◆ことばの話1385「CMの季節感2」

平成ことば事情834「CMの季節感」を書いてから、いつの間にやら約1年が経ちました。
で、9月に入って数日の9月4日、「おや?」と思ったのです。
早朝の番組「あさイチ!」の本番中に、カレーのチェーン店のコマーシャルを放送していたのですが、それで気づきました。
「そう言えば、去年は9月になったとたん、ハウスのカレーのコマーシャルがシチューのコマーシャルに変わってビックリしたけど、今年はまだシチューのコマーシャル見ないな。まだカレーか。冷夏の揺り返し(?)で8月下旬から9月に入って猛暑がやってきたからかなあ。」
その疑問を解決すべく、営業のCM担当者に聞いてみました。
「去年は、ハウスのコマーシャル、9月に入ったとたんに、カレーからシチューに変わったけど、今年は、まだシチューやらないの?」
答えはこうでした。
「ハウスの素材の件ですが、やはり8月はカレー中心で、シチューは1素材のみ。8月27日から、シチューの素材が複数入ってきてます。そしてカレーは減ってリゾット、グラタン、ラーメン等が入ってきてます。」
なーんだ。もうシチューも入ってきてるのかぁ。その割には目にしない気がするなあ。
そのほか、8月下旬から気になるコマーシャルは、例の「ウッタッタ、ウッタッタ」の「車を売るならユーポス」のコマーシャル。今年は、「下取りよりユーポス」となっている新バージョン。なぜこの時期に「ウッタッタウッタッタ」なのか、気づきませんでしたが、どうも新車の売り上げの半期の「しめ」が9月らしくて、車会社は9月の売り上げを少しでも上げようと頑張るようなのですね。そのせいか、新聞の広告で車の広告が増えています。(ホンダは他の会社と違って2月しめだったと思いますが。)そして、新車を買うに当たって、今まで載っていた車を売るユーザーが増えます。それに狙いを定めての中古車買い取り業者のコマーシャルのようです。
またこの他、最近よく流れるCMには、大滝秀治さんのナレーションの「やずや、やずや」のお酢のコマーシャルがあります。あれも去年の今ごろよく流れていました。季節モノのようですね。夏の終わりに健康に気を遣う人が増えるのでしょうかね。
それともう一つ、最近「なぜ?」と思うのは、関西ローカルだと思いますが、
「滋賀で家を建てるなら・・・」
と黒沢年雄さんが出てくるコマーシャル。あれも妙に放送回数が多くて耳に付くのですが、滋賀県の人にしかアピールしない割には、回数が多いのですよねえ。不思議です。

2003/9/6


◆ことばの話1384「ボク、シラナイ、デス」

昨年亡くなった山本夏彦さんの著作が文庫化されて、新刊として続々登場しています。その中の一つ、「日常茶飯事」(新潮文庫、2003、8、1)を読みました。これが書かれたのは、なんと昭和37年、つまり1962年。私が1歳の時、と言うことは、41年も前のこと。でも山本さんの文章は、数年前の現代に書かれたものとまったく変わっていません。古さを感じないところがすごいなあと思いました。
さて、いろいろ、「へえー」と思うところがあったのですが、その中から一つ、「大辻司郎」というところが一番「へえー」と思いました。書き出しは、
「大辻司郎の名は、まだご記憶であろう。無声映画時代は弁士、トーキーになってからは漫談家、のちに飛行機事故で死んだタレントである。」
というものですが、私が「へえー」と思ったのは、この部分です。
「大辻司郎は、しばらく大隈重信の書生だったことがある。そのせいか、大辻の話術には、大熊の影響がみられる。大隈は維新の生き残りの一人で、演説の末尾を、一節ごとに、あるんであるとむすんで、広く知られた人である、あるんであるとは、あるがひとつよけいで、有無を言うなら、ある、だけでいい。大隈はそれだけでは弱いとした。あるのであると重ねれば、いかにもそれはありそうで、聴衆を圧すると考えた。大辻は大隈の故智を学んだ。学ぶというよりももじった。あるんであるでは、活動写真には不向きである。デス、とした。『ボク、ソンナコト、知ラナイ、デス』とした。わざと『てにをは』をぬいたのである。大辻の全盛時代は、震災前後で、当時の浅草には、まだ、東京の言葉が残っていて、てにをはをぬけば、そのまちがいがおかしく、弁士が意識的にぬいたとただちに分り、それだけで客は笑ってくれたのである。」

そうだったのか!「知らないです」「おいしいです」という言い方はそもそもは「流行語」から始まっていたのか!?正に「目からウロコ」でした。
そのうちに客は笑わなくなったそうです。それが流行して「当たり前」になったからです。

「知らないを丁寧に言えば、知りません、存じません、となる。知らないデスとはならない。ところが大辻あらわれて以来、人は知らないですと言って怪しまなくなった。わざとまちがえて、人を驚かしても、それは我が国では永続きしない。我々はまちがいに寛容である。むしろ、まちがいが多ければ、それに従う。『話し言葉』『書き言葉』の二つは、『話す言葉』『書く言葉』を故意にあやまり、それを新感覚と思わせようと企んだものである。しばらくは耳新しく、いまは日常語と化したことはご存知の通りである。」

とあって 「話し言葉」「書き言葉」も、もともとは誤りだ、という姿勢です。そうだったのか。このあといわゆる「ら抜き言葉」にも話しは及んでいます。昭和37年に。
うーん含蓄のある文章ですね。
資料としての価値もあるのではないでしょうか。勉強になりました。これで438円(税別)は安い!!
この「知らないです」に関係するものとしては、平成ことば事情991「うれしいでした」
も合わせてお読みください。

2003/9/7

(追記)

早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さんから、メールをいただきました。それによると、
「私は『です』の広まりについて、ちょっと慎重に見る。山本夏彦の説は一面の真実ではあるかもしれないが、『ないです』といった言い方は、大辻司郎の登場より前からあった。『行くです』『よいです』などといった言い方は、明治の『書生言葉』で、飛田良文『東京語成立史の研究』によれば、尾崎紅葉『金色夜叉』(明治31〜36年)に『遊ぶです』『造るです』『よいです』『宜しいです』『いです』『難しいです』『近いです』『ないです』、そして、『ますです』『ませんです』『忘れられんです』などが使われているそうだ。大辻司郎も大隈重信の書生だったそうだから、そういう言葉遣いをしていたのだろう。
もっとさかのぼって江戸時代にも『医者か飛脚か我ながら解せぬです』(人心覗機関)、『ならばおせわ申たいです』(同)、『これでなければ嬉しくないです』(郭の花見時)と使われている例があるそうだ(中村通夫『東京語の性格』)。
大辻が弁士として活躍したのは大正時代の、震災前後ということなので、それより前に多くの人が使っていたのは間違いない。ただ『書生言葉』とさげすまれていた(?)このような『です』の用法を、誰かが一般化させた、その一人が大辻だったのかもしれない。」

ということで、「行くです」の形は大辻司郎が広めたかもしれないが、「それ以前から、ある事はあった」というご指摘です。ありがとうございました。
そうだ、この「行くです」というしゃべり方、「とっとこハム太郎」に出てくるハムスターがしゃべっていた、ということを、前にどこかに書いたな。どこだっけ?新しく付いた「全文検索」で一発検索!!
あ、出た!
平成ことば事情991「うれしいでした」の追記で、ハム太郎とサザエさんのタラちゃんも使っていると書いていました。
便利だなあ、全文検索!

2003/9/15

(追記2)

豊田泰光著『サムライたちのプロ野球〜すぐに面白くなる7つの条件』(講談社+α新書2003,5,20)という本を読んでいると、こんな表現が。
「あの時、新米の豊田は野球の厳しさというものをしっかり教わりましたです、ハイ。」(170ページ)

この「教わりましたです、ハイ」というのは、「知らないデス」に通じますが、先輩などに少し恐縮したような時に、少しおどけて言うような感じでもあります。また、後ろに「ハイ」を付けると、より恐縮した感じがして、昔の映画に出てくる役場の課長あたりが、手をモミモミしてゴマをすっているような感じがしますねぇ。

2003/9/16


◆ことばの話1383「おり傘」

週に一度、教えに行っているアナウンス学校へ向かう途中、梅田の地下街を通りました。その時、地下街の売店で売っていた「傘」の前に、手書きでこう書いてありました。
「おり傘 500円」
お、安い!・・・と感じるよりも早く、「おり傘」という文字に注目しました。(しかも「傘」は略字でした。)普通、私はこの手の傘のことは、
「折り畳み傘」
と言います。「おり傘」というのは初めて目にしました。インターネットの検索エンジンGoogleで調べてみました。しかし、「おり傘」だと411件あったものの、
「・・・しており、傘が」
というようなものが多かったので、あまり参考になりません。そこで漢字と混じった形で検索しました。
「折り傘」・・・・・・・・・・218件
「折りガサ」・・・・・・・・・・1件
「折りがさ」・・・・・・・・・・3件
「折りかさ」・・・・・・・・・12件
「折りカサ」・・・・・・・・・・1件
「折り畳み傘」・・・・・・・2800件
「折りたたみ傘」・・・・1万3100件
「おりたたみ傘」・・・・・・・193件
「おりたたみガサ」・・・・・・・6件
「折りたたみガサ」・・・・・・・35件
「折り畳みガサ」・・・・・・・・34件
「おり畳みガサ」・・・・・・・・・0件


ということで、「折り傘」は218件と思った以上にありました。とは言うものの、やっぱり「折りたたみ傘」が1万3100件とダントツですが。
この「おり傘」というのは、方言なんでしょうか?『日本国語大辞典』にも載っていません。『三省堂国語辞典』にも「折り紙」はあっても「折り傘」は載っていません。『新潮現代国語辞典』にも「折り鞄(カバン)」は載っていても「折り傘」は載っていません。
この言葉、ご存知の方はご一報ください!

2003/9/4

(追記)

今週、同じ売店の前を通ってよく見たら、「折傘」と漢字表記もありましたし、折りたたみでない傘も売っていて、そちらには、「長傘」と書いてありました。

2003/9/10


◆ことばの話1382「5分前のアクセント」

9月1日の「ニュースプラス1」で、何者かに傷付けられたイルカの話題を放送していました。その放送後、最新情報を伝えようとしたキャスターの藤井貴彦アナウンサーが、
「5分前にお伝えしました・・・」
というふうに言ったのですが、この時のアクセントが、
「5分前(ゴフンマエ・LHLLL)」
というものでしたが、違和感を覚えました。なぜならば、「ゴフンマエ(LHLLL)」というアクセントで表される「5分前」は、
「何かが始まる時刻の5分前」
という意味を表しているように感じるからです。この場合には、「何かが始まる5分前」ではなく、
「今から溯ること5分前(=過去)」
という意味ですから、アクセントは、
「ゴフン・マエ(HLL・HL)」あるいは「ゴフン・マエ(LHH・HL)」
というふうに発音すべきではないか、と考えたわけです。
アクセントによって、意味が変わってくるケースがあるんですね。

2003/9/1


◆ことばの話1381「赤ウニ」

「ニューススクランブル」で、兵庫県洲本市の漁師さんたちが、地元特産の高級食材である「赤ウニ」をブランドとして売り出そうとしている様子を取材したVTRのナレーションを担当しました。
その中でハタと困ったのは、この「赤ウニ」のアクセントです。
「アカウニ(LHLL)」
「中高アクセント」になるのか、それとも、
「アカウニ(LHHH)」
「平板アクセント」になるのか?最初「アカウニ(LHLL)」と「中高アクセント」で読んでいたのですが、どうも「平板」のような気がしてきて・・・。
困ったことに、こういった専門的な生き物・食材は、『NHKアクセント辞典』にも載っていないのです。また、アクセントを記した国語辞典である『新明解国語辞典』にも、
「赤いわし」と「赤えい」
は載っていますが、その「い」と「え」の間の「う」=「赤ウニ」は載っていませんでした。
そこで結局、全編、「中高」で読んだものと「平板」で読んだものの2種類を録音しました。
実際に声を出して録音していると、どうも「中高アクセント」のような気がしてきました。というのも、「平板アクセント」で「アカウニ(LHHH)」と読むと、まるで
「赤鬼(アカオニ・LHHH)」

のように聞こえるからなんです。それと区別するためにもやはり平板アクセントではなく中高で読んだ方が良いのではないか、という結論になり、取材を担当したディレクターも、
「中高アクセントのアカウニ(LHLL)で行きましょう!」
ということになり、一件落着でした。
それにしても、北海道は利尻島産の2倍の値はするという高級な赤ウニ、どんなお味なのか、いっぺん、食してみたいものです。

2003/9/1

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