◆ことばの話105「自保公」
小沢さんの自由党が連立政権から降り、小渕総理の突然の脳梗塞・入院、内閣総辞職、そして保守党の結成など、政局は新年度に入ったとたんに正に“激動”ですが、そんな中“ことばウォッチャー”の私の興味の一つに、
連立政権の略称「自自公」がどうなるのか?
というのがあります。これまでは、自民・自由・公明の3党で「自自公」だった訳ですが、真ん中の「自」が抜けて、代わりに、自由党を割って出て新しく結成された、扇千景党首・野田前自治大臣が率いる「保守党」が入るのですから
「自保公(じほこう)」
になるのでしょうか?それとも、後から入って来た「保守党」は最後にくっついて
「自公保(じこうほ)」
となるのでしょうか?
「自自公」は、いつの間にやら耳になじんでしまいましたが、「自保公」や「自公保」はどちらも何かヘンな感じです。もしかしたら、そのどちらでもないのかもしれません。
そもそも最近のこういった連立政権の略称のはしりは、自民、社会(当時)、新党さきがけの3党による「自社さ」でした。これは「さきがけ」の略が平仮名の「さ」だけで、とっても間抜けな感じがしましたね。大体、自民党と社会党が手を組むこと自体、間抜けと言えば間抜けですが。(そういえば、党首も「トンちゃん」でした。)
この略称は、所属する国会議員の数の順番で決まっていて、そういう意味では「数の論理」、
「民主主義」といった感じがします。
それに比べ「自自公」は、議員の数からいうと「自(自民)公自(自由)」つまり「じこうじ」のはずですが、自由党は、もともと自民党にいた小沢一郎さんが、自民党に近い政策(立場)で作った党なので、公明党より先に来て「自自公」となったのではないでしょうか。
「自社さ」も「自自公」も、3つの党が同時に参加して連立政権を作っていますが、今回は、自民党と公明党が既に連立しているところへ、新しく出来た保守党が参加すると言う形ですから、ちょっと出来方は違います。時系列に沿って並べるならば「自公保」となるはずですし、議員の数から言ってもやはり「自公保」ですが、保守党は自由党の代わりに入るということであれば「自保公」となるでしょう。保守党の議員はみんなもともと自由党の議員だったわけですから。
ここまでをまとめてみますと、
【1】 議員数の多い順だと「自公保」
【2】 連立の参加順だと「自公保」
【3】 自民党との政策の近い順だと「自保公」
となります。
しかし、4月5日午前11時現在、小渕さんの後継総理に確定的な、森善朗・自民党幹事長ですが、その理由の一つが「公明党との関係が良い」ことだということですから、実質的な力関係(?)から「公明党」を一番初めにもって来て
「公自保(こうじほ)」あるいは「公保自(こうほじ)」
のほうが、連立政権の実態を良く表わしていると言えるのかもしれません。
もっとも、今のところ内閣は「(保守)工事中(こうじちゅう)」ですが。
2000/4/4
(P. S.)
その後、森善朗・新総理が誕生しました。
4月7日(金)付けの読売新聞・朝刊に載っている世論調査などの記事を見ると、連立3党の順番は「自民」「公明」「保守」の順番で記載されています。しかし、まだ「自公保」というような省略形は見られません。いつ頃からこの省略形が出てくるのか、注目したいと思っています。
2000/4/7
(追記)
新しい連立内閣が誕生して1ヶ月。ようやく「自公保連立」というカギカッコ付きの文章を見つけました。
読売新聞の5月5日(金・祝)第5面、政治欄に「自民党はいま【6】」という特集連載記事があり、その中で「自公保連立」という文字があったのです。この1ヶ月あまり、政治欄を一所懸命に読んでいたとは言えないので、もっと早くに使われていたのかもしれませんが。
また、写真に付いているキャプションにも“自民党内では衆院選後をにらみ「自公保」に代わる枠組みも模索されている”と「自公保」が使われていますが、その枠組みも6月に行われるといわれている衆院選後には、また変わってしまうかもしれないとのこと。
まさに政局というものは“一寸先は闇”なんですねえ。
2000/5/5
◆ことばの話104「天上がり」
先日、ニュースの中に出てきた言葉に「あまあがり」と言うのがありました。
漢字では「天上がり」。意味はおそらく「天下り」の反対の意味でしょう。
しかし、あまりにも安易なネーミング。「雨(あめ)上がり」みたいでなんか語呂も良くありませんよね。
辞書にも当然載っていない新造語だと思い、新しい言葉を収容している「現代用語の基礎知識」を引いてみると、ありました、ありました、「天下り」の項の次に。
意味を見てみると「民間金融機関などから中央省庁へ出向している職員。1996年の公務員白書で初めてその実態が明らかになった。(中略)公式の制度としては、国家公務員の民間派遣制度があるが“天上がり”についての規定はない。国際金融分野などは技術革新のスピードが速く、官庁側も民間の知識・情報の吸収が不可欠となっていることの反映ともいえる」とあります。
以前、「天下り」の動詞形として「天下る」と言うのがあると書きましたが、そうすると「天上がる」も認められることになりますね。
新しいことばというのは、文法的に形としては認められても、慣れるまでには、ずいぶん違和感が伴うものですね。
2000/4/4
◆ことばの話103「バイ☆グラ」
もうずいぶん前から街中で見かける張り紙に「バイ☆グラ」というのがあります。
ほら、電柱などに張ってあるやつ。この間、ロケに向かう途中の車中からこの張り紙を眺めていて、フト気付きました。
「なんで“バイアグラ”と書かずに“バイ☆グラ”なんだろうか?」
この疑問をスタッフにぶつけた所、「バイアグラは処方箋がないと売れないんですけど、医者に行って買うのは恥ずかしい、という人を狙っているんじゃないですか?」
なーるほど。けど、「バイ☆グラ」というふうに「ア」の部分を「☆」にする理由には、直接はならないんじゃないかなあ・・・などと考えていた時にハタと気付きました。
「そうか、売っているのは“バイアグラ”じゃないんだ!
あくまでも“バイ☆グラ”なんだ!!」
張り紙を良く見てみると、ご丁寧に「本物!」とも書いてあります。
これを見ればたいていの人は「本物のバイアグラ」だと思うことでしょう。
バイアグラだと思って買った人が「これはバイアグラじゃない!話が違うじゃないか!」と文句を言っても「誰がバイアグラを売ってるといいましたか?ウチで扱っているのは、“バイ☆グラ”ですよ」と言い逃れるつもりなんでしょうね。
バイアグラという商品は新しく開発されたモノですが、この張り紙商法の手口は、典型的・伝統的な詐欺の手口のように思います。目くらましにあわないよう、ご注意ください。
2000/3/21
(P. S.)
可能性としては、法律で販売者として許可を受けていないが本物のバイアグラを売っている業者が、司法当局の手入れを受けた場合に「いえ、ウチが売っているのは“バイアグラ”ではなく“バイ☆グラ”です」と言い逃れるため・・・とも考えられますが、相手がお役人よりは一般人の方が、こういったウラの仕事はしやすいんじゃないかなあ、とも思います。ともあれ、なにかありますぞ、あの「☆」には。
2000/3/22
◆ことばの話102「していて」
最近気になるコトバ・・というか気になるアクセントがあります。
「○○していて・・・」というような文章の「していて」のアクセントです。
本来は「していて(LHHH)」(Lは低く、Hは高く発音する)のように平板のアクセントだと思うのですが、最近「してい
て(LHHL)」と、「い」を強くして最後の「て」を下げるアクセント、いわゆる「中高」のアクセントをする人がテレビの中で目立つのです。このアクセントはどちらかというと関西アクセントのように思うのですが。
実例を挙げてご紹介しましょう。(太字のいまたはさを強くして、そのあとの音を下げて読んで下さい。)
* 3月8日(水)
日本テレビ・柴崎記者(地下鉄日比谷線の脱線事故のリポートで)
「(たまたま出勤途中にこの地下鉄に)乗っていて、・・・」「乗っていた(乗客は)」
* 3月10日(金)
日本テレビ「ニュースプラス1」宮城テレビの男性アナ
「要請された(宮城県では)・・・」
* 3月13日(月)
フジテレビ「プロ野球ニュース」でフジテレビ木佐彩子アナ
「男子は予想されていたメンバーで」
* 3月18日(土)
テレビ朝日「ザ・スクープ」で男性ナレーター
「マイナス評価して
いた(・・・)」
* 3月18日(土)
NHK教育テレビ「4割打者はなぜ絶滅したか?」柴田祐規子ナレーター
「4割打者が当たり前のように存在して
いた時代がありました。」
というふうに、この10日間ほどでも、各テレビ局で使われています。
そもそも私の周りで一番最初に「このアクセントが気になる」と言い始めたのは、今はアメリカに勉強しにいってる脇浜紀子アナウンサーでした。神戸生まれ神戸育ち、生っ粋の関西人の彼女が言うには「日本テレビの小栗さんのアクセントが気になって仕方がない。」というものでした。
それで、朝の番組に出ていた小栗さんのニュースを見てみると、確かに「していて(LHHL)」と言っています。その後、彼女はお昼の「ニュースダッシュ」のメインキャスターとして、登場するようになり、それと時を同じくして「していて」という人が急激に増えてきたように感じます。
新聞用語懇談会の放送分科会で会った、日本テレビの鷹西アナウンサーに、以前この件について尋ねた所、鷹西さんも気付いていたようですが、
「彼女(小栗さん)はアナウンサーじゃないから・・・」
と言うようなことを言ってました。
今後、「していて(LHHL)」が共通語のスタンダードとなる日が来るのでしょうか。
だとしたら、イヤだなあ。
2000/3/20
(追記)
あれから4年かぁ・・・。
この「していて(LHHL)」というアクセント、だいぶ、定着してしまったようで、おじさんは、大変嘆かわしい。
2004年6月13日、夕方のニュースで、テレビ朝日の吉澤一彦アナウンサーが、近鉄とオリックスの合併のニュースで、
「合併で合意していた」
の「していた」が「していた(LHHL)」と言っていました。吉澤さんは私より7年も先輩。北海道出身だそうですが、実は用語懇談会の委員で、最近会議でもお会いします。その人をしてこのアクセント、ということはこのアクセント、相当広がっていると見ていい。しかし、まだ完全にはこのアクセントに染まっていないと見えて、「支持していた」と「待ち伏せしていた」は、このアクセントではなく、平板アクセントでした。ホッとしました。でも、なんでこんなに広がっちゃったんだろうか?
2004/6/14
◆ことばの話101「結果を出す」
最近、スポーツ中継でよく耳にするコトバの一つが「結果を出す」。
「やはり、結果を出さないといけないですから・・・。」
「結果を出すしかないですから。」
以前は選手がよく使っていましたが、最近は解説者や実況アナウンサーも頻繁に使っています。
しかし、この言葉について良く思わない人たちが、年配の方を中心として多いようです。
その人たちの言い分は「結果には“良い結果”と“悪い結果”があって、結果を出すだけだと、本来はどちらとも言えないのに、“良い結果を出す”ことだけを“結果を出す”というのはおかしい。また、本来結果は“出る”ものであって“出す”ものではない」というものです。
わたしの記憶によると、この言葉を一番初めに使ったのはサッカーの三浦知良選手=カズです。カズが使うと、カッコ良く聞こえました。
カズの「結果を出す」という発言の中には、「私がやるからには、良い結果が出るに決まっているし、その為に努力を重ねている。」という自信の表われと、「時間が経てば結果は出るものだが、単になすがままに結果が出るのではなく、最上の努力を重ねることで、万が一悪い流れにあっても、それを自分達の力でなんとしてでも良い結果に導けるように頑張る」という強い意志の表現が、「結果を出す」という5文字の中に秘められているように感じたのです。しかも当時のカズはその言葉を裏付けるように、必ず「結果を出して」くれました。まさに「有言実行」だったわけです。だからこそ、この言葉も輝きを増していました。
しかし、いろんな人がこの言葉を乱発するようになったために、「手垢のついた表現」となり、この言葉の持つ力が薄れてしまった感は否めません。
また中には、何度も何度も「結果を出す」といいながら、まったく「結果を出せない」選手もいます。それでは「狼少年」です。
さらに、第三者である解説者やアナウンサーが使うと、より、言葉が浮いた感じがします。
「強い意志表明」だけに、実力のある人が大見得を切って使うのは構わないのですが、
当事者ではない第三者が、軽々しく口にして欲しくない気がするのかもしれません。
2000/3/17
(追記)
「結果を出す」以外にも、「良い・悪い」の両方があるのに「良い」方だけを意味する言葉がありました。
「天気・評判・噂」です。
「(良い)お天気になればいいね。」「(良い)評判のお店だよ。」「(良い)うわさの外国人選手来日!」など。普通は「良い」を省いて使われますが、基本的に意味は「良い」
がついたものになります。
この他にも多分あるでしょうから、皆さんも見つけたら教えて下さいね。
2000/4/28
(追記2)
またこの「結果を出す」に良く似た表現を見つけました。「仕事をした」です。
5月に行われた日本対フランスのサッカーの親善試合で、勝ち越しの2点目のゴールをゲットしたセレッソ大阪の西沢選手に対する、フジテレビの男性アナウンサーのコメントで「仕事をした西沢です。」
これは、完全に、意図的に「仕事」の前の「良い」を省略しています。
「なんでも鑑定団」の目利きの鑑定士が「いい仕事してますねえ」て口癖にしていて、流行語にもなりましたが、その「いい」を省いて「仕事をしました。」そりゃあ、するだろう、プロなんだから。
仕事帰りのサラリーマンの人たちにも是非声を掛けてあげて欲しいです。
「仕事をしたサラリーマンの人たちです。」
でも、仕事(労働)をしていても、仕事をしていない(成果を上げていない)とみなされる人(選手)たちがたくさん出てくる訳で、これって裁量労働を促進するかも(?)しれません。
2000/8/29
(追記3)
2004年8月1日(日)、対巨人21回戦で、連続フルイニング出場の日本新記録(701試合)を作った、阪神タイガースの金本智憲選手(36)がインタビューに答えて、
「プロである以上、試合に出ていたい。結果を出し続けていたい。」
と話していました。「結果を出す」という言葉、こういう偉大な記録を作った男が言うと、重みがありますね。
2004/10/27
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