◆ことばの話75「今シーズン初めて」
インフルエンザが流行しています。
今日(2月2日)の夕方、テレビで「札幌でインフルエンザによる脳炎で死者が出ました。」というニュースが流れていました。
そのニュースを伝える女性アナウンサーのコメントに「ウン?」と首をかしげる個所がありました。
「インフルエンザによる死者が出たのは、今シーズン初めてです」
「今シーズン」というと、何か、スポーツニュースのようです。
この場合は「この冬」の方が適当でしょう。
以前、「11月中旬の、立冬を過ぎてからの時期に、一番低い最低気温が記録された時は
“この秋”か“この冬”か」という問題を取り上げたこともありますが、こういう「季節ネタ」の場合は「今シーズン一番低い最低気温」のように「今シーズン」を使えば良いでしょうが、今回のように病気で一人の方が亡くなっている場合には「今シーズン」はそぐわない気がします。
「飛行機の墜落事故は、今シーズン初めてです」
「ビルの爆破事件は、今シーズン初めてです」
といった文章の例を挙げれば、より違和感が際立つのではないでしょうか。
できればあって欲しくない出来事ですが、「今シーズン」と言ってしまうと、「毎年(毎シーズン)必ず起きる出来事」のようにも感じてしまうのは私だけでしょうか。
「間違いではないが、そぐわない表現」に対して「ちょっと待てよ?」と感じる「コトバの感性」を、常日頃から磨いていきたい、と思います。
2000/2/2
◆ことばの話74「バリャドリード」
サッカーの城彰二選手が、スペインのサッカー・リーグ(リーガ・エスパニョーラ)のバリャドリードというチームに移籍しました。1月中旬のことです。
それからしばらくの間NHKでは、そのチームの名(都市名)「Valladorid」を
「バリャドリッド」
と言ってました。字幕もそう出ていました。読売テレビを含め、放送・新聞、それに共同通信も、みな「バリャドリード」だったのに、なぜかNHKだけ「バリャドリッド」。
えっ、どこが違うのかって?語尾に注目して下さい。「リッド」か「リード」かという話です。ちなみに同じ語尾の綴りである、スペインの首都「Madrid」は「マドリード」。なぜかこちらはNHKも「マドリード」でした。
スペイン語のアクセントを、そのままカタカナにすると「マドリーッ」「バリャドリッー」というふうな感じで、「リー」を伸ばしたところにアクセントがあり、最後に「聞こえるか聞こえないか」程度の「d」の「ッ」という、息の漏れるような音がつきます。
実際、「スペイン語小辞典(大学書林)」(永田寛定監修・渡辺通訓編)には「マドリー」「バリャドリー」とカタカナで書かれています。
なぜ、NHKだけが「バリャドリッド」なのか?
NHK放送文化研究所の知り合いに電話で聞いてみました。すると、スポーツ担当のアナウンサー室の責任者にも確認してくれました。結果は「バリャドリードが正しいはず」とのこと。
結局、現地に行ったディレクターやアナウンサーが「バリャドリッド」というふうに伝えてきたことに原因があったようです。
城選手の移籍から半月が経過した1月下旬、NHKのスペインリーグ・サッカー中継を見ていると、今度はちゃんと
「バリャドリード」
になってました。
ことほどさように、外国のことばをカタカナに変換することは「難しい」ということなんでしょうね。
ところで、この話とまったく関係ないんですが、「城彰二」選手の名前、「じょうしょうじ」を漢字に変換すると、「上昇時」「常勝時」なんて漢字があてはまり、縁起が良いですよね。なんにせよ、頑張って欲しいです。
2000/2/2
◆ことばの話73「女子行員」
先日、大阪のS銀行の女子行員が、客の口座を不正操作して1億円以上を横領していたというニュースがありました。
読売テレビでは「女子行員」と表現しましたが、新聞各社は「女性行員」と表現していました。
なぜ銀行員が女性の場合、「女子」あるいは「女性」とつくのでしょうか?また、どう使い分ければ良いのでしょうか?とりあえず、女性に関する「枕詞」がつく職業を、思いつくかぎり、あげてみましょう。
「女子」が「頭」につく職業には、女子行員のほかに、女子アナ(アナウンサー)、女子プロ(ゴルファー・レスラー)などが思いつきます。職業ではないですが、女子高生、女子大生というのもあります。このほか、スポーツの種目には「女子」がつくものがたくさんあります。陸上競技のトラック・フィールド競技、をはじめとして、女子駅伝、女子マラソン、女子サッカー、女子柔道など、ほとんどのスポーツで男子と女子に分けられているのは、オリンピックを見てわかる通りです。
職業の名前の前に、女性と言う性別をつける方法には、「女子」の他に「女(おんな)」「女(じょ)」「女(め)」「女(にょ)」「女流」「女性」などがあります。
「女(おんな)」では「女弁護士」「女裁判官」「女検事」「女社長」「女先生」「女教師」「女刑事」「女調教師」「女相撲」などがあります。(競技としての女相撲は、新相撲というそうです。)
「女(じょ)」には「女優」「女医」「女囚」「女工」「女郎」
「女(め)」は「女神」・・・職業ではないか。
「女流」は「女流棋士」「女流名人」「女流作家」。新明解国語辞典によると「女流とは社会的に活躍している女性」のことだそうです。
「女(にょ)」は「女官」「女房」・・・これも職業ではないですね。
「女性」は「女性カメラマン」「女性騎手」「女性ドライバー」などたいていの職業につきます。
一体、この使い分けの基準はどうなっているのか?
また、社会人たる女性に「女子」とつける職業の特性やいかに?
思うに「女子」は、スポーツに使われる場合(つまり男子と並列で使用されるような場合)以外は、少し小馬鹿にしたような・・・とでも言うんでしょうか、あるいは(男から見て)自分より下の者として扱っているような感じを受けます。小学校時代は「男子」「女子」にまったく抵抗がなかったのですが、さすがに大人になって「男子」と呼ばれると恥ずかしい。おそらく女性も「女子」と呼ばれるのは恥ずかしいのではないでしょうか?
また、「女(おんな)○○○」という呼び方に関しては「本来、男だけがやっていた、男にこそふさわしい(と思われてきた)分野の仕事に参入してきた、異質な人」というニュアンスが感じ取れます。
その証拠に「男弁護士」「男裁判官」「男検事」「男刑事」「男社長」といった「女○○」の対(つい)になるはずの言葉が、まったく使われていない事からもわかります。
余談ですが、「若社長」「若大将」など「若○○」も、同じように「本来その分野は、若くないのが普通だ」という考えが、根底にあるのでしょうね。「若い」というのが名前につくほど一番の特徴なのですから。
唯一、例外なのが「男(おとこ)先生」。小説「二十四の瞳」の中で「女(おんな)先生」と共に使われていました。(私の記憶が正しければ。)それだけ当時から「先生(教師)」という職業に女性の占める割合が大きかったからではないでしょうか?今や小学校の先生などは「男先生」より「女先生」が多いのが当たり前の時代ですし、保育園や幼稚園の先生は昔から女性がほとんどで、わざわざ「女先生」などとは呼びません。「保母さん」と言う言い方はありましたが、10年ぐらい前から「男の保母さん」が出てきて「保父さん」と呼ばれたりしていたのですが、ここ数年、男女とも公の場では「保育士」と名乗るようになってきました。
小学校や中学校、あるいは高校・大学でも、今後「先生」と言えば「女性」の職業で、「男性の教師」に異質さを感じるようになるかもしれません。
次に「女(じょ)」に関して。
「女優」に対する言葉は「俳優」。もちろん「女優」も「俳優」ですし、「男優」という言葉もあって、アカデミー賞などでは「主演男優賞」「助演男優賞」なるものもあるのですが、これは英語の「actor(男の俳優)」「actress(女の俳優)」に対する訳語・造語です。井上ひさしの「ニホン語日記2」(文春文庫)によると、「男優」と「女優」は、なんと森鴎外の造語だそうです。
それはさておき、わたしは「男優」と聞くとつい思い浮かべてしまうのは、アダルトビデオにおける「男優」です・・・。
女性でも「俳優」と呼んでも良いと思いますが、個人的には「女優」のほうが好きです。
そして「女性」はあらゆる職業につくと思いますが、あえて「女性」であることを示さなくてはならないのかどうか、その都度判断する必要があります。例えば、大阪府警では、去年(1999年)の春頃から「婦人警察官」いわゆる「婦警さん」という呼称をやめて「女性警察官」と呼ぶことにしたそうです。しかし、そもそも「女性」を付ける必要があるのかどうか?ただ、たんに「警察官」「警官」でいいのではないか、という論議もあるとおもいます。「女警(じょけい)さん」なんて呼び方も定着しそうにないし。
そして、こういった議論の延長線上に、われらが「女子アナ」もあります。
「女子アナ」と「女性アナ」の境界線は一体どこにあるのか?年齢が一つの尺度になるのではないか?と思って、読売テレビのアナウンス部で聞いてみました。
「女子アナは本来、入社1年目の新人のみ。あえて、最大限長く見ても25歳(3年目ぐらい)まで」(入社15年目・男性アナ)
「女子アナ=女性アナ。ずーと、女子アナ。」(入社1年目・女性アナ)
「30代前半。32歳くらい?具体的に人名を上げると、永井美奈子さんがまだ局アナをやめていなければ、永井さんが女子アナの年齢の上限(34歳くらい)」(アルバイトの20代の女性)*そういえば小林信彦が「現代<死語>ノート2」(岩波新書)の中で、「元祖アナドル(=女性アナウンサーでありながらアイドルタレント)は永井美奈子」と書いていました。
「結婚すれば女性アナ。独身の間は女子アナ。ちなみにNHKの久保純子アナは今日、結婚したとテレビでやっていたが、まだ女子アナ。」(アルバイトの20代の女性)
「担当する番組によって、女子アナで扱われたり女性アナで扱われたりする。制作系の番組では女子アナでも、報道系の番組だと女性アナ。」(入社8年目・女性アナ、入社4年目・男性アナ)
というふうに意見は分かれました。改めて聞かれるとなかなか難しいもののようです。皆さんはどうお考えでしょうか?
「女子アナ」というひとつの「ブランド」が、良くも悪くも世にはびこっているのは、否定できない事実でしょう。しかし、その「看板」にとらわれることなく、「アナウンサー」としての本当の実力を培うことこそが、今「女子アナ」達に(もちろん「男子アナ」も)必要とされているのではないでしょうか。
2000/2/2
(追記)
そうこうしているうちに、2月6日全国初の「女性知事」が大阪府に誕生しました。決して「女子知事」ではありません。
現在「女性副知事」は全国に9人いるそうです。(「AERA'00 2.14号」による)
1991年日本で初めて女性副知事(東京都)になった金平輝子さんは、就任当時「私は副知事に選任されたので、女性副知事になったわけではありません。」と話したそうです。
また、イギリスで初の女性首相となったマーガレット・サッチャー氏も、1979年、就任直後に来日した際の記者会見で「私はイギリスの女性首相ではありません。イギリスの首相です。」と答えたといいます。
まさに、「女性」が一番の目玉になっているうちは、男女平等は「まだまだ」なんでしょうね。
近々、「アナウンサー」と言えば「女性に決まってる」というふうになるのでしょうか?
ちょっと、戦々恐々。
2000/2/9
(追記2)
おお、あれから4年が経ったか・・・太田房江知事、再選、圧勝です。(2004年2月1日) それはさておき、先日地下鉄のホームの広告でこういうのを見かけました。
「大阪肛門病院」
女医・佐々木みのり
院長・佐々木巌
女性のための診察時間あり
「女医・佐々木みのり」は、赤い字で書かれていました。 「女医」を強調した方がよいケースも、あるんですね。
2004/2/6
◆ことばの話72「ハイジャック」
飛行機を乗っ取ることを「ハイジャック」というのは皆さんよくご存知の通りです。
では、次の文章はどうでしょうか?
「このままでは、ますます国会がハイジャックされたままになる」
これは1月29日に、民主党の鳩山由紀夫代表が発言したものです。
「国会がハイジャック」?
そうか国会は飛行機だったのか、そう言えば時々ダッチ・ロールを・・・と思ったのは私だけではないでしょう。ハイジャックといえば飛行機の乗っ取りのことじゃないんでしょうか?船は「シージャック」、車は「カージャック」と言うし。
そこで「ハイジャック」を辞書でひいてみると、広辞苑では「乗り物、特に飛行機を運行中に乗っ取ること」とあり、英語の綴りは「hijack」。
一方、日本語大辞典によると、「運行中の航空機・船・バスなどを不法に奪取すること」とありますが、こちらの英語の綴りは「highjack」になっています。
また「現代用語の基礎知識」によると、飛行機の乗っ取りの場合は「skyjack」とも
言うとあります。どうやら必ずしも飛行機でなくても良いようですね。
そういえばハイジャックの語源は、犯人が操縦者に対して「ハーイ、ジャック!」と声をかけて振り向かせたから、なーんて話を聞いたことがある気がしてきました。
ところで、“hi”と“high”の綴りの違いはどうしてなんでしょうか?
そのあたりを、アメリカ留学中で英語に詳しい脇浜アナウンサーにメールで問い合わせてみました。すると、すぐに返事がきて、
「ランダムハウス辞典によると、もともと道で輸送貨物をねらう強盗のことを“Highjacker”と言ったそうです。
ちなみに“Hiway man”というのが、“17,18世紀のイギリスで、馬に乗って公道に出没した追いはぎ”のことで、そこから“Highjack”という言葉ができたのではないか」
「飛行機の乗っ取りに使われるようになったのは1960年代からで、“skyjack”という飛行機だけに使われる言葉もある」ということです。
なるほど、「現代用語〜」に書かれている通りです。
しかし結局“hi”と“high”の綴りの違いに関しては、わからずじまい。
また、わかったら報告しますね。
2000/1/31
(追記)
そう言えば最近、タレントなどが他の番組に勝手に入り込む形のことを“電波ジャック”と呼んでいるようです。
2000/4/20
(追記2)
おお!ほぼ6年ぶりの追記だあ!結構、長いこと書いてるなあ、このホームページ。これを書いた頃に小学校1年生だった子はもう中学生かあ・・・。
2005年11月2日のニュースを見ていると、アメリカの民主党が上院で25年ぶりに非公開審議を行ったことを受けて、共和党のフリスト上院議員がインタビューに答え、
「上院は、民主党にハイジャックされた」
と言っていました。(字幕も「ハイジャック」と出ていました。)
日本では2001年1月29日に、日本の民主党の鳩山代表(当時)が、
「このままでは、ますます国会がハイジャックされたままになる」
と言ったわけですが、アメリカでは共和党員が、民主党の動きについて同じように、
「国会(議会)が『ハイジャック』」
されるんですね、比喩的に。このあたりおもしろい。
2005/11/4
◆ことばの話71「お互いにリスペクト」
週末、久々に大阪・梅田に出て、無国籍料理屋に入った所、店のテーブルに置いてあった、1枚の宣伝はがきに目が止まりました。
ディスコかクラブ(発音が平板の方のヤツです)のような店で、何か集まりがあるという内容が書かれていたのですが、その文面はというと・・・。
ハウス/ガラージを中心としたKARMAのレギュラー・パーティー“GALAXY”と、ジャズ・ルーツ・ミュージックをクロスオーヴァーする“PASTIME PARADISE”を開催してきた両パーティーがお互いにリスペクトしKARAMAの第1土曜日のレギュラーとしてHi―Elementsを掲げ、隔月でそれぞれのパーティーを開催します。
・・・意味、わかります?私はまったくわかりませんでした。
かろうじて、「KARAMA」がお店の名前であることと、なにやら二つのグループが、そこで一緒に何かをやることはわかりましたが・・・。さらに文章は続きます。
数多くのレコードからの厳しいセレクト
うん、これくらいならわかる。さらに、さらに、
ダンスフロアでより高い次元で音楽を愉しめるパーティーとしてコアなダンス・ミュージックとクラブ空間を提供します。
コアなダンス・ミュージックだぁ?(今、「こあな」で変換したら「小穴」になっちゃったゾ!どうしてくれる!!)・・・もう、ついていけません。東南アジアに行くと、これに似た日本語の文章で書かれたレストランのメニューが、よくありますが。
これは果たして、日本語なのでしょうか?
これが通じる人たちは、本当に日本人なのでしょうか?
・・・と、声を大にしても仕方のないことですが。
専門用語は専門用語として使われるべき所があって良いと思いますが、それにしてもあまりにもわからない文章なので、ちょっと取り上げてみました。
もうちょっと、門外漢の人が読む場合についても「リスペクト」して欲しかったなあ。
ハアーッ・・・。
2000/1/31
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