◆ことばの話1930「聖歌か?讃美歌か?」
「ニューススクランブル」で、ドイツ・ベルリンからやってきた聖歌隊と、京都のお寺のお坊さんの「声明(しょうみょう)」の、「異種格闘技」のようなコンサートが開かれたという話題を取り上げていました。
グレゴリオ聖歌と同じような響きを「声明」が持っていることは、10年数年前に和歌山の高野山に行った時に感じました。それ以来、退屈な読経も音楽を聴いているかのように聞くことができます。ということは、読経のうまいお坊さんと下手なお坊さんがいることも、音楽的感覚でわかるということですが。グレゴリオ聖歌のポリフォニーに対して、「声明」はユニゾンのモノフォニーですが、その声の響きの厚みの中に倍音のようなものを感じることもありますし、十分に音楽的です。「ブルガリアン・ボイス」の不協和音にも通じるものがあるような気がします。
それはさておき、その特集の宣伝をしていたスクランブルの直前の番組で、
「讃美歌とお経の競演」
というようなコメントがあったのです。キリスト教は、
「カトリック=神父」
「プロテスタント=牧師」
であるのですが、それと同じように一般的には、
「カトリック=聖歌」
「プロテスタント=讃美歌」
と思っていたので、ベルリンの「聖歌隊」が歌うのが「讃美歌」という表現にちょっと引っかかりました。でも「讃美歌隊」というのはあまり耳にしませんねえ。
GOOGLE検索では(10月20日)、
「讃美歌隊」= 8件
「聖歌隊」=3万0700件
でした。やはり「讃美歌隊」とは言わないのです。なんでやろ?一方、キーワードを増やすと、
「聖歌隊、讃美歌」=1590件
「聖歌隊、聖歌」= 3540件
でした。また、
「聖歌、カトリック」= 5080件
「讃美歌、カトリック」= 1710件
「聖歌、プロテスタント」=1600件
「讃美歌、プロテスタント」=997件
でした。「聖歌」と「カトリック」の結びつきが強いことは、わかりますね。
また、教会関係者の方にでも聞いてみたいと思います、クリスマスまでに・・・。 2004/10/20
◆ことばの話1929「クロス」
サッカーで、サイドから真ん中にボールを上げたり送ったりする、いわゆる「ラストパス」のことを、昔は、
「センタリング」
と言っていたのですが、最近は、
「クロス」
と言いますね。Jリーグ発足の1993年以降、「グラウンド」「コート」が「ピッチ」など、サッカー関係の用語の見直しが行われましたが、この「クロス」もその頃からのものなのでしょうか。今は何の違和感もなく、
「クロスが上った!」
などという実況アナの言葉が耳に入ってきます。
でも、最近リフォーム関係の言葉で「壁紙」の意味の「クロス」もよく耳にするので、
「クロス」というとなんとなく、サッカー場に芝生の上に壁紙が張られているような、なんとなくヘンな錯覚?をしている私です。言葉の持つ「語感」というのは不思議なものですね。
でも、「クロス」と「センタリング」は、まったく同じなのかな。ちょっと違うような気もしますね。「クロス」は後ろから前線の真ん中に放り込む感じで、「センタリング」はサイドのかなり切り込んだ位置からゴール前に放り込む感じではないでしょうか。
なお、GOOGLEで、「クロス、壁紙」と「クロス、サッカー」「クロス、センタリング」を検索したら(10月20日)、
「クロス、壁紙」= 3万4500件
「クロス、サッカー」= 8万5600件
「クロス、センタリング」= 9530件
でした。
2004/10/20
(追記)
テレビ新広島のアナウンサー石原敬士さんという方、去年の秋にお手紙をもらいました。「センタリング」と「クロス」に関して、サッカー中継の仕事の中でどういうふうに使っているかという情報です。それによりますと、石原さんは入社以来サンフレッチェ広島の取材を続けていて、Jリーグ発足当時、サンフレッチェ国際担当(当時)の伊藤庸夫氏から、
「『センタリング』という言葉は和製英語であり、世界では通用しない。ペナルティエリアに向かってボールを入れるプレーはすべて『クロス』と言うのが、世界的に通用する用語だ。」
と教えてもらったということです。
それ以来、石原さんは「センタリング」は使わずにすべて「クロス」と言っているとのこと。また系列のテレビ局(フジテレビ系列、FNNですね)の用語会議でも、そのことを議題で提出したことがあるそうです。ただ、そのときには各局のアナウンサーによって解釈・理解が違ったそうですが。
石原さん、系列の枠を超えてお便りありがとうございました!すぐに「追記に載せていいですよ」と連絡をいただいておきながら、お手紙を大事にしまっておきすぎて”行方不明”にしてしまったために、追記することもままならず掲載が遅れたことを、正直にここでおわびいたします。(読んでくれてるかな?)
今日、部屋の机の掃除をしていて、いただいたお手紙を4か月ぶりに発見したので、また書類の山に埋もれないうちにと追記したのでした。これに懲りず、今後ともよろしくお願いしますね。
2005/3/9
(追記2)
負けてしまいました、イラン戦・・・3月25日のワールドカップアジア最終予選・第2戦。イランはたしかに強かったけど、勝てなくはなかったと思います。
さてその中継をしていたテレビ朝日の田畑アナウンサーですが、前半の37分に加冶選手からクロスが上がった時に、
「センタリング」
と言っていました。テレビ朝日では「クロス」と「センタリング」を使い分けているのでしょうか?それとも「クロス」を使わずに「センタリング」を使っているのでしょうか?それとも、ついうっかり「センタリング」と言ってしまったのでしょうか?
気になっているうちに前半が終わってしまったのでした。
2005/3/27
(追記3)
クロスとセンタリングに関する記述、わたくし、以前に読んでいたことに気づきました。
井上ひさし『にほん語観察ノート』(中央公論新社:2002、3、28)の17ページから20ページ、割と冒頭の方に、こう載っていました。
Jリーグが発足する前年の1992年、日本サッカー協会が各地域で優秀な選手を強化する際に、強化委員長の加藤久さんが用語統一を行ったというのです。
「なによりも興味深いのは、加藤さんたちの最初の仕事が、用語の統一だったことです。相手のゴール近くへ駆け上がってきた見方に向けて、右や左からボールを蹴り込むことを、それまでは『センタリング』などと言っていたのですが、それを『クロス』という言葉に統一する。パスをもらう際に円を描くように動くことすべてを『ウエーブ』という言葉にまとめた。『体を寄せる』を『アプローチ』に、『当たれ』を『チャレンジ』に言い換えることにした。『外国人指導者から、いきなり英語を使われ、何を言われているか分からないままでは先に進めない』(加藤さん)からでした。」
ということで、用語の統一は1992年に行われたということです。
2005/6/23
(追記4)
古新聞が出てきました。2004年10月14日の産経新聞スポーツ欄、サッカーのワールドカップ・アジア1次予選の対オマーン戦で、日本が1対0で辛勝した試合の記事。
「中村 完璧クロス」
という見出しがありました。記事には、
「美しい放物線だった。後半7分、中村は左サイドに流れて小野からのパスを受け、鈴木の頭にピシャリ、合わせた。」
とあります。
2005/11/11
(追記5)
またまたちょっと古新聞。2008年1月7日の読売夕刊にJリーグのガンバ大阪・安田理大選手(当時20歳)が、「初夢2008」ということでインタビューを受けていました。その記事のタイトルが、
「魂のクロス 北京で」
というもので、本文中にも、
「北京のピッチに立てるよう頑張ります。『魂のクロス』を上げますよ。」
と「クロス」を使っていました。安田選手はたしかその後、今年はA代表でピッチにも立ったと思いますが、北京でも頑張ってくださいね!
2008/7/10
◆ことばの話1928「日本プロ野球組織か?日本プロ野球機構か?」
ペナントレーズよりも日本シリーズよりも注目を浴びた球界再編。ストーブ・リーグもそれが一番の関心の的です。日本球界初の選手会のストも行われましたが、その選手会と対峙しているのが、
「日本プロ野球組織」
です。しかし、以前は、
「日本プロ野球機構」
と言っていた気がするのですが。この二つは同じ組織なのでしょうか?それとも別の組織なのでしょうか?
新聞を調べると、すべての新聞が、
「日本プロ野球組織(NPB)」
となっています。ただ一紙、朝日新聞だけが、
「日本プロ野球組織(NPB=日本プロ野球機構)」
とあるではないですか!(9月24日付)やっぱりこの二つは同じものだったんだ!
じゃあ、途中で(と言うか、いつのまにか)名称が変更されたってことかな?それなら、なぜ朝日新聞は、カッコ内に「日本プロ野球機構」と書いてあるんだろうか?
うーん、謎は深まるばかりです・・・。どなたか、ご存知の方、お教えください!
2004/10/20
(追記)
と、呼びかけたら、さっそく「ご存知の方」からメールをいただきました。
なんと、フジテレビの「EZ!TV」の関係者の方で、いつも「平成ことば事情」を読んでくださっているとのこと。どうもありがとうございます。でも、ネタはパクらないで下さいね。・・・冗談です。
さて、その方が調べたところ(中日新聞の「時のことば」というサイト)によると、「日本プロ野球組織」は、
「セントラル野球連盟とパシフィック野球連盟、およびその構成球団から成り、プロ野球を統括する。代表者としてコミッショナー、各連盟会長を置く。最高議決機関は実行委員会。オーナーの承認が必要な事項はオーナー会議で審議される。決議事項を下に、野球協約を定める。運営面を担うこの組織とは別に、社団法人日本野球機構があり、日本シリーズやオールスター戦を主催。選手年金の資金などを稔出する。NPB(Nippon Professinal Baseball)とは2つの組織の統一呼称。」
ということです。
つまり、選手会の交渉相手は「日本プロ野球組織」であり、それとは別に、日本シリーズやオールスター戦を主催する社団法人の「日本野球機構」というのがあると。こちらには「プロ」という言葉は入ってなくて、なぜかこの二つの団体の英語での名前は「同じ」なんですね。「日本野球機構」はしっかりとしたサイト(=ホームページ)を持っていますが、「日本プロ野球組織」のサイトは見当たりません。
また「時事用語のABC」というホームページでも、「日本プロ野球組織」について記しています。それによると、「日本プロ野球組織」は「日本のプロ野球を担う運営組織」で、コミッショナーを中心に、各球団から出されたオーナーとともにプロ野球の運営にかかわる事項を審議し、正式名称は、日本プロフェッショナル野球組織。セ・パ両リーグの構成球団は、日本プロ野球協約に従って日本プロ野球組織を作っていて、その目的は、野球の権威および技術に対する国民の信頼を確保するところにあるそうです。そして、日本プロ野球組織に新規に加入してプロ野球のゲームに参加するには、その資格があるかどうか、実行委員会で審議されるとのこと。ライブドアと楽天の2社が申請を行ったのも、この「日本プロ野球組織」だったんですね。わかりました。
2004/10/27
◆ことばの話1927「ヘリコ」
台風22号の中継で和歌山に出たYアナウンサー。交通に関する情報を伝える中で、
「和歌山を発着するヘリは欠航です」
といったように聞こえました。中継の中でいきなり「ヘリ」はないだろ、省略せずにちゃんと「ヘリコプター」って言えよな、と思いそのとおりメールで伝えると、Yアナから返ってきたメールには、こう書かれていました。
「すみません、聞こえづらかったと思うんですが、『フェリーが欠航』とリポートしたんです。いつも早口になってしまうのでゆっくり伝えようと思ったのですが・・・」
なーんだ、「フェリーが欠航」かあ。そうは聞こえなかったぞ。語尾の長音をキッチリ伸ばさないから「フェリが欠航」=「ヘリが欠航」に聞こえたんでしょうね。
ところで、ヘリコプターのことを略して「ヘリ」というのは一般的なのですが、なぜか読売テレビに入ってから耳にする省略形は、
「ヘリコ」
というものです。これはなんでなんだろうか?あまりよそでは聞かないような気がするんだけど。GOOGLEで「ヘリコ」「ヘリコプター」の2つをキーワードで検索したら、
588件ありました。結構使われてるんだな。
テレビ局では「テープレコーダー」を「テレコ」と略して言うので(これもヘンな略し方)、それと似た感じがするなあと前から思ってたんですけどね。どうなんでしょうか、ヘリコ。
2004/10/20
(追記)
「キネマレコーディング」を略して、
「キネコ」
または、
「キネレコ」
とも言うとのこと。つまり「テープレコーダー」が「テレコ」となるのも、それと同じですね。そのあたりからの類推で、「ヘリコプター」が「ヘリコ」となったのでしょうかね??
2007/2/21
◆ことばの話1926「れ足す言葉2」
ことばの話161で書いた「れ足す言葉」、追記6まで書きましたが、この辺で改めて・・・、項目を立てて書いてみようと。
9月29日の朝のニュースに出てきた、今シーズン限りでチームが消えてしまう、プロ野球パシフィックリーグの近鉄バファローズ、大村選手のコメント。
「近鉄で教えてもらったことを、生かせれるように頑張りたいと思います。」
ということで「生かせる」ではなく「生かせれる」という「れ足す言葉」でした。なんかこの「れ足す言葉」、スポーツ選手がよく使うような気もするんだけどなあ。
そしてさらに、10月3日、イチロー選手の大リーグの年間安打記録更新を受けて、テレビのインタビューに答えた、神戸のファンの若者(男性)の一言が、
「夜も寝れれんくらい楽しみにしてたんで嬉しいです」
これを耳にしたSアナウンサーは私に、
「イチロー新記録の影で、ら抜きもここまで来たかという話題。テレビインタビューを受けた神戸の若者が吐いた言葉。『寝れん』っていうのは『ら抜き』だが、『寝れれん』って何?ら抜きの関西風変形版?」
という質問メールを送ってきました。私は落ち着いて、
「『寝れん』プラス『れ』の『れ足す言葉』やね。特に驚くにあたらず。」
というメールを返したのでした。以上、「寝れれん滞在記」でした。
2004/10/19 (追記)
タレントの新山千春さん(23)が、プロ野球・読売巨人軍の黒田哲史内野手(29)と年内にも結婚することが明らかになりました。そのニュースが10月21日に流れ、会見した新山さんがインタビューの様子が、22日の「ズームイン!!SUPER」で放送されていました。その中で新山さんは、こう言っていました。
「何見ても幸せですし、何見ても笑顔でいれれるし。」
「れ足す言葉」ですね。ちなみに新山さんは、1981年1月生まれ、出身地は青森県になっています。
2004/10/22
(追記2)
久々の追記です。2006年4月22日に読売テレビで放送した、JR尼崎事故から1年の特別番組。その中でVTR出演した、頭に50針縫う怪我をした書道教室の先生・土田佐美さんが、
「思えれる」
という「れ足す言葉」を使っていました。
「悪い方に思えば、いくらでも悪い方に思えれるんだけど」
という言葉でした。
2006/4/22
(追記3)
2007年8月2日午後11時50分頃、日本テレビ「ニュースゼロ」にVTRの中で出てきた内山和幸さんという方は、生後2か月で心臓手術した美幸ちゃんのお父さんです。この人が、
「手術をしないと生きていけれない」
という風に、「いけれない」と「れ足す言葉」を話していました。
中日新聞のサイトによると、
『静岡市葵区の静岡県立こども病院(吉田隆実院長)は(8月)1日、心臓に3つの重度の先天性疾患を併せ持って生まれた赤ちゃんへの手術に成功したと発表した。病院では「世界で今まで救命された例はない」と説明している。赤ちゃんは、生後2カ月になる浜松市東区、会社員内山和幸さん (47)の長女美幸ちゃん。無事、同日の退院を迎え、担当医らとともに記者会見した内山さんは「正直、半分あきらめなければならないのかと思った。無事に退院できて奇跡がたくさん重なったと思うほどの気持ち」と喜びを語った。』
と書かれています。内山さんは静岡県は浜松の方なんですね。美幸ちゃんは、手術が成功してよかったです。
2007/8/10
(追記4)
7月21日に大阪市中央公会堂で開かれた「日本の未来―子どもを考える」という読売新聞大阪発刊55周年記念事業の一つであるシンポジウムの、第2部のパネル討論「いま、子どもたちに伝えたいこと」で、パネリストの一人で『バッテリー』などの作品で少年を描く作家・あさのあつこさんが、
「1997年神戸のサカキバラ事件から少年は『心に闇』を持っているとマスコミを中心に広がってしまった。そうではないということをあらわすために『バッテリー』で原田 巧という少年を書いた。」
などと発言をされていましたが、その中で、
「生きていけれない」
という「れ足す言葉」を使ってらっしゃいました。あさのさんは岡山のご出身。現在も住んでらっしゃるということで、岡山の言葉では「れ足す言葉」はあるのだなあと思ってメモを取りました。
2007/8/14
(追記5)
2008年3月9日、北京オリンピックの女子マラソンの代表の座をかけた名古屋国際女子マラソンが行われ、期待されていた高橋尚子選手は、まさかの27位に終わりました。新星・中村友梨香(ゆりか)選手(21)が優勝、北京オリンピック代表となりました。
その模様を伝えた翌日の番組『情報ライブミヤネ屋』の中で、レース途中の様子を聞かれた、高橋選手の出身中学の後輩の男子中学生は、折り返し点を越えたところで、こう答えていました。
「後半抜かせれるように頑張ってほしい」
おお、「抜かせれる」!やはり岐阜県の言葉では「れ足す言葉」なんですね!さすが、Qちゃんの後輩ですね!
2008/3/10
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