◆ことばの話35「i あるH 」

今年の新語・流行語大賞のトップ10にも入った言葉の中に「 i モード」がある。

これは、「 i 」を小文字にしたのが受けた。iモード携帯電話は、一時、生産が追いつかないくらい売れたそうだ。このほか「 i マック」(パソコン)とか「 i i (アイアイ)プラン」(電話の通話契約)だの、確かにやたら小文字の「 i 」を使ったネーミングが目に付いた。いまどきのアイ(愛)は小さ目に、数多く・・・ということだろうか?

このようにローマ字を頭にくっ付けてつくる造語では、今から6年前に発足、大ブレイクした「J リーグ」がある。これも本体が大人気となったため、やたら「J ○○」というネーミングが増えた。まあ良く考えてみると、それよりもさらに6年ほど前に「国鉄」から「J R 」に変わったという例や、「日本専売公社」が「J T 」など、日本の英語名、JAPANの頭文字を取った「J 」が流行るのは、そう不思議ではないかもしれない。最近でも「8時だJ!」(ジャニーズのJ)などというテレビ番組もあるそうで、「J 」人気は続いている。

また「J リーグ」は、他のスポーツや海外にも影響を与え、日本ではバレーボールが「V リーグ」、アメリカンフットボールが「X リーグ」になったし、韓国のプロサッカーリーグは「K リーグ」になったことは、ご存知の方も多いかもしれない。(ついでながら、E 電は、流行りませんでしたね。)

「J 」「 i 」とくれば、アルファベットを逆上って、次に来るのは・・・そう、「H 」。と思っていたら、出ました、出ました、携帯電話で「エッヂ」というのが。これはローマ字の「H 」になんと濁点(”)がついていて「H”(エッヂ)」と読ませるそうな。この「H 」が、「 i (愛)のあるH 」になるのか、それとも「 i のないH 」になるのかは、「G(爺)」のみが知る・・・?

P. S. そう言えば、2002年は「H 」誕生50周年だそうだ。2000年版の「現代用語の基礎知識」にそう書いてありました。けど2002年までに「H 」の年は来そうな気がする。

1999/12/2


◆ことばの話34「99日本新語流行語大賞」

昨日、12月1日(水)に「99日本新語流行語大賞」が発表になりました。

大賞に選ばれたのは「リベンジ」「ブッチホン」「雑草魂」の3つ。

このほかのトップ10は「ミッチー・サッチー」「学校(級)崩壊」「カリスマ」「癒し」「 i モード 」「だんご3兄弟」「西暦2000年問題」(順不同)でした。

この発表に先駆けて、11月29日(月)に「ニュース・スクランブル」の「シリーズ・平成ことば事情」のコーナーで「徹底予想!今年の流行語大賞」という特集を放送しました。この大賞の主催者で審査委員の一人、「現代用語の基礎知識」でおなじみの自由国民社・清水編集長にインタビューをしたり、60語ある候補語を書き込んだフリップを持って、大阪市内で「あなたはどれが大賞を取ると思うか?」を100人に聞いたりしました。

街頭の投票では、1位が「カリスマ」2位が「リベンジ」、3位は同数で「ミッチー・サッチー」と「ガングロ」でした。

結果は少し違ったけれど、まあまあ、近い線だと言えるでしょう。

実際の発表を目にして感じたのは、ともすれば忘れがちになる、

「この流行語大賞は、一企業のP Rイベントである」

ということです。

15年前に始まったこの流行語大賞ですが、当時はそれほど注目されていませんでした。それが、対象に選ばれた著名人が表彰式に出てくる事で、マスコミの格好の標的となり、今のように大きくなったといえます。

だから一国の総理が出席するなら、それほど流行ってなくても「ブッチホン」を大賞の一つにする可能性がありますし、今年の人気者の松坂投手や上原投手の言った言葉を受賞させることは、このイベント自体の価値を高める事につながります。

(ちなみに松坂投手「リベンジ」は確かに流行りました。しかし、小渕総理の「ブッチホン」それほど流行ったとは思えないのですが。これは「プッシュホン」をもじったものだそうですが、以前アメリカのブッシュ前・大統領の時に流行った「ブッシュホン」のパクリではないんでしょうか?)

流行語候補の締め切りが11月初旬というのも、「現代用語の基礎知識」の発売日との関係が恐らくあると思います。締め切りが早いため、今、ちまたで流行っている「定説」などは候補に入りませんでした。もう少し遅ければ「最高です」も入ったかもしれません。

しかし清水編集長によると、たとえ締め切りに間に合ったとしても「反社会的な言葉は選ばない」とのことでしたから、ノミネートされたかどうか疑問です。

思い起こせば1995年、この年の流行語大賞には、絶対「ポアする」「サティアン」などが入ると思われていましたが、「被害者の心情を思いやると、こういった反社会的な行為に伴う言葉に賞を与える事は、はばかられる」という理由で、ノミネートされませんでした。

言葉そのものに罪はありませんが、確かに気持ちは分かります。

しかしそういった事情が、のちのちの人々に伝わっていないと「流行語大賞を受賞した言葉が、その年に一番流行った言葉として一人歩きし、事実とは異なることを後世に残す可能性がある」(武庫川女子大学言語文化研究所長・佐竹秀雄教授)ことも、また事実です。

いつのまにか、一企業のイベントが権威を持ってしまう、その事自体は決して悪い事ではありませんが、ある種のバイアスがかかっている事を常に意識して見る事が重要ではないでしょうか。

1999/12/2


◆ことばの話33「早口CM」

ちまたでは既にずいぶん前から話題になっているそうですがトヨタの「ファン・カーゴ」という車のCM.。とにかく早口なのです。

VTRに録って、何文字(何拍)あるか調べてみました。

CMは2,3種類のパターンがあるようですが、私が調べたのは女性(愛河里花子さんという声優さんだそうですが)がしゃべっているもの。セリフは以下のようなものでした。

待ちに待ったファン・カーゴで森へキャンプ

8色あります。

床下上がっちゃうんだよ

2平米のダイニングキッチン

朝メシ前のお昼の準備

夜は焚き火でカラオケを

おっと、隣の4人組

あれよあれよと新婚旅行に出発でーす

しあわせはファン・カーゴに乗ってやってくるのね

しあわせ満タン、荷物いっぱい

いいよね、どこで何をしても

私たちの勝手でしょ

携帯空間、ファン・カーゴ!!

なんと15秒のCMで184拍、文字数は194字でした。

184拍を15秒で割ると、約12拍 / 秒。

これを1分間に直すとそのスピードは、720拍 / 分。

普通、アナウンサーの平均的な読みのスピードは1分間に450字くらいといわれていますので、このCMは普通のニュースの1.6倍のスピード、という事になります。

しかし読みが早い分、内容は伝わりにくいのではないか、と私は考えました。

仮に「読みの速さと内容の伝わり具合は反比例する」と考えると、速さが1.6倍(10分の16)なら、伝わり具合は16分の10、約分して8分の5。つまり62.5%しか伝わっていない事になります。

そう考えてもう一度このCMのセリフを見ると、直接「ファン・カーゴ」という車に関する情報となっている部分は、13行中、1〜4行目、9・10行目、そして12行目の、計7行です。13行中7行ということは、53.8%。

あとは、このCMの中の話の流れに関するセリフで、それがなくても車のコマーシャルには十分なります。

つまるところ、このCM制作者は、184拍のセリフ全てをちゃんと聞いてもらおうという気はサラサラなかったのではないでしょうか。

全部判ってもらえなくてもいいという姿勢は「いいよね、どこで何をしても、私たちの勝手でしょ」というセリフにも現れています。(この部分は個人的には、気に入りませんが。)ものすごい早口のCMだなあと耳に残る事で、印象を強く持ってもらい、それが「ファン・カーゴ」というトヨタの車だという事さえ判れば良い、そういう考えの元に作られたCMだと言えるでしょう。

このCMを初めて見た時に思い出したのは、アナウンサーが滑舌の練習で必ずやる「外郎売り」のセリフです。「朝メシ前のお昼の準備」や「おっと、隣の4人組」「あれよあれよと・・」といったセリフは。「外郎売り」に大変良く似ています。

ためしに私もこのCMのセリフを、息せき切って読んでみました。2回目で、14.66秒で言う事が出来ました。

1999/11/22


◆ことばの話32「れ入れ言葉」

皆さん、「ら抜き言葉」というのをご存知ですか?「見る」「食べる」「着る」といった動詞に、可能の助動詞「られる」をつけて「見られる」「食べられる」「着られる」というべきところを「見れる」「食べれる」「着れる」というふうに、「ら」を抜いた表現になったものを言います。

この「ら抜き言葉」が日本語の乱れとして指摘されてから、ずいぶん経ちますが、ここに来て、新たな動きが出てきました。今度は逆に「れ」が入る表現なのです。

昨日(1999年11月21日)の東京国際女子マラソンで、世界歴代6位の好記録で優勝した山口衛里選手(26)が、日本テレビのスポーツ番組「スポーツうるぐす」の中でアナウンサーの質問に、こう答えていたのです。

「全力で走って行けれるように頑張ります。」

この「行けれる」。本来なら「行ける」だけで、十分に「可能」の意味は伝わっているのに、なぜか「れ」が入ってます。これが「行かれる」なら、ちょっと古風な感じはしますが、間違いだとは言えないでしょう。しかし「行けれる」はちょっと・・・。大阪弁から広がった「イケテル」と、ちょっと音は似ています。

実はこの「行けれる」、私は今年の1月にも耳にしたことがありました。

去年12月のアジア大会女子マラソンで優勝した高橋尚子選手が「ニュースステーション」に出演した際に、インタビューに答えて

「オリンピックに行けれるように頑張りたい。」

と答えていたのです。

さらに、3月スキーのジャンプで優勝した宮平選手が、やはりインタビューに答えて

「トップで戦えれるよう、頑張りたい」

と言ってました。

共通するのは、すべてスポーツ選手で、優勝した人がインタビューに答えた時に使っている点です。優勝という晴れの席で、緊張のあまり「丁寧な物言い」をしようとして「れ」が入ってしまうのでしょうか?それとも「ら抜き」を意識するあまり「れ」を入れてしまったのでしょうか?

山口選手と高橋選手は共に兵庫県出身。これももしかしたら関係があるかもしれません。

今後、スポーツ・シーンでのこういった「れ入れ言葉」には要注意です。

1999/11/22


◆ことばの話31「お米を洗う」

けさ「元気モンTV」を見ていたら、「主婦を応援するグッズ」を紹介するコーナーというのをやっていました。

スタジオに、一見ミキサーの上の部分のようなものが出てきて「これは何でしょうか?」ということで正解VTRスタート。

すると、どうやらこれは、寒い冬、直に冷たい水に手を触れなくてもお米を研げる・・・という便利グッズだったようです。

この紹介の中で、いつものように気になったのは、「主婦が手を抜くな!」と言う事ではなく、コトバ。

タイトルからお察しのように「お米を洗う」という表現が1回出てきました。最初は「磨(と)ぐ)」と言っていたのになあ、惜しい。やっぱりお米は「磨いで」欲しい気がします。「米を洗う」だと「鯛釣り舟」に乗せちゃうぞ。(・・・わかる方だけ笑って下さい。)

そしてもう1ヶ所は「(お米を磨いだ後の)白く濁った水は捨てて・・・」というくだり。2回も捨てちゃうんですよ、「白く濁った水」を。

・・・フツウそれは「磨ぎ汁(とぎじる)」というんだよ。

家事負担の軽減の面だけでなく、知識の面でも「主婦を応援」できる番組内容にして欲しいなあ、と思いました。プロデューサー、よろしく!!

1999/11/17

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