◆ことばの話2340「この後とその後」

ふと、不思議に思ったことがあります。
「この後」
という言葉は、副詞的には、
「このあと」
としか読めず「このご」とは言わないのに(「この期に及んで」とは言うが、これは名詞)、なぜ、
「その後」
という言葉は、
「そのあと」「そのご」
の2通りの読み方があるのでしょうか???
こういう疑問を「言葉についての会議室」に書きこんだところ、Yeemarさんから書き込みをいただきました。それによると、

『日本国語大辞典』を見ると、「このご(此の後)」ということばもあります。
*浮雲(1887-89)〈二葉亭四迷〉二・一一「母親が此後(コノゴ)何様(どん)な言(こと)を云ひ出しても、決してその初の志を悛(あらた)めないと定ってゐれば」
ほかに樋口一葉・国木田独歩の例も。明治には使われていたのでしょう。一方、「そのご(其の後)」も、明治からこっちの例しか載っていません。明治時代には、「このご」「そのご」が仲よく使われていて、対称をなしていたのでしょう。
すると問題は、今は「このご(此の後)」がなぜ使われなくなったのか(少なくとも一般的でなくなったのか)、ということになるでしょう。その理由は、「こんご(今後)」に吸収されたから、と見てはどうでしょうか。音も似ていますし。一方、「そのご(其の後)」の類語に「じご(爾後)」がありましたが、今ではあまり使われなくなりました。つまり、ちょっと前ならば
   こののち このご こんご(今後)・きょうこう(向後)
   そののち そのご じご(爾後)
と、多くのことばがあったものが、だんだん整理されてきたという考えではどうでしょう。

とのこと。
なるほど!「このご」が「こんご」に吸収されて、言わなくなったと!それは十分考えられますね。「の」はローマ字で書くと「NO」ですから、ここから母音の「O」が脱落すれば「N」になり、
「KONOGO」(この後)→「KONGO」(今後)
という変化は言葉の省力化傾向から言って、十分に考えられます。
ただ「このあと」と「今後」では、意味が微妙に違いますから、「このあと」の意味での「このご」のことを「こんご」と言って使うことはなく、「こんご」は「今後」だけを意味するようになったのかもしれませんね。
「そのご」は、「そんご」という言葉が初めからありませんから、変化することなく「そのご」として残っているということですかね。
誰が決めたわけでもないのに、言葉というものは自然と変化していき、気が付くといつのまにか、それが当たり前になっている、そういうことの一つの事例なのかもしれませんね。

2005/11/5


◆ことばの話2339「病院とクリニックの違い」

家の近くの病院が、数百メートル離れたところに新しい病院を建設し始めました。お客さん・・・もとい、患者さんが多いのでしょうね。もうかってまっか?
さて、完成間近の新病院の建物の横を通りながら、ふと
「病院とクリニックの違いってなんだっけ?」
と、隣をベビーカーを押しながら歩いている妻に聞くと、病院の建設関連の仕事をしている妻は即座に、
「規模の違い。」
と答えました。
「規模と言うと?」
「ベットの数よ。ベッドが19床以下がクリニック、20床以上が病院よ。」
とのこと。ふーん、入院できる規模が「病院」と「クリニック」という名前を規定しているのですね。たしかに「クリニック」と言った方が、「病院」より小さい感じがしますよね。ま、小さい方が、丁寧に見てもらえそうな気もしますけど。そうとも限らないか。
ちなみに新しく建てているのは、「病院」です。
2005/11/5
(追記)

11月10日の毎日新聞1面の見出しに、
「厚労省方針 初診料 来春値上げ〜『病院』『診療所』一本化」
とあって、本文には、
「病院(20床以上)より診療所(20床未満)に対して高く設定している初診料を一本化し・・」
とありました。あ、つまり「クリニック」=「診療所」と言うことですね。わかりました。
2005/11/11


◆ことばの話2338「送りつける」

11月1日19時44分、NHKの『クローズアップ現代』(国谷さんはお休みのようですが)で、「楽天 VS TBSこれからどうなる」という特集をしていました。その中で、「楽天」のマーケティングコミュニテイの部門長がインタビューに答えて、
「ネットの利用者に、情報を送りつける・・・」
と言って、すぐに首を振りながら言い直しました。
「(情報を)読んでいただく・・・」
正直な人なんでしょうけど・・・・言葉って怖いですね。
でもその部分は生放送ではなく、VTRでのインタビューでしたから、どうしても「削って欲しい、使わないで欲しい」ということであれば、NHKさんも使わなかったのではないかなと思うのですが、楽天側がそういうお願いはしなかったのか、したにもかかわらずNHKがその部分を使ったのか、それとも双方とも、あまりなんにも気にしていなかったか・・・そのあたりは謎です。
2005/11/1


◆ことばの話2337「エロカッコイイ」

永井 豪の昔のアニメで、最近、佐藤江梨子主演でリメイクされた「キューティーハニー」のテーマソングを歌っていた、歌手の倖田來未(こうだ・くみ)さん。20歳そこそこと若いのですが、(たしか22歳)最近、若者の間ですごい人気のようです。
その彼女を評して、
「エロカッコイイ」
という表現が使われているそうです。なんだか身もフタもないような・・・。
「エロ」と言うと思い出すのは、
「エロガッパ」
故・鳳 啓介さんですけどえねえ・・・。
でもこの「エロカッコイイ」は、女性の間で流行っているようですよ。女性誌には、
「『エロ肌』スキンケア」(「ef」2005年10月号・主婦の友社)
という表現ものも出てきました。「エロ肌」って・・・なんだかなー。
この「エロ肌・4つのオキテ」というのは、
1、くすみ知らずの「白い」肌
2、キメの細かい「すべすべ」肌
3、なめらかな「しっとり」肌
4、弾力のある「吸い付き」肌

なんだそうです・・・。ふーん・・・。
なお、11月5日放送の「エンタの神様」(日本テレビ)のトップバッター「だいたひかる」が、
「この冬、倖田來未さんが風邪を引いても、自業自得意だと思う」
と言っていました。お笑いのネタにされるということは、やっぱり「売れてる」ということでしょうね。
2005/11/5
(追記)

11月21日、取材のために会社の外に出ると、外にいた10代後半ぐらいの女の子に、
「すみませーん」
と声をかけられました。「何かな?」と思って立ち止まると、
「倖田來未さん、もう入りましたか?」
と聞かれました。ああ、そういえば今日は「ベストヒット歌謡祭」があるし、「なるトモ!」に倖田來未さんがゲスト出演だったなと思いましたが、もちろん詳しいスケジュールを知っているわけではありませんし、ロケ先に急いでいたこともあって、
「知りません!」
と言いました。しかし、そのすぐ後に「あまりに冷たい言い方だったかな?」と思って、ニコっと笑いながら、
「全然、知りません」
と重ねて言いましたが、伝わったかな、知らないってこと。感じ悪くなかったやろか?
2005/11/28
(追記2)

倖田來未さん、日本レコード大賞まで取ってしまいました。同じような服を着ていてもレイザーラモンHGさんとは、ちょっと扱いが違いますね。
ところで、「エロかっこいい」「エロかわいい」とは言っても、これが連濁して、
『エロがわいい』『エロがっこいい』
とはなりませんね。それは、「かわいい」「かっこいい」という言葉の意味と語感に「濁音」はなじまないからなのでしょう。濁ると「エロガッパ」系に、どうしてもなってしまいますからね。
2006/1/12
(追記3)

3月2日の毎日新聞「記者の目」で、初のサッカーJ1入りを果したヴァンフォーレ甲府について、甲府支局の中村有花記者がコラムを書いていました。中村記者によると、ヴァンフォーレー甲府の魅力は、
「ダサ強い」
ことだそうで、見出しは、
『挫折者一丸で「ダサ強く」』
でした。「ダサ強い」とは、
「華やかでなくとも、ひたむきなパワー」
を有する強さ、なんだそうです。「エロカッコイイ」とか「ダサ強い」だとか、一つの形容詞では表現しきれず、二つの形容詞を複合させた、しかも、どちらかと言うとその二つの意味は相反するか、座標軸で言うと軸は違うもののプラス・マイナスの評価は相反するような形容詞をくっつけて一つにした、そんな表現が流行っているのかもしれません。それだけ世の中の状況が複雑になってきているのですね。
2006/3/28
(追記4)

地下鉄車内の中吊り広告で、小学館の雑誌『美的』2007年1月号の宣伝が出ていました。そこには、
「うる・ピュア肌」
と書かれていました。「エロかわ」のように2つ重ねる表現がはやっているのかもしれません。
2006/11/27
(追記5)

ちょっと古い資料が・・・2006年7月24日号『ビッグコミックスピリッツ』のカラー特集で楳図かずおの『神の左手 悪魔の右手』の映画公開の話題の記事のタイトルが、
「怖カワイイ」
でした。また、
「さあ皆さんご一緒に『グワシの左手 ギョエーの右手』!!」
というフレーズも書いてあって、そのポーズをする楳図かずおさんと映画のヒロインの渋谷飛鳥(しぶや・あすか)さんの写真イラストも描かれています。(手の部分だけイラストなのです。)「グワシ」は「親指と人差し指と薬指」を伸ばし、「中指と小指」を曲げていました。本家本元です。ところでこの映画はヒットしたのかな?
「平成ことば事情2122グワシ」もお読みください。
2007/5/29
(追記6)

最近なんとなく「エコ」という言葉をよく耳にします。今日の「ニューススクランブル」でも、レジ袋の代わりに持っていく「エコバッグ」というのを取り上げていました。まあ、何をいまさら・・・という感じもしますが、このブームをもっと盛り上げるには、こんな言葉はいかがでしょうか?
「エコカッコイイ」
いいんでないかい?Google検索(6月1日)では、すでに、
「エコカッコイイ」=295件
ありました。
2007/6/1
(追記7)

2008年4月11日(10日発売)の『夕刊フジ』に、
「長野イケメン教師 エロ恐ろしい性癖」
という見出しで、
「エロ恐ろしい」
という言葉が。長野県佐久市立の小学校の男性教諭(40)のパソコンから、ファイル共有ソフト「ウィニー」によって、生徒の個人情報が流れ出したのですが、その中にはロリータ趣味の映像なども含まれていたという記事です。Google検索では(4月10日)、
「エロ恐ろしい」=340件
でした。えろう、恐ろしいことです。
2008/4/10


◆ことばの話2336「見え隠れ」

「あさパラ!」のナレーション録音を終えて帰ってきたSアナウンサーが質問してきました。
「道浦さん、『見え隠れ』は、『みえかくれ』ですか?それとも『みえがくれ』ですか?」
「そりゃあ、『みえかくれ』、濁らないだろう!?」
「それがNHKのアクセント辞典では、『みえがくれ』と濁るのしか載ってないんですよ・・・・」
「え?ほんと!?」

確認するとたしかに「みえがくれ」しか載っていません。
他の国語辞典を引いてみても、見出しは「みえがくれ」と濁っていました。意味の中に、
「『みえかくれ』とも」
と書かれている物はありましたが。手元の国語辞書で言うと、「みえかくれ」が見出しになっているのは『明鏡国語辞典』だけで、あとの『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』『新潮現代国語辞典』『岩波国語辞典』『日本語新辞典』『広辞苑』『デイリーコンサイス国語辞典』『日本国語大辞典』は、すべて見出しは「みえがくれ」と濁っていました。
連濁と言うのは、複合語の結びつきが強くなって、その複合語が一語として認められた証拠だと思います。その意味では「みえがくれ」と濁るのはこの言葉がよく使われた証拠でしょう。
しかし、複合した2つの単語のそれぞれの意味を強調したいときには連濁をしないことがあります。「見え隠れ」は、「見え」「隠れ」という2つの言葉の意味が相反するものなので、連濁したくないという意識が、今は働いているのでしょうか?それとも「みえがくれ」という言葉があまり使われなくなっていることの表れでしょうか?
Sアナによると、
「この間、テレビで某局のベテランアナウンサーが、『薄暗い』のことを『うすくらい』と濁らずに言っていたので、おや?と思ったんですが、これは普通濁りますよね?」
「そりゃ、濁るね。そのアナウンサーは『薄暗い』という言葉を、あまり使ったことがないのかな?もしくは方言として濁らないケースがあるのかもしれないね」

私は「見え隠れ」がもとは「「みえがくれ」と濁ったのに、最近は「みえかくれ」と濁らない理由としては、似たような言葉に、
「逃げ隠れ」
があるからではないかと考えました。これは濁らずに、
「にげかかくれ」
と言いますね。「にげがくれ」とはいいません。そこからの類推で「見え隠れ」も濁らずに「みえかくれ」と言うようになってきたのではないかと。この推理はいかがでしょうか?
2005/10/28
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