今回のお届け先は北イタリアのほぼ中心に位置する町・カザルマッジョーレ。この町でバイオリン修復家として奮闘する宮川賢治さん(38)と、京都に住む父・勝次さん(72)と母・雅子さん(72)をつなぐ。賢治さんが日本を離れて12年。両親は「自分が選んだ道。誰からも"一流"と呼ばれるところまで頑張って、職人として名を残してほしい」と、その成功を遠く日本から祈っている。
16世紀にイタリアでバイオリンが誕生して以来、名工たちが数多くの名器を生みだしてきた。そんな優れたバイオリンを修復し、後世に残していくのが賢治さんたち修復家の仕事だ。賢治さんに依頼が来るのは100年以上前に作られた名器ばかり。中には世界に一本しかない数億円もするバイオリンも。
一つの小さな割れを修復するだけで1週間。長ければ3年以上もかかるため、何台もの作業を同時に進めていく。その緻密な修復作業には、見ていた山口智充も「これは凄い…」と圧倒される。「ただ弾けるようにする"修理"ではなく、形も音も当時のままに復元するのが"修復"なんです」と賢治さん。古い名器は優れた演奏家が弾き続け、こうして腕のたつ修復家がその質を守り続けることで、時と共にその音はますます磨かれていくのだ。
賢治さんは現在、築200年以上になる妻・ベロニカさんの実家に夫婦と子供2人の4人で暮らしながら、自宅の一室にある工房で修復作業を続けている。そんな賢治さんの楽しみは、修復を終えた名器の音を調整しながら、思う存分に弾けること。「このために生きているようなものです」と、美しい音色を奏でながら、賢治さんは顔をほころばせる。
賢治さんとバイオリンの出会いは小学生のとき。5人兄弟の3番目で、家庭は決して裕福ではなく、賢治さんは新聞配達をしながらレッスンを続けたという。やがて演奏よりもバイオリン制作に興味を持つようになり、18歳から修行を積んで12年前に本場イタリアへ。そこで出会った数々の名器に心惹かれ、修復家になる道を選んだ。今や多くの著名な演奏家が修復依頼に訪れるほど、イタリア国内外で絶大な信頼を寄せられている賢治さん。ところが本人は「昔の職人たちが遙か上の人に思えて…」と、目指すところがあまりにも高いがゆえに、悩んでもいた。
そんな賢治さんへ両親からのお届けものは、賢治さんが中学生の頃に新聞配達をして買い集めたクラシックのレコード。そこには"バイオリンと出会い、夢を追いかけ始めたころの気持ちを大切に頑張ってほしい"という両親の想いが込められていた。「懐かしい…」とレコードを手にした賢治さんが真っ先に選んでかけたのは、毎朝目覚まし代わりに聴いていたというドヴォルザークの「新世界より」第4楽章。「感動です。またこれから頑張れそうです」と笑顔を見せる賢治さん。その胸にはあの頃の気持ちが甦って…。