◆ことばの話430「ニクコップン」
日本でも狂牛病が!というニュースが飛び込んできたのが、9月10日。その直後に、アメリカの同時多発テロが起こり、一旦、狂牛病のカゲが薄くなってしまいましたが、テロへの報復も長期戦に入って事や、使われていないと思われていた「肉骨粉」が使われていて、それが狂牛病の原因とわかるや、また大きなニュースとして取り上げられるようになってきました。その「肉骨粉」です。
今回初めて耳にした言葉です「ニクコップン」。
最初、私が手にしたニュース原稿には、カタカナで、
「ニクコックン」
と書かれていました。ふーん、かわいらしい名前だなあ、商品名かな?と思っていたら本番直前にディレクターが、
「道浦さんすみません、それ"ニクコックン"ではなく"ニクコップン"、漢字で書くと"肉骨粉"です!」
と訂正してきて、ようやくどんな物なのか、漠然とではありませんがわかりました。
福井大学の岡島先生も「この言葉は初めて聞いた。"ニクコップン"という言葉の響きからは、子供向けのテレビ番組(NHK教育「ニコニコプン」)を連想する」とおっしゃってます。
私が、「ニクコップン」という言葉の響きから連想するのは、「うまかっちゃん」です。
でもあれは確か「豚骨スープ」だったから、狂牛病とは関係ないよな。よかった。
この「肉骨粉」、あわてて発音して「ニッコップン」と促音便(小さい「ッ」)を2か所もちいる人も、中にはいるようですが、ここは一つ正確に「ニクコップン」と「ク」を発音しましょう。
また、やはり耳から入る言葉としては新しく、耳慣れないこともあってか、NHKでは、
「牛の肉や骨を原料としたエサ」(9月28日午前7時20分「おはよう日本」で武内陶子アナ)
という言い方をしているようです。
狂牛病の不安を取り除くには、ようやく決定した肉骨粉の使用を全面的にやめるのはもちろんのこと、正確ですばやい情報を、信頼できる形で消費者に伝えることが、是非とも必要です。
2001/10/2
◆ことばの話429「デンジャラスな波」
今年は、台風が例年よりたくさんやってきます。
そのうちの一つ、台風15号が高知県に上陸、という中継を見ていると、海岸でカッパを着て風雨に吹き飛ばされそうな男性アナウンサーが、こう、生リポートしていました。
「こちらの海岸にはデンジャラスな波が押し寄せています!」
そのテレビを見ていた、アナウンス部一同は、口をアングリ。
「デンジャラスな波」?
「危険な波」の「危険な」だけを英語にしたの?なんで、また・・・?
しかも「デインジャラス」ではなく「デンジャラス」。その発音、日本語やんか。しかもそのリズムから「デンジャラス」が「ドンジャラホイ」と聞こえてしまったのは私だけでしょうか?・・・私だけのようです。
アングリあけた口を閉じたW女史が、
「やるなー、私も一回、あんな中継してみたい。」
ご冗談を・・・。
災害中継は、出来るだけたくさんの方に分かりやすく状況を伝え、危機を回避してもらうのが使命です。それなのになぜ、奇をてらったような「デンジャラスな波」が急に飛び出してきたのでしょうか?プロレス中継ではないのです。
そんなところで、いらぬ"個性"を出そうとすることこそ、"デンジャラス"だとは思いませんか?
2001/9/19
◆ことばの話428「0」
「0」を「れい」と読むか「ゼロ」と読むか?
我々アナウンサーは結構悩むのです。
基本的には「れい」は日本語読み、「ゼロ」は英語読みなので、特別の場合を除いて「れい」と読むのですが、その「特別な場合」の「れい」、いや「例」としては、
0歳児、0メートル地帯、0シーリング、0120(フリーダイヤル)、ベア0
などがあります。最もこれらの多くは「0」と書かずにに「ゼロ」とカタカナ書きすることも多いのですが。このほか、ゼロセンは「0戦」とは書かずに「ゼロ戦」または「零戦」。
さて、そんな中、ニセ千円札が出回ったというニュースがありました。そのニセ札は、お札に印刷された「記番号」がすべて「0」から始まるという特徴があると伝えたのですが、その際には「0」を「れい」とアナウンサーは読みました。
しかし夕方のニュースを前にして、後輩のSアナウンサーから問い合わせの電話がありました。
「この記番号が0から始まるというのを"ゼロ"と読んじゃあ、まずいですかね?」
そうですねぇ。「ゼロ」と読むと原稿は「記番号がゼロから始まり」となりますが、この「ゼロ」には「単なる数字の読み方」という以上に、例えば「在庫ゼロ」というふうに「なにもない」という意味もあります。それと間違えられないように気遣う必要性からは、「ゼロ」よりも「れい」と読んだ方が良いのではないかなあと答えました。
「在庫れい」とは言わないですよね。
「れい」と「ゼロ」の住み分けはあるようです。
2001/9/4
◆ことばの話427「お財布にやさしい短大」
先日、大阪環状線の電車内で、何気なくドアの上に目をやったところ、ある女子短期大学の受験生募集の広告が張ってありました。そのキャッチコピーに、私は目を奪われました。
「ランチバイキング年間無料。お財布にやさしい短大」
ランチバイキングが、年間無料かぁ、それはラッキー!・・・って、いいのかな、それで。
さぞかしおいしいランチが食べられるんでしょうけど、短大はランチを食べるのがメインなの?勉強はしないの?
その道では有名な研究者の先生がいるとか、名物教授とか、丁寧な指導とか、就職率が高いとか、私立の学校はこれまでもいろいろなキャッチフレーズで受験生を増やそうと努力をして来たんだと思いますが、少子化に短大受験生の減少といった逆風の中で、ついにここまで来ましたか・・・。一番のセールスポイントが、「ランチバイキング、年間無料」。つまり、タダメシを食わせてくれるという訳ですね。
「お財布にやさしい」
そんな表現方法があったのか、学生の募集で・・・。でもよく考えたら、その「ランチ代」はしっかり授業料や入学金の中に含まれていたりはしないのでしょうか?お財布には「やさしい」けれど、学生の「学力」にとっては別の意味で「厳しい」のではないでしょうか。
デフレで「半額バーガー」や「280円牛丼」が話題を奪うこの時代にふさわしい、学生募集の方法なのかもしれませんが、それにしても「タダより高いものは、ない」という昔の人の言葉も、忘れないようにしたいです。
あっ、できたら「お財布にやさしい医大」なんかも広告して欲しいですね。
2001/9/12
◆ことばの話426「稲垣メンバー」
今ごろ、何を言ってるんや!というお叱りの声が聞こえてきそうですが、一応記録として書き残しておきます。
もう1ヶ月半ほど経ちますが、SMAPの稲垣吾郎が、道交法違反などの疑いで逮捕されたのは8月の下旬。その時は「稲垣吾郎容疑者」というふうに報道されました。
その後、逃亡のおそれがないことから「在宅での捜査」に切り替わり釈放。その時に記者会見を行いましたが、この時からテレビ各社は「稲垣吾郎メンバー」という呼称に切り替えました。(新聞はそのまま「稲垣吾郎容疑者」)。
この聞きなれない「メンバー」という"肩書き"に関して、視聴者からも疑問が寄せられ、週刊誌なども「ジャニーズ事務所から圧力があったに違いない」などと書き立てましたが、実際は、そういうわけではないのです。
テレビ局内の報道に関する内規に、在宅での捜査の場合の容疑者の呼称については、
「実名に肩書き(まれに敬称)をつける。微罪の場合、"匿名"もあり」
というふうに決められており、今回はそれに従ったのです。ただ、稲垣吾郎の場合、SMAPの「リーダー」でも「社長」でないし、あえて言うとするならば「メンバー」ぐらいしか「肩書き」がなかったために「稲垣吾郎メンバー」ということになったのです。
おわかりいただけましたか?
しかしそれにしても別に隠すようなことではないので、そういった基準をもっと説明する義務がある気がするんですけどね。
それと、「呼び捨て」から「○○容疑者」というふうな呼称になってからまだ10数年なのに、今やすっかり定着したんだなあ、と改めて思いました。最初は「まだろっこしい」「字数が多くて面倒くさい」という声は現場にも多かったのに・・・。
2001/10/2
(追記)
ちなみに私が8月27日(釈放会見の翌日)の朝8時半までにチェックした、各テレビ局のワイドショーでは、
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(コメント) |
( 字幕スーパー) |
(TBS) |
稲垣容疑者 |
稲垣吾郎(呼び捨て) |
(ABC) |
稲垣容疑者 |
稲垣吾郎 |
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ゴローちゃん |
(宮根アナ) |
(フジテレビ) |
稲垣容疑者、彼 |
稲垣吾郎 |
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(8時半以降は)稲垣メンバー |
(日本テレビ) |
稲垣メンバー |
稲垣メンバー |
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稲垣吾郎(呼び捨て) |
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といった具合でした。参考までにその時間帯、関西ではテレビ朝日ではなく、ABC(朝日放送)が関西ローカルの番組をやっていましたから「ABC」になっています。
2001/10/2
(追記2)
朝日新聞社が、今年最も話題を集めた言葉をインターネットやiモードで募る「ワードオブザイヤー2001」というのをやっているそうです。その中間集計が、昨日の朝刊(10月17日)に載っていました。それによると、1300件の投票のうち、
1位・・・「テロ」281件
2位・・・「稲垣メンバー」203件
3位・・・「構造改革」162件
だそうです。大朝日新聞がやってるにしては、投票総数が少ない感じがしますが、そんな中でも「稲垣メンバー」が2位に入っているということは、やはり一般の読者にとっても相当違和感があったのでしょうね。
ちなみに締切りは24日午後6時、発表は11月1日の朝日新聞朝刊紙上だそうです。
しかし、こんな話題(今年のことばとか今年の漢字とか。)が出てくると「あーあ、もう今年も終わりかぁ」という気になってしまいますねぇ。
2001/10/18
(追記3)
アナウンス部アルバイトの石山さんが「道浦さん、こんなの読まれましたか?」と見せてくれたのは雑誌「DIME」(2001、10、4号)の107ページ「カーツさとういいがかり言葉塾〜新語・流行語そして死語を爆笑分析」というページ。(長いね、どうも、タイトルが。)そこで今回取り上げられていたのが「稲垣メンバー」でした。
「TBSとフジテレビがこのメンバーって言葉を使っていたらしい」
「レッツゴー三匹の"じゅんで〜す!!"の場合なんかも"じゅんメンバーが・・・"ってなるワケか?」
などと記されていますが、それとともに
「一般人が、略式起訴で終わるような事件を起こしたからって、絶対にニュースになることなんてないんすから。」
とも書いていました。
2001/10/18 PM
(追記4)
あれから1年あまり。すっかり過去の話になってしまいましたね。2002年12月10日の日経新聞夕刊を見て、「おっ!」と思いました。「女と時間と日本経済」という1面の連載特集の「柔らかな改革者5」で紹介されている唐木幸子さん。世界初のDNAコンピューターを東大と共同開発するオリンパス光学工業に勤務されています。その唐木さんの写真の横につけられたキャプション(説明文)に、こう書かれていました。「世界初のDNAコンピューターの実用化を目指し実験の指揮をとる唐木幸子リーダー」この最後のところ、ご注目ください。「唐木幸子リーダー」こういう肩書きの紹介、「あり」何ですね、やっぱり。新聞では使っているということです。
2002/12/26
(追記5)
『新ことばのくずかご84−86』(見坊豪紀、稲垣吉彦、山崎 誠:筑摩書房)を読んでいたら、「容疑者の敬称」という項目がありました。それによると、
『サンケイ新聞が開発した方法は肩書きを氏名の下につける。「伊藤店員」「稲富会社員」「鈴木経営者と妻の通子主婦」「高橋直無職」「山本潤一郎農業」「伊藤雪子スナックホステス」「山岡タイムキーパー」「原田俳優」「浜中業者」』
これは1985年5月19日号の『朝日ジャーナル』に載っていたものを、『言語』の1985年7月号128「ことろぐ・85」欄に榊原昭二さんが取り上げたものを、また見坊さんたちがピックアップしているというものです。それを私・道浦が取り上げました。ああ、面倒くさい。
それにしてももう20年前にサンケイ新聞が開発していたのですかぁ。当時は気づきませんでした。
2006/9/10
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