◆ことばの話165「オッハー!」
「あさイチ!」のメインキャスター、中元綾子アナウンサーのホームページをみていると、いきなり、
「みなさん、オッハー!!」
という文字が飛び込んできました。さすが、中元、はじけてるなと、まず感じました。
「オッハー!!」って、つまり「おはよう」ってことかな?
中元アナがこんな言葉を自分で作り出したとは思えないので(横須賀ゆきのアナならありえますが・・・)、きっとどこかで流行っているのだろうと、いまどきの若者、新人の森若佐紀子アナに聞いてみると、SMAPのよその局の番組「サタスマ」の中で、香取慎吾が「慎吾ママ」という役をやっていて、その慎吾ママがよく使う言葉なのだそうです。その際には、両手をパーに広げながら前に突き出すという動作つきなんだそうです。知らんなー。何か、音の響きが外国語のようですね。「ハ〜イ!!」という感じかな。カルイね、どうも。
もともと番組のタイトルも「サタデー・スマップ」を略して「サタスマ」だし、「オハヨウゴザイマス」を略して「オッハー」も自然の流れなのでしょうか。
中元アナウンサーによると、もともとテレビ東京「おはスタ」という番組で流行っていたものを、SMAPの香取慎吾が「いただきっ!」しちゃったということだそうです。また、なんと「慎吾ママのおはロック」という「オッハー」の歌まで出来ていて、しかも、発売5日で50万枚を売り上げて、最新のオリコンで1位に輝いているそうなんです。つまり流行っているって事。「オッハー」を知らなかった私、うーん、ちょっと時代に遅れてしまったかナ。
2000/8/23
(追記)
なんと!今朝の「あさイチ1」も芸能ニュースで、香取慎吾が「慎吾ママ」の扮装をしたままで、大島文部大臣に会って、一緒に「オッハー」とやっているではありませんか!
なんでも文部省の「子供と話そう全国キャンペーン」の推進リーダーを委嘱されたというのです。ちなみに報知新聞の見出しは
「文部省がオッファー」
でした。
2000/8/24
(追記2)
本棚の中にあった、「たのもしき日本語」(角川書店・1993 /吉田戦車・川崎ぶら著) のなかで、岩手県生まれの漫画家・吉田戦車が「地域的な流行の挨拶では、俺の田舎にはある時期
"さっよー"というのがあった。方言として定着していた"んで"と組み合わせて"んで、さっよー"などとな。語尾のたった二文字に過ぎない"なら"くらい略さずともよさそうなものをさ。」と載っていました。
そうか、「さっよー」が既にあったんだなあ。
2000/9/8
(追記3)
東京出張の際に、タクシーに乗ったら、窓ガラスで「慎吾ママ」が微笑んでいるではありませんか。NTT東日本の広告シールだったんですが、そこには「もっしー」と書いてありました・・・。そうやって電話をかけるのか。
2001/3/12
◆ことばの話164「山(せん)」
京都の修験道の山に、55歳のおじいさん(若い!)が小学生の孫と登っている時に、お祖父さんが山道から転落して怪我をし、助けを求めに行った孫が転落死するという痛ましい事故が先日ありました。
その山の名前は、「鷲峰山」。
この読み方、最初原稿には「じゅぶせん」
とルビがふってありました。念のため広辞苑を引いたところ、「じゅぶせん」で載っていました。ところが、その後オン・エアーの段階になって「じゅぶざん」と読み方が変わってしまいました。デスクに確認すると、「地元に確認したら、じゅぶざんだった」ということなのです。
もう一つ納得が行かず、そもそも「山」と書いて「せん」と読むものはどのくらいあるのか調べてみました。
すぐに思いつくのは大山(だいせん)、氷ノ山(ひょうのせん)、金峰山寺(きんぷせんじ)、蒜山(ひるぜん)、須弥山(しゅみせん・すみせん)くらいですが、いつものように「逆引き広辞苑」を引いてみました。
「〜ざん」ですから「ん」を引いてみると・・・ちゃんとたくさん載っていました。その数、21語。書き出してみましょうか。難しい字は、ごめんなさい、ひらがなにしてます。
ぎじゃくつ山、きゃ羅陀山(きゃらだせん)、金峰山(きんぷせん)、鶏足山(けいそくせん)、七金山(しちこんせん)、須弥山(しゅみせん、すみせん)、鷲山(じゅせん)、鷲峰山(じゅぶせん)、常在山(じょうざいせん)、霊鷲山(りょうじゅせん)、雪山(せっせん)、弥山(みせん)、刀山(とうせん)、鉄囲山(てついせん、てっちせん)、氷ノ山(ひょうのせん)、大山(だいせん)、大雪山(だいせつせん)、象頭山(ぞうずせん)、妙高山(みょうこうせん)、檀特山(だんどくせん)。
これらの意味を調べてみると、多くは梵語、つまりサンスクリット語=古代インドの言葉の音を漢字に写したものでした。さらにそのあたりについて、武庫川女子大学・言語文化研究所長の佐竹秀雄先生に伺ったところ、
「山を“セン”と読むのは呉音です。呉音は、漢音の“サン”よりも古い形のため、その言葉自体が、かなり古い時代に伝わったことを推測させます。仏教用語に梵語が多いのはよく知られていますが、仏典が漢語訳された場合、呉音の読みによるものも少なくない。たとえば、“往生”“極楽”“世間”などがそうです」
というお話でした。
古くは「山」と書いて「セン」と呼ばれていたものが、その後の時代に「山」なら「サン(ザン)」だろう、と読み方が変わってきているのかも知れませんね。
2000/8/23
(追記)
蛇足ですが、アイドルグループの「V6(ブイ・シックス)」のメンバーが、年齢によって二つに分かれていて、若い方が「カミング・センチュリー」、年長の方が「トゥェンティス・センチュリー」と呼び、それぞれ略称が
「カミセン」「トニセン」だそうです。
(長い方の名前の「20世紀」のほうは、違ってるかもしれません。謝っておきます。ごめんなさい。)何が言いたいかというと、「セン」という音が語尾につくことで、日本人は結構、安心するのかもしれないな、ということです。
2000/8/23
(追記)
この疑問について、京都壬生寺の貫主、松浦俊海さんにファックスで問い合わせたところ、何と、メールでお返事を頂きました。
それによると、
「古代仏教の世界観とも言える須弥山をはじめ、地蔵の住所とされる、きゃ羅陀山、中国の実在の山にも「セン」と読むことが多いです。」
というお返事でした。合掌。
2000/8/24
◆ことばの話163「両A面」
「平成ことば事情」にも何回も出て頂いている、大阪外国語大学の小矢野の先生のホームページ「けとば珍聞」を見ているとこんな言葉が紹介されていました。
「両A面」
それがどうした、という方もいらっしゃるでしょうが、私はふーん、なるほどね、と思いました。
昔のレコードには裏と表があって、A面・B面と呼ばれていたことはご存知でしょう。そして、シングルレコードの場合、A面がヒットを狙うメインの曲、B面はあわよくば・・・という控えの曲、という感じの住み分けでした。
しかし、CDになると、これもご存知のように裏面にしか曲は入っていません。CDシングルはその裏面(こっちがA面なんでしょうね)に2曲とか3曲とか入っている訳です。だから本来ならばA面とかB面とか区別する必要はなくなったはずなんですが、やはり業界もまだまだ「CDショップ」というより「レコード屋さん」とつい言ってしまう感じなんでしょうか、「A面」という表現は残っているようです。
しかも、B面は存在しないのに、2曲ともヒットを狙うようなメジャーな曲の場合は、「両A面」と呼んでいるようなのです。習慣というものはなかなか抜けないものなのですね。。
もし、3曲とか4曲は行っていて、いずれもヒットを狙うような場合はどうなるのか?
「全A面」
なんてコトバで表現するのかもしれませんね。まだ、聞いたことないけれど。
2000/8/22
(追記)
さっそくホームページを読んだ視聴者の方からメールを頂きました。いわく、
「“全A面”というのは、つまり“マキシ・シングル”のことではないでしょうか?」
「マキシ・シングル」については去年の8月に「ことばの話13」に書いていたのですが、
すっかり忘れていました。ちょっと違うような気がするんですけど。
「マキシ・シングル」の場合、「A面」クラスのヒットを狙う曲は、1〜2曲、それ以外にも1、2曲入って、合計4曲くらい・・・という感じ。それに対して「全A面」は文字どおり全曲A面クラスの曲ですから、言うなれば「将来のベストアルバム」的なものになるんじゃないでしょうかねえ。まあ、「全A面」なんてコトバはまだありませんから、御心配なく。いずれにせよ、ご指摘、ありがとうございました。
2000/8/24
◆ことばの話162「加齢臭」
地下鉄の駅では、いろいろなものを発見します。
きのう、地下鉄鶴見緑地線に乗ろうと駅に行ったところ、ホームの壁にこんな広告を見つけました。
「加齢臭ケア付きシャンプー」
カレイシュー??知らんなー。
試しに後輩のHアナウンサーに「カレイシューって知ってる?」と聞くと、
「カレイシュー?カレー・シュークリームの略ですか?」と言われました。アナウンス部アルバイトのS嬢は「カレーのにおいですか?」と答えました。まあ、普通知らんよな。しかしちょっと待って、確か去年の流行語大賞で、少し聞いたような気がするなと思い、「現代用語の基礎知識」を引っ張り出してくると、ありました、ありました。
「脂肪酸が酸化分解されることによって発生するノネナールが原因の体臭。いわゆるおじん臭で、年齢と共に増加することから俗に加齢臭と呼ばれる」
(稲垣吉彦・文教大学教授)
さらに医事評論家の小山寿氏によると
「若い女性に嫌われる中高年のにおいはこれまで口臭や汗、わきの下のにおいと考えられていたが、これは中高年とくに男性特有の体臭であり、元凶になるノネナールという成分が資生堂と高砂香料工業の共同研究で発見された。」
というのです。このノネナールなるものは20代、30代の体臭からはほとんど検出されないが40歳を過ぎたころから急に増えてくるそうです。
そうすると「加齢臭」と命名したのは、どうやら資生堂さんなんですね。英語では「AGING NOTE」だそうです。
その加齢臭を押さえるために防臭化粧品(デオドラント・・・これは聞いたことがある!))やシャンプーも開発され、1999年9月に生活改善商品として発売された・・・とあります。
まだ生まれて1年にもならない、新しい言葉ですね。
意味の上では一番良く実態を表わしているのかもしれないですが、なーんか音の響きといい、その内容といい、ひっかかる言葉だなあ。「若さ」「美しさ」を一番の価値尺度にしている化粧品会社が作った言葉だから、まあ、しょうがないのかも知れません。
2000/8/22
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◆ことばの話161「れ足す言葉」
みなさん「れ足す言葉」ってご存知でしょうか?
野菜の「レタス」とは関係ありませんよ。
「れ足す言葉」を考える前に、ずいぶん前から「ら抜き言葉」というのが言われているのは、ご存知ですよね?つまり、「見れる」「食べれる」「着れる」のように、本来は「見られる」「食べられる」「着られる」というべきところを、「ら」が抜けて可能動詞になっている言葉のことです。特に年配の方から「おかしい!」という指摘が多く寄せられるこの「ら抜き言葉」ですが、おそらく7〜8割の人たちが普通に使っていることと思います。アナウンサーが放送上使うのは、まだ基本的には許されていないと思うのですけれども。
話がそれました。その「ら抜き言葉」とは逆に、「れ」が一つ多くなってしまうのが「れ足す言葉」なのです。例を挙げると、「オリンピックで勝てれるように」「その漢字は読めれない」といったものです。本来なら「勝てるように」「読めない」で良いはずなんですが。
2年ほど前から私もちょくちょく耳にしていました。特にスポーツ選手のインタビューの中によく出てくるような気がします。マラソンとか、スキーのジャンプなど。確かマラソンの高橋尚子選手もインタビューで「オリンピックに行けれるように」と、以前言ってました。
この「れ足す言葉」について、NHK放送文化研究所というところが出している「放送研究と調査」という雑誌の8月号の「ことば・言葉・コトバ」というコラムで書かれています。
それによると、インターネットのホームページで「聞けれる」「読めれない」「書けれたら」などの例がたくさん出てきているそうです。また、この「れ足す言葉」出現の背景には、「ら抜き言葉」の浸透が関わっているとも述べています。というのも「見れる」「食べれる」「着れる」のように、動詞の語幹の漢字に「れる」がつけば可能の意味になって「飲め十 れる」のようになる・・・と思ってしまったのではないか、ということなのです。
この「れ足すことば」について、大阪大学大学院の真田信治教授は、その著「脱・標準語の時代」(小学館文庫)の中で述べています。(169〜170ページ)
それによると、
近年西日本の各地で「書ける」「読める」などの語にもこの「れる」を付加させた「書けれる」「読めれる」のごときいわば二重可能方式が生み出されつつあるが、これが私の言うレタスならぬ「れ足すことば」である。
これから見ると、「れ足すことば」の命名者はこの真田先生のようですね。さらに、ちょっと長くなりますが・・・
愛媛県の中予地方の調査結果によれば、この二重可能形式は、ラ行以外の五段動詞→ラ行五段動詞→一段動詞の順で進んでいるようである。ラ行五段動詞の可能動詞とは、たとえば、「切れる」「走れる」などであり、そこにすでに「れる」が入っている。そのことが新たな「れ」の挿入に歯止めをかけているのであろう。その点は一段動詞の可能動詞形についても同様である。いずれにしてもこの状況は「れる」が独立したものとして扱われていることの証左でもあるわけである。
ふーむ、この「れ足す言葉」も、「ら抜き言葉」と同じようにかなり広がっていくのかもしれませんね。要チェックです!
2000/8/21
(追記)
実はこの話、去年の11月、「ことばの話32」で書いていました。タイトルは「れ入れ言葉」でした。しかし、新しい内容も入っているので、もう一度合わせてお読み下さい。
2000/8/29
(追記2)久々に「れ足す言葉」を聞きました。2002年10月5日(土曜)、サンテレビで放送していた阪神VS巨人戦、甲子園での最終戦で、試合は5対2で井川投手完投14勝目、阪神が勝ちました。その解説の元・阪神投手の中西清起さんが、試合終了後のコメントで、「勝てれる」と言っていました。中西さんはたしか高知出身、あのあたりも「れ足す言葉」なんですかね。
2002/10/5
(追記3)2003年になっても「れ足す言葉」耳にしましたよ。1月5日、午後3時56分、毎日放送でやっていた高校ラグビーの準決勝、大阪決戦となった、「啓光学園高校VS大工大高校」の試合の終了間際、ロスタイムに、解説の男性が「タッチに出せれませんからね」 と言いました。聞き逃しませんでしたよ“!
2003/1/5
(追記4)
2003年8月2日放送の、日本テレビ「恋のから騒ぎ」で、メンバーの26歳の介護士の女性(素人さんです)が、元カレにもらったアクセサリーを、今のカレに見抜かれた時の感想として、
「もう、つけて行けれないなーって(思った)。」
と「れ足す言葉」をしゃべっていました。彼女の出身地がわかれば良いのですが、今度また見ておきます。岐阜か岡山あたりではないかな。
2003/8/5
(追記5)
またまた「恋のから騒ぎ」です。2003年11月8日の放送で、通称「くえ」と呼ばれている西日本出身の女性(20代)が、
「性格を直せれる」
という「れ足す言葉」を使っていました。若い女性の間で、この「れ足す言葉」が使われているのか、単に方言として使われているだけなのか。どうなんでしょうねえ。
2003/11/25
(追記6)
32歳の誕生日にコマーシャル発表に登場したマラソンの高橋尚子選手、2004年5月7日の「ズームイン!!SUPER」で、VTRでこんな発言を。
「一日一日、輝いて行けれるように、頑張ります」
と、発言は明らかに「れ足す言葉」でした。しかし、発言をフォローした字幕は、
「行けるように」
と修正されていましたが。彼女の言葉遣いは、間違いなく「れ足す言葉」です!
2004/5/7
(追記7)
2004年11月17日に放送された、TBSの「日本対シンガポール」の2006ドイツワールドカップ・アジアジア一次予選最終戦のサッカー中継で、清水大輔アナウンサーが、
「ジーコ監督も三浦選手のことを、これだけのフリーキックが蹴られる選手はそれほどいないと話していました。」
と言っていました。この「蹴られる」は、「ら」を抜いて、
「蹴れる」
で良いのではないでしょうか?
「蹴る」という動詞は五段活用動詞ですから、「可能動詞」が存在します。
いわゆる「ら抜き言葉」と言われるものは、可能動詞の形がない「上一段活用・下一段活用・カ行変格活用」に、「られる」ではなく「れる」をくっつけてしまうことを言うのではないでしょうかね。
「蹴られる」と「ら」が入ると、尊敬語のように聞こえてしまいました。
これは「れ足す言葉」ではなく、「ら足す言葉」でした。
2004/12/17
(追記8)
4年ぶりの追記です。
2008年6月2日放送の『情報ライブ・ミヤネ屋』にVTRで出演された俳優の佐藤浩市さんが、宮根誠司さんとの対談の中で、
「友達が増やせれるかな」
と、「れ足す言葉」を使っていました。
「増やせるかな」
でいいところなんですけどね。
2008/6/3
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