◆ことばの話2000「ボンタンと文旦」
12月3日の「ズームイン!!SUPER」で、神戸のハーバーランドに、日本全国のスイーツを集めた名所、その名も「神戸スイーツハーバー」が誕生したというのを、現地から中継で、お姫様のコスチュームを身に着けた村上順子アナウンサー(本人いわく「プリンセス順子」。一瞬、「プリンセス天功」かと思いました。)が、やはりメルヘンチックに王子様の扮装をした国木田かっぱさん(「王子がっぱ」・・・ではなく「かっぱ王子」だそうです)とともにお伝えしました。会社に帰ってきた村上アナに、
「たくさんのスイーツを味わった中で、どれが一番おいしかった?」
と聞くと、
「私は最初に紹介した1個1000円の文旦(ぶんたん)を使ったケーキがおいしかったです。」
とのこと。ところでその「文旦」、「ボンタン」という柑橘類もあるけどどう違うのかな?と問うと、
「最初、スタッフはみんなボンタン、ボンタンって言っていて、お店の人に聞いたら文旦だって言ってたんですけど、やっぱり違うんですよね。ボンタンって、ヤンキーの高校生とかがはいてるズボンのことですよね?」
とお姫様らしからぬ発言。
「そのズボンとは別に、ボンタンって柑橘類もあるやろ。」
と言いながら『新明解国語辞典』で「文旦」を引いてみると、
「ぶんたん(文旦)」=ぼんたん。⇒ザボン。
とあるではないですか!えー、文旦とボンタンとザボンは、同じ物だったの?
そこで、「ぼんたん」を引くと、
「ぼんたん(文旦)」=ぼんたん。⇒ザボン。
とあります。これは「ザボン」を引くしかない。
「ザボン」=[ポルトガル語zamboaの変化]ミカン類のうちで最大の実をつける常緑高木。果肉はかおりが有る。西洋ナシ形のものを特にボンタンと言う。ザンボア。ミカン科。
そうだったのか!ザボンのうち「西洋ナシ形」のものを「ボンタン」と呼ぶのか。そうすると「ぶんたん」は訛りかな。
GOOGLE検索では(12月3日)、
「文旦」= 1万8000件
「ブンタン」= 5690件
「ボンタン」=1万5300件
「ザボン」= 1万0700件
「ザンボア」= 428件
でした。使用頻度は「文旦」「ボンタン」「ザボン」の順ですが、どれも1万件台。特に「文旦」と「ボンタン」は、ほぼ同程度使われているようですね。
なお「ボンタンアメ」は
「ボンタンアメ」=861件
「ブンタンアメ」=100件
「文旦アメ」= 0件
でした。
2004/12/3
(追記)
『1421中国が新大陸を発見した年』(ギャヴィン・メンジーズ著、松本剛史訳、ソニー・マガジンズ:2003)という本を読んでいたら、大航海中にビタミンCを補うのに、柑橘類の重要性を指摘した文章があり、その中にザボン(文旦)が出てきました。少し長いですが、引用しましょう。
「中国人は壊血病の危険とその予防法を熟知していた。柑橘類―ライム、レモン、みかん、ザボンーやココヤシもたっぷり積み込まれ、三カ月のあいだ病気を防ぐのに役立った。とりわけザボン(文旦・ぶんたん)は、紀元前五世紀から二世紀にかけての戦国時代からずっと重宝されていた。『公正で独創的な君主は知っておかなければならない・・・周の国はなんとしてもオレンジとザボンの木から富を得る必要がある。』」
ここでは「ザボン」と「文旦」が使われていました。
2004/12/6
◆ことばの話1999「こんちゃーす」
『週刊文春』の12月9日号に、女子プロゴルフ界のアイドル・藍ちゃんこと宮里藍選手に関する記事が出ていました。記事によると「挨拶などがきっちりできない」ということなのですが、そこに出ていたのは、藍ちゃんは先輩などへの「こんにちは」の挨拶を、
「こんちゃーす」
と言う、というものでした。この「こんちゃーす」、スポーツ選手や体育会系の人の挨拶としては、耳にしたことはこれまでにも何度もありますが、文字にすると、すごく新鮮と言うかゾンザイと言うか。
話し言葉が「文字」として固定されつつあるネットの世界では、どのくらいこの「こんちゃーす」が使われているのか、GOOGLEで検索してみました。(12月3日)
「こんちゃーす」=3480件
おお、まずまず使われていると言っていいんでしょうね。なんとなく「ゴンチャロフ」にも似てるという点ではロシア語っぽくもあるし、、こういう平仮名表記は沖縄語(ウチナーグチ)ぽくもありますね。少し表記を変えて、
「こんちゃーあす」
あるいは促音便にして、
「こんちゃーあっす」
としましたが、こちらはともに0件でした。ふむ。ちょっともう一度考えて今度はこんな風な表記で探ってみました。
「こんちゃっす」=8250件
おおお!「こんちゃーす」の2倍以上ヒットしたぞ!使われているんですね。
これは最初に書いたとおり、話し言葉の文字への固定がネット上では行われていることを裏付けることになるのではないでしょうか。最後に、これまでよく使われたぞんざいな挨拶と、ちゃんとした挨拶の件数は、
「こんちは」= 9万4500件
「こんちわ」= 7万9400件
「こんにちは」=736万件
てなことで、さいなら。さようなら。
2004/12/3
◆ことばの話1998「万事休す」
12月3日、日本テレビのワイドショー「情報ツウ」を見ていると、アメリカで、麻薬常習者の乗った車がパトカーに追いかけられて逮捕されるという様子を、上空から撮った映像を紹介していました。そのVTRを紹介していた女性のナレーターが、
「万事休す」
という言葉を、
「ばんじ・きゅうす(HLL・LHH)」
というアクセントで読んでいました。それを耳にした私の頭の中に浮かんだ文字は、
「万事急須」
でした。なんでこんなところに「急須」が出てくるんだ!やはりこれを読む時は、
「ばんじ・きゅうす(HLL・HLL)」(万事休す)
と読んで欲しいよな。きっと、ふだんこの言葉を使うことがないのでしょうが、「休す」を平板で読んでしまうと、「急須」になってしまいますよ。
『NHK日本語アクセント辞典』でも「休す」は頭高アクセント、「急須」は平板アクセントで載っています。知らない言葉のアクセントは、面倒でもアクセント辞典を引くクセをつけたいものです。
「休す」が「急須」になると、こちらも「窮す」。人間万事、急須。ばんじー・じゃんぷ。
2004/12/3
◆ことばの話1997「『まくしあげる』と『まくりあげる』」
Sキャスターからメールで質問です。
「シャツの袖は、『まくし上げる』と『まくり上げる』、どちらが放送に適当でしょうか?」
よくこんなにややこしいものを見つけてくるね、ほんとに。
「そりゃ、『まくりあげる』でしょう。『まくしあげる』は『まくしたてる』との混同じゃないの?」
と思って辞書(『岩波国語辞典』)を引くと、なんと、
「まくしあげる」
と出ているではないですか!例文は、
「袖をまくしあげる」
と、まさにSキャスターが聞いてきたのと同じシチュエーションのものが!ちなみに「まくりあげる」は見出しにありません。
なんと、「まくしあげる」の方が正しいのか!?と思って、今度は『新潮現代国語辞典』を引くと、やはり「まくしあげる」が載っていて、
「腕をまくしあげる」
という作例がありました。一方の「まくりあげる」も見出しにありまして、谷崎潤一郎の『少年』という作品から、
「まくりあげた着物の裾を」
という用例が出ていました。両方あるのか、と思って今度は『新明解国語辞典』を引くと、「まくしあげる」が見出しに出ていましたが、そこには、こう記されていたのです。
「『まくる』と『たくし上げる』との混合。(例)『そでをまくしあげる』」
とありました!やっぱり、「まくしあげる」は混合(混交)表現だったんだ。
で、「まくりあげる」はあるかなと見たら、見出しはなくて「まくる」の中の作例に、「上着を脱いで白いシャツの袖を捲り上げる」
「スカートを腰まで捲り上げた」
というものがありました。
『日本国語大辞典』も引いてみました。
「まくりあげる」
(1)まくようにしてあげる。まくって上方にあげる。まきあげる。
(2)追い上げる。高いほうへ追う。
用例は、12世紀の『梁塵秘抄』や14世紀の「太平記」から引いています。一方の「まくしあげる」は、
「まくしあげる」=まくって上へ上げる。上へ引き上げる。
で、用例は、1911年徳田秋声の『黴』(かび)、1915年正宗白鳥の『入り江のほとり』からで、『梁塵秘抄』、『太平記』に比べると、格段に新しい用例しか載せていませんでした。ということはやはり「まくりあげる」の方が古くからあって、「まくしあげる」は新しい表現と言えるのでしょうかね。
さて、もう一冊、最近出た『日本語新辞典』(松井栄一編・小学館)を引いてみると、
「まくりあげる」=巻くようにして上にあげる。まくしあげる。(例)着物の袖をまくり上げる
「まくしあげる」=まくって上へ上げる。まくってたくし上げる。まくりあげる。(例)袖をまくし上げる
とありました。ハハア、微妙に違うような。「まくりあげる」は「巻く」で、「まくしあげる」は「まくる」。
「たくしあげる」はどうだろうか。
「たくしあげる」=裾や袖などを、上の方に引き寄せて上げる。(例)セーターの袖をたくし上げる。
ふーん、引っ張って上げるような感じですね。ズボンの裾をたくし上げたり。
そうこうしているうちに、今度は「まくる」と「めくる」の違いについて気になってきました。これも『日本語新辞典』で引いてみると、「まくる」と「めくる」が<類語>として、その違いが例文の比較による表になっていました。
[表現例]
(まくる) (めくる)
A むしろを・・・ ○ ○
B 袖を・・て顔を洗う ・・・○
C 本のページを・・・ ○
1 この二語は、覆っているものを端から引き上げられるように動かす意をもつ点で共通する。Aの場合はどちらも使えるが、「まくる」だと、垂れ下がっているむしろを巻き上げる感じ、「めくる」だと平らに何かを覆っているむしろを端から引き上げる感じになる。
2 Bのように、袖については「めくる」は使いにくい。
3 Cのように、重なっている薄いものを一枚一枚はがすような場合には、「めくる」を用いる。
と記されていました。
「まくる」は、たとえば「食べまくる」「やりまくる」「読みまくる」などのように動詞の連用形について、「その行為を激しく継続的に行う」意味を表しますので、「めくる」よりも「まくる」の方が、行為そのものの程度が激しいようなイメージがありますね。「食べまくる」とは言っても、「食べめくる」とは言いませんからね。
この辞書は『日本国語大辞典』を編纂した松井栄一(しげかず)さんの手によるものなのですが、『日国大』には収めきれなかった分の類語の区別とか解説が、実に充実しています。それを読むだけでも「へぇー」と、ためになります。6300円と、ちょっと高いですが、私にとっては十分にその価値がある辞書だと思います。
2004/12/3
◆ことばの話1996「ビビンバかビビンパか」
休みの日にレンタルビデオ屋でビデオを選んでいると、先輩のMアナウンサーから電話です。
「ごめんね、お休みのところ。あのさ、韓国の料理のビビンバってビビンバが正しいの?それとも・・・」
「ビピンパか、ということですか?うーん、それは、たしか韓国・朝鮮語で『ビ』と『ピ』の区別はつきにくくて、日本人だと『ビビンバ』と濁るけど、現地の人や在日の人なんかは『ビビンパ』とか『ピビンパフ』とか発音して、そうカタカナ表記している店もありますよね。だから一般的には『ビビンバ』でもいいけど、もし紹介するお店が『ビピンパ』としていればそれに従えばいいんじゃないですかね?」
GOOGLEで検索(12月1日)したものを件数順で並べると
「ビビンバ」=15万7000件
「ビビンパ」=1万6600件
「ピビンバ」=7070件
「ピビンパ」=6050件
「ビピンバ」=3010件
「ビピンパ」=1070件
「ビビンパフ」=248件
「ピビンパフ」=28件
「ビピンパフ」=2件
で圧倒的に「ビビンバ」ですね。でも大阪の鶴橋なんかのお店に行くと、それ以外の記述も見られますね。たしかどこかでそれについて調べたものがあったな、と思って調べてみると、ありました、ありました、『放送研究と調査』の2003年5月号で、「平成14年度ことばのゆれ」全国調査の報告(山下洋子、宮本克美)があって、そこで「ビビンバ」についても調べています。この調査は全国2000人の老若男女を対象に行われた調査で、1374人から回答を得ています。それによると、まず対象の国語辞典107冊のうち、このことばを載せていたのは17冊だけで、そのすべての見出し「ビビンバ」で、説明としては、「ビビンバブ」「ピビムパプ」「ピビンバップ」などの表記も見られたそうです。
そして商品名では「ビビンバ」はあるけれども「加工食品品質表示基準」では「ビビンバ」の表記も見つけられず、厚生労働省と警察庁のホームページでは「ビビンバ」と表記されているそうです。
そして原音に近く発音すると、
「ピビンパップ」もしくは「ピビンパ」
だそうで、最初と最後が半濁音。しかしどうも濁音で定着してしまったようです。
このリポートによると、「クッパ」の最後の「パ」と、「ビビンバ」最後の音は、同じ韓国・朝鮮語である「パプ(pap)」で「ごはん」の意味だそうです。なぜ「クッパ」の「パ」が「ビビンバ」のように濁音にならなかったかについては、「ベッド」を「ベット」と言ってしまうように、促音の後の濁音は発音しにくいので、「クッパ」が「クッバ」にはならなかったのだろうと分析しています。
またなぜ「ビピンパ」「ビビンパ」という風にならずに「ビビンバ」と全部濁音になったかについては、半濁音と濁音の繰り返しは発音しにくいために、日本語で発音しやすい音に置き換えてしまったとも考えられる、と記しています。
また調査対象者のうち、このことばの「表記」に関しては、
「ビビンバ」=79%
「ビビンパ」=6%
「ピビンバ」=3%
「ピビンパ」=1%
「このことばを知らない」=8%
「その他・無回答」=4%
とのことで、8割近い人は「ビビンバ」という全部濁音の表記で認識しているとのことです。また、この言葉を知らない人が60歳以上では21%にも上るということも記されています。一方で若い人ほど「ビビンパ」を使っている(20歳代は10%、特に20歳代男性は14%)ということ記されていて、今後は「ビビンパ」が増えることも考えられると締めくくっています。今後も注目していきましょう!
2004/12/1
(追記)
ヨン様こと「ペ・ヨンジュン」さんの名前、ローマ字表記(英語、ということ)すると、「ペ」は、
「Bae」
でした。これだと「ベ」ではないのか?でも「平成ことば事情713プサンとブサン」でも書いたように、このあたりの音は、韓国・朝鮮語では、微妙なのでしょうなあ。
2004/12/4
(追記2)
JRの新長田駅前の焼肉屋さんの前を通ったら、
「石焼ピビンバ」
と看板に書いてありました。
2005/1/13
(追記3)
関連ですが、「あさイチ!グルメ」の取材で先日お邪魔した、大阪・吹田市の「秀一ラーメン」というお店のメニューでは、
「プルゴギ丼セット」
と、「ブル『ゴ』ギ」と全部濁っていました。普通は、「プル『コ』ギ」じゃあ、ないのかなあ。
韓国語は難しい!!
Google検索(7月7日)では、
「プルゴギ」=770件
「プルコギ」=6万4000件
でした。
2005/7/7
(追記4)
2006年8月に出た朝日新聞社の「カタカナ語辞典」の見出しでは、
「ビビンパ」
と最後は半濁音の「パ」でした。
2006/11/3
(追記5)
最近出た『大辞林』第三版を引いてみると、見出しは、
「ビビンパ」
で載っていました。半濁音。「ビビンバ」(濁音)は空見出しでした。「ビビンパ」の説明の中に、
「ピビンパプ」
「ビビンバ」
も載っていました。
2006/11/7
(追記6)
『おんなのひとりごはん』(平松洋子、筑摩書房:2009、3、20)所蔵の「ひとり焼き肉のハードル」の中に、
「ピビムパプ」
という本格的な表記が出てきました。
《「石焼きごはんはじめました!」
ふいを突かれ、カエデは立ち止まる。あわてて店の看板を探す。
「韓国料理 ムクゲの花」へえ、こんな店ぜんぜん知らなかった。気づかなかったよ。それにしても、石焼きごはんって石焼きピビムパプのことでしょう。》
Google検索(2009年6月10か)では、
「ビビンバ」 =135万0000件
「ビビンパ」 = 11万5000件
「ピビンバ」 = 5万1100件
「ピビンパ」 = 2万9000件
「ビピンバ」 = 4444件
「ビピンパ」 = 5080件
「ビビンパフ」= 242件
「ピビンパフ」= 120件
「ビピンパフ」= 10件
に対して、
「ピビムパプ」= 1070件
とやはり少数派でした。
2009/6/10
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