2016年のオリンピック正式種目に選ばれたこともあり、今世界中の注目を集めているラグビー。今回は、世界最強との呼び声も高いラグビーの本場ニュージーランドで、女子ラグビーに打ち込む高校生・武藤さくらさん(17)と、神奈川県横浜市に住む父・誠さん(50)、母・早苗さん(47)をつなぐ。ラグビー留学のため、15才で日本を離れて約1年半。両親は「娘は元々体が弱く、すぐに風邪をひいては熱を出し、病院には一番多くかかっていた。それだけに心配は多い」と、一人親元を離れて暮らす娘を案じている。
さくらさんは女子ラグビーも盛んなニュージーランドのロトルアにある公立女子校のラグビーチームに所属している。チームは地元でも有数の強豪校。今年は全国制覇を目指しているだけに、練習はハードそのもの。体重48㎏と小柄なさくらさんだが、倍以上もあろうかという大柄なチームメートと渡り合い、レギュラーの座を勝ち取った。体格のハンデを克服するため、チーム練習とは別に自主トレも欠かさず、人一倍努力を重ねているのだ。
今、ニュージーランドは冬のシーズン真っただ中で、週に一度は公式戦が行われている。「自分の欠点とか、試合の中でしか見つけられないことも多い。試合がたくさんできるのは嬉しい」とさくらさん。世界大会で優勝経験もある敏腕コーチは「彼女はパスもうまいし足も速く、高い技術を持っている。でも一番の武器はタックル。どんな大きな相手にも勇敢に突っ込んでいく」と、さくらさんの実力を高く評価する。
13歳の時、弟の影響で地元のラグビーチームに入ったさくらさんは、たちまちその魅力の虜に。だが次第に日本での練習に物足りなさを感じ「本場で学びたい」と留学を決意。昨年はチームで一番活躍した選手に贈られる「プレーヤー・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれた。さくらさんは「夢は日本代表になってオリンピックに出場し、金メダルを取ること」と大きな目標を掲げる。
平日は普通の高校生として授業を受けているさくらさんだが、今の一番の悩みは、まだ英語が思うように話せないこと。ラグビーでは果敢にタックルを決めるものの、元々シャイな性格で、友達の輪になかなか入っていけない。それでも友達とショッピングに行ったり、交流を持とうと努力を続けている。また、日本にいる頃は好き嫌いが激しく、食も細かったが、今ではホームステイ先のお母さんが作る料理をなんでも食べるようになった。
留学当初は言葉も通じなくて、誰にも悩みを打ち明けられず、ひたすら日記に想いを綴る日々が続いたという。「日本に帰りたくて、夜になると涙が止まらなかった。それまで厳しい父に反抗していたけど、こっちに来て親のありがたみが分かるようになった」というさくらさん。そんな言葉に、両親は「体だけでなく、精神的にも大きく成長したようで嬉しい」と娘の成長に涙をこぼす。
あえて過酷な環境に身を置き、生傷の絶えない激しいラグビーにひとり打ち込むさくらさん。そんな娘へ母からのお届け物は、手作りのネック・ウォーマー。子供の頃から体が弱く、しょっちゅう風邪を引いていた娘のために、心を込めて縫い上げたものだ。添えられていた手紙には、「夢に向かってひとりで頑張るさくらのことを誇りに思っています」と綴られていた。母が初めて伝える想いに、さくらさんは「期待に応えられるように頑張りたい。言ったことはないけど、感謝しています」と涙をこぼす…。