◆ことばの話2413「ビニール袋か?ポリ袋か?」
12月15日、和歌山で3人の乳児の遺体が見つかった事件で、遺体が、
「ビニール袋に入っていた」
と、読売テレビのニュース原稿にはありましたが、15日朝刊各紙を見ると、
(読売・朝日)ポリ袋
(毎日)ビニール袋
(日経)ナイロン袋
(産経は、袋に関する記述なし)
と分かれていました。しかし、私が11月の用語懇談会報告で書いた文によると・・・・・・
『NHKの原田委員から、「日本ビニル工業会の関係者から、『最近は「ビニール袋」はほとんどなく、たいていは「ポリ袋」である。事件などの時に「遺体の一部はビニール袋に入れられ・・・」などと出て来るが、これも「ポリ袋」であることが多いので、(一般論として)間違えないで欲しい』と申し入れがあった」』
放送上、具体的に何か問題があったわけではないそうですが。
細かいことですが、何でもかんでも「ビニール袋」とすることで「ビニール」のイメージが低下することは避けて方がいいですし、そもそも正確な表現かどうかについても、この際、考える必要があるのではないでしょうか。
『広辞苑』によると、
*「ポリ袋」=ポリエチレンで作った薄い袋
*「ポリエチレン」=エチレンを重合させて得られる合成樹脂。熱可塑性で軽く、安価で耐薬品性が強く、加工しやすい。また電気絶縁性がよい。軟化しやすく可燃性であるのが欠点。フィルム・シート・成形品に多用する。
*「ビニル」=(1)ビニル基。エチレンから水素原子一個を除いた原子団。
化学式CH2=CH−
(2)ビニル樹脂の略称。ビニール。
*「ビニル樹脂」=ビニル基を持つ単量体を重合させた合成樹脂の総称。塩化ビニル樹脂・酢酸ビニル樹脂の類。
*「ナイロン」=元来はアメリカの科学者カロザースが発明しデュポン社から発売された合成繊維の商標名。現在はポリアミド系の合成高分子化合物の総称。(以下略)。「ナイロンの靴下」
とのことです。
Google検索では(12月15日)、
「ビニール袋」=131万0000件
「ビニール製袋」=159件
「ビニル袋」=3万8500件
「ビニル製袋」=11件
「ナイロン袋」=4万0500件
「ナイロン製袋」=252件
「ポリ袋」=35万1000件
「ポリ製袋」=68件
「ポリエチレン袋」=2万1800件
「ポリエチレン製袋」=269件
と、ネット上では、
「ビニール袋」>「ポリ袋」>「ナイロン袋」>「ビニル袋」>「ポリエチレン袋」
の順で使われています(件数1万件以上)。
ついでに、キーワードを2つにしてみました。
「ビニール袋、遺体」=0件
「ポリ袋 遺体」=2件
「ナイロン袋、遺体」=0件
あんまり違いは出ませんでした。
用語懇談会加盟の各社の委員にメールで、どう表現したかを聞いたところ、
(NHK)袋
(毎日放送)ビニール袋
(朝日放送)ナイロン袋
(フジテレビ)ナイロンのような袋
(関西テレビ)ナイロン袋
(静岡放送)ナイロン袋
(共同通信)ナイロン袋
(読売新聞)ナイロン袋
(朝日新聞)ポリ袋
(毎日新聞)ビニール袋
(テレビ大阪)(今回の事件では、袋については触れていないので、どちらの表現も使っていない)
ということで、
『当初、和歌山の駐在カメラマンから来た原稿では「ナイロン袋」になっていたが、和歌山県警発表が「ビニール袋」だったので、「ビニール袋」で放送している。』(毎日放送)
『和歌山県警発表の広報文FAXには、入れられていた袋の素材については何も書かれていない。現場記者が取材した捜査員が「ナイロン袋」と、袋の素材について言及し、そのまま原稿化したものだろう。ニュースセンターの用語担当者が不在だったので、報道部としてポリ袋、ビニール袋、ナイロン袋をどう使い分けしているのかは不明。その後、報道担当デスクに聞いたところ、「恐らく担当記者が現場で得た情報の表現をそのまま使用したのでは・・」とのこと。ビニール・ポリ・ナイロンなどや「○○袋」についての表現の使い分け基準等は、現在ない。』(朝日放送)
『ナイロン、ビニール、ポリエチレンはそれぞれ原料が石炭、アセチレン、天然ガスと違っているらしく、全く別物だと思う。従って、はっきりしていないため「・・・のような袋」という原稿になったと思う。』(フジテレビ)
『業界団体「日本ポリオレフィンフィルム工業組合」から申し入れがあったりして、前から「ポリ袋はビニールではない」と注意している。』(朝日新聞)
『1997年に「『ビニール袋』は原則として『ポリ袋』にする」ことになっていたが、今回は警察発表をそのまま流して「ビニール袋」となったようだ。』(毎日新聞)
ということでした。
朝日新聞の福田氏によると、こういった業界からの申し入れは「ポリ袋」業界側からで、「ポリ袋は水素と炭素だけで出来ていて、燃やしても環境を汚染しない」
ことを強調しているそうです。ビニールは、成分中に塩素を含み、燃やし方が悪いとダイオキシンを発生する可能性があるので、それとは違うということが主張の一因のようです。
悪いイメージの事件で使われても、「ビニールでなくポリ袋と書いてくれ」と、ポリ袋業界側が言うわけで、「ビニールのイメージ低下を避けるためにポリ袋に直す」ということではないようです。
こうしてみてみると、どうやら、「ビニール袋」と「ポリ袋」が並列であって、最近の使用実態としては「ポリ袋」が増えている、それとは別に「ナイロン袋」というものがある、というようなことではないかと思われます。また警察発表はそんな細かいところの区別までキッチリと発表していないであろうことは、容易に想像がつきます。そこで、各社独自の判断をした結果、表記(というかモノ)に違いが出てきたのではないでしょうか?
読売テレビでは、その後、死体遺棄で逮捕された母親のニュースを伝えた時(12月17日)には、
「ポリ袋」
で放送しました。 |