◆ことばの話330「http://」

小泉総理のメールマガジンが大人気の今日このごろです。

インターネットの普及率は、新聞によると37%にまで伸びたそうです。ホームページもずいぶん身近になったことでしょう。そのホームページのアドレスの表記といえば、

http://www.

というふうにhttp://から始まるものだと思っていましたが、最近目に付くのは、そのhttp://を省略して、いきなり

www

から始まったりする表記です。確実に増えています。テレビCMや広告でも、アメリカ並みとまでは行かないかもしれませんが、ホームページのアドレスを記したものが増えていますが、その中でもhttp://を省略したものが増えています。

新聞のラジオテレビ欄の、テレビ局の名前の下に、以前から各テレビ局の電話番号が記されていましたが、読売新聞は最近テレビ局のホームページのアドレスを記しています。今のところ、こうした試みは読売新聞だけのようですが、ウェブでニュースを見ようという人にとっては、便利かもしれません。(実効はどのくらいあるか分かりませんが。)

ここでもhttp://は省略されています。

また、読売テレビではお昼の「ニュースダッシュ」や夜の「今日の出来事」の関西ローカルのニュースの画面の、アナウンサーが顔を出す部分の右下に、読売テレビのアドレスをスーパーしています。これもhttp://は省略しています。

このあいだ、カリフォルニア・ワインの「EOS」というのを飲んだあとに、そのコルクに押された焼き印を見ていたら、なんとそんなに小さなスペースに、その「EOSワイナリー」のホームページ・アドレスが刻印されているではありませんか!これもhttp://は省略されていました。



そもそもhttp://(エイチ・ティー・ティー・ピー・コロン・スラッシュ・スラッシュ)とは、何なのか?

藤田英時著「パソコン用語語源で納得!」(ナツメ社)によると、

Hyper Text Transfer Protocol (ハイパーテキスト伝達規約)

の頭文字をとった略だそうです。

これは、ホームページ(=ウェブサイト)を表示するソフトの「ブラウザー」とWebサーバーとの間でページの内容をやりとりする通信方式を使うという指定のことだそうです。ふーん、わかったようなわからないような。

省略する理由は、あまりにも当たり前でみんなこの「指定」を使っているということと、やっぱりアドレスが長いから、少しでも短くしようということなんでしょうね。

ほら、手紙でも「大阪府堺市○○町」と書かないで、「大阪府」を省略して「堺市○○町」と書くようなものなのかな?わからないけど。

2001/6/15

◆ことばの話329「非議員」

小泉内閣成立から、はや2ヶ月が経過しようとしています。

先日の新聞用語懇談会の中で、その小泉内閣の閣僚の中に、国会議員でない人が起用された場合の表現についての話が出ました。

例えばこれまでだと、

「民間から起用」

という表現をしていたんですが、一部の新聞が今回初めて

「非議員」

という表現を使ったと。それはなぜか?という質問でした。

これに対して、「非議員」という表現を使った日経新聞から、

「国会議員でない人でも、官僚出身者は"純民間"とは言えないので、今までは"民間"と言っていたが、今回から"非議員"という表現を使った」

という答えがありました。

なるほど、そんなことがあったとは!ちっとも気づきませんでした。

確かに、行政(国)側の「官僚」は、「民間」とは言えないですね。

こうなってくると「民間」の定義もしなくてはならないかもしれません。

しかし「非議員」が、全員純粋の「民間人」の場合は、「民間」という表現をおそらくまた使うんでしょうね。

まあ、閣僚は「純民間」ではないですが、総理は「純一郎」ですね、「純国会議員」の。「純自民党」とは言えないかもしれませんが。

2001/6/13


◆ことばの話328「タンチョウ」

釧路に行ってきました。

日本新聞協会の新聞用語懇談会の春季総会が開かれたからです。

釧路に行くのは2回目。以前は、会社に入って2回目の夏休みに北海道をぐるっと回った時でしたから、15年ほど前になります。

釧路へ向かう飛行機の中で読んだ新聞に、大阪・天王寺動物園の記事が出ていました。

国の特別天然記念物「ナベヅル」を繁殖させるために、タマゴを「タンチョウ」に代わりに温めさせたところ、そのうちの1羽が孵化(ふか)したというニュース。

見出しは、「"代理母"でナベヅルひな誕生」でした。

そして、釧路に着いた翌日、「鶴公園」というところを見学しました。ここでは「タンチョウ」を保護・飼育しているのです。生まれてまだ2週間という、かわいいタンチョウの赤ちゃんを見ることが出来ました。タンチョウは、頭が赤い、つまり「頂」が「丹」の色をしているから「タンチョウ」と呼ばれているのですが、一緒に鶴公園に行った産経新聞の人が、こんな話をしてくれました。



「昨日の天王寺動物園のツルの話、ちょっと失敗しちゃったんですよね。」

「何がですか?」

「"タンチョウ"を"タンチョウヅル"って書いたら、読者から"タンチョウヅルではなく、タンチョウである"というお叱りの電話があったんですよね。」




へぇー、全然知らなかった。そうだったんですか。

鶴公園の人に聞いたところ、確かに正式には「タンチョウ」だそうですが、一般的には別に「タンチョウヅル」でも構わないとのこと。公園内では、どちらの表記もありました。

それにしても、そんなに細かい点までしっかりチェックして電話してくる読者の方、すごい!あなたこそ、天然記念物クラスです!!

2001/6/12


◆ことばの話327「丸2時間」

アナウンス部で、私の前の席に座っているHアナウンサーが、番宣(番組宣伝)の15秒スポットCMの原稿の下読みをしています。バラエティ番組のようです。

「吉本のお笑い芸人大集合!丸2時間笑いっぱなし!!・・・・」

といった感じの原稿でしたが、ちょっと引っ掛かりを感じました。

「丸2時間」

この「丸」は何?



「丸」は「丸々全部」「最初から最後まで」ということです。「丸々一個、スイカを食べた」というのも大丈夫でしょう。(おなかは大丈夫じゃないかもしれませんが。)

このほか時間の観念で、「丸」がついてもおかしくないのは「丸1年」「丸1か月」「丸一週間」「丸一日」。ここまではOKでしょう。

しかし「丸2時間」。

「丸1時間」は、どうでしょうか?良いような気もします。

すると、「丸」のあとには「1」「一」が来るのではないか?

「丸3日間」はどうでしょう?大丈夫な気がするなあ。そうすると、「1」にこだわらなくても良いのかな?「丸」と「丸々」はちょっと違うようにも感じるな。謎は深まるばかりです。手を抜かないで、辞書を引いてみましょう。



*丸=1.全きこと。欠けないこと。すべて、そのままのさま。「丸もうけ」「丸洗い」

2.数が満ちること。「丸一年」(広辞苑)

* 丸=(部分に分けない)全体。「丸のまま煮る」「丸ごと食べる」「丸かじり」「丸漬け」「丸もうけ」「丸損」「丸(=満)1年」(新明解国語辞典)

*丸々=全く。すべて。すっかり。「丸々損をした」(以上、広辞苑)




このほか、「丸〜」という言葉は、別の項目としてたくさん載っています。

「丸抱え」「丸刈り」「丸木」「丸きり」「丸腰」「丸染め」「丸出し」「丸幅」「丸坊主」「丸寝」「丸干し」「丸本」「丸つぶれ」「丸取り」「丸竹」などなど。



広辞苑の「数が満ちること」という解釈に従うと、やはり「丸1年」はOKだけれど、「丸1年と3ヶ月と12日」は、成り立ちません。切りの良い数字であることが必要です。

そして、「丸30秒」のように、あまりにも時間的に短いものに対して「丸〜」を使うのも適当とは思われません。

時間をアナログの時計の針で考えると、針がちょうど一周してくるところが「丸」に当たるのではないか。「丸1分」は、秒針が一周してきますが、時間が短い。長い針が1周してくる「丸1時間」は良いのじゃないかな。長い針が2周する(丸2時間)のは、1種じゃないからちょっと・・・。短い針が1周する「丸12時間」はどうでしょうか?・・・わかりません。短い針が2周する「丸24時間」は、どうか分かりませんが、同じ時間を示す「丸1日」はOKですね。



「丸々」の場合は、一つ目の「丸」は時間的なもの、二つ目の「丸」はその人の心情的なものが入っている感じがします。

例えば「丸損だった」は「すべて損をした。」ですが、「丸々損をした」は、「もし気づいていれば防げたかもしれないのに、すべて損をしてしまった」というような感情が入っているような気がします。

しかし、考えれば考えるほど、分からなくなってくる、この「丸」。

ことがことだけに、あまり四角四面に考えない方が、丸く収まるのかもしれません。

2001/6/13

(追記)

いつものように、インターネットの掲示板「ことば会議室」に、この「丸と丸々」についての疑問を書き込んだところ、すぐに反応がありました。それによると、

「丸」は「あしかけ」に対することば。「日本国語大辞典」には二葉亭四迷「浮雲」での「全(マル)半歳」、夏目漱石「坑夫」に「丸六年」という用例があるそうです。

また、ある事柄が十数秒ぐらいで完了してしまうことが通念として了解されている時には、「丸1分」も可能ではないか、実際にインターネット上では使用例もあるとのことです。

さらに、「"Time Between Frame"というチャンネルの間の信号に至っては、0Secから1Secまでと、まるまる1秒間の余裕があるのです。」というふうに、「まるまる1秒間」という用例もあるそうです。これは100万分の1秒単位で物事を考えている時には、1秒でさえ極めて長い時間なのでしょう、という意見も寄せられました。まさに「永遠の1秒」ですね。

しかし、「まるまる(丸々)」と「丸」はやはり少し違うような気がしています。また「丸々」には心情的なものが入ると書きましたが、必ずしも損をする時(「丸々損をした」など)だけではなく、「丸々得をする」こともあるし、「丸々もうかった」も「丸々1時間使える」をOKです。

もう少し考えてみますね。

2001/6/15

(追記2)

このところ関西で頻発している窃盗は、金庫盗。それも金庫ごと中に入っている現金を盗むという手荒な手口です。各社のニュースを見ていると、これを、

「金庫を丸ごと盗むという手口」

などと言っています。あるデスクが、

「"金庫丸ごと"と言っていいのかなぁ、金庫は四角いし・・。」

とぼやいていましたが、

「いいんじゃないですか、この"丸ごと"は形とは関係ないんだし。」

ということで、読売テレビでも字幕スーパーは「金庫ごと」ですが、原稿は「金庫丸ごと」を使っています。

2001/8/9


◆ことばの話326「笑かす」

「私、高校の頃、“笑かす”っていう言葉を使ってたら、“そんな言葉はない”って母にいわれてんけど、本当にそんな言葉はないのかなぁ。」



と、20年ぐらい前には高校生だったある女性が、また、こう話しかけてきました。



「いや、あるでしょう、“笑かす”。“笑ける”も言うよね。」

「大阪の方言かなあ。」

「うーん、確かにそんな感じの響きがあるよね。」




と答えておいたのですが、今年の3月に出た辞書(三省堂国語辞典)を引いてみると、「笑かす」はちゃんと載っているではないですか。



「笑かす」=(俗語)笑わせる



そうすると、「笑わす」の大阪方言ではないか、という私の考えは成り立たなくなってしまいます。

インターネットの言葉の掲示板「ことば会議室」で、この疑問について書き込んでみました。



「笑わせる」と言う意味の「笑かす」という言葉、関西弁ぽいのですが、一応「三省堂国語辞典」には俗語として載っています。

この「かす」は、たとえば「ちらかす」「こかす」と同じなのでしょうか?「誤魔化す」「咲かす」「負かす」「浮かす」「置かす」「聞かす」「どかす」「(靴下を)はかす」はどうでしょう?共通点があるようで、違うようですね。

「笑わす」の方が正しいのでしょうね。関西では「笑う」の自動詞形として「笑ける」というのもあります。

なお、私の周辺でこの「笑かす」の話をすると、必ず一人は“シャカシャカ”と「マラカス」のマネをする人がいます。これもこの言葉の特徴の一つなのでしょうか!?

ご意見お待ちしています。




すると、いくつかの情報が得られました。

*「笑かす」は八代目(林家)正蔵師の口演で聞いた記憶があり、関西とは限らない気がする。(OG3さん)

* 橋本行洋「カス動詞の一展開〜ワラカスの成立からワラケルの派生へ〜」という論文が、最近出ました。(福井大学・岡島昭浩助教授)


なんと!やはり同じようなことを考えている人がいるのですね。

そこでさっそく、この橋本行洋さん(花園大学助教授)の論文(「語文」第75・76号・大阪大学国語国文学会刊、2001,2,28発行)のコピーを、大阪外国語大学の小矢野哲夫教授から譲っていただきました。

橋本さんは、去年春「ワラカス」について、東西500人の大学生にアンケートを行ったそうです。(ちなみに「笑かす」の意味は「滑稽な行為によって相手を笑うようにさせる」意味)

それによると、関西の大学生200人のうち、

ワラカスを使う人・・・82%(164人)

ワラカスを使わないが、聞いたことはある・・・17%(34人)

ワラカスを使わないし、知らない・・・1%(2人)


と、99%の人は、ワラカスを知っているという結果が出たのです。



一方、東京の大学生300人は、

ワラカスを使う・・・31,9%(96人)

ワラカスを使わないが、聞いたことはある・・・44,2%(133人)

ワラカスを使わないし、知らない・・・23,9%(72人)


ということで、関西に比べると低いものの、関東でも「ワラカス」は使われているようです。そして、関東・関西の学生ともに、「笑かす」は「関西弁である」と回答する人が多かったそうです。



その一方で、三好一光編「江戸語辞典」(1971)によると、文久年間(1861〜64年)に「笑かしゃあがる」という言葉が、当時の流行語だったそうです。

明治に入っても、俗語・口語で使われているようです。

橋本さんは、「笑かす」は「笑はかす」から変ってきたのではないかということや、そこから「笑ける」という言葉も派生してきたということ、ほかの「〜カス」という形の動詞と「〜ラカス」という形の関連などについて、深い考察が記されています。

そして、

「かつて江戸東京において使われていたワラカスは衰退し、近年ではむしろ関西の言葉と意識されている。また関東においては、関西から進出した芸能人などを媒介に新しく入ってきた“関西弁”として、ワラカスが受容されつつあるようである」原稿の国語辞典において、「古語」とするもの(「広辞林」第六版・1983年)がる一方、「俗語」とするもの(「三省堂国語辞典」第四版・1992年)もあって、矛盾があるように見えるのは、右のような事情によるものと考えられる。」



と、まとめています。

おおよそ現状についての把握は出来ていたのですが、「笑かす」にそんな歴史があったとは知りませんでした。笑かしゃあがるなぁ。

2001/6/12

(追記)

郡史郎編「大阪府のことば」(明治書院)の213ページに「笑かす」が載っていました。

「ワラカッションナー(笑かっしょんな)=ばかばかしくて笑っちゃうぜ。

ちなみに、「笑ける」は載っていませんでした。

2001/6/18

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