◆ことばの話2630「母さんの最新関西若者アクセント」

昨日、会社の帰りがけに、京阪・京橋駅のホームにいた中学一年か二年生ぐらいの男の子ふたりの会話が、聞くとはなしに耳に入ってきました。その中の、
「母さん」
のアクセントに、私の耳が反応しました。彼らの発音は、
「かあさん(LLHL)」
と、後ろから2つ目の音「さ」が上がる「中高アクセント」だったのです。
標準語アクセントなら、もちろん、
「かあさん(HLLL)」
と「頭高アクセント」のところです。
実はここ数年、うちの小学3年生の息子が、友人と話しているときの「母さん」の発音も、それとまったく同じだったことを思い出しました。そのときは、うちの息子の友だちの範囲だけのことかと思って気に留めなかったのですが、大阪市内の京阪・京橋駅で、中学生の会話で耳にしたので「もしや!」と思ったわけです。もしかしたら、今の大阪の若い人(小・中学生)の「母さん」のアクセントは、そういうふうになっているのでしょうか?
アナウンス部アルバイトのMさん(27歳)に「そんな言い方する?」と聞くと、
「小学校ぐらいの時、男の子が言っているのを聞いた」
というのです。そうすると随分前からのアクセントなのかも?
大体、関西弁に「母さん」という語彙があるのかどうかも疑問ですが。「かあちゃん」「おかあちゃん」ならあるけど。あ、そうか、「かあちゃん」のアクセント・パターンである、
「かあちゃん(LLHL)」
「かあさん」にあてはめたのかな、もしかして?
きのう息子の話を聞いていたら、今度は「先生」のアクセントも、
「せんせい(LLHL)」
となってました。関西弁の「先生」は、
「せんせい(HLLL)」
の「頭高アクセント」だったはずなのに。標準語は、
「せんせい(LHHL)」
の「中高アクセント」ですね。そうすると標準語アクセントと関西弁アクセントの融合で生まれたのかな?それとも広島弁のアクセント・パターン(に似てますよね、「せんせい(LLHL)」は)が入ってきたのか?どうなんでしょうか?今後もしばらく注目です!
2006/9/6


◆ことばの話2629「汚物のアクセント」

8月25日のお昼のニュースで、男がパチンコ店の景品交換所の窓口に、箒に乗せた汚物を差し入れて、従業員がひるんだ隙に窓口に手を突っ込み現金10万円を盗むという事件を伝えました。(なんちゅう事件じゃ!)その際に、
「汚物」
のアクセントは、「平板」なのか「頭高」なのかが気になりました。最初は「頭高アクセント」で、
「おぶつ(HLL)」(Hは高く、Lは低く発音)
と下読みしていたのですが、念のため『NHK日本語発音アクセント辞典』を引いてみると、
「おぶつ(LHH、HLL)」
と2種類のアクセントが「平板、頭高」の順で載っていました。原稿をチェックした坂デスク兼キャスター(6月にアナウンス部から報道局に異動しました)に、
「どっちで読む?」
と聞いたところ、
「うーん、ぼくは、頭高で読みますねえ。」
とのことでした。一緒だ、良かった。結局、頭高アクセントで読んだのですが、これってどっちで読むかで印象が変わりますよね。
「平板アクセント」で読むと「汚物全般、特に吐瀉物」のイメージがありますが、「頭高アクセント」で読むと、「排泄物(固形)」のイメージが強調されるように感じますね、私は。
だからこのニュースの場合は、「頭高アクセント」がふさわしい感じがしました。

2006/8/26


◆ことばの話2628「破婚」

『ペンネームの由来事典』(紀田順一郎)という本を読んでいたら、88ページ「国木田独歩」の項に、
「破婚」
という言葉が出てきました。初めて見た言葉です。
「結婚までいたるが、家庭の事情で破婚」
という文脈でした。
「結婚が破れて離婚に至ること」
でしょうね。「はこん」で引いてみると『新明解国語辞典』には載っていません。
『日本語新辞典』には載っていました!
「破婚」=(文)婚約、結婚関係を解消すること。
結婚だけではなく、「婚約解消」も「破婚」と呼ぶんですね。文語なのかあ。
『岩波国語辞典』にも載っていました。
「破婚」=結婚関係が解消されること。
内縁関係や事実婚に関しても使えそうですね。『明鏡国語辞典』にも載っていました。
「破婚」=婚約または結婚を解消すること。
Google検索(日本語のページ)では(8月23日)、
「破婚」=1120件
でした。
2006/8/23


◆ことばの話2627「まずです」

8月23日の日本テレビ「スッキリ!!」を見ていたら、阿部哲子(あきこ)アナウンサーが、こんな言葉を口にしたので耳を疑いました。
「マズデス」
え?なに?「マズデス」って「アメダス」の仲間か?と思って、一緒にいた後輩のMアナウンサーに、
「いま、マズデスって言った?」
と聞くと、
「言いましたね。」
やっぱり、言ってました。つまり、
「『まず』です」
という意味で、そう言ったようです。これは◆ことばの話2554「続いてです」で書いた「ズームイン!!SUPER」西尾アナの、
「続いてです」
の進化形ですね。でも、マズイ方に進化しているぞ。「まずです」ではなく、
「マズイです」
だなあ・・・こりゃ。ニュースでよく耳にする、
「次です」
の場合は「名詞+です」で、それほど違和感はありませんが、「続いてです」「まずです」の場合「動詞の連用形+です」や「副詞+です」なので、「名詞+です」の「次です」よりも違和感があるんでしょうね。
なんとなく、九州方言の、
「それはですね、ちょっとですね、いかんですね」
というような「です」にですね、聞こえないこともですね、なかですよ。

2006/8/23

(追記)

それから2か月が経った10月20日の「スッキリ!」で、阿部アナ、今度は、
「さてですねー」
と言いました・・・。
「まずです」「さてです」「つづいてです」「次です」
おわりです。
2006/10/20

(追記2)

日本テレビの笛吹雅子キャスター、11月9日夕方の「ニュース・リアルタイム」で、
「とにかくは」
と言っていました。「は」はいらんでしょう。接続詞って難しい。分っていてもつい口を突いて出てしまうということでしょうか。

2006/11/9


◆ことばの話2626「70度の熱湯」

7月10日、神戸市のラブホテルで、浴室の工事をしていた店長など2人が、蛇口が故障したために熱湯をかぶって死亡する事故が起きました。
それを伝えた読売テレビのニュースで、
「70度の熱湯をかぶって」
という表現が出てきましたが、それを聞いたディレクターのM君が質問してきました。
「道浦さん、70度って『熱湯』なんでしょうか?」
「うーん、厳密に言うとそりゃ、違うだろ。熱湯は沸騰してないと・・・。たしかに70度のお湯は熱いけれど、100度に近いお湯じゃないと、熱湯とは呼べないよね。誇張表現じゃないか?それが許されるのは『熱湯コマーシャル』ぐらいじゃない?あれはコーナーそのものが許されなかったけど。」
「やっぱりそうですか。」
たしかにお風呂に入る時には、「湯」に人りますし、そのときの「湯」は、50度までも行かない、せいぜい40度ちょっとぐらいの「湯」。42度にもなるとかなり「熱い湯」ですが、「熱い湯」と「熱湯」は違う
のですね。
ところが、国語辞典で「熱湯」を引いてみると、
「熱湯」=「煮え立った湯」(『新明解国語辞典』)
「熱湯」=「にえたぎった湯」(『新潮現代国語辞典』)
「熱湯」=「煮えたっている湯。にえゆ」(『広辞苑』)
「熱湯」=「煮えたっている湯。煮え湯」(『日本国語大辞典』)
と、どれもいたってシンプル。では、「煮え立つ」を引いてみよう。
「煮え立つ」=「(湯などが)沸騰して盛んに湯気を出したり、器の外にこぼれたりする」(『新明解国語辞典』)
やっぱり沸騰することが必要ですね。
「沸騰」=「液体が熱せられて、泡が上の方まであがること。煮え立つこと。」(『新明解国語辞典)
ここで見る限り、「熱湯」は「沸騰」しなければなりません。70度で沸騰しようとしたら、標高の高い山に登ったりして、気圧の関係で沸点が低くなることが条件ではないでしょうか?あ、沸点が低くなったら、「泡が上の方まであがって」きても、「沸騰した」とは言わないのかな?また別の問題ですが。
そんなことを考えていたある日、チキンラーメンを食べていたら、フタに
「熱湯3分」
と書いてあるではないですか!そうか、熱湯のことなら、ここに聞けばいいんだ!と、フタに書かれていた日清食品のお客様相談室(大阪)に電話して聞きました。
「つかぬ事を伺いますが、このフタに書かれている『熱湯3分』の『熱湯』というのは、温度は何度でしょうか?」
「それは、やはり沸騰したお湯と言うことですから、100度ですね」
「ああ、やっぱり。あのお・・・お風呂に入るときには40度とか50度でも『お湯』とは言いますが、『熱湯』というのは100度であると・・・」
「そうですね。」
「70度とか80度とか90度では『熱湯』とは言いませんか?」
「そうですねえ。まあ、最低でも97度か98度くらいないと『熱湯』とは言えないと思います。」
「そうですか、ありがとうございます。」
ということでした。
2006/8/22
(追記)

8月23日のお昼のニュースで、北九州市で、暴力団組員の父親が、生後5か月だった二男の乳児を熱湯につけ虐待、瀕死の重傷を負わせて逮捕されたというニュースを伝えていました。
その中で、
「(容疑者は)去年11月30日夜、住んでいた北九州市門司区内の市営住宅で、70度以上の熱湯をためた浴槽に二男を入れ、殺害しようとした疑い。」
とありました。また出てきました、
70度以上の熱湯」
です。食べ物に使う「熱湯」とお風呂の「熱湯」は基準が違うということなのでしょうか?よく分りませんが、一般的には、
「熱い湯」=「熱湯」
という認識があるようです。
2006/8/23
(追記2)

ちなみに、冒頭の神戸のラブホテル、ニュースでは名前が出てきませんでしたが、
「フランの絵」
という名前だそうです。7月19日の読売新聞夕刊に載っていた「YAHOO検索ランキング」時事ワードランキング2006、7、10〜16第2位にランクされているキーワードが「フランの絵」で、解説に、
「神戸のホテル。客室浴室で2人が死亡。シャワー修理中に熱湯を浴びたとみられる」
と書かれていました。ちなみに検索回数ランキング第1位は、
「ジダン」
でした。

2006/8/23
(追記3)

お世話になっている早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さん『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)のP27に、「青い空と青空」という項目がありました。そこには、
「北の風と北風は違う」
「青い空と青空は違う」
「古い新聞と古新聞は違う」
「細い道と細道は違う」
「金の玉と・・は違う」
と書かれていました。それに従うとやはり、
「熱い湯と熱湯は違う」
ということになるのではないでしょうか。

2006/9/21
(追記4)

2007年2月16日の『ズームイン!!SUPER』で、2月15日宇都宮市で、同居している女性の3歳の娘がおもらしをしたので、
「熱湯のシャワー」
をかけて大やけどを負わせた23歳の男が逮捕されたというニュースを伝えていました。この「熱湯」の温度が「何度なのか」は伝えていませんでしたが、普通のシャワーでは、100度近い熱湯は出ないでしょうから、「本来の意味の熱湯ではない」のは確かですね。
また2月16日の朝日新聞では、奈良県明日香村の知的障害者施設で、入所者の女性が、
「高温の風呂に入浴させられ、全身やけどの重傷」
を負って入院していることがわかったという記事が載っていました。
この「高温の風呂」も、「温度が何度ぐらいなのか」は書かれていませんでした。
2007/2/16
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