◆ことばの話2903「脳天気か能天気か」 先日、Nアナウンサーから 「『のうてんき』は『脳天気』と書くのでしょうか?それとも『能天気』でしょうか?」 という質問を受けました。 さっそく『新明解国語辞典』を引いてみると、新解さんの見出しは、 「脳天気」 でした。意味は、 「(関東・中部方言)常識はずれで、軽薄な様子(人)」 とあり、さらに「表記」の注意として、 「もと、『能天気』『能転気』と書いた」 とあるではないですか!え?「能転気」なんて表記もあったの!?知りませんでした。 『新潮現代国語辞典』を引くと、 「能天気・能転気」 を見出しに採用して、「脳天気」はありません。しかし、おかしなことに、用例で採用しているのを見ると、 「離婚記事かなんか見てるみたいな脳天気な調子で自分のことを笑ってるじゃない」(ひざまずいて足をお舐め) と「脳天気」表記の用例をとっています。なんでやろ・・・ていうか、この用例で引用している、 「ひざまずいて足をお舐め」 って、なによ!?巻末の引用文献を見ると、 『ひざまずいて足をお舐め』(山田詠美、1988) とありました。ああ、山田詠美さんの作品か。なるほど。あまり読んだことないけど。辞書の編纂者はこういうのも読まないといけないのですね。大変だ。 『明鏡国語辞典』は、欲張っています。見出しの漢字表記は 「脳天気、能天気、能転気」 と3つとも載せています。『三省堂国語辞典』は、2つ。 「脳天気、能天気」 の順です。『岩波国語辞典』は、見出しは、 「能天気、能転気」 の2つだけですが、本文中に、 『▽「脳天気」とも書く』 とあります。何だ、全部じゃん。『日本語新辞典』は、 「能天気、能転気」 の2つだけ。『広辞苑』の見出しは、 「能天気、能転気」 の2つだけでしたが、本文には、 「(「脳天気」とも書く)」 とありました。 『日本国語大辞典』は、 「能天気、能転気」 の2つだけ。『大辞林』は、 「能天気、能転気」 の2つだけでした。用例は『談義本・当世花街談義』(1754)四・品七ですが、そこでの表記は、 「能天鬼」 でした。もう一つの用例、同じく談義本『花菖蒲待乳問答』(1755)四では、 「能天気」 と使われていますね。『新聞用語集2007年版』は、 「(脳天気、能転気)→能天気」 となっていて、3つの表記があることを認めた上で、「能天気」を使うことになっているのですね。 『NHK新用字用語辞典・第3版』には「脳天」は載っていましたが、「脳天気・能天気・能転気」は載っていませんでした。 ネットでの使用状況はどうか?Google検索で(6月17日)は、 「能天気」=58万3000件 「脳天気」=45万1000件 「能転気」=797件 「能天鬼」=5件 「ノー天気」=18万8000件 「ノーテンキ」=15万9000件 でした。 「はてなダイアリー」というサイトには、 『頭の中が晴れている、という比喩から。「能天気」「能転気」とも。「脳天気」の表記を広めたのは平井和正と言われる。」 と載っていました。平井和正というと『幻魔大戦』の?SF作家の? さらに調べる、こんな記述も。こちらはNAFL日本語教師養成プログラムの「日本語Q&A」というサイトです。 『古くは18世紀ごろの文典にも見られますが、漢字での表記は一様ではありません。もともとは「能天気」や「能転気」と書かれることが多いようです。また、「脳天気」という表記は「のうてんき」という音から類推してあてられた字のようですが、これもごく最近の表記というわけではなくそれなりに古くから見られるようです。いずれにしても、俗語的表現で、語源は定かでないようです。』 ふーん、なるほど。 まとめますと、昔、江戸時代頃には「能天気」「能転気」、あるいは「能天鬼」が使われていて、その後昭和に入ってから「脳天気」という表記も出てきてかなり広まった。しかし新聞や放送では、従来の表記で一番ポピュラーである「能天気」を使うことになっているということのようです。 こんなことを調べていること自体が「のうてんき」でしょうなあ、ははは。 2007/6/17
(追記)2007年11月14日に日経新聞夕刊のコラム「あすへの話題」で、脳研究者の池谷裕二さんという方が、 「脳天気」 というタイトルで書いていらっしゃいます。それによると脳研究者の池谷さんは、「楽天的な脳」という科学記事を読んで、 「たしかに脳は能天気だ」 と書いています。そして、脳の楽天癖について研究しているニューヨーク大学のフェルプ博士は、 「人が将来のイベントについて想像する時、ポジティブなことは近未来に、ネガティブなことは遠い未来にイメージする傾向がある」 ことを発見したそうです。さらに、 「好ましいイベントほど鮮明にイメージできる」 んだそうです。脳って自分勝手ですねえ・・・。「脳」と言える私・・・。楽天的な人ほど活動が強いんだそうです。 2007/11/20
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◆ことばの話2902「ジャストでーす」 週一でテニススクールに通って4年目になります。 先日、順番待ちをしている間にほかの人の試合形式の練習を見ていたら、向こう側のコートの後ろのラインのギリギリのところにボールが落ちました。それを見たコーチが、 「ジャストでーす」 と言ったのを耳にしました。 「ジャスト」 は「ちょうど」ということ。つまり「ちょうど入った」のか。でもポイントは相手の方に入っています。そこで、コーチに 「今の『ジャスト』って、入ったんですか?出たんですか?」 と聞くと、 「アウトです」 との答え。ボールが入ったのかと思ったら、外だったのです。つまり「ジャスト」は、 「ジャストアウト」 の省略形。日本語で言えば、 「おしい!」 というところでしょうか。テニスでは一般的に使われているそうです。ふーん。一つ勉強になりました。 2007/6/16 |
◆ことばの話2901「100万億円」 6月10日の深夜(時計の針は11日)、寝る前にベッドの中でケータイサイトの読売新聞を読んでいると、こんな記事が! 「100万億6400万円」 えらい金額やな、100万億円。100万置くのと違いまっせ。 これはおそらく、 「100万ユーロ・1億6400万円」 のつもりが、なぜか、 「ユーロと『・』と1が欠落した」 のでしょうけど。 「100万億円」当たるtotoとかビッグとかいう宝くじがあったら、ボクも買ってみようと思います。 真夜中に布団の中で「ぷぷぷ」と笑ってしまいました。 この日は、よく眠れました。 2007/6/14 |
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