◆ことばの話1865「ドカン系」
アナウンス部で話をしている時に、女性アナウンサーの一人が、
「ドカン系」
という言葉を口にしました。
「何?それ?ドカン系って?」
と聞くと、どうやら建設作業員の人のことを「ドカン系」と言っているそうなのです。
以前、大工さんとか左官屋さんとか、建設労働者のアルバイト雑誌で
「ガテン」
というのが創刊された頃に、
「ガテン系」
のアルバイトなどという言葉は聞きましたが、「ドカン系」は初めてです。なんで「ドカン」なのか?まさか「土管」では?子供の頃、はらっぱや空き地に積んであった土管の中に入ってよく遊んだことなどが思い出されました。彼女の造語なのでしょうか?
「ドカン系」をGOOGLEで検索してみると、90件ほど出てきましたが、「ドカン系」だけでなく「クドカン系」などというのも拾ってしまって、あまり正確な数字ではありません。その中で「ドカン系」に当たるようなものは、
「指の部分はカットした手袋(グローブ)」
や、ちょっと不良の高校生がはいていそうな、
「真ん中が異様に膨らんだズボン」
といったファッションが「ドカン系」と呼ばれているようです。ごく一部で使われている言葉のようですね。そう言えば、
「ボンタン(ズボン)」
というのもあったような気がするな。はいたことはないけど。
2004/8/12
◆ことばの話1864「麗芝」
漢方薬にも使われるキノコ、
「麗芝(レイシ)」。
マンネンダケ科なのだそうです。健康食品の広告などでよく見かけますよね。その収穫の様子が、8月10日の読売テレビのお昼のニュースで紹介されていました。その原稿の中で、
「麗芝は、サルノコシカケとも呼ばれ・・・・」
という一文が出てきました。
えっ!麗芝って「サルノコシカケ」だったの!知らなかったあ・・・。
「麗芝」を辞書で引いてみたところ・・・『明鏡国語辞典』『岩波国語辞典』『新潮現代国語辞典』『新明解国語辞典』には載っていませんでしたが、『広辞苑』には載っていました。
「麗芝」=(1)マンネンタケ(万年茸)の漢名。瑞草とされる。(2)霊妙な働きのあるきのこ。
とありました。「マンネンタケ」のことは出てきましたが、「サルノコシカケ」とは出てきません。今度は「マンネンタケ」を引いてみましょう。
「万年茸」=担子菌類。広葉樹の枯木の根元に生える。腎臓形、傘・軸ともに赤褐色・赤紫色または暗褐色を呈し、漆のような光沢があり堅い。古来、乾して麗芝(れいし)と称し、床飾りとして愛玩する。サイワイタケ。芝草。」
とありましたが、ここにも「サルノコシカケ」は出てきません。では「サルノコシカケ」を引くと、
「サルノコシカケ(猿の腰掛)」=担子菌類サルノコシカケ科に属する木質のきのこ。樹幹に半円形または疣(いぼ)状で棚状に生え、厚くて堅い。上面は褐色、同心円状の紋を具え、下面は白色。木材を腐朽させる害菌。細工物を作る。
とあって、どこにも「マンネンタケ科」とは出てきません。ネットで調べたところ、
「麗芝は、サルノコシカケ科マンネンタケの一種」
というふうに書いてありました。
ということは、サルノコシカケというのは、随分と種類があって、そのうちの一つに「麗芝」があるということですかね。
ちなみにこのニュースを最初に聞いた時に、Sアナウンサーは、
「え?レイシってキノコなの??」
と思ったそうです。というのも、
「レイシ」=「ライチ」(草冠の下に刀を3つ書く漢字+枝)
だと思っていたからだそうです。
2004/8/13
◆ことばの話1863「勇気をもらいました」
アテネオリンピック、卓球の愛ちゃんこと福原愛選手。惜しくも4回戦で敗れてしまいましたが、15歳でよくがんばりました。その試合を見た人がインタビューに答えて口にした言葉が、
「勇気をもらいました」
というもの。しかし、そんなに簡単に勇気ってもらえるものなのかな。他人(ひと)から簡単にもらった勇気は、もらった途端にジュジュッと消えてしまうのではないのかな。そもそも「勇気」って、人からもらうものなのか?自らの中に湧いてくるものではないのか?最近、よく耳にするこの言葉に対する疑問は、以前書いた「安易な"感動"の量産」とつながるものがあります。めったにないから「感動」し、めったに湧いてこないから「勇気」と名づけられているのではないでしょうか?
そういった「感情の大量生産」は、感動や勇気の価値を低めていると思うのは、私だけでしょうか?
アテネ五輪に湧くこの時期だからこそ、あえて、記しておきます。
2004/8/19
(追記)
『日本語どっぷり抜き差しならぬ』(鈴木芳樹著、新風舎:2004,6,18)に「イヤ〜な言い方『〜をもらった』」(444〜446ページ)という項がありました。そこで紹介しているのは、新潮社のPR誌『波』(2003年12月号)に赤瀬川原平さんが書いた「選択肢という言葉が嫌な理由」というコラムで、その中にはこう記されているそうです。
「勇気をもらった、とかいうのも非常に嫌な言葉だ。これも評論テーストというか、あらかじめ公的ニュアンスみたいなものが、言葉の陰に隠れていて、それが嫌なのだ。公的というか、一般ウケという。あらかじめ物語を作ってしまっている」
そして鈴木氏は、地方紙の投書欄(2003年4月から6月)に、
「桜に元気をもらい 春の日を満喫」
「今も勇気くれる なき母親の笑顔」
「がんの祖父から 元気もらう」
「孫の運動会で 元気もらった」
「元気もらえる 子供のポエム」
と、「元気をもらう」を5本見つけたそうです。そして、
「素朴な善意で書いておられるわけで、文句をつける筋合いではない。『〜をもらった・もらう』『〜をくれた・くれる』とは、単に『元気づけられる(た)』『勇気づけられる(た)』というよりも今ふうなのではあろう。」
と結んでいますが、私は赤瀬川氏と同じく「嫌な言い方だ」と感じています。
2004/8/21
(追記2)
早稲田大学の飯間浩明さんが、この「勇気をもらいました」を、1月28日にご自分のブログで「勇気はもらえるか」と題して取り上げてらっしゃいます。それによると、ここ7〜8年ほどで、急激に新聞での使用例が増えたのだそうです。
http://yeemar.seesaa.net/article/12422967.html#comment
それによると、主要4紙(読・朝・毎・産)の中で、最初に「勇気をもらう」が出たのは、「朝日新聞」1988年1月24日の「声」欄に載った次の投書だそうで、その後、90年に1例、93年に1例という具合であまり使われていなかったのが、96年に10例に達したあたりからどんどん増えてきて、2001年には3けたの103例、そして、05年は、4紙を通じて249例も使われていたそうです。
2006/2/8
◆ことばの話1862「カラス族」
8月4日の日本テレビの「ニュースダッシュ」で、青森ねぶた祭のニュースを放送していました。その中で
「カラス族」
という言葉が出てきました。サイドスーパー(字幕)は、
「カラスハネト逮捕」
青森ねぶた祭で踊る若者を「ハネト」と言うそうですが、傍若無人に暴れて捕まった若者たちが
「カラスハネト」「カラス族」
と言うんですね。「カラス族」というと、黒づくめのファッションに身を包んだ若者のことかと思っていたんですが。「カラスハネト」というのも「はねる人」から来ているのですかね?「カラス族」をGOOGLE検索すると、
「カラス族」=846件
ありました。(8月20日)
また、梅棹忠夫の『日本語の将来』という本を読んでいると、
「わたしは戦後派のローマジストでございます。」
というのが出てきました。ローマ字を使いそれを広げようとする自分を指して、
「ローマジスト」
と言うのですね。これはGOOGLE検索(8月20日)では、「ローマジスト」は、なんと、たったの1件しかありませんでした。その使われ方は、
「梅棹氏は自称ローマジストであった。ローマ字運動という「ローマ字を日本の国語にしよう」との志のもと、手紙からなにからすべてをローマ字タイプライターで打ち出していたほどの人であった。」
というものでした。ちなみに「カラスハネト」は282件でした。そのナカの「カラスハネト」に触れているものを読むと・・・
「20年ほど前から衣装の一部のはずの花笠やガガシコをつけない若者が増ふえ出し、以降、タスキの色が紫や黒を付ける若者、浴衣の丈を異常に短くしてミニスカート風にする女性などが出てきました。そして、いつからか黒い衣装を身にまとう若者が現れ、それがカラスハネトと呼ばれるようになっています。
最近にいたっては、さらに様々な服装が出没し、その数もかなり多く膨れ上がり、衣装にとどまらず、掛け声や踊り方もおよそ本来のねぶたのとは違ったものになっており、深刻な状況となっています。中には、カラスハネトのあまりの多さに、正装だと勘違いする観光客までいる始末(以下略)」
とありました。やはり黒いから「カラス」なのですね。でも「カラス族」と「カラスハネト」は違うと思うけどなあ。
2004/8/20
◆ことばの話1861「足をつっている」
「あさイチ!」の番組のスポーツコーナーで、Oアナウンサーがスポーツ新聞を読んでいる中で、
「ディフェンダーが足をつっている」
といいました。あれ?それって、「足をつっている」ではなくて「足がつっている」ではないかな?と思いました。でも、ときたま「足をつっている」という表現を耳にすることもあります。
しかし「足をつっている」というと、たとえば、
「足を骨折して天井から足をつっている」
ような感じで、「足の筋肉が引きつった状態である」のを示すにはやはり「足がつっている」だと思うのですが、いかがでしょうか?
GOOGLE検索してみました。(8月13日)
「足がつっている」=139件
「足をつっている」= 58件
「足がつる」= 4350件
「足をつる」= 569件
やはり、「足がつる」の方が8倍以上「足をつる」よりも使われていますね。
ただ「足をつる」というコメントは、先日のサッカーアジア・カップで優勝した日本代表のフォワード・玉田選手のコメントとして、次のように報じられたものです。
「玉田:自分の中に余裕が出てきた。試合ではどう崩すかを考えた。1点目はGKとの1対1。2点目は相手が疲れたのでぶっちぎってやろうと思った。土肥さんが11番と17番が足をつっていると教えられてたので狙ってた。」
なんだか間違って使われていると思うのですが、こうやって誤用は拡がるのかな、とも思います。もしかしたら、どこかの方言では、そういう使い方をするのかもしれませんね。
2004/8/19
(追記)
やっぱり出てきました。2006年1月9日の読売新聞のiモードでニュースを見ていたら、高校サッカーの記事で、
「DFが足をつり」
とありました。これって、
「足がつり」
だろ!と思わずケータイの小さな画面に向かって突っ込みを入れてしまった私です。「足を」だと「目的語」のように思えます。足がつるのは、自分の意志とは関係なしに体力の限界(?)で生じる現象なので、「目的語」として「足」が出てくるのはいかがなものかと。まるで釣り堀に行って「魚を」つるみたいです。
それにしても、なんで「ディフェンダー」ばかり「足をつる」のだろうか?
2006/1/10
(追記2)
「足をつる」のは、ディフェンダー(DF)ばかりではないようです。フォワード(FW)も「足をつる」ようです。
日本時間の7月10日、午前5時半過ぎ、2006ドイツ・ワールドカップ決勝「イタリア対フランス戦」を、NHKの衛星第一テレビで見ていたら、延長前半、フランスのFWアンリ選手が足を痛めたようでした。その様子を実況アナが、
「足をつったんでしょうかね。」
と言っていました。解説の井原正巳さんも、
「足をつる」
と言っていました。なんだか釣り糸の先に、足が引っかかってきたような、そんなイメージが、頭から離れません。思わず「頭突き」をしてしまいそうです・・・。
2006/7/11
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