◆ことばの話2030「おニュー」

おニューのパジャマを買ってもらった小1の息子。パジャマをかぶってみて、
「うーん、いい香り!」
さて、このように「新品」のことを、
「おニュー」
とのように、外来語の上に「お」が付く俗語は、ほかにどういうものがあるのでしょうか?
えーと、国の名前で言うと、
「おフランス」
は聞きますね。まあ、あまり言わないですが。なぜか、「おアメリカ」「おドイツ」「おイタリア」「おスペイン」「おカナダ」「おタイ」「おオーストラリア」などとは言いません。飲み物の、
「おビール」
は、聞きます。女性語でしょう。水商売の女性がよく使います。「おコーヒー」も、ごくたまに。この話をしたらMアナウンサーが、
「松本清張の『黒皮の手帳』を読んだら、銀座のホステスさんのセリフで『おコーヒー』が出てきました。」
と”証言”してくれました。
「おジュース」は、ダメかな。ほかの飲み物では外来語でなければ、「お茶」「お紅茶」は言いますね。「おワイン」「おウイスキー」「おブランデー」はダメでございましょう。
ほかには「スペシャル」の意味での「おスペ」は、限られた分野でありそうですね。なんの分野かは知りませんが。・・・いえ、本当に知りません。でも、あるような気がします。特に女性はこの言葉を使わないように。Mアナウンサーに「なんのことだと思う?」聞いたら、
「スペックのことですか?ステレオのスペックを、ステレオのおスペとか・・・。」
・・・違うと思うよ。
Hアナウンサーに、ほかにないか聞いたところ、
「『おセンチ』がありますね。」
あった、あった!おセンチ!アルバイトのYさん(20代前半・女性)に、
「『おセンチ』って知ってる?5センチよりは短いよね。」
などと聞いたらわけがわからなくて混乱していました。もちろん「おセンチ」は「5センチ」とは関係ありません。「短い」というイメージは湧きますが。「センチメンタル」を略したものに「お」をつけたものです。
それで思い出して米川明彦編『日本俗語大辞典』「おセンチ」を引くと、用例は1955〜56年の舟橋聖一『白い魔魚』からと、1956〜57年の石坂洋次郎『陽のあたる坂道』からのものでしたから、1950年代後半に、はやったのかもしれません。
ほかに「お〜」をこの辞書で探してみると、「おスペ」「おセンチ」「おフランス」「おニュー」の4語しか載っていませんでした。
「お」をつけて上品さを装うということは、実は「お」のついていない言葉の実態は(短縮されているぐらいですから)非常に「俗なもの」であるということで、そのアンバランスを楽しむという感じの言葉なんですかね、この「お」は。
2005/1/6

(追記)

既に似たようなことを書いていたのを見つけました。「平成ことば事情1434」の、
「おスパゲッティ」
です。2003年の10月、六甲のレストラン食事をした時の「お会計」の際に係りの人が、
「お会計ですが、お昼のコースがお二つ、それとおスパッゲティがお一つですね。」
と言ったのを聞いたのです。略して「おスパ」・・・とは言わない、言わない!!
「それにしたって、何でもかんでも『お』を付けなくてもいいんですよ。そう思いながら、『お釣り』を受け取ったのでした。」
と書いています。また、2004年8月には「平成ことば事情1858」では、
「お教室」
を取り上げています。こちらは「お+外来語」ではないですが、「お名前ペン」に通じるものがありますね。
2005/1/22

(追記2)

なんと「平成ことば事情902」でも「おニュー」というタイトルで書いていました・・・。
10月3日の朝刊に、敬語に関する文化審議会国語分科会の敬語小委員会の報告が載っていました。それによると現在「尊敬」「謙譲」「丁寧」の3つに分類されている敬語を、5つに分化する案を出した、と。「謙譲語」を2つに分けた上で、「丁寧語」の中の「お料理」のような「美化語」を区別したところがポイントのようです。その美化語の中に「おビール」などは入るのか?というのを調べる中で「おニュー」が出てきたのでした。
2006/10/6


◆ことばの話2029「1セグと地上固定」

最近、社内の会議などの席でよく耳にするようになったことばに、
「1セグ」
があります。
「ワンセグ」
と言うようです。略さずに言うと、「ワン・セグメント」。「1セグ放送」とか、そういう感じで使います。
これまでの普通のテレビではなく、携帯電話の画面で見られるテレビ放送、ということのようです。いわゆる「モバイル・テレビ」のことですね。
さらにそれに対応させて、今までの普通のテレビのことは、
「地上固定(テレビ)」
と呼ぶようです。新しいものが出てくることで、これまでのものの名前が変わるというのはこれまでにもあると思いますが、技術の進歩というものは、そうやって言葉(や名前)をかえていくのですね。
で、この前の会議で、この「1セグ」について説明をしていた担当部長(同期入社)は、
「ワンセグ」
と言っていたのに、次の週の報告では、
「いちセグ」
と言っていました。会議が終わってから、「どっち?」と聞いたところ、照れくさそうに、
「両方の言い方がある」
と言っていました。ということで、まだこれ自体、読み方が揺れているようです。

2004/12/23

(追記)

『放送研究と調査2005年1月号』(NHK放送文化研究所)の中の論文「地上デジタル放送の1年の動向と今後の展望」(鈴木祐司)によると、
「1セグ放送」とは「携帯端末向け放送のこと」
で、解説によると、
「地上デジタル放送は、現在アナログ放送の1chの帯域である6MHzを13に分割している。その1単位を1セグメントと呼んでいる。携帯端末向けの放送はこの1セグメントを使っているため、1セグ放送と呼ぶ。」
ということです。

2005/1/8

(追記2)

2005年9月28日の読売新聞朝刊に、
「9月27日、携帯端末向け地上デジタル放送を20006年4月1日から開始することを正式発表した」

という記事が出ていました。そのサービス名は、
「ワンセグ」
でした。読み方が決まったのですね。

2005/9/29


(追記3)

1月4日の読売新聞夕刊の芸能欄「エンターテインメントの未来」で、「ワンセグ」について満田育子記者が書いていました。その下の方に解説として、こうありました。
「ワンセグ」=「地上デジタル放送で1チャンネルの伝送に使う周波数帯域は13セグメント(区分)ある。このうち1セグメントを使い、携帯電話などに放送するのがワンセグ(正式名称・地上デジタルテレビ携帯・移動体向け放送)だ。専用の携帯電話がすでに発売され、NHK大阪放送局、読売テレビ、毎日放送が昨年から番組の試験電波を流し始めた。現行法と電波法ではワンセグも地上デジタル放送と同じ番組を配信することになっているが、制約を外してワンセグ用の番組を制作できるように総務省に要望している局もある。」
とのことです。
その一方で、1月4日の午前1時に見た、ケータイiモード配信の読売新聞によると、去年11月にワンセグ試験放送を見たという首都圏100人に調査を行ったところ、「ワンセグをとても見たい」という人が、過半数の53%いた反面、「ワンセグの名前も聞いたことがない人」が14%、そして「2006年4月からの放送開始を知っていた人」は30%に過ぎなかったということです。
実は、「ゲツキン!」のスタッフのF君が、すでにこの「ワンセグ・ケータイ」を購入したと聞いて、今朝初めて見せてもらいました。試験放送のワンセグの画面は思ったより小さいですが、思ったよりくっきりとした画像でした。アナログの現在のテレビ放送も映るのですが、これはアンテナの受信状況によって、綺麗に映ったり、映りにくかったりするみたいです。うーん、ちょっと欲しくなってきたなあ、ワンセグ・ケータイ。

2006/1/6



◆ことばの話2028「メンソールとメントール」

*皆さん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。この原稿は去年のうちに書いてあったものですが、今年(2005年)初めてアップするものです。

「平成ことば事情2017」で書いた、ラム酒の香りがするタバコ「ハイライト・メンソール」。「ラム酒の香り」以外にも、これで引っかかったのは、
「メンソールか?メントールか?」
という問題。原語の綴りは、
「menthol」
ですからこの
「th」
「ソ」と発音するか「ト」と発音するかという問題ですね。
12月4日のGOOGLE検索によると、
「メンソール」=4万3400件
「メントール」=6万0800件
ということで、ネット上では「メントール」が1,5倍、優勢ではあります。各国語辞典はどうなっているでしょうか?どちらかが見出しで解説もついて、どちらかは空見出しなのではないでしょうか?調べてみました。
『新明解国語辞典』=「メントール」
『三省堂国語辞典』=「メントール」
『日本国語新辞典』=「メントール」
『岩波国語辞典』=両方なし
『新潮現代国語辞典』=「メントール」
『明鏡国語辞典』=「メントール」
『広辞苑』=「メントール」。「メンソール」は空見出し。
『デイリーコンサイス国語辞典』=「メンソール」
『新聞用語集(外来語の書き方)』=記述なし
『読売スタイルブック2002』=記述なし
『共同通信社記者ハンドブック』=記述なし

「記述なし」の上記三冊は、「メントール」「メンソール」は載っていませんが、「サリチル酸」は載っています。参考までに。(これも表記は「サルチル酸」もありますよね。)

『新聞カタカナ語辞典』(読売新聞校閲部)=記述なし。「メンソレータム」は載っていたが。そのなかでは「メンソール」と使っているので「メンソール派」のよう。

『日本語大辞典』=「メンソール」。「メントール」が空見出し。
『日本国語大辞典』=「メントール」。「メンソール」は空見出し。

といった具合でした。辞書は「メントール」優勢のようですが、必ずしも巷はそうではないかもしれません。
どちらでも間違いではないということで、一応の決着です。
2004/12/24

(追記)
読者の大塚さんという方からメールをいただきました。それによると、
「mentholは、ある化学物質の名前で、化学用語を日本語に音訳するときには、thをタ行に代えるという規則があるために『メントール』が正式。methaneがメタンだったり、polyethyleneがポリエチレンだったりという例もある。学者でも『メンソール』という人も多く、こちらも間違いとは言い切れない。thの発音を聞いたときの音も、サ行のほうが近く聞こえる。『メントール』というのは『ハッカ』の学名『Mentha(メンタ)』から取れるアルコールという意味する。(アルコールを示す場合には語尾に-olをつける)」
とのことです。大塚さんはおそらくご専門の分野なのですね。どうもありがとうございました。

2005/1/8



◆ことばの話2027「マジョルカとマヨルカ」

セレッソ大阪の大久保嘉人選手が、スペインリーグの、
「マジョルカ」
というチームに移籍しました。ところが、この「マジョルカ」というチームがある島の名前を、新聞協会の『新聞用語集』では、
「マヨルカ」
と書くことになっています。共同通信の『記者ハンドブック』では、
「マヨルカ(マジョルカ)島」
と両用許容の形です。
というのも、この「Mallorca」の発音は、スペイン語の標準語と言える「カステーリャ語」では、
「マヨルカ」
なのですが、マヨルカ島があるスペインの南の地域では、
「マジョルカ」
と発音するのです。外国語の表記の元になるのは、原則「現地発音採用主義」としても、現地の標準語主義なのか、それともあくまで地元密着の現地音なのかというあたりは、結論は出ていないようなので、こういったことが起きます。例外も多いですし。
11月の新聞用語懇談会秋季合同総会でもこの表記の不統一の問題が出ましたが、結論は出ませんでした。特にスポーツ紙の委員からは、
サッカーの世界ではチーム名も地名も、昔から『マジョルカ』でやっている」
という声が出ていました。それを受けてでしょうか、12月19日のスポーツ紙5紙(ニッカン・報知・スポニチ・サンスポ・デイリー)に、大久保選手が現地で記者会見を開いたという記事が出ていて、そこでの記述は5紙とも、チーム名の「マジョルカ」はもちろんのこと、地名も、
「マジョルカ島」(もしくは「パルマデ・マジョルカ」)
でした。これに対して、その前後の日付の一般紙を見ると、
(読売・朝日・毎日)=「マヨルカ島」
(産経)       =「マジョルカ島」

でした。ただ、産経の記事は、「共同通信の配信記事」でした。(日経には記事が見当たりませんでした。)スポーツ紙と産経新聞は「マジョルカ島」とするみたいですね。
11月の用語懇談会の際はさらに、『世界の国一覧』では「マヨルカ」、『中学社会科地図』(帝国書院)では「マリョルカ」となっているという話も出ましたが、サッカー界においてはチーム名の地名も現地音主義で「マジョルカ」ですから、スポーツ紙はこの表記を変えないようですね。
今後も大久保選手の活躍とともに「マジョルカ」「マヨルカ」の表記にも注目です。
2004/12/20
(追記2)

大阪市立美術館で12月16日まで開催中の「BIOMBO 屏風 日本の美」という展覧会に行ってきました。なかなか興味深い展覧会でした。「屏風」はこの時代(特に安土桃山時代)における「メディア」であったという解説を読んで、「なるほど」と思いました。
そして、安土桃山時代の屏風にカラフルな世界地図が描かれた重要文化財の、その名も、
『世界地図屏風』
というのがありました。それを見ると日本列島の形は現在と随分違って描かれているんですが、インド、アラビア半島、地中海、ヨーロッパ、イベリア半島、アフリカ大陸などの形はかなり正確に描かれています。これには驚きましたが、それは実は、当時、海の交通が発達していたので、海岸線は把握されていたからではないでしょうか?また、海の道の拠点となる港とその周辺は重要なので誇張されて大きく描かれ、内陸部はよくわからないので小さく描かれていたということもあるのではないでしょうか。そんな気がしました。
その中で、イベリア半島の近くに描かれた「Mallorca島」には、ひらがなで、
「まよるか島」
と書かれていました。当時は「耳から入った外国語」だったと思われますので、発音を当時の日本人が聞くと「まよるか」と聞こえたのでしょうね。屏風のきらびやかさとともに、そんなところも気になりました。
2007/11/26
(追記3)

2010年12月16日の朝刊各紙に、セレッソ大阪の元日本代表MF家長昭博選手(24)がスペインのチーム、
「マジョルカ」
に移籍決定という記事が載っていました。
読売・朝日・毎日・産経、全て表記は、
「マジョルカ」
でした。
契約期間は2015年まで。家長選手は今年、セレッソ大阪で31試合に出場し、4ゴールを記録したそうです。また、当然のことながら記事には、
「マジョルカには過去に、J1ヴィッセル神戸のFW大久保嘉人も在籍した。」
とありましたが、大久保もマジョルカに行ったじの所属チームは、「ヴィッセル」じゃなくて「セレッソ」。そういうルートが、両チーム間にあるのでしょうね。
2010/12/16


◆ことばの話2026「フィブリノゲンとフィブリノーゲン」

C型肝炎の裁判関連のニュースを見ていたら、実に発音しにくい言葉が出てきました。
「フィブリノゲン」
です。以前は、
「フィブリノーゲン」
と伸ばして発音していた気もするのでその話をしたら、Hアナウンサーが、
「どっちかが物質の名前で、どちらかが製品名だったと思いますよ。」
というので調べて見ました。すると、
GOOGLE検索(12月9日)
「フィブリノーゲン」=5680件
「フィブリノゲン」= 7320件

「フィブリノーゲン」の方が「血液を凝固させる元になる物質」の名前です。
怪我をしたらできるカサブタは、血液中の「フィブリノーゲン」という酵素が酸素やリンパ液と科学反応を起こし「フィブリン」という繊維質に変わる事で出来る物体なのだそうです。この「フィブリノーゲン」がないと、血を止めることはできないのです。
一方の「フィブリノゲン」は、問題となった商品(薬品・製品)名。ややこしいですね。長音符号があるかないかだけのものを、商品名にするのはいかがなものかと思いました。C型肝炎の患者救済はもちろんのことですが、この名称も何とかしてくれないものでしょうか。

2004/12/9
 
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