今回のお届け先はアメリカ・アトランタ。この地で新体操のコーチとして奮闘する篠原奈美枝さん(42)と、埼玉に住む父・三夫さん(69)、母・フミ子さん(66)をつなぐ。現在、新体操クラブで子供たちに教える奈美枝さんは、自身も中学から新体操を始め、日本でオリンピック候補にまでなったトップクラスの選手だった。父は「今、娘は孫にも新体操を教えているが、オリンピックを目標にしているので練習はかなりキツイと思う。孫が挫折しそうになった時に、うまくやっていけるか心配…」と話す。
奈美枝さんの娘・枝令菜ちゃん(10)は、奈美枝さんが教えるクラブで6歳から本格的に新体操を習い始め、現在はクラブの中でトップレベルにまで成長した。直接指導するのは、ロシア代表にも選ばれたヘッドコーチ。セカンドコーチである奈美枝さんは直接娘を教えることができず、もどかしい気持ちもあるようだ。
奈美枝さんの夫・稔さん(43)はジョージア工科大学応用生理学部の准教授。筋肉と神経の関係を調べて、スポーツ選手のトレーニングや、病気の人のリハビリなどに役立てる技術を研究している。そんな稔さんの仕事がきっかけで、一家は10年前にアメリカへ。稔さんの給料は一般のサラリーマンと変わらないといい、奈美枝さんのコーチもボランティアなので、枝令菜ちゃんの新体操にかかる費用を考えると、決して余裕のある生活とはいえないという。
枝令菜ちゃんがこの4年間に大会で獲得したメダルは60個。去年はアメリカのジュニアオリンピックのレベル6で全米1位に輝いた。「目標はオリンピックで1位になること」と夢を語る枝令菜ちゃん。新体操を始めてからこの4年間、母と二人三脚のトレーニングは一日も欠かしたことがなく、練習が厳しいあまり、枝令菜ちゃんが泣き出してしまうことも。「泣き出したときはママになってほしいんだと思う。でも2人の約束では、新体操の時間はコーチと選手。頑張ってはいるけど、そこが一番難しい」と、奈美枝さんの心はコーチと母の間で揺れ動く。
そんな奈美枝さんにも選手時代、練習の厳しさから挫折しそうになったことがあった。その時にお父さんに言われた一言が忘れられないという。「『奈美枝は新体操を好きで始めたはず。自分で決めたことを途中で辞めると、これからも何かやろうとしても、すぐに諦める人間になるだろうな』と。それは絶対嫌だと思った。両親に弱い人間だと思われたくなかった」。その父の言葉で、奈美枝さんは新体操を続ける決心をしたのだ。
今は夫と共に、夢に向かって頑張る枝令菜ちゃんを支える奈美枝さん。その奈美枝さんを選手時代、同じように支えてくれたのは両親だった。そんな両親から届けられたのは、奈美枝さんの高校時代の新体操演技を撮影したビデオ。25年前、まだ一般にビデオカメラが普及していない時代に、慣れないカメラで母が撮影してくれたものだった。添えられた手紙には「いつか枝令菜が壁にぶつかったとき、このビデオを見て選手時代を思い出し、枝令菜の立場になって応援してあげてください」と綴られていた。奈美枝さんは「こんな映像があるとは知らなかった。ありがたい。新体操を続けてよかった。今の私があるのは父と母のおかげ」と、両親に感謝し、涙を流す。