◆ことばの話485「かわええ」

NHKのSさんからメールが届きました。



「先日京都に行った時に、女子高生が"かわいい"のことを"かわええ"というふうに言っているのを耳にしたんですが、そういう言い方がはやっているんでしょうか?」



「かわええ」?あおーんなん、聞いたことあらへん!と思って、自信を持って

「言いません。何かの間違いでしょう。」

というメールを送ったのですが、ちょっと気になって、京都の女子高で教鞭をとっているT先生にメールで、

「かわええ、なんて言葉を、いまどきの女子高生は使っているんでしょうか?」

と聞いたところ、なんと驚いたことに、

「高2と高3、10人ほどに聞いたところ、全員"言う"と言うことでした。」

という返事が返ってきたではないですか!

「これは調べねばならぬ!」ということで、さっそく、京都で街頭インタビューを行いました。

その結果、京都では43人聞いた中で4分の1の人が「使ったことがある」。「聞いたことがある」人と合わすと、なんと6割にも達しました。

その中で「"かわええ"という言葉は、大阪ぽい感じがする」という声もありました。

そこで大阪駅前で聞きました。

すると、やはり半数の人が「使ったことがある」「聞いたことがある」と答えたのです。

私の知らないところで、密かに(?)はやっていたのか?この言葉。

しかも、大阪駅前では、東京から遊びに来ていた男性が「東京でも使う」と答えています。これは関西限定の言葉ではない?

そこでインターネットのYAHOOで「かわええ」を検索してみました。

すると、10月中旬の段階で、約8500件、「かわええ」が使われていました。

その後、11月初旬に調べると約9600件と3週間で1000件増えており、さらに3週間が経過した11月下旬には、驚くなかれ約1万2700件と、3000件も増加していたのです。今、急速に使われているのでしょうか、「かわええ」。



大阪大学大学院の真田信治教授に、これは一体どういう現象なのか、伺ったところ、

「もともと関西弁では"良(い)い"を"ええ"と言う。この過去形は"よかった"なのだが、"いかった"という言い方が広まり出した。この"いかった"が、"かわいい"の過去形の"かわいかった"とよく似ているので、"いかった"→現在形"ええ"につられて、"かわいかった"→現在形"かわええ"が出現したのではないか。」というお話でした。

また、京都でも大阪でも東京(これは現地で調査していませんが)でも使われているとすれば、これは"方言"ではなく、ある世代だけで使われる"世代語"であるということでした。

今後「かわええ」は、さらに広がるのか?注目しても、ええ?

(この様子は、2001、11、26に「ニューススクランブル」で放送しました。)

2001/11/30

(追記)

20年来愛読している小学館のマンガ雑誌「ビッグコミック・スピリッツ」(2002、4、15号)に連載されている『つゆダク』(朔ユキ蔵)の中に(36p)、主人公の男性が、相手の女性に対して、

「ほわー、かわえー」

とつぶやいている(?吹き出しの中のセリフではなく、欄外に手書きで書かれたもの)シーンがありました。作者の朔ユキ蔵という人が、関西出身なのか?それとも東京の若者言葉なのか?オタク言葉なのか?どうなんでしょうかね。

2002/4/5

(追記2)

朱川湊人さんの第133回直木賞受賞作品『花まんま』の135ページに、
「かわええ。赤ちゃんは通天閣のビリケンさんみたい」
という言い方が出ていました。この短編集の舞台は大阪です。

2005/9/12

(追記3)

「花まんま」の引用部分の正確な文章は、
「かわええなぁ・・・俺の娘や。こんな可愛いモンが、この世に他にあるかいな」でした。

2005/9/20


◆ことばの話484「お伝えします」

アナウンス部に電話がかかってきました。

N君がとったところ、先輩のWさん宛てでした。Wさんはいなかったので、用件を聞いた上で伝えようとしました。

そのやりとりを私が聞いていました。N君は、



「Wさんは、今ちょっと、席をはずしてらっしゃいます。



おやおや、身内に敬語使ってるゾ。



「ええ、わかりました。伝えておきます。



おや?今度は敬語じゃないな。

電話が終ってから、この件についてN君に聞いてみると、



「そうなんです、最初に身内のWさんに対して敬語を使ってしまったので、"しまった!"と思って、次はバランスを考えて敬語を使わなかったんですけど、まずかったですかね?」



最初の「席を外してらっしゃいます。」は、身内に対する敬語ですから明らかにおかしいですね。しかし、次の「伝えておきます。」は微妙ですねえ。

私は、

「お伝えします。」

というふうに、電話の相手の方に対しての敬語として「お」をつけるべきだと思うのですが、N君は「ここで"お"をつけると、またWさんに対する敬語になってしまう気がしたので、"お"をつけなかった。」と言うのです。

その場にいる人に対しての敬語か、その場にいないけれども会話の話題の中心人物に対する敬語なのか?うーん、むずかしい。

これは「伝える」という動詞の意味が関係しているのではないでしょうか。

つまり、「伝える」の意味は「Aさんからの伝言をBさんに伝える」というふうに、最低2人の人間が必要です。それを媒介して「伝える」人間も入れると3人になりますが。そうすると、その相手の2人のどちらを立てるか、両方に敬語を使う場合もあれば、片方だけに使うケースもある。このケースが一番難しい判断を迫られることになるでしょう。また「お」をつけたときには必ず「尊敬語」ではなく「謙譲語」になる場合もあるので、なおさらややこしい。

たとえば、テレビの現場中継で、現場のアナウンサーや記者が

「はい、お伝えします。」

「以上、現場からお伝えしました。」


という場合は、丁寧・尊敬というよりは、(意味の上からは)「謙譲語」になるのではないでしょうか?

「お知らせします。」などもそうかな。

しっかりとした(明らかな)「謙譲表現」で電話の受け答えをするのならば、一番いいのは、

「承(うけたまわ)りました。(承知致しました。)Wに申し伝えます。」

という形だとは思いますが。こういうことになると、ほんとにむずかしいな、日本語って。

2001/11/27


◆ことばの話483「もはや」

NNN24で、近鉄バファローズの北川選手の特集を放送していました。

その中で男性キャスターが、こう言ったのです。



「北川選手は、もはや、近鉄の中心選手です。」



なんか、違和感を感じたんですよね、この表現。

私の語感では「もはや」のあとには否定的な言葉が来るような気がするのです。

例えば、「もはや、これまで」とか「もはや、この選手には期待できません。」「もはや手後れです。」とかなんとか。

これが「もう」とか「すでにして」なら、肯定的なものが後ろに来ても構わないんですが。

しかし「もはや、教えることはない」だと、形は否定形ですが、内容は肯定した感じだし、なかなか、一筋縄では行きませんな。

ここで、届いたばかりの「日本国語大辞典・第二版の第12巻」で「もはや」を引いてみました。



もはや(最早)

1.現時点において、継続してきた事柄に区切りをつけたり、既にある状態になっていることを認めたりする気持ちを表わす語。現在に至っては。もう。すでに。「もはやこれまで」

2.ある事態が実現しようとしているさま。早くも。まさに。「もはや日が暮れようとしている。」




うーむ、ここからだけでは、私のわだかまりはわかりません(解決しません)ねえ。

困ったな。

もはや、これまで?
2001/11/27


◆ことばの話482「鮭とば」

家の近くの百貨店の7階で、「北海道物産展」をやっていたので、ちょっと覗いてみました。いいですね、北海道。おいしいものがどっさり。

あっ、これもいいな、これもおいしいなと試食してまわり、結構あれこれ買ってしまいました。私にしては珍しいことですが。

その中に、「鮭とば」がありました。ご存知ですか?「鮭とば」。

鮭の身を薫製にしたもので、堅いけれど、これがいけるんですな、鮭いや、酒の肴に。

よく、北海道出身の後輩が里帰りした時なんかに、アナウンス部に買ってきてくれるんですが、うまいんですよ、ほんと。結構いい値、するんですけどね。

で、買ってしまいました、一袋だけ。千円なり。

買う時に、前々から気になっていたことを、売り場の北海道からやってきたおじちゃんに聞いてみました。



「"鮭とば"の"とば"って、どういう意味なの?」



「"とば"はね、漢字では"冬葉"って書くのよ。鮭の薫製でしょ、だからそれを干しているところを見ると、ちょうど、冬の枯葉がぶら下がってるように見えるんよ。だから"冬葉"と書いて、"とば"ね。」




なーるほど、そうだったのか。いやあ、千円出して買った甲斐があったなあ。

何事も聞いてみるもんですね。

「鮭冬葉」

覚えましたよ。なんか、味わいが深くなったような気がしました。

2001/11/26

(追記)

念のため、YAHOOで「鮭冬葉」で検索したところ、6件、引っかかりました。(「鮭とば」だと1000件以上も出てきましたが。)

それによると、売り場のおじさんと同じように「雪がちらつく頃、木に残る一枚のちぢれた枯れ葉に似たところから鮭冬葉」という説と、「冬葉は、アイヌ語に漢字を当てはめたもの」という説も載っていました。いずれも実際に「鮭冬葉」を販売しているお店のホームページです。

うーん、どうやら、「アイヌ語起源」節の方が、信憑性がありそうですね。

2001/11/27

(追記2)

立川志の輔『滑稽・人情・艶笑・怪談・・・・・・古典落語100席』(PHP文庫)の巻末「落語豆知識」に「噺家言葉」として、
「着物は『とば』」
と出てきました。もしかしたら、「鮭とば」は、「鮭の着物」???
まさかね。

2003/2/6

(追記3)

北海道物産展に行かなくても、なんと「鮭とば」をコンビニで見つけました。しかも作っているのは「合食」という神戸の会社です。その「鮭とば」の袋の裏面には、「鮭とば」の名前の由来には有力な2つの説があると書いてありました。それによると、

(一)「とば」はアイヌ語で「群れ」を指す言葉。鮭はアイヌの人にとって長い冬の貴重な食料で神魚(カムイチェップ)として崇められてきた。秋に群れをなして川を上る姿が「鮭とば」に。
(二)鮭を干すさまが「枯葉」のようで、それを「冬葉」と記して「とうば」と。

という2種類の語源が記されていました。なかなか勉強になるな、と思っているうちに、中身は全部食べてしまいました。

2005/3/23

(追記4)
コンビニで「札幌・弟子屈(てしかが)ラーメン」というのを見つけて、つい購入してしました。札幌なのに弟子屈ですか。そしてその下に小さく、
「鮭冬葉ラーメン」
と書かれていました。味はあっさり。当然「鮭とば」が入っているかと思ったのですが、レトルトの具は、普通の「サケ」だったようなのですが・・・。
製造販売元は、「十勝新津製麺」という会社でした。

2005/3/27


◆ことばの話481「ローマ数字」

ふだん、私達が普通に使っている数字は、「一、二、三・・・」という漢数字か、「1,2,3・・・」というアラビア数字です。これ以外に時々目にするものに、ローマ数字があります。「T、U、V・・・」というもので、古い大きな掛け時計の文字盤にありそうな数字です。

このローマ数字、3までは、上に書いた通りですが、「4」はと言うと、「T」を4つ書くのではなく、

「W」

となります。「5」が「X」ですので、それより1、少ない。それを左側に書いて示しています。「6」以降は「Y」「Z」「[」と「X」の右側にひとつずつ増えてきて、「9」になるとまた「10」の一つ手前ということで「\」。ということは「10」は「]」です。

あとは、わかりますよね。「20」は「]]」「30」は「]]]」。まあ、こんなに大きな数をローマ数字で書くことは、私たちは滅多にないので、関係ないと言えばそれまでなのですが、ヨーロッパで美術館なんぞに行くと、その作品を展示した部屋に、ずいぶん大きな数字と思しきローマ数字が並んでいたりしますよね。西暦何年か、というのがローマ数字で書いてあって、「あれが読めたらなあ」なんて思う訳です。

そこで今日は、大きなローマ数字をご紹介しますね。

「50」→「L」

「100」→「C」

「500」→「D」

「1000」→「M」あるいは「(I)」


です。大きい!・・・いや、文字が。

「100」が「C」なのは、ラテン語で「100」が「CIEN」だから、その頭文字をとって、「1000」が「M」なのは、やはりラテン語で「1000」のことを「MIL」というから、その頭文字を取ってと言うことだと思うのですが。ケーキの「ミル・フィーユ」は、ラテン語系のフランス語ですが、「1000枚の葉っぱが重なったようなケーキ」ということです。まあ、実際に1000枚ではなく、数が多いことを現しているんですが。「千と千尋の神隠し」の千尋みたいなものかな?確かにパイ生地は、いっパイ重なっております。

では、なぜ「50」は「L」で「500」は「D」なのか?

考えました。

これは、ローマ数字の文字を「絵」と考えて、「100」と「1000」を基準に考えると、「L」は「C(100)」を半分にちょんぎったのではないか?

また、「D」は「(I)」を縦に半分にちょんぎった右側ではないか?
と思いました。

どうなのか?

そのあたりは、大西英文「はじめてのラテン語」(講談社現代新書)の164〜165ページに載っていました。

正解はちょっと違いました。

C、D、Mは南イタリアに入ったギリシャ・アルファベットの変形したもので、「L」は「χ(カイ)」の一字体が変化したもの、「C」もギリシャ文字「Θ(シータ)」を置き換えたもの、「M」も「Φ(ファイ)」を置き換えたものだそうです。何か、遠い記憶の彼方で見たことあるような・・・。

それで唯一「D」は、私の想像が当たっていて、「1000」にあたる「(I)」を半分に割ったものを、アルファベットの「D」に当てはめたのだそうです。

つまり、「ローマ数字」と言いながら、大きな数字はみんなギリシャから持ち込まれていたのです。

実はあまりこのあたりの歴史には詳しくないのですが、ギリシャ・ローマ時代などと言うぐらいですから、ギリシャのほうが、ローマ文明より古いんですよね。そのへんのことを知ろうと、塩野七生「ローマ人の物語T〜ローマは一日にして成らず」(新潮社)を図書館で借りてきました。

ふむふむ、やはり最初のローマには、というかイタリア半島の南は、ほとんどギリシャ人が住んでいた訳ですね。

今、ギリシャとイタリアというと、まったく関係のないような別の国と考えてしまいがちですが、地中海を中心とした地図をみると、同じ文明の栄えた時期の隣同士の国、ほぼ同じ範囲にあるのですね。

あ、そうだ、「ラテン語」というのは「ローマの北」にある「ラツィオ」という都市の言葉が元だそうです。ラツィオは、セリエAの強豪チームの名として聞いたことがありますが、そうだったのか。

また話が逸れました。

で、当時はローマよりもギリシャの方が文化も文明も進んでいた。当時と言うのは紀元前8世紀くらいの話です。見た訳ではないけど。

そこで、大きな数字と言うのは、ギリシャから借りてこなければならなかったのではないか?と思うのです。もっと言えば、ローマとギリシャの間で貿易をする場合に、ギリシャの通貨の方が価値が高かった(強かった)から、それへの対貨として、初めて大きな数字が必要とされたのではないか?しかし、ローマには大きな数字の表し方がない。しょうがないので、相手(ギリシャ)のアルファベットを借りた、と言うことではないのでしょうかねえ。ローマ人に聞いた訳ではないけど。例えば、ローマ字というかローマン・アルファベット(こんな言葉あるのかな?)の「A」は、ギリシャ・アルファベットの「Α」(アレフ)からのもので、最初は180°さかさまで、「角のある雄牛の顔」の象形文字だったようですし。

前述の「ローマ人の物語T」(262ページ)には、



「前267年、ローマははじめて、自前の通貨をつくりはじめた。これまでは必要に迫られるたびに、南伊のギリシア都市の通貨ですませていたのである。自国の通貨をもったということは、ローマが対外的な関係をもちはじめたといことでもあった。」

とありました。やっぱり!

これについては、今後も興味を持って調べたいと思っています。

2001/11/30

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