◆ことばの話1990「鉄亜鈴」
11月24日、茨城県水戸市で、19歳の少年が両親を鉄亜鈴で殴り殺すという悲惨な事件が起こりました。この事件の凶器の「鉄亜鈴」の表記が新聞によって違います。11月24日の各紙夕刊を見ると、
(読売)鉄アレイ
(朝日)鉄アレイ
(毎日)鉄アレイ
(産経)鉄亜鈴
(日経)鉄亜鈴
ということで、「亜鈴」と「アレイ」に分かれました。
これについては実は関連のことを「平成ことば事情1016ダミー」の追記に書きましたので、ちょっと引っ張ってきます。
(平成ことば事情1016の追記)
アメリカ・ボストン在住のIさんからメールをいただきました。
「『Dummy(ダミー)』というのは『dumb(ダム)』のことで、『唖=オシ』ですが、俗語では『バカ』という意味で使うことが多いです。ところで、ボディビルで使う『亜鈴』、英語では『dumbbell(ダンベル)』ですけど、これは『形がベル(鈴)にしているのに音がしない(=唖)』から、そう言うそうです。日本語でも昔は『唖鈴』と表記していたそうです。直訳ですね。」
ひえー、知らなかった!「ダンベル」は「ダム+ベル」だったのですか!
でも「亜鈴」の「亜」は「似ているけど違う」という意味もあるので、直訳の「唖鈴」よりは現在の「亜鈴」の方が良いでしょうね。 2003/2/8
ということでした。つまり「亜鈴」は本来の表記は「唖鈴」でその「口(くち)ヘン」が取れて「亜」になったと。それを産経・日経は使っているわけですが、他社はカタカナ表記で「アレイ」としたわけです。カタカナで書くと、英語のように感じますが、英語では上の追記に書いたように「ダンベル」ですから「アレイ」は英語ではありません。「アレイ」というふうに発音する(と思われる)英語には、
「alley」
があります。意味は、
「横町、裏道、細道、(ボーリングの)レーン」
などがあるようです(『デイリーコンサイス英和辞典』)。そういった英語があるから同じように、「亜鈴(アレイ)」も「英語なのでは?」と思ってしまうのかもしれませんね。
2004/11/25
◆ことばの話1989「生ヨン様」
ワイドショーで、「ヨン様」こと、「ぺ・ヨンジュン」さんが来日する(11月25日に来日)という話題を放送していました。その際、韓国の空港まで「生ヨン様」見たさに多くのファンが詰め掛けたと伝えていました。この、
「生ヨン様」
食べ物じゃないんだから。え?食いものにしている?それはちょっと意味が違う。
「こうやって『生』をつけ始めたのは、いつ頃からですかねえ・・・。」
とSアナウンサーが言います。
「さあねえ。『生足』ぐらいからじゃない?」
と答えると、
「そうじゃなくて、人の名前に、ですよ。『生ベッカム様』ぐらいからですかねえ?」
とSアナ。そう言えばなんかヘンですよね。そこでネットで検索してみました。(11月24日)
「生ヨン様」= 1340件
「生ベッカム様」= 197件
「生杉様」= 3590件
でもこれは「杉さま」(=杉良太郎)とは関係なさそう。「生杉ブナ林」だとか、「生杉建設」なんて会社名まで出てきたり・・・。「生杉さま」と「さま」を平仮名ににしたら、
「生杉さま」=2件
これは杉良太郎でした。「さま」を平仮名にして、もう一度検索しましょうか。
「生ヨンさま」=43件
なんだか「生コン」みたいに見えるな・・・。落ち着きが悪いから「様」と漢字にしているのかな。
「生ベッカムさま」=5件
これも名前がカタカナなので、漢字でサンドイッチにした方が、感じがいいんでしょうね。
でも、「生足」の連想から来たと考えると、女性ファンが追っかける男性タレントよりも、男性ファンが追っかける女性タレントの方が「生〜」は多いのではないでしょうか?
よし、では、
「生あやや」=2720件
「生優香」= 1590件
やっぱり「生ヨン様」よりも「生・女性アイドル」の方が、ネット上では件数が多い。
これに「様」をつけると、
「生あやや様」= 0件
「生優香様」= 0件
「生あややさま」= 1件
「生優香さま」= 0件
あやや・・・あいやー、アイドルに「様」は似合わないということでしょうか。このあたりが男性タレントへの接し方と女性タレントへの接し方の違いがあるのかもしれません。Nアナに「若い男の子に人気のあるアイドルは?」と聞いたところ、
「小倉優子ですね。」
と即座に返事が返ってきたので、それも検索。
「生小倉優子」= 161件
「生小倉優子様」= 0件
「生小倉優子さま」= 0件
「生あやや」の勝ち!ほかにどんなのがあるかな、「生○○様」。Hアナに聞くと、ニヤっと笑って、
「ありますよ、生瀬(なませ)様」
それは違うって!それは単なる苗字だろ!
あと、スポーツ選手はどうだろうか。
「生松井」= 482件
「生ゴジラ」= 117件
「生イチロー」=431件
件数から見ると、スポーツ選手よりもアイドルに付ける方が、多そう。しかも男性タレントよりも、女性タレントに対しての方が多そうだなという感じですかね。
2004/11/24
◆ことばの話1988「新世紀と世紀末」
2001年1月1日から21世紀・新世紀が始まって、はや丸4年を迎えようとしています。しかし、いまだになんだか21世紀になったという実感がありません。せいぜい携帯電話とカーナビに21世紀を感じるぐらいでしょうか。
日ごろからなんとなく、そう思っていたのですが、先日、ハタとこんなことを考えました。
「今はまだ21世紀ではないのではないか。つまり、まだ20世紀の続きなのではないか。だから新しい世紀という実感が湧かないのではないか。『00年代』は『80年代』『90年代』の続きで、『1900』が省略された『1900・2000年代』なのではないか。そして、100年前の1900年代の『00年代』でも同じような感覚で、『20世紀』ではなく『19世紀』の『世紀末』感覚があったのではないか。その時代のオーストリアの画家・クリムトなどは20世紀の画家のようだが、なんとなく『世紀末』の雰囲気を感じるのはそのためではないか。現在(2000年代)は、20世紀後半の揺り戻し・清算の時期なのではないか。」
どうなんでしょうか。1年でも1月に入ったばかりの時は、まだ年が変わった実感がないけど、2月に入ると、年が変わったのがしっくり行くような気がしませんか。そういう意味では、「21世紀だなあ」と感じるようになるのは、2010年を超えてからではないかと思う、今日この頃です。
2004/11/24
◆ことばの話1987「ボジョレ・ヌーボー2」
毎年11月の第3木曜日は、ボジョレ・ヌーボーの解禁日。今年は11月18日でした。
いつも楽しんでいるのですが、今年もけっこうなお味でした。「100年に一度」と言われた去年よりは、やや軽めでしたが。
さて、この「ボジョレ・ヌーボー」の表記が各社バラバラ。日本テレビ系列では、共同通信の記者ハンドブックと同じ、
「ボジョレ・ヌーボー」
ですが、日本新聞協会の『新聞用語集』には、
「ボージョレ ヌーボー」
と記されています。そして「ボジョレーの帝王」と言われるジョルジュ・デュブッフのワインを日本に輸入しているサントリーの表記は、
「ボジョレー ヌーヴォー」
です。ほかの会社についてもワイン屋さんなどで気をつけてみてみました。
「ボージョレ・ヌーヴォー」(=メルシャン:=アルベール・ビショー社から輸入)
「ボージョレ ヌーヴォー」(=キリンビール)
メルシャンとキリンは同じですね。
このあたりの話は、1999年に書いた「ことばの話54」をごらんください。
さて今回は、
「なぜ、こんなに表記にバリエーションが生じるのか?」
ということについて考えてみました。そして出た結論は、こういうことです。
「ボ」にアクセントがあるから「ボー」と伸ばして表記されがち。後半の「ヌーボー」が長音なので、バランスを取る意味で、前半の「ボジョレ」も「ボージョレー」となりがち。そして「ヌーボー」を「ヌーヴォー」というふうに「ウ濁」を使う理由は、この言葉が一番、人口に膾炙しているのが、「アール・ヌーヴォー」だから、それに引かれてではないか。また、普通に使われる「ボー」よりも、ちょっと凝った感じの「ヴォ」の方がかっこよく見えるので、広告コピーに使われるのではないか?
ということでした。いかがでしょうか?
ちなみに、GOOGLEでの検索結果(11月25日)は、
「ボジョレ・ヌーボー」=5万4300件
「ボージョレ・ヌーボー」=6万1100件
「ボージョレー・ヌーボー」=1万0100件
「ボジョレー・ヌーボー」=9万6000件
「ボジョレ・ヌーヴォー」=5万6000件
「ボージョレ・ヌーヴォー」=6万5400件
「ボージョレー・ヌーヴォー」=1万0400件
「ボジョレー・ヌーヴォー」=10万2000件
ということで、サントリー方式の「ボジョレー・ヌーヴォー」がトップでした。
2004/11/25
(追記)
久々の「ボジョレ」ネタです。
2007年の「ボジョレヌーボー」解禁は11月15日(木)。そのヌーボーが、関西空港にエールフランス機で到着したというニュースを読みました。各社の表現ですが、わたしと一緒に用語委員をやっている下尾雅之氏が調べてくれたところによると、新聞各社(5紙)は、新聞協会の用語集どおり、
「ボージョレ・ヌーボー」
で、テレビ局のサイトニュースでは、
「ボージョレ・ヌーボー」=NHK、ABC
「ボージョレ・ヌーヴォー」=MBS
「ボジョレ・ヌーボー」=YTV、KTV
だったとのこと。わたしがお昼のニュースで各社の字幕をチェックしたところによると、
NHK、MBS,KTV=「ボージョレ・ヌーボー」
でしたから、その記憶が正しいとすれば、MBSとKTVは放送とネットで表記が違うことになりますが・・・。どうなんでしょうか?
YTV(NTV)の表記は、新聞協会とは違いますが、共同通信とは同じです。共同通信の配信記事を元にもしネットのニュースを書いたのなら、YTVと同じになる可能性があります。地方紙などは共同通信の記事を載せることが多いので、YTVと同じ表記になっていることでしょう。
MBSの「ヌーヴォー」という表記は、映像で紹介していた「ジョルジュ・デュビュッフ」の表記としては輸入もとのサントリーさんが「ヌーヴォー」という表記を使っているのにならった、ということでしょうかね?いずれにせよ、15日の解禁が待ち遠しいです。
2007/11/9
◆ことばの話1986「棟・戸・軒」
今年は本当に、上陸台風が多かったですね。
10月末の関西用語懇談会の席で、委員の一人から、
「台風の被害家屋の数え方で、棟・戸・軒・世帯がバラバラに出てきているようだが、何か統一した基準はあるのだろうか?」
という質問が出ました。私は、
「集合住宅、たとえばいわゆる文化住宅などの場合は、1棟で4軒(戸)の家があって、そこに6世帯が住んでいることもあるので、一概に統一することはできないのではないか?」
と答えたのですが、その後、気になって調べてみると、『NHKことばのハンドブック』に、こう記されていました。
「家屋(一般)」としては、
「棟」=住宅、アパート、倉庫、工場
「戸」=(住宅建設の場合など)
「軒」=(例 3軒長屋)
「災害時の呼称」としては、
(災害時)
「棟」=住家、非住家とも
「軒・戸」=取材地で非公式の数字を示すときなど
(災害復旧)
「戸」=(例・架設住宅1000戸)
そこで、質問した委員の方にメールで「こんなのが載っていました。」とお知らせしたところ、メールが返ってきました。
『共同通信のハンドブックは、
「建物は『棟・戸』で数える。住居の単位としては『戸』または『軒』を使う」
とあり、例として、
「工場など五棟 住宅二十一棟を全焼 床下浸水百戸 住宅千戸を新築 精肉店、果物店など四軒 三軒長屋」
とあり、水害などは「戸」のようです。災害時のNHK基準とは少し違いがあります。
『数え方の辞典』では「戸」の項に、
「人の住む家(民家)人が住むために建てられた住まい(マンションの各部屋など)を数えます。建物のみは軒で数えます」
とあり、その(3)に、
「被害・調査の対象となる民家を数えます。この場合は、住人も被害にあったことを示唆します。『この地震で住宅十三戸が倒壊』 停電・断水といった、建物に直接及ばない被害は『世帯』でも数えます」
とあります。結局、「戸」か「棟」が妥当のようで、浸水や全半壊などの被害に「世帯」や「軒」はふさわしくないようですね。あとは、各社判断でしょうか。』
とのことでした。日本語というのは、一つのものに対しても微妙な意味の違い・意識の違いから、いくつもの助数詞が使われて、日本語を学習する人から見ると、
「なんてややこしくて難しい言葉なんだ!もうイヤ!」
となるかもしれません。それだけ奥が深い言葉ではありますね。
2004/11/24
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