◆ことばの話340「中年2」

以前の「平成ことば事情266中年」の続きです。

「中年」の指す年齢の範囲は、何歳から何歳か?というお話です。

先日(6月9日)参加した「すっきゃねん若者ことばの会」に、「日本語教育新聞」の記者の方がいらっしゃっていました。これは日本言語研究所というところが出している月刊新聞で、その人から「日本語教育新聞」の5月1日号をサンプルを頂きました。

そこには「年齢の言葉」の使い方アンケート調査の結果が特集として載っていました。

タイトルは「30才は、おばさん?おねえさん?」

調査対象者は全国の14才から75才の男女517人で、調査時期は、2001年3月4日から、3月12日です。

調査した言葉は、[1]「世代」を表す言葉=「幼児」「少年・少女」「青年」「中年」「熟年」「老年」と[2]風俗を反映する言葉=「ギャル」「女ざかり」「男ざかり」「オヤジ」「お年寄り」、そして[3]呼称=「おにいさん・おねえさん」「おじさん・おばさん」「おじいさん・おばあさん」です。(この新聞では「歳」ではなく「才」を使っているので、今回は「才」を使います。)

結果を、この新聞の特集のタイトルの方から答えておくと、「おにいさん・おねえさん」は、17〜28才、「おじさん・おばさん」は39〜57才、「おじいさん・おばあさん」は66才以上ということです。

ということは、30才は、おねえさんでも、おばさんでもない、とっても中途半端な年齢ということですね。

また、「幼児」は2〜5才、「少年・少女」は7〜10才、「青年」は17〜28才、問題の「中年」は37才〜51才、熟年は52才〜64才、そして老年は69才以上ということです。

さらに、「ギャル」は16才〜20才、「女ざかり」は25才〜35才、「男ざかり」は29才から41才、「オヤジ」は42才〜58才、「お年寄り」は68才以上だそうです。

但し、最後の「女ざかり・男ざかり」「オヤジ」「お年寄り」に関しては、アンケート解答者の年齢が低い方が全体に答えの年齢も下がっていて、解答者が高齢の方が、解答の年齢も上がっているという差が出たそうです。

また、「女ざかり」の方が「男ざかり」よりも前倒し(早く始まって早く終わる)されているのも、各年代に共通した傾向なんだそうです。

私が去年行った、女子大生120人に聞いた調査でも、「中年」の平均年齢は42才、年齢の幅は28才から60才だったので、まあ、それに近い結果が今回の調査でも出たということですね。

この新聞では、「青年」(17〜28才)と「中年」(37〜51才)の間(29〜36才)を指す言葉がないことも指摘していて、「"壮年"がそれにあたるのだろうが、あまり使われていないように思われる」と記していますが、「壮年」は「中年」と同じ、もしくは「男ざかり」と同じだと思いますがね。確かに使われていませんが。

この新聞は、外国人に対する日本語教育に取り組んでいる先生方が主な購読者のようですが、外国人に対して、こういった「意味に幅のある言葉」を教える際に、教える立場の先生達も、実は良くわからずにその日本語を使っているケースも多い、というふうなことが、このアンケート調査を行なった裏側に、透けて見えるような気がしました。

2001/6/16


◆ことばの話339「いまだ入院しています」

残忍極まりない大阪教育大学附属池田小学校での惨劇から1週間が経ちました。

当然のことながら、いまだに、子供たちの心の傷は癒えていません。

この一週間様子をまとめたVTRを作っていた時のことです。私が読もうとした原稿に、こんな文章がありました。

「いまだ入院を続けている児童は・・・」

おや?ちょっとおかしいぞ。「いまだ」は文語で後ろには「ず」がこうするはず。また、口語にして「いまだに」を使ったとしても、後ろの呼応は「ない」だから、「いまだ」あるいは「いまだに」を使うと、

「児童、いまだ入院せず」

「いまだに入院しない児童は・・・」


になってしまいます。そうすると、後半の言葉が事実と異なるので、、

「児童、いまだ退院できず」

「いまだに退院できない児童は・・・」


とすべきです。(このうち文語の「いまだ」のほうは、なんか文章がヘンですが。)

しかし、おそらくこの原稿を書いたディレクターは、こう書きたかったのではないでしょうか。

「今も入院を続けている児童は・・・」

結局、ナレーションをこのように直して放送しました。

言うまでもなく「いまだに」を漢字にすると「未だに」です。音は一緒ですが、「今だに」ではありません。

きっと、この音が同じことから「未だ」を「今だ」と勘違いしている人が多いのでしょう。

「いまだ」と「いまだに」の文語と口語の使い分けについては、「平成ことば事情157"いまだに"と"いまだ"」をご覧ください。

いまだにこんなことを言ってるんだなあ。

と、オチを書いたところで、あれ?と思いました。

「いまだにこんなことをいってるんだなあ」

という言葉、言いますよね。念のため辞書(新明解国語辞典)を引いてみました。

「未だ」「副詞で、否定的表現と照応して使われ、"まだ"の意の古語的表現。」

と書いてありましたが、そのあとに、

「いまだに」「副詞。現在に至るまで、その状態のままであることを表す。」

とあり、一つ目の例文は否定辞を伴っていますが、二つ目の例文は、

「工業排水による水質汚染はいまだに続いている」

と、否定辞は伴っていません!つまり「ない」を呼応させなくてもいいのです!

ただし、文章全体のトーンは"否定的"なものですね、この例文の場合も、私が書いた「いまだにこんなことを言ってるんだなあ。」という文章も。

さらに、表記については、「"今だに"とも書く」と書いてありました。古語の「いまだ」は「未だ」だけですが、口語の「いまだに」は「未だに」だけでなく「今だに」も、既に許されるんですね。いやぁー勉強になった。

2001/6/16


◆ことばの話338「なにが悲しゅうて」

「負けず嫌い」というのは、「負けるのが嫌い」な人のこと、あるいはその性分のことですが、ではなぜ「負け嫌い」ではないのか。「ず」は打ち消しの「ず」ではないのか?という疑問は時々出てきます。

「大野晋の日本語相談」(朝日文芸文庫)にも「負ケズギライのズ」ということが書いてあります。それによると、この「ず」は、否定の「ず」ではなく、今も中部地方を中心に関東の一部や島根県に残っている「意志や推量の"ず"」だというのです。例として

「寝ズ」(寝よう)静岡県

「花ア見ズ」(花を見よう)山梨県

「寒カラズ」(寒いだろう)岐阜県


また、反語として

「誰ンヤラズ」(誰がやるものか)静岡県

などが上がっていますが、こういった意志と推量の「ズ」は江戸時代にも使われていて、

「すいた男に添はとおもひきはめ」(東海道中膝栗毛)

これは「添わせようと思い」の意味だそうです。

さらに室町・院政時代にまでさかのぼると、

ムトス→ムズ→ウズ→ズ

というふうに変化してきて江戸時代に成立した「ズ」が今も方言に残り、「負けず嫌い」という形になったと指摘しています。

ここから考えると、「負けずぎらい」の「ズ」は、「負けよう嫌い」「負けるだろうと思うことが嫌い」という意味なんだそうです。

ちょっと、本題に入る前から話がそれてしまいました。

今回は、次の二つの文章の違いについて考えようと思ったのです。

「なにが悲しゅうて」

「なにが楽しゅうて」


ウ音便を使っていて、関西弁のにおいがしますが、「悲しい」と「楽しい」、まったく正反対の意味だと思いますが、この二つを使った次の文章は、ほぼ同じ意味です。( )内は標準語です。

「なにが悲しゅうて、こんな所におらなあかんねん。」

(なにが悲しくて、こんな所にいなくちゃならないのか。)

「なにが楽しゅうて、こんな所におるんや。」

(なにが楽しくて、こんな所にいるのだ。)

文章の意味は同じですが、全体を見るとちょっと構成要素が違います。

「なにが悲しゅうて」はそのあとに「おらなあかん」、つまり「いなくてはならない」(=must)が呼応しています。好き嫌いに関係なく「いなくてはならない」という状況が「悲しい」のです。

それに対して「なにが楽しゅうて」の方は、「おる」と、別に誰かに強制されている訳ではない。自分の意志でその場に「おる」ことに対して「なにが楽しくて」という疑問が出てくるのではないでしょうか。

そういった意味では、最初の「なにが悲しゅうて」は、そういう状況に置かれた本人が、自分に対して、やりきれなくてつぶやいたような感じの言葉です。

対する「なにが楽しゅうて」は他人が、そういう状況にある人に対して投げかける言葉のように思えます。つまり、言葉の使い手が違うのです。

それにしてもなにが(悲しゅうて・楽しゅうて)、こんなことを考えてるんでしょう。

楽しいけどね。

2001/6/16
(追記)

2007年6月16日、ちょうど6年ぶりの「追記」です。奇遇だなあ、「ちょうど」なんて!
検査入院しているベッドの上で読んでいた金子達仁の『すべては、あの日から。』(新潮社、2006)の中に、
「なにが悲しくて言葉の通じないところへいかなくてはならないのか。」
という一文が出てきたので考えました。この「なにが悲しくて」は、
「その場にいるのが悲しくて、その場でしていることが悲しくて。その場から逃れるためにその行為をする。その行為の原因となったいやなこと。その行為もあまり好ましくはないが、それでさえもまだマシだと思わせるぐらい悲しい出来事があった」
ということを想起させます。一方これが、
「なにが嬉しくて」
となると、
「結果として行なう行為が好ましく感じられる誘因である。しかしなぜそれが誘因であるか私にはわからないが『蓼食う虫も好き好き』」
という感じ。「うれしい」は、「あとの行為に対して」で、「悲しい」は「前の行為に対して」の表現なのでしょう。
2007/6/16
(追記2)

スクラップを整理していたら、2003年9月17日の読売新聞が出てきました。そうです、阪神タイガース18年ぶりの優勝の翌日の朝刊の解説面。見出しは、そのものズバリ、
「阪神V
モロです。スポーツ面だけではなかったのでス、浮かれていたのは。そして、サブタイトルは、
「『今に見てみい』のトラ神話 大阪発信、全国駆け抜ける」
と意気軒昂。溜まってたんやねえ・・・。書き手は、文化部の浪川知子記者と解説部の宇恵一郎記者。浪川さんは以前、一度お会いしたことがあるぞ。その書き出しが、
「『何が悲しゅうて虎を応援してると思てんのや。いずれみてみい、優勝や』。その思いを就任二年目の星野監督がはらした」
というふうに、
「何が悲しゅうて」
が使われていました。「ウ音便」は、現代ではやはり「上方」のものでしょう。それにしても、いやあ、懐かしいねえ、って懐かしんでいるようやから、ジャイアンツが3連覇してまうんやなあ・・・。
2009/10/20


◆ことばの話337「メルマガ」

小泉内閣のメールマガジンが、えらい人気です。

昨日(6月14日)の夕方までに、配信希望の登録者が100万人を越えたとか。世界最多として、ギネスブックに登録を申請するんだそうです。

パソコンの操作もままならなかった前・IT(イット)首相とはえらい違いですな。イニシャルとちゃいまっせ。(このあたり、今人気の"塩爺"の口調をイメージしてみました。)

さてそのメールマガジンの略称が「メルマガ」です。「メール友達」の略称が「メル友」になったように、「メールマガジン」も長音符号の「―」が抜けた形での「メルマガ」とい略称なのす。

福田官房長官は、この件について記者から質問された時、最初「メールマガジンについてなんですが・・・。」と聞かれると、

「えっ?なんのこと?メールマガジン、ああ、メルマガって言ってくれなくっちゃ・・・。」

と答えていました。略称しか知らないというのもおかしな話ですな。

メルマガの何たるかがわからずに、内閣広報室に電話で

「パソコンを持っていないので、郵送して下さい」

というふうに申し込んでくる人もいたそうです。私も2年前でしたら、同じことをしたでしょう。人のことは笑えません。

このホームページを読んで下さっている人にはそういう方はいらっしゃらないかも知れませんが、私の認識する「メルマガ」とは、「メッセージなどを書いたものを、定期的に電子メールで自動配信してくれるもの」です。違っていたらゴメンナサイ。

私がいちばん最初に配信を受けたメルマガは「まぐまぐ」というもの。これは「メルマガのメルマガ」のようなもの。毎週3回、おすすめの「メルマガ」のアドレスと、ちょっとしたメッセージやコラム、投書などを載せて配信するもので、今日(6月15日)の時点での配信数は約350万!!あれっ?小泉内閣メルマガよりもずっと多いじゃない。ギネスは無理じゃないの?と思いましたが、「まぐまぐ」は「単独のメルマガ」とは言い難いので、ちょっと比較対象にならないのかもしれません。

2001/6/15

(追記)

今日(6月22日)の毎日新聞朝刊の4コママンガ「アサッテ君」(東海林さだお)で「メルマガ」が取り上げられていました。

老夫婦の茶の間での会話。おばあさんが、

「メルマガって何?メルが曲がってるの?」

と尋ねれば、おじいさん、

「メルは曲がってないんじゃないかなァ。」

「じゃあ何が曲がってるの?」

困ったおじいさんは、娘(または嫁さんかな?)に聞きに行きました。すると娘も、

「何かが曲がってるとか曲がってないとかのことじゃないと思うけどなー。」

と腕を組みながら答えるのです。

180万人もメルマガの配信希望があったといっても、それより多くの人たちが、こういった会話をしているのではないでしょうか、とふと感じたのでした。

2001/6/22


◆ことばの話336「3タテ」

勝った勝った、阪神が勝ちました!中日相手に3連勝!!

中日に3タテを食らわせたのは、なんと1988年4月以来、13年ぶりなんだそうです。それって、昭和の時代の話ではないですか。な、情けない・・・。

それはさておき、そのニュースを「あさイチ!」のスポーツニュースのコーナーで伝えたところ、視聴者の方からこんな質問が届きました。

「3タテの"タテ"の語源は何ですか?」

メイン司会者の森アナが私に聞いてきましたが、答えられませんでした。インターネットで検索しても、「3タテ」ということばは出てきますが、3タテの語源はどこにも見つかりません。

そこで、基本に戻って辞書(広辞苑)を引いてみました。すると、載っているではありませんか!あ、もちろん「3タテ」では載ってませんが、「たて」を引くと、こう出ていました。

たて(立て)=(接尾)[2]数詞に付いて、つづけざまの負け。連敗。「三たてをくう」

おお!まさに「3タテ」!!(ちなみに接尾語「たて」のもう一つの意味は「できたて」のような「たて」でした。)

そうか、続けざまに負けることを言うのか。そうすると、

「阪神が中日を3タテした」は間違いですね。

「阪神が中日に3タテを食らわした」が正しい。

しかし、スポーツ紙など、紙面の都合で、後半の「食らわした」を省略してしまうと、いったいどっちがどっちに「3タテ」を食らわしたのかが分からなくなってくる。そのなかで、意味の上からは本来「3連敗」だった「3タテ」が、「3連勝」も意味するようになってきているのではないでしょうか。

実際、今日(6月15日)の読売新聞の見出しは

「トラ、13年ぶり竜3タテ」

ですから、「くわす」が省略されています。また、本文中の囲み記事の小さい見出しは、

「阪神が13年ぶりに中日を3タテ」

となっていて、これでは阪神の3連勝=3タテのように見える記述です。記者も、3タテの意味をしっかりつかんでいなかったのではないでしょうか。もしくは「3タテ」の意味が変ってきているのかもしれません。

「あさイチ!」の視聴者からは、「タテ続けに勝つこと」という意味だと思ってメールを下さった方が多かったようです。

結局、意味はわかりましたが、語源はまだわかっていません。

なお、関連語(関連ないかもしれないけど)に「3タコ」があります。

なぜか「タテ」は、「3」が似合う気がします。「タコ」は「3」と「4」が似合うな。独断だけど。

2001/6/15

(追記)

福井大学助教授の岡島昭浩さんが30年以上前に購入した、長嶋茂雄監修「プロ野球入門」(秋田書店昭和37年10月15日初版、昭和44年7月30日改定20版発行、「試合用語」)の中に、

「二タテ・三タテ=ニ試合、三試合たてつづけに勝つ(負ける)こと。ニタテを食う、とは二試合連続負けること

という記述があるそうです。岡島さん、野球少年だったのですね、小学生時代。私も似たような本を持っていて、野球のスコアの付け方を覚えて友達とリーグを作り、「野球盤」をやっていました。その時、私が応援していたヤクルトの若松選手が、首位打者になったんですよ、野球盤で。そしたら、次の年でしたか本当に(プロ野球セリーグで)若松選手が首位打者になったので、驚きました。その若松選手は、今ヤクルトの監督です。野球盤で首位打者になったことを、彼は知らないと思います。(知っていたらコワイ。)

2001/6/21
(追記2)

7年ぶりの「追記」ですが、また阪神が中日相手に甲子園で3連勝したというのも、何かのめぐり合わせでしょう。
で、2008年7月3日の試合。新聞は7月4日の朝刊の見出し。
(日経)「矢野 読み通り決勝打 竜を3タテ」
(産経)「虎貯金『24』竜3タテ」
日経は阪神の記事の下に、
「一発攻勢、タカを3タテ オリックス」
と、全部、
「3連勝の意味で3タテ」
を使っていました。
2008/7/7

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