース場で面談を行う。ミコシバは、自分が会社のお金を使い込んで木下部に異動させられた事を告白すると、木下部長は「俺の部、すごいなぁ」と感心。神主であるミコシバの父親が会社の神事を取り仕切っているため、クビを免れたという話にも木下部長は「親父、すごいなぁ」と感心しまくる。
夜、木下部長は知り合いのママが営む新宿二丁目のゲイバーへ。
木下部長がママのノリと話していると一組の男性カップルが来店。それは木下部のワトソンだった。ゲイになって10年と告白するワトソンを、10周年記念と祝福する木下部長。ワトソンがリストラ候補を決める面談の話題を切り出すと、木下部長は「どう?」とワトソンに質問。ワトソンは年齢がいっている自分が一番適任だと伝えると、誰を選んで良いかわからない木下部長は喜んでリストラ候補をワトソンに決める。
だが、恋人の一平が「本心じゃない」とワトソンを庇い、木下部長は「どっちやねん」と訳がわからず戸惑ってしまった。
木下部長は常磐を銭湯に連れていき、サウナ室で面談を行う。が、暑さに耐えられずにすぐに終わってしまう。脱衣場に戻った常磐は辞めさせないで下さいと木下部長に懇願。だが、すでに木下部長は消えていた。木下部長は割烹かれんにいる社長を見つけると「面談ってどうやるんや」と訊ねる。社長は面談について教えるが、面談で何がわかるのか納得できない木下部長は「お前の会社、頭おかしいわ」と社長に言い放って帰っていく。
翌朝、木下部長は面倒になり、お清、哲、めるたん、後藤の面談をまとめて行う。木下部長は言いづらい事を言う時に使う糸電話を用意。
後藤はリストラ候補として哲の名前をあげ、出ていこうとする。木下部長が理由を訊ねると、哲はコネ入社だが父親の会社が倒産した事、仕事が全然できない事を理由にあげる。めるたんは自分もコネ入社だと明かすが、リストラしたら君島部長に言いつけると脅し、君島部長ならお清と哲をリストラすると思うと言って去っていく。お清もお見合いがうまくいくまで待ってと頼んで出ていく。
すっかり忘れられ、面談を受けていない神奈川は自分がリストラ候補と思って不安を募らせる。
ワトソンは僕元に声をかけ、自分が辞める事を伝え、まだ辞めちゃだめだとアドバイス。そんな折、後藤は常磐を屋上へと呼び出す。常磐が人事部にいた時にデータを垂れ流した事を知る後藤。後藤は社内中にバラさない代わりに哲に会社を辞めろと言えと常磐を脅す。常磐は哲に会社を辞めてと頼み、自分も辞めると明かす。元気のない哲と常磐の姿を見た僕元は、まとまりつつあった木下部が再びギクシャクしてきた事を心配する。
そして、哲、ワトソン、常磐、お清はそれぞれ辞表を用意する。
その時木下部長は…本部長に連絡し、本部長を面談したいと伝えていた。「みんな同じような感じやから、違う人の面談もしたら、なんかわかるかな思て」と木下部長。本部長に相手にされないと木下部長は上の専務に連絡して同じ事を言う。専務に断られた木下部長は副社長にも連絡。
木下部長の行動に僕元は驚き、石川は呆れ果てる。副社長は、社長に連絡しようとする木下部長を止めろと、専務に命令。
この後、本部長から木下部に連絡がくる。木下部長は外出していた。代わりに石川が信じられない伝言を受ける。果たして、その内容とは…。
なんと、騒ぎが上に伝わるのを嫌い本部長からリストラ見送りの連絡が入ったのだ。
この伝説は「木下の直電滝登り」と呼ばれ、今も語り継がれている・・・。
君島部にクライアントのWキッチンからクレームの電話がかかってくる。問題になったのは先日納品したシステムキッチンのCM。
昨晩、九州で洪水被害があったため、カッパが川を流れる表現が不謹慎だというのだ。君島部長はすぐに差し替える素材を作るように指示を出し、Wキッチンへお詫びに行く事に。その時、新たなトラブルが発生する。安心食品のカレーのCMに出ている女性タレントがクスリで逮捕されたのだ。
2時間後にはテレビでこの事件が報じられるという。君島部長はCM差し替えのため、新しいタレント探しの指示を出すと、ひいずみ、斉藤を連れてWキッチンヘ謝罪に向かう。
その頃、木下部では…。木下部長がいつものようにつっぷして寝ていた。
僕元は1時間半も寝ている木下部長を起こし、最近休みがちな哲がこの日も休んでいる事を報告する。木下部長は「俺もやすもっかなぁ。風邪ひいてもええ?」と哲の心配もせず、無責任な事を言って僕元、神奈川を憮然とさせる。君島部長はWキッチン、安心食品を訪れ、謝罪の言葉を繰り返し、何とかクライアントの怒りを静める。
夜、石川はめるたんを誘って高級焼肉店へ。めるたんは木下部長が休みたいと話していた事を伝える。すると石川は「言いそうだな」と言って声を出して笑う。めるたんは、木下部長の名前を言っただけでしかめっ面をしていた石川の変化に驚く。
君島部長は安心食品の差し替えCMの事を柴門に確認。柴門は田沼真砂子と交渉しているが、なかなか出演交渉が難航し、OKしてくれないと報告する。
屋台で木下部長がおでんを食べているのを見かけた君島は、木下部長の横に座る。
おでんを無心に食べる木下部長を見つめる君島部長は、自分が悪くなくても仕事や会社のために謝れるかと聞いてみる。
木下部長は「自分悪ないのに謝るのはないなあ」と答える。心のままに生きられる自由な木下を羨ましいと言う君島部長。すると木下部長は「猫ほど自由じゃないよ」とポソッと言った。君島部長は一人になった帰り道、ライバルが猫と言った木下部長を思い出しふっと笑っていた。
翌日、君島部は君島部長をはじめとする部員のほとんどが風邪をひいてしまうが、大事なコンペのために無理して出社していた。
一方の木下部。僕元しかいないがらんとした会議室を見た木下部長は「ずいぶん今日はすっきりしてるなあ」と言う。
僕元が石川とめるたん以外風邪で休んでいる事を伝えると、「じゃあ、俺帰るわ。これ、いわゆる学級閉鎖やで」と言い出す始末の木下部長。
午後から大通り美術館のオープニングセレモニーのコンペへ参加する君島部に、またまたトラブルが発生。鮫島水産に納品した素材に不備が見つかったのだ。業者のミスが原因だった。君島部長はミスした業者をクビにすると大塚に伝え、大通り美術館のプレゼン前に鮫島水産へ謝罪に向かう事に。
その時、柴門が昨晩、田沼の事務所からOKの返事をもらった事を報告。
あれだけ渋っていた田沼がやる気になったという。トラブル続きの時に舞い込んだ朗報に、さすがに喜ぶ君島部長だった。しかし…
その頃、木下部長宛に週刊スキャンダルからの連絡が入っていた。田沼真砂子と石川の2ショットを激写し、その熱愛ぶりを掲載するという。
興味津々の木下部長が週刊スキャンダルを買いに行こうとすると、外出していた僕元が戻ってくる。僕元は週刊スキャンダルを手にしていた。写真を見た木下部長は、顔に目線が入っている石川に感心しつつも「ぜんぜんやん。手もつないでへん」とがっかり。そしてコピー機の方へ行って首をかしげる。
木下部長の資料がなく、代わりにあったのは君島部のプレゼン資料。めるたんが間違えて持って行ってしまったようだ。残されていたものは、君島部が午後から行うプレゼン資料だった。僕元は嫌がる木下部長を連れてプレゼン資料を届けに行く事に。
その頃、大通り美術館では…。
君島部長はめるたんが届けた資料を見て凍り付いていた。すり替わっていた資料はランチ出前メニューだった。君島部長はひいずみに資料を取りに戻らせ、その間は口頭だけでプレゼンをして時間を稼ぐことで、このピンチを切り抜けようとしていた。僕元は物凄く行くのを嫌がる木下部長の背中を押しながら、走って大通り美術館へ向かう。途中、開催中のフェアを見つけた木下部長は「安っ!!」と言って吸い寄せられるように店に入っていってしまう。
資料が届かずビジュアルが見せれないまま雰囲気最悪のプレゼンに、万事休すの君島部長。大通り美術館の担当者がプレゼンを打ち切ろうとしたその時、遠くの方で歌が聞こえてきた。
「ハッピバースデイ、美術館~ハッピバースデイ、美術館~」木下部長だった。
しかも大きなお誕生日用のイチゴのケーキとともに現れて…
「誕生のイメージプレゼント、いや、プレゼンに参りました」 呆気にとられている担当者を前に、君島部長は「大通り美術館の誕生は、全ての人への豊かなプレゼントになると思います。誕生、おめでとうございます」と、木下部長の言葉に続けた。サプライズ的な二人の共同プレゼンに担当者は感じ入り、拍手を送った。
会社へ戻る最中、木下部長は本部長から呼び出しを受ける。褒められると喜び急いで本部長室へ行くと、石川が左遷されるとの辞令を聞く。
週間スキャンダルの写真が原因だという。仕事を決める上でタレントを口説いたという、濡れ衣だった。社長の承認を待って正式決定するという。社長室へ向かおうと席を立つ木下部長に本部長は、目を覚ましなさいと忠告。木下部長はその言葉に「わかった。目を覚ましてくるわ」と言い残し、部屋を後にした。
一方石川は、君島部長と二人で会議室に立っていた。なぜスキャンダル覚悟で憎い君島部のためタレントを口説いたのかと問い詰める君島部長に、石川は「あなたのためじゃないです。自分のためです」と君島の顔を見ず言った。
社長室に現れた木下部長は…手にバケツを持っていた。水をたっぷりと入れて。いきなりバケツの水をかぶる木下部長。「なんのマネだ!」と驚く社長。
すると木下部長は 「目を覚ませって言われたんで」
続けて、石川の辞令を取り下げるよう要求した。
どう収めたらよいのかわからない社長に、電話が入る。君島部長からのものだった。思いもよらない木下部長の演出で大通り美術館のコンペを勝ち取った報告と、自分の指示で石川が田沼と仕事の話をしただけだとの連絡だった。石川の左遷はバケツの水とともに流されることになった。
木下部長が思いつきで乱入したり水をかぶったりして結果的に落ち着いたこの一連の出来事を君島部では「神の一発芸」と呼び、感謝しているらしい。
木下部長がいつものように姿を見せないため、代わりに石川が仕切って会議を始めていた。石川が御園ビールから仕事の依頼がきた事を伝えると部員たちは騒ぎ出す。御園ビールは横暴な事で業界でも超有名な厄介クライアント。かつて君島部も御園ビールを担当していたが半年も経たずに担当を外してほしいと本部長に頼んだという。ビビッた常盤は気絶してしまう。
プレゼンは明日、との石川発言に驚く部員一同。別の代理店のプレゼンに満足できなかった御園ビールが、土壇場で代理店を変更したのだ。請け負うのは新商品である第三のビール。品質の事は言わずに美味いビール感をアピールしなければならない、非常に難しい仕事だった。早速、石川らは前向きに対策を練り始める。君島部では木下部が御園ビールの担当になった事を面白がり、その話題で盛り上がっていた。石川が朝までに3方向プレゼンを仕上げたいと伝えると、部員から無茶だという声が上がる。だが、この無理な仕事を引き受けてしまったのは木下部長だった。 皆が木下部長への不平を言っている最中に、木下部長が呑気に大遅刻出勤してきた。石川や後藤は仕事を引き受けた事に対して抗議するが、木下部長は「頼むなぁ、じゃあ帰るなぁ」といつものように帰ってしまう。僕元はあまりの無責任ぶりに「すげえな」と感心してしまう。
その夜…ポットを抱えて寝ているお清、コピーを書いたまま倒れている僕元、もうろうとしながらホッチキスをとめて資料を作る石川と後藤…。部員たちはそのまま作業をして朝を迎える。そして御園ビールでのプレゼンも終わって一息つく木下部の面々。木下部長はプレゼンにも姿を現さなかった。 夕方、木下部長がやってきて御園ビールから連絡があった事を皆に報告。「なんか、ぴんとこないって言われた」と木下部長。明日までにやり直せるかと御園ビールに訊かれ、引き受けてしまったという。部員たちはたまらず泣き言を言い出す。神奈川がどうして無理だと突っぱねてくれなかったのかと非難すると、木下部長は「わからへんけど、明日までって言うてはるからそうなんかなと思て」と言う。僕元も「それが部長の仕事なんですか?」と猛抗議するが、何を言っても無駄だと気づいた部員たちは気持ちを切り替えて作業を開始。皆が必死に作業を行う中、木下部長はまたまた飄々と帰っていく。
その夜、君島部長をはじめとする君島部の面々は高級クラブで優雅に過ごしていた。ここはいろんな会社の人が訪れ、社交の場となっているクラブ。君島部長は店内で派手に遊んでいる御園ビールの社員たちに気づく。それは僕元たちが難題を吹っかけられている担当者だった。君島部の部員たちが理不尽な要求ばかりする極悪非道な御園ビールの話をしていると、君島部長が面白い事を思いついたと言って携帯電話をかけ始めた。しばらくすると木下部長が高級クラブにやってくる。君島部長が木下部長を呼び出したのだ。君島部長は御園ビールの社員たちに挨拶に行き、木下部長を紹介する。いつの間にか、木下部長の頭にはパーティ用のウサギの耳が付けられていた。もちろん初対面だった。君島部長は名刺を取ってくると言って木下部長を残し、自分の席に戻ってしまう。気まずい空気になる木下部長と御園ビールの社員と店の女の子たち。とりあえず、木下部長は真っ直ぐ前を向いて沈黙したまま。君島部の部員たちは、君島部長が木下部長を置き去りにした事を面白がる。君島部長は、木下部長と御園ビールがどんな化学反応を起こすかを楽しもうという魂胆だった。一部始終を明日報告してくれと日泉に頼み、店を出て行く君島部長たち。長い沈黙の後、
木下部長は唐突に口を開いた。
「肝試し大会、やりませんか?」
真夜中の丸々通信ツアーという木下部長の提案に御園ビールの社員たちは顔を見合わせてしまうが、店の女の子たちが大はしゃぎするノリに押され、みんなで丸々通信へと向かうことに。木下部長は「♪汽車汽車しゅっぽしゅっぽ」と楽しげに歌いながら、電車ごっこのようにヒモで囲われた御園ビールの社員と女の子たちを先導する。一行が真っ暗な丸々通信の社内をどんどん進むと、不意に長髪の人影が、足音もなく横切る。怖がる女の子たちにしがみつかれ、いい気分の御園ビール社員。一方では「いちま~い、にま~い」と数える声が。「お菊さんだ」と叫ぶ女の子に、「お清です」と答える声。一行を見つめる声の主は、まさに化けて出た感満載のお清だった。さらに怖がる一行を引き連れて電車は走り出す。
暗闇の中に浮かぶ明るい部屋までくると、夜を徹して働く木下部の面々を目撃する。かわいそうだと仕切りに女の子たちが騒ぎ立てる中、木下部長は「御園ビールさんに、明日までにここ修正しろってたくさん言いつけられたみたい」と御園ビール社員の前で発言。もちろん彼らが御園ビールの社員であることなど、覚えているはずもない。ヒトダマらしきものを発見した一行は屋外スペースへと続く扉を開けた。そこにはお菊さんが立っていた。「お清です」と再度自己紹介する横には、寒い中キャッチコピーを書き続ける哲と僕元がいた。寒いところのほうが眠くならないからこの場所で作業をしていると、辛そうな表情で哲が言う。すると僕元が電車ごっこしている御園ビールの担当者に気づく。挨拶する僕元。状況を理解していない木下部長。お清が御園ビール担当者を手で示して「こちらの方々の作業を、今、私たちが…」と説明する。うっすら理解した木下部長は「じゃあ、こんな感じでやってますんで。明日、よろしくお願いいたします」と御園ビールの社員に向き直った。離れてみていた日泉は、そのファンタジスタぶりに腰を抜かしていた。
翌日君島部には、大声で笑っている君島部長がいた。日泉の“木下部長真夜中の丸々通信ツアー”レポートを読んで、ご満悦だった。木下部の御園ビールプレゼンは…なんと修正なしのOKを勝ち取っっていた。横暴なクライアント相手に3日でプレゼンをクリアしたのは快挙だった。
この一件は後に、木下の「電車でゴー」と呼ばれ、舞台裏を渦中の人に見せるという裏技をいうようになる。
総務課・春日の命令により、新入社員代表として朝7時から倉庫を整理するハメになった僕元。出社すると、すでにお清が編み物をしていた。イヤイヤ作業を始めた僕元を、お清は手伝うと言って一緒に作業をし始め、毎朝1時間、好きな編み物をしていることを僕元に明かす。会社でしか編み物ができないルールにしたら、出社しやすくなったという。春日は密室に2人きりの僕元とお清を見て男女の関係と勘違いし、変な気を起こさないでと強烈に注意。しかしこのことで、かえって僕元はお清を意識してしまう事になる。
その日、最近休みがちだった哲が入院してしまう。皆は哲を心配し、僕元はお見舞いに行こうと提案。神奈川が、一心不乱にゲームをする木下部長にも声をかけるが、「入院して何日目? 長引きそうやったら行くわ」と木下部長は誘いを断り、皆は大ブーイング。めるたんは、今日は無理だが明日なら行けるという。それを聞いた神奈川は予定を変更して明日めるたんと一緒に行く事にする。
病院の看護師によると、哲はもう退院できるのにまだ入院しているらしく、皆は出社拒否みたいな感じだと察する。病室のベッドで哲は、仕事で迷惑をかけていないかと心配。僕元が気を遣って全然大丈夫だと告げると、逆に哲は自分なんて居ても居なくても変わらないと自分を蔑む。皆が慌ててフォローすると、哲は会社に行きたくなくなったと自分から打ち明ける。皆が、仕事のことなんかは忘れてと心配していると、木下部長が袋を抱えてやってくる。
「暇してるやろ思て、書けない書けない言うてたから『コピーライター入門』いう本買うて来たったぞ」と木下部長。空気を読めない木下部長に一同呆れていると、木下部長はさらにベートーベンのCD「運命」を哲に渡す。病人には重すぎるCDは、ジャケットが割れている木下部長のお古だった。用件を済ますと木下部長は「ほな、帰るわ」と病室を出ていく。僕元らが、やはり今は仕事のことは忘れた方がいいと哲を気遣うと、哲は「何をしてても忘れられないから…」と明かす。
帰り道に僕元は、何をしてても忘れられない事なんてあるのかと皆に尋ねる。「…好きな人のことぐらいかな」というお清の言葉に激しく反応した僕元は、好きな人がいるのかと質問。お清は気になる人がいると明かす。気付くといつもその人のことを考えているという。
僕元のハートはドキドキして激しく高まっていた。
会社ではめるたんが、石川と話していた。最近大人しくなった石川に、もう部長をやるつもりはないのかと尋ねるめるたん。
「今までの俺とは違う」という石川は、過去にとらわれることはない、と言った瞬間何かを思い当たり、席を立つや否やめるたんに「お見舞いは神奈川と行ってくれ」と言い残し去っていく。ひとり取り残されるめるたん。
その頃木下部では神奈川がひとり、お見舞いでめるたんに良いところを見せようと考えていると、めるたんが戻って来る。神奈川がお見舞いの話題を切り出すが、めるたんはお見舞いをやめると素気無く断る。この後、神奈川は戻ってきた僕元らに木下部長もお見舞いに来たと教えられ、皆と行っておけば良かったと後悔する。
木下部長が戻ってこないため、ミコシバはお風呂に行ったのでは、とつぶやく。するとお清が、木下部長がよく行く銭湯を僕元に尋ねてきた。僕元はとっさに忘れたと答えてしまう。本当は覚えていたが、どうしても教えたくなかったのだ。僕元は気になる人が木下部長なのかとお清に確認したかったが、聞けずに終わる。
その夜、木下部長は割烹かれんでママと二人きりだった。社長はトラブルで遅くなるらしかった。
お店にママと二人きりの状態になった木下部長は沈黙の後、焼き鳥に行こうとママを誘う。ようやく2人の会話がいい雰囲気になってきたその時、社長が来店。2人だけにしておくのは心配だと仕事を切り上げてきたのだ。ママが木下部長に焼き鳥を食べに誘われたと教えると、社長はキスされないようにとママに注意する。木下部長は酔うとディープキスする、と聞いて驚くママ。木下部長は「でも、好きな人にはキスできない」と告白。ママが木下部長の話を信じると、社長は騙されちゃダメだと念を押す。
この後、社長がトラブルの電話を受け店を出ると、ママは木下部長をちらっと見た。木下部長はドキドキしていた。
バーのカウンターに座り、二人きりで飲む君島部長と石川。君島部長は誤解を解きたいと話を切り出し、石川の元妻・由美子とはデキていないと打ち明ける。石川は、由美子が君島部長と寝たと白状したことを君島部長に伝える。君島部長は俺より由美子を信じるのかと尋ね、石川は由美子がウソをついていたことにようやく気付く。石川に、一度由美子と話した方がいいと君島部長は諭した。
割烹かれんのカウンターに入り、焼き鳥を焼きながら歌う木下部長。お客様気分を味わうだけでは物足りないママは、少しお喋りしたいと木下部長を隣りに誘う。がちがちになった木下部長はぎこちなく椅子に座る。ママが、泣いたりする事はあるのかと木下部長に聞くと、「今、泣きたい」と答える。「胸が苦しい。うまく言えなくて切ない」と…。
その頃、僕元はお清を呼び出していた。木下部長が良く行く銭湯を思い出したと言って、お清をその銭湯に案内する。僕元と一緒にしばらく銭湯の前に立っていたお清は、何故こんなことをしているのかと我に返り、銭湯を後にする。一緒に帰る道すがら、僕元は木下部長のお見舞いを批判する。だがお清は、木下部長が仕事を忘れさせるためにコピーライターの本を買ってきたのでは、と言う。「そばにあるほうがむしろ、安心して忘れられる、みたいな」と言うお清に、僕元はなぜだか胸の痛みを感じずにはいられなかった。
同じ頃、めるたんは神奈川と飲みに行った帰り道、石川の元妻について尋ねていた。悲しそうに涙をこらえながら…。
そして割烹かれんの店先では…社長が寂しそうに店内をのぞきながら、うろうろしていた。二人きりでいる木下部長とママの良い雰囲気に、入りづらいのだ。「切ないなあ」と目頭を押さえると、がらがらと扉が開く。木下部長だった。「どうぞ」という木下部長。一時間ずつだと社長に言うと、とたんに木下部長は走り去って行ってしまった。 翌日、それぞれに恋愛事情を抱えた木下部に、驚くべき事態が訪れる…。なんと、木下部長の出欠ボードに病欠の文字が。会社を休むと連絡してきたのだ。普段遅刻早退はするが休むなんて珍しい、と僕元が言うと、お清が、「切なくてお休みするんですって」と言った。
さらに、他にも切ない人がいたら、休んでもいいという…。するとみんなが次々に、石川までも席を立っていく。めるたんが、ボードには何と書くかを尋ねると、石川は「病欠で」と言い残し会社を後にした。皆、病欠。お清を見送り一人残された僕元。ボードの自分の欄に“片想いNR”と書き、帰って行った。
この日の事は、会社史上初めての、病気以外での集団欠席となり、「木下部の恋愛閉鎖」と呼ばれ、今も語り継がれている…。
由美子の自宅で目覚めた木下部長。由美子が路上で酔いつぶれていた木下部長を運んできたのだ。由美子が朝ご飯を作っていると玄関の呼び鈴が鳴る。元旦那が来たという由美子の言葉に「怖い人やったらどうしよ」と、いそいそ服を着る木下部長。そこに石川がやってくる。木下部長は「うわ!石川!なんや、お前もか」…天然っぷりにも程があるほど現状を把握していない様子。何も知らずに「元旦那が来るみたいやから、これはもめるで」と石川に伝える。「別にもめないですよ。だって俺ですから」という石川。由美子は石川が元旦那だと教えると、木下部長は「あ、そう」と微妙な反応。石川は木下部長とテーブルに着く。木下部長は事情を石川に説明し、由美子とHしてない事も強調。木下部長は一気に朝食を食べて部屋を出て行く。すると石川が、一緒に朝食を食べようと由美子を誘った。「とにかく会いたくて、来たんだ」という石川の言葉に、嬉しそうにしている由美子。
一方、丸々通信の業績が前年度より下がったことにより、君島部長は本部長から利益率10%アップ命令を受けていた。さらに3つのプロジェクトの追加を伝えられると、君島部長は人数が足りないと訴える。本部長は、余剰人員の木下部を使えばよいと伝える。さらに困難なことに柴門の父親が倒れる。実は財閥系御曹司だった柴門は、財産と経営の整理をするためしばらく会社を休む事になってしまったのだ。緊急事態に大塚らは、木下部に仕事をふりに行く。木下部長、僕元、神奈川、不在で、哲は入院中のまま。大塚は木下部の部員たちの隠しておきたい過去を暴露しながら、有無を言わさず仕事の指示を出す。石川は「やんねえよ、お前の指示でなんか」と、後藤と部屋を出て行ってしまう。
皆が君島部へ移動していると、そこに僕元が戻ってくる。大塚は3時までに資料をホッチキス止めしろと僕元に命令。入れ違いに木下部長と神奈川も帰ってくる。部員たちが君島部に借り出されたと知っても、木下部長はのんきに「3人でええよ」と忙しくて嫌がっている僕元を用事があると言って連れ出す。用事とは昼食だった。そのお店は、3人で行くとアイスコーヒーを無料にしてくれるのだという。呆れながらもついて行かざるを得ない僕元。
昼食後、満腹になった木下部長は「あ!!!」といきなり大声を出す。来年のバレンタインデーキャンペーンを君島部長に頼まれていた事を思い出したのだ。それは、1年かけて行う大仕事だった。プレゼンはだいぶ先と言う木下部長。だが、僕元が君島部に連絡してプレゼン日を確認すると、なんと今日がプレゼン当日だった。プレゼンまではあと15分。木下部長らは手ぶらのまま、大急ぎでプレゼン会場に向かう。
君島部長の耳にも木下部長プレゼン失念の情報が入ってくる。君島部長は腹が立つ反面、木下部長がどう切り抜けるか楽しみにしていた。君島部の加勢に入っていた石川は、君島部長に忠告する。木下部長の怖さを知らない、と。本当に天然で、何も考えていない、と。
木下部長らはプレゼン用の紙と鉛筆を買うため、コンビニに立ち寄る。が、僕元と神奈川は便せんやレポート用紙を見て冷静になり、コレに書いて提出してもやっつけ仕事とバレる、と気づく。緊迫する二人をよそにチョコレートを見つめる木下部長は…驚くべきプレゼン方法を“気分”で口にした。「商品に、マジックで、キャッチコピー書いたらええんちゃうのん?」…僕元と神奈川はおかしいと思いつつも一か八かその提案にのる。その時、病院を退院した哲がめるたんに居場所を聞いて駆け付ける。哲は木下部長に貰った参考書で勉強したと言い、今そこそこひっかかるキャッチコピーが書けそうな気がすると三人の顔を見つめる。木下部長らは手分けして10案のキャッチコピーを考え、クライアントの会議室へ向かう。
木下部長の挨拶の後、僕元らはクライアントの前に板チョコを並べた。きょとんとするクライアント。「その中にアイデアが入ってるんで、開けてみてください」と、木下部長。困惑しながらもチョコレートのパッケージを開けるクライアント。そこには、文字が書いてあった。「キャッチコピー、愛のちょこっと口溶け」―――クライアントが読み上げた。また一人、また一人とクライアントが読み上げていくうちに、何だか楽しい雰囲気になるプレゼンルーム…。 丸々通信のロビーでは、君島部長が石川と二人で打合せ後の来客を見送っていた。そこに帰ってきた僕元たち。プレゼンの結果を聞く石川。すると神奈川は「なんか上手く決まりました」と笑顔で報告する。君島部長が「どうやって?」と思わず聞いたその時、木下部長が遅れて帰ってきた。石川を見つけると、プレゼンで余ったチョコレートを1枚渡した。とっとと帰宅する木下部長。僕元は「開けてみてください」と石川に促す。パッケージを開けてみると「キャッチコピー、甘い口溶け、二人も雪溶け」…木下部長が書いた文字だった。
コンビニでキャッチコピーを書いた10分間と、その後の手作り感あふれるプレゼン。そしてクライアントをまるでプレゼンテーターのようにして案を発表させる、という斬新なスタイルは、『木下、咄嗟のグラミースタイル』として、あの緊張感とともになんとなく華々しい成功として、今も語り継がれている…
プレゼンに敗れて心機一転、総務課から新しい紙と鉛筆をとってきた木下部長。実は昨日も修正ペンをもらったばかりの木下部長は、備品の使い過ぎで総務課・春日からひどく怒られる。その頃、専務、本部長、人事部長は役員室に集まり、プレゼン7連敗中の木下部について話し合っていた。木下部はまだプレゼン3つを残しており、これ以上連敗した時は木下部に責任をとってもらう事に。専務はうまく理由をつけて木下部の全員を辞めさせようと考えていた。
木下部長は春日とのあっちむいてホイ対決に勝利し、たくさんのノート、消しゴム、鉛筆を持ち帰ってくる。木下部長は「新しい文房具、タダでもらえる時が一番会社にいて楽しい時」とご機嫌。少し離れた所では石川、哲、ワトソン、お清が打合せをしていた。哲は自分の考えたキャッチコピーを石川に推す。しかしそれは前回のプレゼンでクライアントにNGを出されたものだった。石川は別のコピーを考えるように説得するが、哲はこのコピーの方が売れると譲らない。お清は石川に哲のコピーについて尋ねる。石川は的を射た良いコピーだと認める。お清は石川を説得し、哲のコピーをクライアントにもう一度プッシュする事に。
その頃、君島部でも同じような問題が発生していた。君島部長も自信を持っていたアイデアがクライアントに却下されたのだ。君島部長はクライアントの判断を尊重し、新たにアイデアを出すよう部下たちに指示を出す。
一方、木下部にめるたん、ミコシバらが戻ってくる。ミコシバは多分ダメだとプレゼンの結果を木下部長に報告。だが木下部長は全く気にしていない様子。神奈川は7連敗中という結果についてどう考えているかを尋ねる。木下部長は「阪神みたいやなあ。来年来年」と言って帰ろうとする。そんな木下部長を追ってきて捕まえる君島部長。
君島部長は釣り堀に行こうとする木下部長に部長研修があると伝え、研修室へ連れて行く。女性講師が出した課題は、“1年後、10年後、15年後のビジョン”を書く、というもの。その時木下部長の電話が鳴った。電話の声に「今行く」と気にせず答える木下部長。注意する女性講師に木下部長は「せんせ、もう書けたから」と大声で言って研修室を出て行ってしまう。机に残された紙を見て唖然とする君島部長と女性講師。全ての項目にビジョン「特になし」と書かれていた。
木下部長は石川、僕元らとプレゼンのために会議室へ。石川は哲のキャッチコピーをもう一度推すが、クライアントは別案を用意していない事に腹を立てプレゼンは失敗に終わる。石川はクライアントの喜ぶ案と自分たちが良いと思う案、どちらを選ぶべきかと木下部長に尋ねる。「どっちでもええんちゃう? 気分やろ」と答える木下部長。石川は考え込んでしまう。
この後、研修室へ戻った木下部長。君島部長は将来のビジョンを持たない木下部長に何を大切にしているかを尋ねる。「良質の睡眠と良質なタンパク質だ」と即答する木下部長。絶句する君島部長。続いての課題は“査定のつけ方”。部下の生活態度、業績などを踏まえ、会社のシステムに従って加点、減点するのだが、木下部長はスラスラ書いて再び出て行ってしまう。残された紙には全員「満点」の文字。ありえない査定に、女性講師の怒りの声が部屋中に響いた。
その頃、僕元、神奈川らはクライアントの前で固まっていた。プレゼンした案がどれも違うというのだ。どの案が一番おすすめなのかを神奈川に聞くクライアント。どれかを選べない優柔不断な神奈川はクライアントに翻弄され、木下部はプレゼン10連敗。
さすがに自信喪失した木下部。しかし次の仕事は迫ってくる。しかもそのプレゼンは、何ヶ月も前から準備してきた大手外資のオレンジコンピューターだった。負けられない仕事だった。そんな中木下部長は…デスクの上にゲームを出し、無邪気に遊んでいた。うつむくみんなを石川が励まし作戦を練ろうとしたその時、本部長が木下部にやってくる。本部長はオレンジコンピューターのプレゼンを自分と君島部で引き継ぐ事を伝える。石川は次の仕事に賭けているので、木下部でやらせて欲しいと訴えるが、本部長は聞く耳を持たない。もちろん木下部長はゲームに夢中になっていた。部員全員が「自分たちにやらせてください!」と本部長に食い下がる。すると本部長は「だいたいこんな、くずみたいな人間が集まった部、私は最初から認めてない」と言い捨て出て行く。愕然とする部員たちを残し、突然木下部長は遊びかけのゲームをデスクに置き、ふら~っと出て行った。そして廊下で本部長を呼び止め…殴った。「手が出ましたね。これでクビにできる」と薄ら笑いを浮かべる本部長。その場を立ち去る木下部長の後をついて行く木下部員たち。木下部長は拳を痛そうに触りながら「痛ったぁ、さすが本部長やな」と涙目だった。
木下部長の行先はスナック愛子だった。事の顛末をみんなが話して盛り上がる中、僕元は愛子を見て、以前木下部長とディープキスしていたことを思い出す。否定する愛子。すると酔っ払った木下部長が「こういうやつやったら、やったでぇ」と、愛子に見事なエビ反りディープキス。見てしまったお清が哀しそうな顔をするのを僕元は見逃さなかった。後悔しながら僕元が必死にディープキスを止めると、年配の酔っぱらい客・権藤が近づいてきた。雑魚をまとめる部長の顔が見てみたいと絡んでくる。権藤がお清にちょっかいを出そうとするのをけん制する僕元。今度は店の隅で飲んでいた女性に近づいていく。それは昼間の女性講師だった。権藤が女性講師に抱きつくと、突然木下部長が…また殴った。「部長ってどんなやつやいうてたけど、こんなやつじゃ、ぼけ」と、もう一度殴ろうとするのを皆が制した。愛子が権藤と連れの西園寺に謝罪する中、木下部長は部員たちと店を後にした。
翌朝。西園寺と権藤が丸々通信にやってきた。木下部長はいるかと訪ねてきたのだった。大慌てになる専務と本部長。実は、西園寺と権藤は、丸々通信の大事なお得意様だったのだ。専務たちに、木下部長に殴られたことを説明する西園寺と権藤。平謝りの専務と本部長。しかし、西園寺と権藤は怒っていなかった。むしろ木下部長のとった行動を褒めるのだ。最近はマナーが悪い奴がいても皆見て見ぬふりだが、彼の対応は実に気持ちよかった、と…。あっけにとられる専務たちの前に、米俵を担いだSPたちがわんさか入ってくる。そこへやってくる木下部員たち。木下部長はもちろん遅刻していなかったが、西園寺と権藤が昨日の謝罪に米俵5年分と仕事の発注を持ってきたことを木下部に伝える。そこへまた丸々通信の大お得意様が登場。部長研修の時の女性講師だった。実は彼女も大財閥のお嬢様で、昨日助けられたことの礼を父と共に伝えに来たと言うのだ。全くもって専務と本部長は蚊帳の外。西園寺、権藤らは木下部のみんなとがっちり握手するのだった…
連敗続きだったのが、なんと3つの大お得意様から直接仕事がくるという、戦わずしての三連勝この奇跡は、木下部長が人に親切にした結果の恩返しということもあり『木下の日本昔話的勝利』と呼ばれ、今も語り継がれている…
しかし!その頃、木下部長は羽衣のような着物を着たかれんのママに覆いかぶさられ、竜宮城状態だった…。
木下部長がかれんのママと添い寝をした翌日、君島部長は浮かない表情でデスクにいた。同じ頃、木下部に激震が走る。めるたんが、木下部長がクビになるという情報を入手。クビになる決定打は本部長を殴った事のようだが、何か別の思惑がありそうだと石川は皆に告げる。
役員室では専務と本部長、人事部長が密談していた。専務らは木下部長だけでなく、暴力沙汰を起こした部長を任命した社長も更迭しようと謀んでいた。
割烹かれんで木下部長とママがモジモジしていると社長がやってくる。ママは様子がおかしい社長に、その理由を聞く。社長は、丸々通信が南グループに買収されそうだと涙ながらに明かす。その頃、とある飲食店の個室で君島部長は南グループ社長と会っていた。君島部長は世界的企業の南グループが、単なる一広告代理店の丸々通信を買収する理由を尋ねる。南社長は君島部長のヘッドハンティングに失敗したから会社ごと買ったと、冗談半分に答える。君島部長は買収を思い止まらせようとするが、南社長の意思は固かった。
翌朝、本部長と人事部長は木下部長を今日付けで処分する事を社長に報告。本部長は社長自ら、社内テレビ放送での朝礼で発表して欲しいと説得する。木下部のテレビ画面には社長に続き木下部長が映し出され、木下部の面々は解雇の発表を覚悟して見つめていた。社長が木下部長の暴力沙汰の経緯を説明していると、木下部長は「悪いと思ってません」と発言。「大切なひとが侮辱されたり、弱いもんが苛められたりしたら、それは戦ってええんや思てます」と続ける。社長は木下部長を庇い、「悪い奴やない、反省しているから許して欲しい」と訴える。予想しなかった展開に慌てた本部長は、社内放送を中止してしまう。
専務らは役員室に集まり、株主総会で社長と木下部長を処分する事を確認する。専務らは、南グループが丸々通信買収後、良いポストを用意してもらうことを条件に社長を更迭し社内の面倒な事態を整備しておくと南社長に約束していた。専務ら幹部3人ともメル友のめるたんは、木下部長の処分に会社の買収計画が絡んでいる情報を仕入れ、木下部の部員たちに報告。社長もろともの木下部長解雇は避けられない事態となった。
僕元たちは途方に暮れた。いつの間にか、木下部長のダメっぷり、気ままっぷりが、部員たちにとってなくてはならない、安心感のある存在になっていたのだ。
君島部長はこの危機的状況に、木下部長なら奇跡的な策を何か考えているだろうと相談するが、木下部長は「あ、そう」と無関心。それどころか「ちょっと付き合ってや」と君島部長を銭湯へ連れ出し、一緒に湯船に浸かる。君島部長は「がっかりしたよ」と帰っていく。
一方木下部ではそれぞれが“こういう時、木下部長だったらどうするだろう”と考え始めていた。自宅でひとり物思いにふけっていた僕元は、ある“木下部長的”作戦を閃いた。
翌日。君島部長は割烹かれんを訪ね、ママに知恵を借りようとする。「買収も、されたらされたで居心地いいかもよ?」と言うママ。「早く帰りたい~」「このままどこかに行っちゃいたい~」という心の声は君島部長にもあるのでは?と笑うママに、君島部長は心の奥を触られた感じになる。
その頃、木下部長は土手にいた。目の前には木下部の面々。呼び出されたのだ。僕元からダンボールを渡される木下部長。「広告を、つくるんです」という僕元。言われるがまま土手の上まで連れて行かれた木下部長にめるたんが叫ぶ。「はい、滑り降りてきてください!」―――わけわからず滑る木下部長を、皆が夢中で、それぞれ思い思いのアングルでビデオで撮影して笑っている。ひとしきり滑った後、「次は銭湯」「その次は釣堀で」「その次は二丁目です」と撮影は夜まで続き…
買収計画も大詰めとなった数日後、人気情報番組「スッキリ!!」に一本のビデオが投稿される。それは木下部全員で撮影した、「木下部長ビデオ」だった。その中身は…ものすごい形相で土手を滑る木下部長…ものすごい脱力した顔で浮かんでいる木下部長…そして酔ってものすごいディープキスをする木下部長だった。ビデオを見た司会の加藤らが唖然とする中、放送を見た視聴者から予想以上の反響が番組に寄せられ始める。
一部始終をテレビで見ていた専務たち3人が愕然としているところへ、一本の電話が鳴る。同じくテレビを見ていた南グループ社長だった。電話で応対する本部長に南社長は「ああいう人が生き延びられる会社ってのは介入しない方がいいね」と、買収をとりやめることにしたという。その心はあたかも“自然保護”なのだ、と。
「今度は部員が奇跡を起こしたか…」と、君島部長はデスクでひとり笑っていた。この一件は、木下部長を見習って木下部員が起こした奇跡であり、木下部員の間では『木下ならどうする理論』と呼ばれ、その後も部員のピンチをちょくちょく救ってくれることになるのだった・・・。
c僕元は最近、みんな仲良く仕事も頑張っている木下部を誇らしげに感じていた…もちろん木下部長を除いて。僕元は、仕事中にホットプレートで特大のお好み焼きを焼く木下部長に言葉を失う。そこに次々と帰ってくる木下部の部員たち。石川らが仕事の中間報告を木下部長にしようとした時、事件は起こった。「俺、もう、会社辞めてええかなぁ?」と木下部長が突然言い出したのだ。木下部は騒然となる。理由を聞かれた木下部長は「俺、店長になりたいねん」と答えた。先週、木下部長はパン屋へ行き、「店長、店長ー」と女性店員に色々相談されていた店長を見て、店長になりたいと思うようになったという。理解しようにも呆気にとられる木下部長発言。引き止める僕元たち。しかしお構いなく木下部長は、ぼーっと思い出していた。割烹かれんのママが楽しそうに電話相手の「店長」と話す場面を。その時、お清が木下部長のデスクの引き出しをおもむろに開けた。そこにはかわいい蝶ネクタイとネームプレートが付いた店長の制服が。働くお店はもう決まっているのかと尋ねると、慌てた木下部長は制服を抱きかかえて逃げ出してしまう。残された木下部員たちは呆然と立ち尽くす。
一方専務、本部長、人事部長は木下部長が辞める話を社長に報告。すると社長は、この際まとめて辞めてもらう人がいると言ってリストを机に出す。それを見て凍りつく専務ら。社長は専務らが丸々通信買収騒動の裏取引をしていた実態を、なんと木下部長から聞いて知っていたという。専務と本部長は、木下部長が自主的に退社すると聞いて嬉しくなり、ついつい木下部長に秘密を喋ってしまったのだ。結局、専務らを含む反乱分子が会社を辞める事になり、丸々通信に平和が訪れる。この木下部長の突然の辞職により、反乱分子が"あの掃除機"もびっくりのパワーで一掃された事は、後に「木下のサイクロン式辞職」と呼ばれることになる。
翌朝木下部は、主要ポストの人間が大量解雇となった混乱で部屋が取れず、誰かが屋上に行っているかもしれないとの連絡が僕元に入る。木下部長の姿が脳裏をよぎった木下部の部員たちは、木下部長が出社している事を期待して屋上へと走って行く。だが屋上はがらんとして、木下部長の姿はなかった。木下部員らは懐かしむように、木下部長がこれまで起こしたいろんな伝説、小さな奇跡の数々を振り返る。石川は、木下部長はいつものように気が変わって戻ってくるだろうと言って励ました。皆はそれまで頑張ろうと呟きながら屋上を後にし、それぞれが難題を抱えるクライアント先へと向かう。 哲、常磐、神奈川は御園ビールから、明日までにポスターのコピーとデザインをやり直してほしいと無理な注文を受ける。神奈川は御園ビールの社員に抗議しようとするが、何も言えずにため息をつくのみ。会社へすごすごと戻る3人。哲と常磐は御園ビールの理不尽な要求に愚痴をこぼす。その時神奈川が立ち止まり、「木下さんだったら、どうするかな…」とづぶやく。意を決して、御園ビール社員のもとへと踵を返した神奈川は「無理だって言ってくる」と言い、走り出した。次から仕事がこなくなる可能性が高いが、神奈川らの気分はすっきりしていた。
大通り美術館の会議室に呼ばれた君島部長。担当者の白井から、丸々通信の手がけたオープニングキャンペーン効果もあり、のべ1万人という今月の集客目標を達成、大成功した事を感謝される君島部長たち。しかし、白井から来期のキャンペーンを再びコンペにすると告げられると君島部長は「では、来期は違う者に担当させます」と、君島部がコンペには参加しない事を白井に告げた。クライアントの事情を汲んでばかりだと大事なものを見失ってしまう…自分と、部下のモチベーションを大切にしたいという君島部長もまた、木下部長の生き方に強い影響を受けていた。その時、白井の秘書が会議室に入ってくる。秘書は、美術館の割引券をもらうため木下という男が訪ねて来ている事を伝える。それは間違いなく、木下幸之助だった。この報告に君島部長は思わず笑ってしまう。
夜になり、お清、めるたん、ワトソンは釣り堀にいた。クライアントから退屈なデザインと罵倒されたやり直し指示に落ち込んでいた。3人は、こんな時木下部長だったらどんな奇跡を起こしてたんだろう、と話し出す。するとお清は、クライアントを釣り堀に呼び出そうと提案。木下部長のような奇跡が起きる事を想像する3人は、とたんに笑顔になる。
不手際の謝罪のためにクライアント回りをしていた石川と後藤。残り1社になるが、石川はそんなに頑張らずに明日にしようと提案。石川も木下部長の影響をしっかり受けていた。
社長が割烹かれんでママとふたりで飲んでいると、僕元がやってくる。僕元は、木下部長がいるか気になって見に来たという。社長は帰ろうとする僕元を呼び止めて酒を勧めた。僕元は木下を部長にした理由を社長に尋ねる。社長は「ああいうやつがおるとほっとするやんか」と答えた。会社はいろんな人がいるからこそ、元気でいられるのだと…。木下部長のその後を社長に尋ねるかれんのママ。「知らん。そのうち連絡あるやろ。あのアホ」と、社長は酒を飲んだ。 ミコシバは木下部長を探しに、いつもの銭湯を覗きに行く。が、木下部長の姿はない。ミコシバが落胆していると石川と後藤もやってくる。この後、常磐、哲、ワトソン、神奈川も銭湯に顔を出し、皆は楽しげに、一緒に湯船に浸かりだす。
その頃、ジャズバーのカウンター席に座る君島部長の前には、木下幸之助がいた。バーテンダーの格好をして立っている木下部長。「何に、なさいますか」…ビールと注文をする君島部長を無視して、カクテルの作り方本を見ながら勝手にセックスオンザビーチを作り出す木下部長。「みんな、会いたがってるぞ」という君島部長に木下部長は「そのうち、嫌でもばったり会うやろ」と言った。そんなことより、木下部長には少し不満あったのだ。「おい、君島ぁ、いい加減“店長”って呼べや」…君島部長は冷静に答えた。
「だってお前、バイトだろ?」
夜空に、ひとつ星が流れた。
音楽
スタッフ
脚本 | 大宮エリー |
演出 | 大宮エリー 爲川裕之 柿沼竹生 浅見真史 |
音楽 | 白石めぐみ |
チーフプロデューサー | 田中壽一 |
プロデューサー | 竹綱裕博 竹本夏絵(よしもとクリエイティブ・エージェンシー) 前畑祥子(ファブコミュニケーションズ) 小泉 守(トータルメディアコミュニケーション) |
制作協力 | 吉本興業株式会社 |
制作プロダクション | ファブコミュニケーションズ トータルメディアコミュニケーション |
制作著作 | ytv |
DVD情報
「連続ドラマ小説 木下部長とボク」DVD-BOX
- 発売日
- 2010年7月7日
- 価 格
- ¥12,600(税込)/\12,000(税抜)
- 仕 様
- HD収録16:9/ドルビーデジタル・ステレオ/片面1層
- 収録内容
- ドラマ本編(全12話) 約360分 + 特典映像
- 特 典
-
- 監督・出演者インタビュー
- メイキングなど
※収録内容・収録時間・特典内容などは予定です。
- 品 番
- YRBN-90105~8
- 制作協力
- 吉本興業
- 制作著作
- ytv
- 発売元
- よしもとアール・アンド・シー
- 販売元
- よしもとアール・アンド・シー