◆ことばの話875「完歩」

「カンポ」



と聞くと皆さんは何を思い浮かべますか?
ずいぶんCMも見たので、郵便局の簡易保険・かんぽ、その施設である「かんぽの宿」を私は思い浮かべましたが、今朝またNHKラジオ第一を聞いていると「カンポ」が出てきました。でも簡易保険とはまったく関係ない「かんぽ」でした。漢字で書くと、



「完歩」



“完全に歩く”
という意味で、『広辞苑』には載っていません。「歩こう会」のように、5キロとか10キロとか、目的地を決めてみんなで歩く会の時に、きちんと目的地(ゴール)まで歩くことを言うのですね。



これまでも「完走」という言葉は使われていましたが、「完歩」はまだ新しいのではないでしょうか?
Google検索では、
「完歩」は7160件もありました。
ちなみに「完走」は10万1000件。言葉の歴史の差でしょう。



これに似た言葉で、辞書には載っていないけれど最近よく出てくる言葉に、



「完食」



という言葉があります。
“完全に食べる”という意味で、これは例の「大食い選手権」などで、出された皿を全部食べきることを指し、「56皿完食」のように使われているようです。最近は、グルメ番組などでも応用して使われているようですが、いかがなものかと。
この「完食」、Google検索では、3万2000件!
かなり使われています。食べてばかりいないで、少しは歩くか走るかもしなくては・・・。
これまで「カンショク」と言えば、食間の「間食」のことを指すことの方が多かったと思いますが、Googoleでは4万2500件。まだリードしている(その差、約1万件)ものの、これからは「完食」の方が逆転しそうな気配です。



今後も「完○」という形の言葉、増えそうな感じですね。



2002/10/8


◆ことばの話874「青虫」

いつものように子どもを保育所に送った後、自動車の中で聞いていた、朝のNHKラジオ第一放送。今日の特集は園芸関係の話のようで、その道の専門家の男性をゲストに迎えて、リスナーからのファックスでの質問に答えるという形式でした。この男の人がすごくて、どんな質問にもたちどころに答えてしまう、大変豊富な知識をお持ちのようで、園芸にそれほど興味のない私でもついつい引き込まれてしまいました。
その中で、男性アナウンサーが読み上げていたファックスに「え!?」と耳を疑いました。



「ブロッコリーについた青虫(LHHH)を・・・」(Lは低くHは高く発音する)



彼は「青虫」を平板アクセントで読んだのです。そして、その後に答えを言った専門家の男性も、



「そうですね、どうしてもブロッコリーには、青虫(LHHH)がつきますから・・・・」



とやはり平板アクセントで答えていたのです。
「青虫」は「青虫(LHLL)」と中高アクセントではないか?平板アクセントの「青虫(LHHH)」では、まるで



「あおむし(LHHH)」=「青蒸し(LHHH)」



になってしまう!「土瓶蒸し」じゃあないのだから。ブロッコリーの「青蒸し」なのか?
それとも「青虫(LHLL)の青蒸し(LHHH)」?



『NHKアクセント辞典』を引いても、



「青虫(LHLL)」
の中高アクセントしか載っていません。『新明解日本語アクセント辞典』でも、やはり中高アクセントしか載っていません。
専門家のアクセントは平板化する、と東京外国語大学の井上史雄先生もおっしゃっていますが、それにしてもこんなところで平板化が進行しているとは。青虫の専門家の間で。
でもアナウンサーは「青虫の専門家」じゃあなく、「言葉の専門家」なんだから、平板アクセントで言う必要はないはずなんですがね。



(追伸)



「○○虫」
という形で平板アクセントのものは何があるか?



「毛虫」「羽虫」
といったところですか。「弱虫」は「青虫」と同じアクセント。



2002/10/8


◆ことばの話873「チャドウとサドウ」

茶道・裏千家の15代千宗室家元が、来年(2003年)1月1日をもって、家元を若宗主<千宗之(せん・そうし)さん46歳>に譲るというニュースが、10月8日の各紙夕刊に載りました。
お茶と言うと有名な流派は三つあります。



表千家・裏千家・武者小路千家



の三つですね。で、よくこういったニュースの時に「どうでしたっけ?」と聞かれるのが、



「茶道」



の読み方です。一般的には、



「サドウ」



ですよね。これを「チャドウ」と読んだら、



「おまえなあ、喫茶店を『キッチャテン』とは言わへんやろ。だからサドウなんや。」
と言われそうです。しかし、各「千家」に電話して確かめたところ、



裏千家・・・・・・・・チャドウ
武者小路千家・・・・・チャドウ
表千家・・・・・・・・さどう



ということでした。つまり表千家だけが「さどう」なんです。10月11日の読売新聞の「顔」で紹介された「千宗之さん」のコラムによると、15代の父は、「茶道」を



「CHADO」



として、世界に広めたと言うことです。また、Sアナウンサーによると、裏千家の広報誌(?かな?)のタイトルがまさしく「CHADO」だということです。
何度聞いても忘れてしまうんですよねえ。しっかり覚えておこうっと。




2002/10/12

(追記)

そうは言うものの、一般的には「茶道」の読み方は「サドウ」が主流ですよね。それについてMアナウンサーが、
「ちゃんと流派によって『チャドウ』と『サドウ』を言い分けて使っても、一般の人からは逆に『チャドウなんて言って、あのアナウンサーは『茶道』の読み方も知らないのか!』
とお叱りを受けかねないんですよねえ・・・」
とこぼしていました。そんなおり、年明けのNHKの「初釜式」を扱ったニュースでは、
「茶の湯の三千家の一つ、裏千家では」
「チャドウ」も「サドウ」も使わないで、
「茶の湯」
という表現をしていました。もしかしたら、同じような論争と言うか苦悩があったのかもしれませんね。
2007/1/13
(追記2)

去年のメモが出てきました。2006年1月16日の「ズームイン!!サタデー」で、大滝アナウンサーが「茶道・裏千家の初釜式」のニュースを伝えていましたが、その中で「茶道」を「サドウ」と読んでいました。また「羽織袴」を「はおりばかま」と濁って読んでいました。
2007/1/14
(追記)

久々の追記。
2013年1月7日の読売テレビのお昼のニュース(『ストレイト・ニュース』)
で、茶道“裏千家”の初釜式のニュースを、脇浜アナウンサーが読んでいました。その際は「茶道」を、ちゃんと、
「チャドウ」
と読んでいました。
それにしてもこの項の最初を読むと、もう第16代・千宗室家元になって、丸10年たつんですね、早いなあ・・・。
2013/1/1


◆ことばの話872「ホテイチ」

最近、というのはここ1週間、新聞を見ていて目に付いた言葉に



「ホテイチ」



があります。これは「デパ地下」(平成ことば事情194参照)に対抗して力を入れ始めた、
「ホテルの1階の高級お惣菜売り場」
のことだそうです。
9月28日の日経新聞の土曜版「NIKKEI PLUS1」で大きく取り上げられていました。
Googleでは174件検索できました。



でも、ホテルの1階にそんなお惣菜売り場ってあったっけ?
三省堂の情報提供によるインターネット上の『GOO新語辞典』には「ホテイチ」が載っていました。



「施設内レストランの料理などをテイクアウト販売する、ホテルの1階のこと。デパ地下を意識し、より高級・高品質なものを求める層をターゲットに2002年(平成14年)頃から出現。」



とありました。はあ、なるほど、レストランなどの料理をテイクアウトね。それなら分ります。ホームページに載っていた「ホテイチ」のお惣菜メニューの一例は・・・



・フレッシュ・モッツアレラ・トマト(アンチョビ入り)
・ロースト・ビーフ
・ペンネと茄子の胡麻ソース
・ほうれん草とカネロニ海の幸のXO醤炒め
・蒸し鳥の特性ソース仕立て




などなど。やはり「ホテルらしいメニュー」ですな。一度食べてみたいなあ。
「ホテイチ」の「言葉の語呂」は「まずそう」なんだけど、内容はうまそうです。



2002/10/5



(追伸)



「ホテイチ」の語呂は悪いですが、「デパ地下」にせよ「ホテイチ」にせよ、要は「家でご飯を作らなくなって、テイクアウトが増えている」ことの現われなのですから、



(1)これまで家庭での料理の作り手であった女性が外で働くことが増えていること。
(2)その代わり男性が食事を作るかと言うと、それほど作らない。
(3)不況のため、外で食べるよりも家で食べることの方が多くなっている。




などの事情を考え合わせると、「デパ地下」「ホテイチ」は、まだ伸びそうですね。
10月8日の読売新聞の生活欄には、



「イートイン」



というものが特集されていました。デパ地下で生鮮食料品や惣菜コーナーに併設され、売っている食材を使った料理を“有料で試食できる”コーナーのようです。一人で気軽に試食感覚で食べられるのが特長とか。Google検索で5320件もありました。かなり広がっているようです。
百貨店に占める食料品の売り上げは10年前に比べ4ポイント増えているそうで、食料品は「不況時に強い品目」なんだそうです。(日本百貨店協会による)
「ハラが減っては・・・」ですね。



2002/10/8




(追記)



9月26日の朝日新聞朝刊にも載っていました。切り抜きが今ごろ出てきました。見出しは、
「ホテイチ デパ地下のライバルに〜シェフの手製の総菜 手ごろ値段で人気」



「惣菜」の「惣」が表外字で使えないのでしょうか、「総菜」となってました。大阪・中之島のリーガロイヤルホテルの「グルメブティック・メリッサ」が、4月の改装で国内最大級の260平方メートルとなって、550種類もの商品を並べているそうです。
地元・大阪だから、見に行ってみようかな。



2002/11/6



(追記2)



夕方の「ニューススクランブル」のお天気コーナーで、今週一週間は、
「高級ホテルのテイクアウト・グルメ」
として「ホテイチ」を取り上げます。ちょっと浸透してきたのでしょうか、この言葉。



2002/12/2


◆ことばの話871「告示と公示」

10月27日に投票が行われる参議院議員補欠選挙は、10月10日、鳥取と千葉の両選挙区で、
「告示」



されました。この「告示」と「公示」の違いは?
日本新聞協会の『新聞用語集』によると、



「公示」・・・総選挙、参議院通常選挙の場合



「告示」・・・衆参両院補欠・再選挙、地方選挙、最高裁裁判官国民審査

とその使い分けについて記してあります。「総選挙」と言うのはもちろん「衆議院」です。今回は衆議院の補欠選挙も同じく27日に行われますから、そちらも「告示」ですね。
国語辞典ではどうか。



『新明解国語辞典』(三省堂)では、



「告示」・・・国家や組織団体などが、それに属する人びとに、命令・要望・訓戒や新たに決めた事柄などを広く知らせること。またその命令など。(例)「内閣告示」



「公示」・・・政府・公共団体などが、知らせるべき事柄を一般の人に示すこと。(例)「市会議員選挙が公示される」



『日本国語大辞典』では、



「告示」(古くは「こくし」とも)・・・一般に広く告げ知らせること。特に国家や地方公共団体などが、ある事項を一般の人に広くしらせること。また、そのもの。ふれわたし。ふれ。
として、例文にはなんと『続日本紀』(723年=養老7年)が!!
その他の用例としては、『改正増補和英語林集成』(1886年)があって、そこには
「Kokushi コクシ 告示」
とあります。また「国籍法」(1899年=明治32年)12条の「帰化は之を官報に告示することを要す」
という条文も載っていました。また「公示」は、



「公示」・・・おおやけの機関が一般の人に周知させるために発表すること。また、その発表されたもの。公告。公布。
例として、1878年(明治11年)11月28日の東京曙新聞の記事が載っているほか、公職選挙法(1950年=昭和25年)31条の「総選挙の期日の公示がなされた後その期日前に衆議院が解散されたときは」というのが載っています。



辞書と『新聞用語集』ではちょっと使い方が違いますね。
『共同通信記者ハンドブック』によると、
「公示」=総選挙、参議院通常選挙の場合(注)衆参両院の補欠・再選挙、地方選挙、最高裁裁判官国民審査の場合は「告示」。外国の場合は「告示」を使う。



「告示」の欄には、同じことが書いてありました。
この言葉の場合、国語辞書の定義よりもマスコミのハンドブックの方が、より厳密に言葉の使い方・使い分けを書いてあるのですね。



2002/10/11

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