◆ことばの話3355「怒りに油をそそぐ」

8月26日の『情報ライブミヤネ屋』で、栃木県で車が水没し女性が死亡したニュースをお伝えしました。その原稿の中に、
「鹿沼市側は、遺族に慶弔金を支払おうと」
という文章がありました。下読みの際に、
「人が亡くなっているのに、“慶”弔金というのはおかしいのではないか?」
と気づき、
「遺族に弔慰金を」
と変えました。危ない危ない。「慶弔金」は「慶事」と「弔事」を合わせてまとめて言う際の言葉。今回は亡くなっているのですから「弔慰金」ですよね。また、
「遺族が怒りをあらわにする内容だった」
という原稿も。これも「その内容に遺族が怒りをあらわにした」はありえますが、「怒りをあらわにする内容」というのはなんだかヘンだったので、
「遺族の怒りに油を注ぐ内容だった」
に変えました。そう、スタッフに報告したところ、次の日、
「『火に油を注ぐ』は知っていますが、『怒りに油を注ぐ』とも言うんですか?』
という質問を受けました。え?「怒りに油を注ぐ」と言わなったっけ?
そこで『日本語コロケーション辞典』というので「油」を引いたところ、「油を注ぐ」のところに意味として、
「勢いなどをさらに強くさせる」
とあり、用例として、
「怒りに油を注ぐ」
とありました。よかった。さらにGoogle検索をしたところ(8月27日)、
「怒りに油を注ぐ」=1万3600件
でした。使われているようです。もし間違っていたら、スタッフの怒りに油を注ぐところでした・・・
2008/8/27


◆ことばの話3354「原寸大オブジェ」

8月22日の「情報ライブミヤネ屋」の中で、新作映画のプレミア試写会で映画に出てくるのと同じ大きさの車のオブジェが登場という芸能ニュースが放送されました。その中で、
「原寸大オブジェ」
というコメントを、ナレーターの方が一瞬読みにくそうにしました。たしかに、カタカナと漢字の区別が付きにくい文字の並びですね。
この場合は「原寸大」と「オブジェ」の間に「・」を入れて分けて見えるようにすると、きっと読みやすいですね。
「原寸大・オブジェ」
文字を読むより「語のかたまり」として捉えやすくしたほうが、トチりにくいのです。
以前に一度「平成ことば事情1739」でも書いた、
「マサチューセッツ州知事」
このカタカナが続く言葉は葉読みにくいですが、漢字(の当て字)に置き換えて
「正中・摂津州・知事」
とすると、あーら不思議、読みやすくなります。これと同じ原理だと思います。
文字面(もじづら)を追うだけでなく、意味を考えて意味のかたまりとして読むと、トチリにくくなる、というお話でした。
2008/8/26


◆ことばの話3353「Wiiの言い換え」

8月21日のお昼のNHKニュースを見ていたら、いきなりリード部分で、こんな言葉が。
「コントローラーを振って楽しむ家庭用コンピューターゲーム機」
ん?こ、これはもしかして、
「Wii」
のことではないか?と思って注意深く聞いていると、はたして「Wii」のことでした。本文の中では、
「任天堂のWii(ウィー)」
と言っていました。「Wii」に対してアメリカの会社が特許権侵害で訴えを起こしたというニュースでした。今回は当該の商品がまさに「そのもの」だったので、商品名が本文で出てきましたが、リード部分では、こんな長い言い回しで「一般商品名」として出てきたのですね。そうかあ、そうだったのか。
「平成ことば事情」では、これまでも「特定商品名」に関して書いていますのでお読みください。
<参照>
0012 ホッチキス
0082 パーカとジャージ
0116 ウインド・サーフィン
0156 バックホー
0222 テトラポット
1004 マイレージとマイレッジ
1537 世界一の記録を集めたイギリスの本
1586 ペッパーソース
1610 UFOキャッチャーの言い換え
1779 ウォシュレットの言い換え
2791 数字の読み方2006冬
2808 ミラ・ジョボヴィッチ
2883 写メールの言い換え
2008/8/21


◆ことばの話3352「自分色のメダル」

シドニー五輪の時に、
「金(きん)がいいですう」
と「ズバリ直球」で言っていた銀メダリストもいましたが、最近は「金メダル」のことを指して、
「もっといい色のメダル」
と、北京五輪200mバタフライの中西悠子選手(2008年8月14日時事通信)や、2005年のモントリオール世界水泳・女子800m自由形で柴田亜衣選手(2005年8月1日、スポニチ)が言ったり
「一番きれいな色のメダル」
というふうに、選手が「婉曲表現」を用いるのをよく耳にします。
北京五輪の競泳・男子200mバタフライで銅メダルを獲得した松田丈志選手(24)は、インタビューに答えて、
「自分が速いなと思った。銀も近かったかなと思うけど、これが四年間戦ってきた自分色のメダル」
「銅メダル」のことを「自分色のメダル」と答えていたと、8月13日の日経新聞夕刊に載っていました。見出しは、
『「自分色のメダル」涙』
でした。
Google検索してみると(8月20日)
「もっといい色のメダル」=  139件
「一番きれいな色のメダル」= 48件
「一番きれいなメダル」=    39件
「自分色のメダル」=     7570件
でした。
「1849年、荒くれ者たちがアメリカ西部に向かって求めた物の色のメダル」
とか、
「大航海時代、コルテスをはじめとした征服者(コンキスタドール)たちが中米・南米で狂ったように捜し求めた物の色のメダル」
とか、
「今から500年ほど前、日本がジパングと呼ばれていたころ、佐渡ケ島で取れた鉱物の色のメダル」
なんて、言いませんねえ・・・。
2008/8/20
(追記)

大晦日、NHK紅白歌合戦に出ていたMr.Childrenが歌った「GIFT」という曲を聞いていたら、その中の歌詞に、
「白と黒の間に無限の色がある」
という言葉が。これっていつも私が「虹の色は何色?」という話をする中でしている話だ!と思いました。また、
「一番きれいな色」
という言葉も出てきました。おお、これってもしかしたら、オリンピックのメダリストが「ミスチルのファン」
だったのでしょうか?それとも、
「オリンピックの選手の言葉を、ミスチルが採用して歌詞にした」
のでしょうか?どっちかなあ?
2009/1/6


◆ことばの話3351「不時着か墜落か」

8月19日大阪の八尾空港近くの道路に、航空写真を撮影した帰りの小型飛行機が、落ちました。乗っていた2人は軽傷でしたが、道路に胴体着陸した形の小型飛行機は、主翼の右側が吹っ飛び、大破しました。
この状況を指して、「墜落」と呼ぶのか「不時着」と呼ぶのか、報道局内で議論になりました。読売テレビでの報道デスクの判断では、
「警察が『墜落』という用語を使っているので、『墜落』でいきます!」
ということでしたがその後、警察側が「不時着」と表現を変えたため、それに従い、
「不時着」
となりました。
「墜落」は「落ちること」ですから「コントロール不能になった場合」で、「不時着」は「予定されたところではないところに着陸すること」ですから「(ある程度)コントロール可能な場合」でしょう。
今回、パイロットから「不時着する」と管制に連絡があったことから、最終的には「不時着」とされたようです。
われわれの感覚だと、機体が大破したりバラバラになったら「墜落」、機体の損傷が少ない場合には「不時着」のようにも思えます。それゆえにマスコミは、
「『墜落』の方が『ニュースバリューが高い』」
ように感じて、つい、使いたがってしまう傾向がないとも言い切れません。
また、けが人や死亡した人の有無も、「墜落か不時着か」に影響を与えそうな気もしますが、「墜落」でも軽いケガの場合もあれば「不時着」でも死亡する人もいるというのが現実でしょう。
新聞(8月19日夕刊)は、「産経新聞」だけが「不時着」、読売・朝日・毎日・日経は「墜落」を採用していました。
テレビでは8月19日のNHK18:45のニュースでは「墜落」を使っていました。また8月20日のMBS「ちちんぷいぷい」でも「墜落」を使っていました。
2008/8/20
(追記)

8月20日の深夜のニュースで、関西テレビはローカルニュースで「墜落」を使っていました。
「当初、不時着を目指し、道路に墜落した」
とも言っていました。また、同じくNHK大阪も、
「不時着しようとして墜落した」
と読んでいました。
2008/8/21
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