◆ことばの話1470「二升五合」
先月、大阪市内の中学校の先生方に呼ばれて、「人に伝える話し方」というたいそうなタイトルで、話をさせてもらいました。その「お疲れさん会」にもお呼ばれして、気持ちよく解散という段になって、ほろ酔いの先生方がお店の外に出た時に、誰ということなく、その店の名前が書かれた看板を見て、
「これ、なんて読むのかなあ。」
という話になりました。そこには、漢字七文字で、
「春夏冬 二升五合」
と書かれていました。
「『春夏冬』は、『秋』がないから『アキナイ=商い』やろうけど、『二升五合』は『ニショウゴンゴウ』じゃあ、あまりにも、そのままやしなあ。」
へへへ、実は私は知っていたのです、この読み方。勿体をつけることもなく、
「ああ、それは、『ますます はんじょう』ですよ。」
「え?なんで?」
「『二升』は升が二つで『ますます』、『五合』は一升の半分で『半升=はんじょう=繁盛』という語呂合わせですね。『商い ますます 繁盛』です。」
「へえー」
ということで、私の株が上がったのです。これは以前、たぶん金田一春彦さんの本で読んでいたのと、以前通っていた大阪大学の近く(阪急石橋駅付近)に「二升五合」という名前のお店があったのを見かけて印象に残っていたので、覚えていたのです。
次の日、少し得意げな気持ちで会社に行き、お昼ご飯を食べるために近くをぶらついていると、なんと会社のすぐ近くの京橋にも、前の日に先生方といった店のチェーン店と思しき「二升五合」という名前のお店が新たにオープンしているではありませんか!「燈台、下(もと)暗し」ですねえ・・・。
2003/11/6
(追記)
この話を、飲み会の時にしたら、
「二升は、一升の倍だから、『升倍=しょうばい=商売』ではないか?」
と言われました。あ、そうか、そういうのも「あり」だな。その場合は「春秋冬」は、いらないことになりますね。やっぱり、「升升=ますます」があったほうが強調されていいかな。
2003/11/25
(追記2)
この話、どこで覚えたのかわかりました。武庫川女子大学の佐竹秀雄先生が書かれた『サタケさんの日本語教室』(角川ソフィア文庫)の200ページ、まさにタイトルが「春夏冬二升五合」という項がありました。それによると、
「一斗二升五合」
というのもあって、これはなんと読むかというと、「一斗」は「五升の倍」なので、
「ご商売ますます繁盛」
なんだそうです。ますます面白いですね。
2003/12/4
(追記3)
ひやあ、なんと6年ぶりの追記です。
『政権力〜一国のリーダーたる器とは』(三宅久之、青春新書)という本を読んでいたら、出てきたのですよ、「二升五合」が。139〜140ページに、著者の政治評論家・三宅久之さんが、その昔、ある年のお正月に田中角栄邸(いわゆる「目白御殿」ですね)を訪ねた時の話があります。田中元首相が、
「おーい!三宅くん、こっちに来いよ」
「酒は何がいい。ビールか?ウイスキーか?日本酒か?」
と聞くので、三宅さんが、
「日本酒を頂戴しましょう」
と答えると、大きな酒瓶でお酒を注いでくれたそうです。そこで、
「ずいぶん大きな一升瓶ですね」
と言うと、
「なにをキミは馬鹿なことを言ってるんだ。これは二升五合(にしょうごんごう)瓶だよ」
と角栄さん。三宅さんがそのわけを聞くと、
「ますます繁盛(升升半升)」という験(げん)を担いだ二升五合瓶で、新潟の酒蔵「吉乃川」製の「越山 田中角栄の酒」という大きなラベルが貼られている特注品だったそうです。そして、田中元首相に、
「おめでたい席では、二升五合瓶と決まっている。キミはそんなことも知らんで評論家をやっとるのかね」
と一本取られてしまった・・・そうです。
ふーん、そうだったのか。
2009/11/17
◆ことばの話1469「空爆と空襲2」
「平成ことば事情1107」で「空爆と空襲」について書いたのが、今年の3月18日。あの時はタイムリーだったためか、読売テレビのサーバーがパンクするくらいのアクセスをいただいたそうです。ありがとうございました。あれから8か月近くが経ちましたが、実はまだ、イラクの地は揺れています。
さて、そんな中、家の片付けをしていたら4年前の雑誌が出てきました。NHK放送文化研究所が出している『放送研究と調査』という専門誌の1999年6月号。もう処分しようかなと思いながらパラパラとめくっていると、
「現代語としての『空襲』」
という見出しが!「ことば・言葉・コトバ」というコラムです。あっ!と思って読んでみると・・・
「90年代最後の年となる今年前半も、国際紛争は続き、空爆に関する報道が連日繰り返された。この『空爆』という語は昔はあまり使われていなかったように思い、NHK放送データベースで調べてみた。」
という書き出しで、重野康人さんが記してらっしゃいます。重野さんとは以前、新聞協会の用語懇談会放送分科会で、2年ほどご一緒させていただいたことがあります。このコラムも読んでいたはずなのに、失念していました。
それで、調べた結果は、「空爆」という語を含む記事は、1991年1月の湾岸戦争を境にして、それ以前(1985〜91年1月)は24件、それ以後(〜1999年3月)は、937件と大幅に増えていたそうです。重野さんによると、
「従来『爆撃』『攻撃』『空襲』などの語が用いられてきた場面で、一部これらに代わって『空爆』が使われてきており、これも『空爆』急増の要因になっている」
のだそうです。そして、ハイテク兵器による「空からの武力行使」といったやや広い概念を含む語が必要になったことも、「空爆」がよく使われるようになった原因としています。そして重野さんは最後に、
「90年代のような紛争の時代は早く終わり、来年2000年、続く21世紀には『空爆』や『爆撃』が死語となる平和な国際社会が実現してほしい。」
と結んでいますが、残念なことにそれから4年経って21世紀に入って、そういった言葉は死語になるどころか、ますます使われているのが、悲しい現状のようです。
2003/11/6
◆ことばの話1468「露天か?露店か?」
大阪・天王寺公園の通路には、カラオケを1曲200円で歌わせてくれる露店が立ち並んでいます。一つの名物にもなっているのですが、このカラオケの音がうるさいという苦情もあって、大阪市では立ち退きを迫っている、というニュースがありました。
このニュースを報じる時に字幕スーパーを
「露店カラオケ」
とするか、それとも
「露天カラオケ」
とすべきか、少し問題になりました。当初「露店カラオケ」だったのですが、ナレーションを読むことになった私が、
「露天でやっているカラオケの露店なのだから、『露天風呂』と同じように『露天カラオケ』ではないのか?」
と主張。これに対して、記者とプロデューサーは、
「カラオケの露店ですから『露店カラオケ』でいいんじゃないですか?」
とのこと。新聞はどう表記しているか?探してみると、10月30日の朝日新聞が、
「露店カラオケ」
と表記しているのを見つけたので、この際「露店カラオケ」でいいか、ということになりました。でも本当は「露天カラオケ」だと思うけどなあ。
GOOGLE検索(11月4日)では、
「露店カラオケ」=16件
「露天カラオケ」=38件
それに「天王寺」というキーワードを追加したところ、
「露店カラオケ、天王寺」= 6件
「露店カラオケ、天王寺」=18件
でした。
2003/11/4
◆ことばの話1467「なんと言っても・・・」
もう10年ほど前の話になりますかのう・・・。報道でニュースの下読みをしていたところ、デスクが「あっちゃー!!」と大きな声を上げたのでした。「どうしたんですか?」と
たずねると、「これ、見てみい!」と、ある原稿を見せてくれました。それは当時、京都の日本海側の駐在カメラマンをされていたKさんから送られてきた原稿で、そこにはいわゆるヒマネタのニュースが記されていたのでした。その書き出しは・・・
「日本海の冬の味覚といえば、なんと言ってもカニですが・・・」
ふむふむ、よくある原稿の書き出しですね。カニは冬の味覚、日本海側で揚がるマツバガニ、シーズンですからねえ。原稿の続きを読んでみると、
「○○漁港では、養殖のカキの水揚げが最盛期を迎えています。」
なに〜っ!!
「なんと言ってもカニですが」という前置きは一体なんだったんだあ!!
これでは、自らのニュースバリューを下げているではないですか!!
「それは、ないやろ。」
というような、大変な出来事が、昔、ありました。
今日、夕方のニュースで、紫色のカニが水揚げされたというニュースのあとに、アオリイカの天日干しの話題が出てきて、Sキャスターが、
「カニのあとはイカの話題です。」
と言ったので、つい、あのことを思い出してしまい、筆を執っている次第です。
皆さん、お元気でしょうか?
2003/11/4
◆ことばの話1466「さしていただきます」
新聞用語懇談会放送分科会の会議で、敬語について討議しています。その中で某局のM氏が再三、
「最近、何にでも『させていただきます』をつける言い方をするのはいかがなものか。さらに最近は、『さしていただきます』と『せ』が『し』になっているケースもよく耳にする。」
と発言されています。
たしかに「開会させていただきます」「はじめさせていただきます」「読まさせていただきます」というようなバカ丁寧な言い方、耳にしないことの方が難しいぐらいですね。中でも「さしていただきます」の「し」の形も、もちろん耳にしますが、
「そんなに多いかなあ・・・」
と思うと同時に、黒柳徹子さんあたりが、
「ご苦労なすってねえ・・・。」
のように「なさって」が(無声化して)「なすって」となるのと同じような「東京の方言では?」とも思っていました。しかし、東京ではなくて関西でも耳にするんですよね。
そして、つい先日、実は自分自身もこの「さして」を使っていたことがわかりました。部屋の片付けをしていて、小学校の時の作文が出てきたのですが、その中に
「さしてもらいました。」
という文があったのです。昔から使ってたんだ、最近ではなく。そういう意味では「関西方言」なのかな。
ということで、この辺で失礼さしてもらいまっさ。
2003/11/4
(追記)
あれ以来、「さして」が気になって気になって・・・。テレビウォッチングに熱が入ります。で、見つけたのは、
11月8日のNHK「爆笑OAバトル」という番組で、「パペット・マペット」という両手にはめたカエルとウシ人形を使う芸人さんが、
「見して!」
と、人形に言わせていました。また、11月10日の読売テレビ「すっぴん」という番組で、月亭八方さんの息子さん、月亭八光(はちみつ)さんが、
「見していただいてもよろしいですか?」
と言っていました。
(追記2)
「2046」(ニーゼロヨンロク)という香港映画に出演し、フランス・カンヌ映画祭のパーティーに向かうSMAPのキムタクこと木村拓也さんが、空港でのインタビューに答えて、
「わざわざ海外までパーティーに行かしていただけるっていうのが、贅沢な感じですね。」
と言っていました。「行かせて」ではなく「行かして」でした。これって東京の方言的な言い方なのかなあ。関西でも聞くんだけどなあ。
この"芸能ニュース"を報じた5月18日の日本テレビ「ニュースダッシュ」では、字幕でのフォローがそのまま、
「行かして」
になっていました。一方、同じ話題を翌日の5月19日「あさイチ!」での字幕は、
「行かせて」
と修正していました。
せっかくカンヌまで行ったキムタクですが、肝心の映画「2046」の編集作業が遅れて、プレス・プレビューできないかも・・・というニュースが、今日(5月20日)流れていました。せっかく「行かして」もらったのに・・・。
2004/5/20
(追記3)
「平成ことば事情」の読者で広島市在住のAさんから、メールをいただきました。それによると、広島でも「見せて」を「見して」、「させて」を「さして」と言うそうです。また、子どもが「遊びの仲間に入れて」というのを「よして」と言うそうです。これは「寄せて」からきたものだということです。おお!それは大阪の堺と同じじゃ!私が6歳の時に、名古屋から堺に引っ越して最初に感じたカルチュア・ショックがこの「よして」だったのですよ!Aさん、貴重なご報告をありがとうございました。
その後、5月20日の「あさイチ!」芸能コーナーで、演歌歌手の氷川きよし君が、
「ドラマやらしてもらって」
と言ってました。かれは確か九州出身だったと思うけど。日本のかなり広い範囲で「やらして」「さして」、言うんですね。おっと、これだけ書くと、ちょっと下品な感じになってしまう・・・!誤解のないようにお願いします。
2004/5/25
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