◆ことばの話1605「垣間見せる」

読売テレビでは、2月21日、阪神タイガースの紅白戦の様子を、高知県は安芸市から中継しました。天気も良くお客さんもいっぱいで、今年期待の新人・鳥谷選手や新外国人のキンケード選手など、見所もいっぱいでした。
紅白戦の様子以外にも、そういった注目選手の紹介のVTRも放送していました。その中で、ある選手についてのナレーションに、こんなフレーズが。
「○○選手は、やる気を垣間見せていた。」
それを聞いたHアナウンサーが、ひとこと。
「ダメじゃないの、それじゃあ。」
え?どういうこと?なんでダメなの?あ、「垣間見える」ならいいけど「垣間見せる」という表現がおかしいのか、と聞き返すと、
「いえ、垣間見せてるぐらいじゃあ、やる気はあんまりない、ということでしょ。もっと外にわかるようなものでないと、『やる気がある』とは言えないんじゃないですか?」
そ、そうかあ。たしかに時々ポッ・・・、ポッと見えるぐらいのやる気では「ない」のと同じですもんね。
なんか「垣間見せていた」なんて表現はかっこよさそうだけど、使い方によっては、せっかくやる気がある選手のことを、やる気がないように表現してしまうことにもなりかねませんからね。
気をつけないといけませんね。
2004/2/24





◆ことばの話1604「ミスターとドン」

2月20日、元通産大臣の自民党の山中貞則氏がなくなりました。82歳でした。
その訃報を伝えた翌日(2月21日)の各紙の見出しが、微妙に違います。

(読売)ミスター税調
(朝日)税調の「ドン」
(毎日)山中元通産相
(産経)「税調のドン」元通産相
(日経)元通産相、自民税調に影響力


ということで、読売は「ミスター税調」としていますが、朝日・産経は「税調のドン」です。毎日と日経は「元通産相」という役職を中心に、日経は具体的な内容を見出しにも少し書いています。
ミスターとドンはともに影響力を持つ点で似ていますが、聞いた時・見た時の感じは、随分違います。
「ミスター」というとやはり思い出すのは、長嶋茂雄氏。「ミスター・ジャイアンツ」「ミスター・プロ野球」というふうに、
「その団体・業界を代表する看板スター」
という気がします。
これに対して「ドン」で思い出すのは、元巨人軍監督の川上哲治氏や、小佐野賢治氏など、「その業界を裏で牛耳っている黒幕・フィクサー」
のようなイメージがあります。
米川明彦編『日本俗語大辞典』(東京堂出版)で「ドン」を引くと、
「ドン」=(スペイン語・イタリア語Don)狩猟。ボス。」
とあり、用例は、
「(暴力団の)直系組長の総長(ドン)」「関西マフィアのドン」「医師界の首領(ドン)」
など。
つまり読売は「ミスター税調」と山中氏を盛り立てているのに対して、朝日と産経の「税調のドン」は、やや批判的な見方で山中氏をとらえていると言えるでしょう。はっきり言って「ミスター」だと「良い者(いいもん)」ですが、「ドン」だと「悪者(わるもん)」みたいです。ベビーフェースとヒールのような。
見出しは端的に表さなきゃいけないので、エキスがにじみ出てくるということでしょう。
いずれにせよ、大きな影響力を持っていたことは間違いないようです。ご冥福をお祈りします。
2004/2/21




◆ことばの話1603「ほど近い」

2月16日、NHKの午前の料理番組で、京野菜を取り上げていました。その中で、
「市街地からほど近い」
という表現があり、ちょっとひっかかりました。
「以前、『ほど遠い』とは言うが『ほど近い』というのはおかしいのではないか?」
という疑問を聞いたことがあったのを思い出したのです。私自身は、それほど気にならなかったのですが、人にそう言われると、気になるものです。
GOOGLEで検索しました。
「ほど近い」=4万0100件
「ほど遠い」=9万4500件

それで、「ほど」を漢字の「程」にしてみると、
「程近い」= 2万8300件
「程遠い」=10万2000件

という結果でした。ともに「ほど遠い」「程遠い」の方が、よく使われています。そういう意味でも聞きなれているのは「ほど遠い」「程遠い」の方でしょう。しかし「ほど近い」「程近い」も数万件と、決して少ない件数ではありません。かなり使われている、一般的な言葉と言えるでしょう。

これを見ていて思ったのですが、「ほど近い」「程近い」は、「物理的な距離」の時に使うのに対して、「ほど遠い」「程遠い」は、ある物事「程度」を表すのに使われているのではないか?ということです。
具体的に言うと、「ほど近い」(程近い)は、
「京橋駅からほど近いマンションに住んでいます。」
「清水寺から程近いこのお店には」

というような場合に、また「ほど遠い」(程遠い)は、
「その状況では、まだ完成にはほど遠い」
「現状は、理想には程遠い状態だった」

というような具合です。つまり「ほど遠い」は、もともとは物理的な距離を表すのに使われていたのが、そのうちに程度を表すのにも使われるようになったのに対して、まだそれほど使われていない「ほど近い」は、物理的な距離を示すものに留まっているのではないか、という推測ができるのではないでしょうか。ということは、そのうちに「程近い」も程度を表す表現に使われるようになるかもしれませんね。
2004/2/24



◆ことばの話1602「しばかり」

家で新聞を読みながら夕食を食べていると、妻が、
「もう!新聞なんか置いて!夕食は家族が話をしながら楽しく食べるものなのよ!」
と言うので、
「昔々、あるところにおじいさんと・・・・」
と「話」を始めると、6歳の息子が、
「その"話"と違う!!」
と、しっかり突っ込んでくれました。メデタシメデタシ・・・・じゃなくて、ふと思ったので、妻に、こう聞いてみました。
「おじいさんは山に『しばかり』に行くけど、この『しばかり』って具体的にはどんなことをすると思う?」
「え・・・しばを刈るんでしょ。」
「だから、『しば』って、どんなの?どういうふうに刈るの?」
「こうやって、ガーッて『しばふを刈る』んじゃないの?」
と、「芝刈り機」で芝生を刈るようなかっこうをしました。
やっぱり!
そう考えていましたか。もしかすると、妻だけではなく、若い人はみんな、おじいさんがするという「しばかり」を、「芝生を刈る」と思っているのではないか?
そう思って会社で聞いてみました。
すると30代半ばのMアナとUアナという、中堅の女性アナがともに、
「芝生を刈る」
と答えたではないですか!さらに、担当している「あさイチ!」という番組の若手スタッフ(20代前半)10人ほどに聞いたところ、やはり半数のスタッフは「芝生を刈る」と答えました。
そりゃ、しょうがないことかもしれません。いまどき大阪で、「しばかり」をやっているおじいさんを見かけることはありませんし、もちろん自分も体験したことがない。かろうじて子どもの頃、絵本で「しばかり」をしているおじいさんが、かごを背負って、たきぎを拾っている姿を見たことがあるかないか、ぐらいですからね。
ちなみにおじいさんの「しばかり」の「しば」は漢字で書くと「柴」、お庭の「しばかり」や、サッカー場の「しば」は漢字で書くと「芝」です。違うのです。桃太郎の時代、まあ、室町時代と考えると(「御伽草子」だから)その時代に「芝」は無いんじゃないのかな、日本に。鬼が島にはあったかも知れませんけど。『新明解国語辞典』によると、
「柴」=(たきぎに適した)雑木(の小枝)
「芝」=野原に自生する多年草。茎はつる性で細長く、地面をはう。繁殖力が強いので、土手や庭園などに植えて芝生とする。(イネ科)。

とありました。

この話を、新人のAアナ(女性)にしてみました。
「なあなあ、『桃太郎』の話の『でだし』を話してみて!」
「え?桃太郎ですかあ?・・・♪もーもたろう、ももたろさん」
「なんで歌いだすねん!『話』をしろって言ったやんか。しかも歌詞、間違ってるやないか。なんで最初は『桃太郎』と呼び捨てで、2回目は『さん』付きなんや!」
「あ、お話ですかあ。えーっとぉー、むかしむかしぃー、あるところにぃー、おじいさんとぉー、おばあさんがいてぇー・・・」
「『いてぇー』って、続くンかいな、一旦、切らんかいな!『いました』や!」
「じゃあ、『いました』。それでぇー、おじいさんは山にぃー・・・食べ物を探しに行きました!
「!?食べ物を探しにいきました、だあ!?」
「違いましたっけ?」
「違うに決まってるやろ!それじゃ、オレがしようと思っている質問が、できへんやないかあ!!」
ということで「しばかり」の「しば」とは?という質問ができませんでした・・・・・。さらに「お話」は続きます。
「おじいさんですかあ・・・何をしに行ったんだろ・・・?」
「じゃあ、おばあさんからいこか、おばあさんは?」
「川へ洗濯?」
「そうそう。それで、なんか拾ったでしょ。」
「拾いましたっけ?」
「拾っただろが!大体、桃太郎は何から生まれたの?」
「えー、『桃太郎』ですよねえ・・・『竹から生まれた桃太郎』」
ガックシ。
「竹から生まれたのは『かぐや姫』や!混同しとるやろが!!」
「あ、そうか桃太郎は女・・・じゃなくて男でしたねえ・・・。」
話が先に進みません。「花し」が「咲き」に進みません・・・花咲かじじい。はなさんか、じじい。
しょうがないので、こちらから、「おじいさんは山に『しばかり』に行ったが、その『しばかり』とはどういう行為を具体的に指すのか?」と聞くと、
「たきぎ拾いですよね。」
と、意外にも今度はちゃんと一回で正解を言い当てました。
「そ、そうだよ。それでいいんだよ・・・つまんないな。」
「なんでですかあ!正解だからいいじゃないですかぁー!!」
いいんだけどサッ!
「じゃあ、『桃太郎侍』は知ってる?高橋英樹さん主演の。」
これはまあ、知らないとは思ったんですけど。彼女が生まれる前のドラマだし。
「えー、なんでしょうかモモタロウザムライ・・・・ゲームボーイですか?」
「ちゃうがなちゃうがな、ドラマやがな。知らんかあ、『ひとぉーつ、人の生き血を吸い、ふたぁーつ、不埒な悪行三昧。みぃーっつ、醜いこの世の鬼を、退治てくれよう桃太郎!!』」
桃太郎侍に代わって退治てくれようかと思ったその時、笑いながらそれを聞いていた若手のYアナウンサーが突っ込んでくれました。
「それって、もしかして『桃太郎伝説』とまちがってるんじゃないですか?」
ゲームのソフトに「桃太郎伝説」というのがあるそうです。それはこちらが知らなかった。
そのうちに「桃太郎」は知らなくても「桃太郎伝説」は知っているという若者が、街にあふれるんでしょうねえ・・・って、もうあふれていたりして。
おじいさんは「しばかり」に、それを知らなかった若者は「シバカレ」に・・・ 。
2004/2/21

(追記)

川へ洗濯に行ったおばあさんが「おなら」をしてしまったために、山へ柴刈りに行ったおじいさんは、「柴を刈らずに、くさかった(草刈った・臭かった)」というようなおならし・・・ではなくてお話もあります。

*平成ことば事情1117「吾輩は・・・」も、あわせてお読みください。

2004/2/23

(追記2)

Yアナから突っ込みが入ったゲームの名前、「桃太郎伝説」ではなく、
「桃太郎電鉄」
だそうです。O田アナウンサーから指摘がありました・・・・・そういうふうに「訂正」しようとして、念のためGOOGLE検索で「桃太郎電鉄」「桃太郎伝説」を調べたところ、どちらのゲームもありました!あぶない、あぶない。「伝説」を「電鉄」に訂正するところだった。その上、Yアナに「カツゼツが悪いから聞き間違えたやないか」と文句を言うところだった・・・。O田アナは「桃太郎電鉄」は知っていたけれど「桃太郎伝説」は知らなかったということです。
人の話を鵜呑みにしないで確認をすることを忘れてはいけませんね。

2004/3/12



◆ことばの話1601「質屋か質店か」

(『読売テレビ放送用語ガイドライン(2001年)』に書いたものからの引用です。)

先日、宝石窃盗グループが逮捕されたというニュース原稿に「質屋」という言葉が出てきました。そこで、過去に読売テレビのニュース原稿で「質屋」が使われた例と、「質店」が使われた例を検索してみました。
すると、1996年の12月から2001年2月までに、
「質屋」は18回
「質店」は11回

使われていることが分かりました。「質屋」の中には「神戸質屋協同組合」のような固有名詞が、半分含まれていました。また、整理回収銀行の元社長・中坊公平氏本人のインタビューの中の言葉として記録されているものもありました。中でも、最初の原稿では「質屋」になっていたものをオンエアーの段階では「質屋さん」と「さん」をつけて訂正した原稿もあり、気遣いぶりが伺えます。
今回の原稿は、当初「宝石店や質屋から」となっており、「宝石店」が「宝石屋」ではなく「店」になっているのに、「質屋」は「質店」ではなく「屋」だったので、整合性も考えて「宝石店と質店」と「店」に統一しました。
余談ですが「質屋」の発音は関西では「しちや」ではなく「ひちや」が普通です 。

2004/2/20


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