◆ことばの話1730「らあめん」

「あさイチ!」の番組内の「あさイチグルメ」のコーナーで紹介していたラーメン店、名前の表記が、
「らあめん」
でした。普通は「ラーメン」ですよね。でも時々、個性を出そうとして「らあめん」と書いてある店も見かけます。どのくらい使われているのでしょうか?いつものようにGoogle
で検索!(5月25日)
「ラーメン」=280万  件
「らーめん」=12万   件
「拉麺」=   1万9200件
「らあめん」=   9850件
「ラアメン」=    115件
ということで、一番多い表記はもちろん「ラーメン」、続いてひらがなで「らーめん」、そして漢字を使った「拉麺」、その次に「らあめん」が来ます。9850件というのは、そこそこある、ということですが、「ラーメン」の280万件に比べると280分の1以下ですから、微々たるものと言えるでしょう。
ということは逆に、「らあめん」という表記が個性を持っているということになりますから、使う側としては自信を持ってPRができるのではないでしょうか。
なんとなくですが、「拉麺」はちょっと高級な中華料理店で食べるもの、一般的ないわゆる「ラーメン」は、そのまま「ラーメン」、そして「らあめん」と書くと「和風らあめん」のような気がします。たとえば「京風」のラーメンは「京風らあめん」>「京風ラーメン」のような気がするけど・・・どうでしょうか、調べてみましょう。
「京風らあめん」= 8件
「京風ラーメン」=649件
「京風らーめん」=329件


「和風らあめん」= 218件
「和風ラーメン」=3400件
「和風らーめん」= 661件

ということで、やはり「ラーメン」という普通の表記が多いものの、特に「和風らあめん」は健闘しているように思えます。漢字は中国の物、カタカナは外国の物、ひらがなは日本の物という感覚が「らあめん」にも反映されているのではないでしょうか。

2004/5/25



◆ことばの話1729「水死と溺死2」

3年前(2001年)の4月、神戸市北区で、当時小学2年生の男の子が家の近くのため池で水死するという痛ましい出来事があり、当時は「事故」とされたのですが、この小学生の両親が、目撃者の上級生の母親を相手取って民事裁判を起こし、その判決が今日(2月25日)言い渡されました。上級生の母親に2600万円を支払うように命じるものでした。
このニュースの中で、亡くなった小学生の死因を「水死」としていたのですが、それを巡って、また「水死」と「溺死」の違いについて考えました。これは以前(去年11月)、「平成ことば事情1483」でも考えたのですが、今読み返すと、ちょっと突っ込みが足りないような。


この小学生の場合は、冷たいため池の水に中に入ったことで心停止したので、水は飲んでいないため、「溺死」ではなく「水死」でいいのですが、私が今回考えたのは、こういうことです。
「溺死」はまさに「溺れて死ぬ」だから、泳ぐことができなくて死んでしまうわけです。「泳げない」には、(1)もともと泳ぐことができない。いわゆるカナヅチである、というケースと(2)本当は泳げるのだが、何らかの理由で泳げなくて溺れる、というケースが考えられると思います。
(1)の溺死は、普通に考えられるケースですね。(2)は、例えば水泳のオリンピック選手が簀(す)巻きにされて海に放り込まれたケースなどが考えられます。
また、同じく水泳のオリンピック選手が車ごと海に飛び込んでしまった場合も、脱出できなければ「泳げない」状態です。もちろんこれは、「あくまで仮定」の話ですが。この場合、(1)も(2)も「溺死」にあたると思います。
これに対して、例えば、風呂場で30センチぐらいの深さしか水を張っていないところに、頭を押さえつけられて窒息して死んだ場合は、「泳ぐ」という行為とはまったく無関係ですから、あきらかに「溺死ではなく、水死」になります。
以前書いたように、大きなくくりとしての「水死」があって、その範疇に「溺死」が入るというのはそのとおりだと思います。
こういった事件・事故が、二度と繰り返されないように祈ります。

*ずいぶん前に書いたのに、載せるのが遅くなってしまいました。

2004/2/25



◆ことばの話1728「材木と木材」

よく似た言葉で微妙に意味が違う言葉というのはありますが、二文字の言葉で文字がひっくり返って、見た目は逆さまだけど意味はよく似ている、似ているが微妙に意味が違うという言葉もあると思います。
さて、表題の「材木」と「木材」の場合はどうでしょうか?
『広辞苑』を引いてみると、
「材木」=建築・器具製作の材料として製材した木。(例)「材木商」
「木材」=切って種々の用にあてる材料の木。ざいもく。(例)「建築用木材」

うーん、おんなじ、と言っても過言ではないなあ。ただ(例)の「材木商」は「木材商」とは言わないような木が・・・いやいや気がします。
『新明解国語辞典』ではどうか。
「材木」=家・器具などに、すぐ使えるように木の皮を剥(ハ)ぎ、適宜の長さ・大きさに切ったりひいたりしてあるもの。角材・板材など。(広義では、丸太も含む)
「木材」=(鉄材・石材などと違って)建築や器具の材料としての木。(例)「木材パルプ」

あ、そうか、わかったぞ!「木材」は、「材」の種類・室・素材を表しているのに対して、「材木」は紛れもなく「木」で、それが何かの「材(料)」になっていることを表しているんだ。だから「木材」の方は「鉄材、石材とは違って」と書かれているけれども、かえってそれによって、同じ「材」の仲間であることを示しているんではないでしょうか?「ダンボール材」とか「ダイヤモンド材」とか、「素材+材」で「○○材」という言葉は、いっぱい仲間がありそう。
これに対して「材木」の仲間は「材でない"木"」。つまり「雑木」とか「燃料木」(あるのかな、こんな言葉)とか「枯れ木」とか、そういった「用途・種類+木」で成り立っているような木がします・・・だから"気"だってば。いかがでしょうか?
♪このー木なんの木、気になる木!♪

2004/5/21



◆ことばの話1727「オノ・おの・斧」

5月18日、鳥取県倉吉市で、盗んだ自転車に乗っているところを見つかった15歳の中学3年生が、叱られるのを恐れて、刃渡り13センチのオノで母親を襲って重傷を負わせ、殺人未遂容疑で逮捕されるという事件が起こりました。(長い1センテンス!悪文の見本!!)
その事件を報道した5月20日の各紙朝刊の見出しを見ると「オノ」の表記がバラバラです。
(読売)オノ
(毎日)オノ
(朝日)おの
(産経)おの
(日経)おの

でした。カタカナ派とひらがな派に真っ二つに分かれました。
結局「斧」という漢字が「表外字」のために表記を、カタカナ・ひらがなどちらにするか?という話ですね。
これと似たような話では、以前、「くわ・クワ・鍬」(「平成ことば事情1224」、2003年6月4日)に書きました。その時の各新聞の表記は
(読売)クワ
(産経)クワ
(朝日)くわ
(毎日)くわ
(日経)鍬

ということで「斧と鍬」、ともに「カタカナ」だったのは読売、どちらも「ひらがな」だったのは、朝日。そのほかの3紙はバラバラです。
     《鍬》   《斧》
(読売)カタカナ   カタカナ
(朝日)ひらがな   ひらがな
(産経)カタカナ   ひらがな
(毎日)ひらがな   カタカナ
(日経)漢字     ひらがな

でした。日本語ってホントにバラエティに富んでいますねえー。今度「鉈」が出てきたら、各紙、どうするか注目です。「なた」「ナタ」「鉈」、どれでしょうか。「鋤」も「すき」か「スキ」か。たまーに、こういった農具が紙面に登場しますが、それは農作業に関するニュースではなく、農具が"凶器"として使われたケースが多いのが、残念なのですが。

2004/5/21

(追記)

7月15日、大阪府羽曳野市で73歳女性が「斧」で殴られて重傷を負ったという事件がありました。翌日の朝刊に載っていた凶器の表記は、
毎日「オノ」
産経「おの」

でした。

2004/7/16

(追記2)

7月16日、このニュース(追記で書いた羽曳野の事件)を伝えたテレビ朝日のお昼のニュースのスーパー表記は、ひらがなで、
「おの」
でした。ちなみに、平成ことば事情1571「ナタとオノ」もお読みください。

2004/7/18



◆ことばの話1726「ワンコ」

犬のことをかわいく、
「ワンコ」
と呼ぶことがありますが、先日Sアナウンサーから、
「なんで、ワンコって言うんでしょうね?」
と聞かれて、
「そりゃあ、もちろん『ワン公』から来てるんだろ」
と答えました。昔は「ワン公」の方がよく聞いたと思うのですが、このところ、「ワンコ」が出てきた気がします。そこでいつものようにGoogleで数調べ。(5月17日しらべ)
「ワンコ」= 10万7000件
「ワン公」=    2810件

おお、圧倒的にネットでは「ワンコ」だ!でも「ワンコ蕎麦」の「ワンコ」も入っているかも知れないので、キーワードを増やして調べると、
「ワンコ・犬」=6万1100件
でした。これでもやっぱり相当多い。
『広辞苑』『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』には「ワンコ」も「ワン公」も載っていませんでした。俗語だからね。そこで「梅花女子大学の米川明彦先生の『日本俗語大辞典』を引くと、「ワン公」は載っていました!
ワンこう(ワン公)」=犬を少し嘲って言うことば。(例)『はみ出し銀行マンの乱闘日記』第5章(1992年)〈横田濱夫〉「このワン公(たいていプードルだとかテリアみたいなチンケな犬)」
やっぱり「俗語」だったんですね。ちなみに「ワンコ」は、「ワンコールの略。ワンギリに同じ。若者語。」という意味でしか載っていませんでした。
同じように、ネコのことも「ニャンコ」と言いますね。これも調べました。
「ニャンコ」=  4万0800件
「ニャンコ・ネコ」= 9550件
「ニャンコ・猫」=1万9700件
「ニャン公」=     299件
「ニャン公・ネコ」 =  37件
「ニャン公・猫」=   100件

「ニャンコ」は「ワンコ・犬」の、3分の2ぐらいですね。「ニャン公」とは言わないですよねえ。「ニャンコ」には愛情を感じます。かわいい感じ。マンガ「いなかっぺ大将」にニャンコ先生というキャラクターが登場するのを思い出したぞなもし。
あと動物で有名なのは、
「エテ公」
ですね。おサルさん。Googleの数しらべでは(5月21日)、
「エテ公」=1550件
「えて公」= 322件
「エテコー」=137件
「エテコウ」=545件
「エテコ」= 268件

でした。ネット上では犬やネコより少ないですね。
「○○公」という形で思い出すのは、学生がセンセイのことを嘲って言う「センコー」「先公」ですね。
「先公・センコー」=341件
「先公・センコウ」=341件

なんだか、ぞんざいな言葉を口にしたい気持ちになってきました。

センコーがよお、オレのスケを連れて行きやがってよお。この「スケ」、俗語辞典で調べると、実は、
「ナオスケ」
の略なんだそうです。「ナオスケ」というのは、女(オンナ)をひっくり返した(倒置した)「ナオン」+「スケ」。「スケ」は「人」のことなんだそうです。へー、知らなかったなあ。勉強になりました。
こんな言葉も目にしたことがあります。
「ズベ公」
スケバン(女番長)のようなイメージ。『日本俗語大辞典』によると、「ズベ」は「スベタ」からきているようです。その「スベタ」は、元はポルトガル語の「espada(剣)」だというから驚くではありませんか。ほら、トランプの「スペード」ですよ。まさかそんな語源だとは。うーん、言葉は奥が深い。

*(注)決して「ウ」と読まないでください。「ワ」ですから。

2004/5/21

(追記)
アメリカはボストン在住のI先輩からメールです。

ワンコのコの問題について。あの「コ」は、接尾語としての「コ」ではないでしょうか。手元の古語辞典によると、「こ」(子・児・卵)の項に、接尾語として、1)親愛な者の意「夫子(せこ)」「我妹子(わぎもこ)」など、というのが載っています。
また、広辞苑にも、「こ」(子・児)の項に、「小さなもの、劣ったものの意で添える語。「ひよこ」「猿(しま)こ」「娘っこ」、とでています。また、同じ広辞苑に別項目として、「こ」《接尾》というのがあって、三番目の定義に「特に意味を持たず種々の語につく。東北地方の方言などに多い。「牛(べこ)この子っこ」「ちゃわんこ」「ぜにこ」、と載っています。(私としては、「ひよこ」も「ちゃわんこ」も、みな古語の接尾語としての「こ」と同じだと思いますが)ですから、わんこの「こ」も、接尾語としての「こ」だと考えますが、いかがでせうか。ネコのこも、「眠る(ネ)+こ(可愛いもの)」であるという説も聞きます。
(ついでにいうなら、「ちんこ」の「こ」も同じことではないかと・・・・(-_-;)


ということです。なるほど、「ひよこ」とか「どじょっこ」「ふなっこ」も「こ」、付きますね。そういう考えも成り立つと思います。
I先輩はメールで、さらにここには書けないようなお話を書いてらっしゃいましたが、・・・紹介はやめときます・・・。

2004/5/27

(追記2)

♪やっとこやっとこくりだした・・・・でおなじみの「おもちゃのマーチ」。最近、1歳7か月の娘によく歌わせられます。そこで気づいたのですが、この中にこんな歌詞が。
「人形の兵隊 せいぞろい お馬もわんわも ラッタッタッ」
ということで、「犬」のことを「わんわん」ではなく、
「わんわ」
なのです。「わんこ」という言葉は、まだこの曲が出来た当時はなかったのでしょうか?作詞者は海野 厚さんで、1923年(大正12年)に東京日日新聞(現在の毎日新聞)で発表されたそうです。字数の関係で、「わんわん」の最後の「ん」が落ちたのでしょうかね?たしかに子どもの言葉を聞いていると「わんわ」と聞こえることもありますからね。
2006/9/8
(追記3)

11月22日徳島市で、それまで6日にわたって眉山の急斜面のコンクリート壁から降りられなくなっていた犬が救出されるというできごとがありました。それを報じた各紙夕刊の見出しは、
(読売)「斜面に孤立 犬5日ぶり救出」
(朝日)「わんこセーフ」
(毎日)「命な救出劇」
(産経)「高さ40メートル”崖っ縁”の迷い犬救出」
(日経)「高さ70メートルに孤立 5日ぶり犬救出」
朝日新聞が「わんこ」を使っていました。また毎日は「懸命な」という意味のダジャレで「犬命な」
という表現を使っていました。しかし、これが、取り残されていたのが「人間」ならば、こんなダジャレは使わないであろうことを考えると、やはり人間と犬では扱いが違うのだなあ、とちょっと思ったのでした。
また、犬が救出されたコンクリート壁の高さが新聞によって違います。
(読売)高さ約50メートル付近
(朝日)地上50メートル付近
(毎日)高さ50メートル付近
(産経)高さ40メートル
(日経)高さ70メートル
うーん、ずいぶん開きがあるような。およそ「50メートル」と書いた社が3社なので、そのあたりが正しいのかな。70メートルというのはちょっと高いようですが、いかがでしょうか。
2006/11/24
 
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