◆ことばの話520「デイ・パック」
強盗のニュースの原稿を下読みしていたら、
「○○さんは、帰宅途中にリュックサックを奪われました。」
という一文が出て来ました。
リュックサック?そんな大きなものかい?デイ・パックのことじゃないの?と思ってデスクに確認した所、
「警察発表もそうなってますし、デイ・パックじゃ通じないんじゃないですか?」
ということでした。確かに年配の人には通じにくいかなと思い、その原稿のまま「リュックサック」で読みました。
そして、ニュースが終った後、周囲の若いスタッフに、
「デイ・パックって知ってる?」
と聞いた所、20代のそのスタッフは、
「知らない」
と言うのです。えっ?知らないって、みんな持ってるやんか。ほら、リュックサックの小さいヤツで、海外旅行したときとか、街歩きの時に背中に背負うか、片方の肩にかけるカバンのことやん、と言うと、
「ああ、なんか聞いたような気もするけど、超ダサイって感じですね。」
と、いきなりなことを言われてしまいました。あんなにオシャレでプレッピーな(死語)カバンである「ディパック」が超ダサイなんて・・・。
じゃあ、そういったカバンのことをどう呼んでいるか?と聞くと、
「リュックサックかリュック。あるいはバッグです。」
という実もフタもない答えが返ってきます。(ちなみに子供の頃=小学校時代に使っていたのは「ナップザック」だそうで、それは私も同じです。)
そんなはずはない!と思い、手当たり次第に若いスタッフに聞いてみたものの、収穫はほとんどなし。かろうじて、32歳のスタッフから、
「中学・高校の頃は使ってましたけど、最近は全然ですね、バッグもその言葉も使いませんねえ・・・。」
という答えが返ってきました。
これが、30代半ばから後半の人に聞くと、
「ああ、もちろん知ってますよ。今も使ってます。」
なんて答えが返ってくるのに。ちなみに、50代以上の人に聞くと
「うーん、知らんなあ。」
と言われてしまいます。
ということは、30代の半ばくらいから40代半ばくらいまでの年代の人が、今から10年〜16,7年前に使っていたのが「デイ・パック」であり、その語、使われなくなってしまって、本来の「リュックサック」あるいは「リュック」または「バッグ」という言い方になってしまっているのではないか?ある年齢層だけに使われる、「若者ことば」ならぬ、ある種の「おっさん(おばはん)ことば」であるおそれが濃厚となってきました。
辞書はどうなっているか?「広辞苑・第五版」(1998)を引いてみました。
ほ〜ら見ろ、ちゃんと載っているゾ。(最近この終助詞をカタカナで書くのもあまり見なくなりましたね。これについては、また書きましょう。)
「デー・パック(day pack)」
(デイ・パックとも)日帰りのハイキングなどに用いる小型のリュックサック。
よく「デイバッグ」(day bag)と言って、笑われたりしたっけ。それもあれも、みんな青春の昔話サ。フン、年を取ってしまったゼ。やだネったら、やだネ。
おっと、また脱線した。
ということで「広辞苑・第五版」には載っているのですが、1991年に出た「第四版」には、実は載っていなかったのです。つまり、この1991年から1998年までの7年間に、岩波書店・広辞苑編集部の方は、
「デー・パック(デイ・パック)は定着した。今後も次の改定まではこの言葉は使われるであろう」
という判断の元、「第五版」に載せたのですが、その改定から3年で、既にかなり使われなって来ていることば(物)になってしまっているようなのです。
「新明解国語辞典・第五版」(1997)には、「デーパック」は採用されていませんが、「三省堂国語辞典・第五版」(2001)には見出し語としてちゃんと載っています。が、死にかけだったのです。
インターネットのgoogleで検索してみました。最初に4通りの表記を検索しました
デーパック・・・・・・・・・・・・・・167件
デー・パック・・・・・・・・・・1万5500件
デイパック・・・・・・・・・・・・・8680件
デイ・パック・・・・・・・・・・・1万3800件
思ったよりもたくさんあるんですね。でもその中には、旅行関係の「1日パック旅行」も入ってたりしたので、もう一つ、「リュックサック」という単語を加えて絞り込んで検索してみました。結果は、次の通りです。
デーパック&リュックサック・・・・・・・・・1件
デー・パック&リュックサック・・・・・・・・55件
デイパック&リュックサック・・・・・・・・193件
デイ・パック&リュックサック・・・・・・・・61件
この中では「デイパック」という表記が一番使われているようです。ネットショッピングの「楽天市場」では、5000円ぐらいで売っている「デイパック」もありました。インターネットを使っている中心の年代に30歳代があることを考えれば、ネット上ではまだまだ「デイパック」が使われているのも、うなづけます。
しかし今後はちょっと、使う時に注意してみたいと思います。
2001/12/21
(追記)
「ナップザック」はドイツ語です。登山用語にはドイツ語が多いです。
2001/12/27
◆ことばの話519「狂牛病という名前」
「牛」が避けられています。
国内で「狂牛病」の牛が発見された9月11日以来、消費はどんと落ち込んでしまいました。
(おお、そう言えば、あの同時テロと同じ日だったのですね。)狂牛病の原因とされる「肉骨粉」なんて言葉も9月に初めて聞いたのですが、いまや誰一人として知らない人がいない言葉になってしまいました。
ウシ年生まれの私としては、ちょっと胸が痛みます。
肉関連の業者の方はそれどころではない状態です。生活が懸かっていますから。
その肉関連の業者(農協など)で作るBSE問題全国農業団体対策本部(問い合わせ先は全国農業協同組合中央会)というところから、12月13日、日本新聞協会に対して、
「BSE問題にかかる"狂牛病"呼称の使用中止について(お願い)」
という文書が届けられました。
その内容は、
「メディアは今後"狂牛病"という俗称ではなく、正式名称である"BSE"あるいは"牛海綿状脳症"を使って欲しい」
という申し入れです。その理由として、「狂牛病」という呼び名は、病気が見つかった当時、イギリスの農民などが使った「Mad Cow Diseases」を日本語に訳したのが原因で、「狂牛病」という名前を使うことで、「BSEによって牛が精神的に病んでいる」という誤解を消費者に与えるからだとしています。そして「"狂牛病"を使っているのは日本のマスコミだけ」としています。
また、ここで当然出る疑問、
「"狂犬病"は、"狂"という字を使っている。精神的な病気ではないが用語として定着しているではないか」
という反論に対しては、
「"狂犬病"は明治以降長く、一般でも学術的にも使われてきたから定着してしょうがないが、"狂牛病"はこれからなので、状況が違う。」
と答えています。
生産者側としてはまさに死活問題だというのはわかりますが、既に「狂牛病」という名称は定着していますし、名前を変えたところで、病気の原因が完全に払拭されない限り、牛肉に対する不信感がぬぐえるとは思えません。かえって、聞きなれない「BSE」や「牛海綿状脳症」という名にしたほうが、消費者サイドからは、「誤魔化しだ」というふうに受け取られるのではないか?とも思うのですが、いかがでしょうか。
この申し入れに先立つこと1か月。11月13日の朝日新聞にこんな記事が載りました。
"狂牛病"呼び名 牛の権利を侵害〜鳩山氏が異議
「"狂"という字は日本では禁止されている。人間にだめなものを使うのは、牛の権利を侵害している。」民主党の鳩山由起夫代表は12日、東京都内の日本外国特派員協会での講演で"狂牛病"の呼び名に異議を唱えた。
一段だけで20行ほどの、いわゆる「ベタ記事」ですが。「牛の権利」を果たして侵害するんでしょうか?「牛の権利」って一体なに?牛は人間がそう(狂牛病と)呼んでいることが理解できるの?
ではどう呼べば良いか、との質問に、鳩山氏は答えなかったそうですが、この発言は実際にあったのかどうか、民主党本部にFAXで質問を送りました。しかし、広報担当者からはいまだに返事がありません・・・。
また、この記事を載せた朝日新聞(大阪)の知り合いに、
「アホらしいと思って載せたのか?それとも鳩山代表の言う通りだと言うことで載せたのか?」
ということをメールで聞いたところ、
「記事は東京から出たのだが、大阪でもちょっと話題になったが、東京にその真意を尋ねてはいない。」
という返事が戻ってきました。
いずれにせよ、この問題は呼称の問題よりも、そういった病気の牛を二度と出さないように、国も業界も努力することが必要です。
生産者も、消費者も、共に大切なんです。(あっ、牛も。)
2001/12/21
(追記)
その12月21日の夜、日本テレビからFAXが回ってきて、12月24日から、NNN系列では、「狂牛病」を
読み=ビーエスイー、いわゆる狂牛病
表記=BSE(狂牛病)
とすることになりました。ただしこれは移行措置であり、1か月後をめどに
読み=ビーエスイー
表記=BSE
とするそうです。果たして1か月で定着するかどうか。
12月26日の「ズームイン!!SUPER」では、BSE問題全国農業団体対策本部から中継を交えて、NTVが「狂牛病」ではなく「BSE」を使うようになった背景などを説明していました。
2001/12/26
◆ことばの話518「ピヨピヨ・・・」
久々に、家でFMラジオを聴いていました。ラジオのCMは、テレビと同じ物のCMでも全く違うコマーシャルだったりして、なかなか新鮮なのですが、今日も一つ、すごいCMを見つけてしまいました。それは・・・
「ピヨピヨ。」
「ピヨピヨピヨピヨ。」
「ピヨピヨ?」
「ピヨ。ピヨピヨピヨピヨ。」
「ピヨピヨッ!」
「ピヨピヨピヨピヨ、ピヨッ。」
というふうに、ラジオからは10秒以上、「ピヨピヨ」しか聞こえないのです。
そしてその最後に、ようやく説明・・・というか、コマーシャル・メッセージのナレーションが入りました。
「ヒヨコにも大評判!トヨタ・ファンカーゴ!!」
やられたー、と思いました。
こんなゲリラのようなコマーシャルが、ラジオには許されているんだな、と。テレビでこれをやっても、あまり面白くないと思います。映像がないからこそ、聴取者の想像力を掻き立てて「なんだろうな?」と思わせる。そこにこのコマーシャルが成功して秘訣があると思いました。
この「平成ことば事情」も、一度全部「ヒヨコ語」で書いてみたりして。ピヨピヨッ?
2001/12/18
◆ことばの話517「喫茶店とカフェ」
引き続き、12月15日に行われた「第16回すっきゃねん若者言葉の会」での、甲南女子大学の学生さんのキャンパス用語に関する発表から。
彼女たちが調べた11語のうちのひとつに「カフェに行くこと」をなんというか、という調査がありました。甲南女子大生243人に調査して、以下のような結果が出たそうです。
オチャスル・・・・・96人(39,5%)
オチャシニイク・・・33人(13,6%)
カフェニイク・・・・33人(13,6%)
オチャ・・・・・・・30人(12,3%)
カフェル・・・・・・15人( 6,2%)
無回答・・・・・・・32人(13,2%)
その他・・・・・・・・4人( 1,6%)
※その他には、オチャル2人、チャヲシバク、カフェデモイコッカーが各1人。
さて。私がここで問題にしたいのは、この回答内容とはほとんど関係ありません。
問題は「カフェ」です。
私が学生の頃にオチャをしに行ったのは「喫茶店」でした。略して「サテン」。ところが、発表者の女子学生に聞いたところ、少なくとも甲南女子大学の学生は、
「喫茶店には行かない」
と言うではありませんか!!
では、喫茶店とカフェではどう違うのか?近頃はやりの「カフェ」とは一体どんなところなのか、彼女の口を借りますと、
「カフェはぁ、内装のインテリアとかがぁオシャレでぇ、店員さんもオシャレでぇ、お客さんは若い女の人が多くてぇ・・・。」
「値段は、喫茶店とカフェではどっちが高いんですか?」
「値段は・・・値段で区別するんじゃないんです。」
「フーン。で、喫茶店には行かないの?」
「行きません。」
そりゃ、私だって、今はやりのオープンカフェぐらい、行ったことはありますが、そんなにも世間を席巻しているとは、ちーとも知りませんでした。今や、喫茶店は、おっさんが行く所のようですぞ、皆さん!
会に参加していた30代と思しき女性も、この女子学生に助太刀するかのように、
「私もここ3年ほど、喫茶店には行ったことがありません。20〜30代の女性はそうじゃないですか?少なくとも梅田界隈では。みんなカフェに行きますよ。」
ああ、そうですか。そんなにみんな行ったら、混んでしょうがないんと違う?
大阪・京橋界隈では、みんな喫茶店に行きますけど。
「僕らの頃は、純喫茶だったなあ。」
などといっている主催者の大学の先生からは、
「カフェって、どんな字で書くの?漢字?」
という質問が出ましたが、
「CAFE、アルファベットです。」
と肩透かしを食らったり
「女給さんがいたりして・・・。」
なんてジョークにも、彼女たちは
「??????」
という反応でした。当然ですね。大正ロマンの「カフエー」とは別物ですから。
いっぺん、行ってみるか、C・A・F・E、カフェにでも。
そうそう、純喫茶といえば、京橋駅のすぐ近くには、
「鍋物、音楽喫茶・泉」
という不純な喫茶店もありますよ。てっちりとぜんざいとコーヒーが味わえます。
どうだ、すごかろう!カフェには、真似できまい。エッヘン!!
2001/12/18
(追記)
今年の夏に「泉」を取材したディレクターによると「今はなべ物はやっていない」ということでしたので、また確認しておきます。
2001/12/19
(追記2)
4年半ぶりの追記です。4月から甲南大学で「マスコミ原語研究」という講座で教えています(前期のみ)が、その受講生約100人(2年生から4年生)に、
「『サ店』という言葉を使うか?」
と聞いたところ、「使う」と答えた学生は「一人もいません」でした。ただ、「聞いたことはある」と答えた学生は数人いて、どういうシチュエーションで聞いたか?と問うと、
「テレビドラマで」
「漫画の中の台詞で」
という答えでした。同じく神戸女子短大でも50人ほどの女子学生(1、2年生)に聞きましたが、「『サ店』を使う」と答えた人は「一人もいません」でした。
2006/7/13
(追記3)
2009年11月2日の毎日新聞夕刊のコラム「憂楽帳」のタイトルは「死語の世界」。川口雅浩記者が書いています。そこには「20歳代の若い女性と待ち合わせ」をした川口記者が、その女性からメールで、
「毎日新聞のカフェの前で待っています」
と告げられて、
「毎日新聞の『カフェ』って、かつてのプロ野球団名にちなんだ本社ビルの『茶房オリオンズ』のことか?」
と半信半疑でその場所に向かうと、はたしてそうであったと。
後日、別の20歳代の女性記者に聞くと、
「今の若者は『喫茶店』を『カフェ』と呼ぶのがフツーなのだ」
とのことで、川口記者、
「うーん、喫茶店は死語なのか」
とつぶやいています。9年前には私は気付いていましたが、それにしても今頃気付くのはちょっと遅いんじゃないの?
2010/7/25
◆ことばの話516「いまどきのおはようの挨拶」
12月15日、高槻市で行われた「第16回すっきゃねん若者ことばの会」という集まりに参加しました。大阪外大の小矢野哲夫先生、梅花女子大学の米川明彦先生、甲南大学の都染直也先生、京都の女子高校の高山勉先生が主催して、年に2回開いている会です。去年(2000年)の12月には、私もゲスト・スピーカーとして話をさせてもらったことがあります。
今回は、甲南女子大学4回生の吉村麗さんと若狭恵子さんという二人が「甲南女子大学のキャンパスことばについて」というタイトルで、甲南女子大の学生243人を対象にして、キャンパス語と思しき11語について、学年の経過とともにその使用頻度・認知度がどう変るかという調査報告が行われました。
なかなか面白かったのですが、なかでも目を引いたのが、
「学校などで友達に会った時の挨拶」
という項目です。結果から言うと、
オハヨウ・・・・125人(51,4%)
オッハー・・・・40人(16,5%)
バイバイ・・・・13人( 5,3%)
オハヨ・・・・・12人(4,9%)
オッスー・・・・・7人(2,9%)
ヤー・・・・・・・4人(1,6%)
無回答・・・・・・23人(9,5%)
その他・・・・・・10人(7,9%)
※ その他は、「オウ」「ヨー」「ハヨー」「チャオッピー」「ハヨーン」
「オハ」「チーッス」「ゲンキ」
という結果が出たそうです。
私がここで問題としたいのは、彼女たちの挨拶の中に「こんにちは」がないことです。唯一、「その他」の中に含まれている「チーッス」が、「こんちはっす」からの派生と考えられますが、それ以外はほとんど「おはよう」の流れの挨拶なのです。
これまでの常識から言うと、
朝は「おはよう」、昼は「こんにちは」夜は「こんばんは」
ですよね。すると、朝会った時は「おはよう」でも良いですが、状況から考えると、彼女たちは昼、あるいは夜会っても「おはよう」と言っている気がします。発表者に確認すると、やはりそうでした。
夜であっても、その日初めて会った人には「おはよう」という挨拶をする、これは音楽業界や芸能界などと一緒です。ちなみに放送局もそうですが。
いまや一般社会である(?)大学まで、芸能界汚染(?)されてしまっているのでしょうか?
果たしてそうやって育った彼女たちは、一般社会に出たときに、ちゃんとした挨拶との使い分けをすることが出来るのかどうか!?非常に疑問ですねえ。
もうひとつ、これは他の人から質問が出たのですが、出会った時の挨拶として「バイバイ」が入っていること。これは状況を聞いてみると、「友達とすれ違ったりした時に言う」そうで、「ああ、それなら納得」と思ったのですが、しかしそれは、言葉では言わなくても、会った瞬間に相手を認めて無言の挨拶をしたあとに、別れの挨拶として「バイバイ」と言っているので、ちょっとこの「出会った時の挨拶」の分類の中に含めてしまうのはどうかな、という気がしました。
しかし、やはりテレビの影響力は強いんですねえ。第二位の「オッハー」も、ご存知「慎吾ママ」で広まったものですし。
責任重大です。滅多なことは言えないな。
2001/12/18
(追記)
先日(10月26日)、子供を保育所に送った帰り道、女子高生の二人組が向こうから歩いてきました。その後ろから、自転車に乗った同じ制服を着た女子高生が一人近づいてきた時の、3人の挨拶が、
「あー!バイバーイ!!」
でした。これは出会った挨拶は「あー!」で別れの挨拶が「バイバーイ!」なのか、もうそれもこれも一体となって「あー、バイバーイ」なのか?
おそらく後者なんでしょうね。
2002/10/30
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