◆ことばの話55「こぎれい」
クリスマス・イブです。
街には「こぎれい」に着飾った男女が楽しそうに出歩き・・・なんて文章を書く時の「こぎれい」。「きれい」とはどう違うのでしょうか?
問題は「こ」。「接頭辞」と呼ばれ、漢字では「小」です。
「こぎれい」と同じように「こ」が使われるものとしては、「こぎたない」「こずるい」「こにくたらしい」「こざかしい」「こむずかしい」「こざっぱり」「こうるさい」などがあります。主に形容詞について、その程度が少ない事を示しているように見えます。
が、しかし。「“きたない” と “こぎたない” だと、“こぎたない” の方が汚さの程度が上のような気がする」と、飲んでいる席で「ニュース・スクランブル」の坂キャスターが言い出しました。確かにそう言われてみればそんな気もします。
思うに、「きたない」「ずるい」「にくたらしい」だと100%そういった気持ちがあるので、言い切る事が出来ますが、「こぎたない」「こずるい」「こにくたらしい」という場合は、70%か80%は確かにそうなんだけど、残りの数十%が違うために言い切る事が出来ない、その為に生じる「歯がゆさ」のようなものが感じられます。
また、新築のモデルルームでまだ誰が住んでる訳でもない部屋を見た時には、「きれいな部屋ね。」とは言っても「こぎれいな部屋ね。」とは言いません。
この場合「部屋」という物質そのものに対しては、感情を交えずその状態を評価(「きれいだ」と)できる訳です。ところが、あまり快く思っていない人の家に招かれて、その部屋が思いのほかきれいだったりすると「こぎれいな部屋ね。」などと憎まれ口を叩いたりしてしまう。
つまり「こ」がつく場合、その対象となるものは、誰か「人」だったり「人の所有物」だったりして、その人物に対する感情が、形容詞の上に「こ」という形で乗っかってくるのではないでしょうか?
広辞苑をひいてみると「小」にはたくさん意味があるのですが、その中の一つに「いうにいわれない、何となく、の意を表わす。また、その状態を憎む意を表わす」とあり、例として「こにくい」「こぎれい」「こざっぱり」「こぎたない」「こうるさい」とあります。またこの他の意味では「軽んじ、あなどる意を表わす」として「こせがれ」「こざかしい」「小利口」「小役人」があげられています。何となくイメージがつかめてきましたね。
私は、関西人よりも関東の人の方が、この「こ」を良く使うようなイメージがありますが、最近、特に若い人の間から「こ」を聞く機会は減ったように感じます。
他人との接触・コミュニケーション、摩擦を嫌がり、避けて通るという人間関係が、「こ」を使わないという姿勢に表れているのではないでしょうか?・・・などと「こむずかしい」ことばかり言っていると、かえって「こばかにされる」かもしれませんが。
1999/12/24
◆ことばの話54「ボジョレ・ヌーボー」
今年もボジョレ・ヌーボーの季節がやってきました。
えっ?何を言ってるんだ、ボジョレ・ヌーボーは11月の第3木曜日解禁で、今年は11月18日だったって?
そのとおりなんですが、11月18日に皆さんが口にしたのは、空輸のヌーボーです。
空輸ではなく、船便のボジョレ・ヌーボーがそろそろワインショップの店頭に並んできたんです。お値段は空輸のヌーボーの半分以下の900円台。
これまでは赤道上を船で通ってくるため品質が悪くなったり、という事もあったそうなんですが、最近は「リーファー・コンテナ」という、ワインにとってちょうど良い一定の温度に保つコンテナを使っているものが多いため品質の低下もなく、おいしく、そして安くヌーボーを味わえるという事です。まあ、1ヶ月遅れなんですけど。
このボジョレ・ヌーボーを巡って、今年もひと騒動ありました。
というのも去年は「ボジョレー・ヌーボー」だとか「ボジョレ・ヌーボー」だとか、一日のうちに散々変わった挙げ句、新聞協会が定めている「ボージョレ・ヌーボー」という表記に落ち着いたのですが、今年はいきなり、解禁当日になって日本テレビの方から「ボジョレ・ヌーボーでいきます」という「お達し」がありました。特に根拠はないのですが。
結局、私は「外国語や外来語をカタカナで表記する事が、土台無理」という当たり前の事を再確認しながら、今年は4本もボジョレ・ヌーボーとボジョレ・ヴィラージュ・ヌーボーを飲み干したのでした。ウィ〜。
1999/12/23
◆ことばの話53「ペーパー会社」
皆さんは「ペーパー会社」って聞かれた事、ありますか?
トイレットペーパーや紙を作っている会社・・・ではないのです。
これは「ペーパー・カンパニー」つまり「登記上存在するだけで、実体のない会社」のことです。おそらく、和製英語ではないかと思っているのですが、その「カンパニー」の部分が字数が多いため、新聞などの活字媒体では「ペーパー会社」という表現をよく使います。しかし、私は「ぺーパー・カンパニー」は許せても、「英語プラス漢字」の「ペーパー会社」はなんとも違和感を覚えているのですが。いかがでしょう?
ただ、こういった形には先例がありまして、皆さん良くご存知のアメリカのプロ野球の「大リーグ」。構成は逆ですが、これも「漢字プラス英語」の不安定感があったはずです。元の英語は、(こちらもよく聞く)「メイジャー(メジャー)・リーグ」。
アニメの「巨人の星」で星飛雄馬が投げていたのは「大リーグボール」で、「メジャーリーグボール」ではありません。
また、とんねるずの石橋貴明が出演した映画は「メジャーリーグ」で、「大リーグ」ではありません。
そうそう、シーズンとしては「クリスマス」の表記の「Xmas」と記すべきところを「Xマス」と「クリス」だけ省略・・という「英語(文字)プラス・カタカナ」というかたちもありますね。
結局は、こういった言葉に関する違和感も、「慣れ」の問題で、「ペーパー会社」にも徐々に慣れていくんでしょうか。えっ?もう慣れているって?それは失礼しました。
1999/12/23
◆ことばの話52「ユニット」
最近売れている歌手・ミュージシャンのグループを見ていてよく使われている言葉に、「ユニット」があります。
例えば紅白にも出場する「野猿」は、「とんねるず」とその仲間による「ユニット」、
(他のメンバーの名前は知りません。)また「プッチモニ」は「モーニング娘。」の中の3人で構成された「ユニット」です。
しかし「SPEED」や「MAX」は「ユニット」とは呼びません。
井上陽水と奥田民生の2人の場合は、個人同士による「ユニット」です。
2人だと「デュオ」、3人だと「トリオ」、4人だと「クワルテット」、5人だと「クインテット」というのは、クラシックの世界で人数によるグループの呼び方ですが、この「ユニット」というのは、従来の「グループ」とはどう違うのでしょうか?
「ユニット」と聞いて思い出すのは「ユニットバス」。トイレとお風呂が一つのパッケージになっている「洗面・風呂場」ですが、この「ユニット」も、トイレとお風呂を組み合わせたようなものなのでしょうか?
音楽通の知り合いに聞いてみると、「本来は別のグループに所属しているミュージシャンが、臨時の組み合わせで作ったグループが、"ユニット"」だといいます。
終身雇用制度が音を立てて崩れ始め、ケイレツの子会社も淘汰され、社会全体のリストラクチャリングが進む世紀末の日本社会。銀行がそれまでの財閥グループとは関係無しに「ユニット」を組む時代です。
それよりも一足早く、音楽シーンでも一つのグループに囚われる事なく、自由にいくつかの組み合わせにチャレンジしてみる「ユニット」が流行るのも、当然といえば当然かもしれませんね。
1999/12/23
◆ことばの話51「フィナンス」
2002年の春をメドに経営統合する、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行の統合グループ名が、昨日(12月22日)決まりました。
その名は「みずほフィナンシャル・グループ」。
「みずほ」は「瑞穂の国=日本」からとったのでしょうが、気になったのは、そのあとの「フィナンシャル」です。
「ファイナンシャル」なら聞いた事があったのですが、これは「フィ」です。「ファイ」ではありません。
英和辞典をひいてみると、確かに両方のアクセントが載っていますが、国語辞典(広辞苑)には「ファイナンス」はあっても「フィナンス」はありません。
新しいグループを作るということと、今までの日本にはない国際的な企業グループという事をアピールするために、日本語になってしまっている「ファイナンス」を避けて、「フィナンス」としたのでしょうか?
「名は体を顕す」といいますが、「フィナンシャル」が今後、日本語(外来語)としても
従来の「ファイナンシャル」を追いやって勢力を伸ばしていくのかどうか、注目したいと思っています。
1999/12/23
(追伸)
「ホテル・ジャンキー」という本を読んでいたら「フィナンシャル・タイムズ」という表記が出てきました。「フィ」です。
また、このところ人気の「ファイナンシャル・プランナー」は「ファ」が多いようです。
今後も注目です。
2000/1/28
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